14 / 16
3 それが儚いものだと知ったら
4 デート
しおりを挟むSNSに先輩を登録して、しばらく眺めた。
まず名乗って、それからお礼?
いきなりデートの話なんて訊けない。
無難に……無難な話題ってなんだろう?
いきなり長文で送ったら重いよね……?
でも、友達相手に送るのとは違うから悩む。
絵文字は? スタンプは?
悩んで、悩んで。
“鹿児島まいです。登録しました。よろしくお願いします”
なんていうか真面目。
もっと親しみがわくような文面にして、絵文字を……なんて考えていたらそのまま送信してしまった。
「やってしまった……」
何かスタンプでごまかそう。
でも、これは可愛すぎるかなとか狙いすぎかなとか悩んでいるうちに。
“こちらこそよろしく”
“もっと普通でいいよ”
凪先輩の文面から顔が浮かぶ。
きっと笑っていると思う。
だけど……普通ってどんな?
好きな人に普通に接するって難しい。
悩んでいたら、コミカルな猫がくつろぐスタンプが送られてきて少し和んだ。
猫なのも先輩っぽい。
“岩手先生の運転びっくりしました”
送信してから手を重ねていたあの時間を思い出して恥ずかしくなった。
“あれはひどいよな”
“怖くて助手席には乗れない”
“終業式の次の日空いてる?”
連続で通知がくるから考える余裕もない。
カレンダーを確認するまでもなく。
“空いてます”
その後は時間と待ち合わせ場所を決めて、先輩との最初で最後のデートが決まった。
終業式の翌日は穏やかに晴れた冬らしい天気だった。
そして、先輩は意識していないのだろうけど今日はクリスマス。
絶対遅刻したくなかったから、時間が気になって起きたのは家を出る二時間前。
どきどきしてちゃんと眠れなかったのに。
前日に悩んで悩んでようやく決めた服も、朝になってやっぱり違うかもって鏡の前で試着を繰り返して、結局初めに選んだものにした。
髪の毛だって今日は変な寝癖もなかったし、ものすごく頑張って自然に見えるように仕上がっている。
最後に鏡を見た時、私としてはいい状態になったと思う。
「チケットを二枚もらったけど、ここへ行くならまいちゃんとだって思った」
そう言って誘われた場所はキャラクターと触れ合える全天候型のテーマパーク。
ものすごく意外だった。
そもそも彼の母親がスーパーの福引で当てたらしいけど、家族で興味を持った人がいなかったって。
クリスマスということもあって人が多いし、先輩の体調が気になったけれど、室内なら無理せず休憩して……早めに帰ればいいのかも。
まずは先輩の身体優先。
先輩のしたい事には全部つき合おう。
いい思い出にしたい。
でも、顔色とか無理してないかは私が気をつけないと。
そんな決意を固めたわけだけど、私自身十年ぶりくらいに訪れたから楽しい。
「こういう場所、好きだと思った」
「すごく楽しいです。……先輩は」
「楽しいよ。それに、まいちゃんが笑っているところ、久しぶりに見たかも」
「そんなことないです。でも、保健室に行く時ってだいたい頭が痛いから、笑わないかもしれないですね」
特に最近は先輩のことばかり考えて、眠れなくて本当に頭が痛かったから――。
「そう、だね。向こう行こうか」
先輩がなぜか笑って私の手を握る。
「…………」
「人がたくさんいるから、はぐれないようにこうしていて」
「はい」
先輩にいい思い出を作ってもらおうと思ったのに、私のほうが楽しすぎる。
それに先輩は私のことをどう思っているんだろう。
手を繋ぐのも妹みたいに思ってるわけじゃないよね……なんて夢をみてしまう。
それからパンフレットを見つめながら早い時間に軽食を取った。
私はキャラクターの形のワッフルにたっぷりの生クリームとキャラメルソースがかかったもので、先輩はほろ苦いチョコソースがたっぷりかかったもの。
「先輩、この後ショーがあるみたいですけど……もしかして体調が悪いですか?」
向かいに座る先輩が、頬杖をついてぼんやり私を眺めていた。
柔らかく笑って、そうじゃないって言う。
「まいちゃんとこうして出かけて嬉しいなって思って。三学期なんてほとんど休みみたいなもんだから……」
「もう保健室で会えなくなるんですね」
「……そうだね」
寂しい。
本当に今日が最後なのかもしれない。
「まいちゃんさえよければ、またデートしてよ」
「はい! 私いつでもつき合いますから」
また会えると思ったら気持ちが晴れていく。
私ってすごく単純。
「……今日、誘ってよかった」
先輩の声は小さかったけど、胸にじーんと染み渡った。
ショーが始まる前からのんびり待って、まったりしたライド系に一つだけ乗った。
クリスマスだからカップルも見かけるけど、断然小さな子供を連れた家族が多い。
ちょうどみんな冬休みに入るタイミングだからかも。
でも夕方になると早めに退場する家族が増えて落ち着いてきた。
私達も帰るかどうか考えた結果。
「一度外でご飯食べてゆっくり休んでから、最後のクリスマスショーを見よう」
再入場のスタンプを押してもらって、ファミレスに入る。
近くにテーマパークがあって夕食には早めの時間だといっても、クリスマスのファミレスは半分も席が埋まっていない。
この辺りは飲食店がたくさん並んでいるとはいえ、こんなに空いているのは初めて見たかも。
ファーストフードはかなり人がいたんだけどな。
「空いてますね」
「実は前にもクリスマスに来たことがあるんだ。びっくりするくらい人がいなくて、もしかしたら今回もそうかと思った」
「そうですか……」
これまで先輩に彼女がいた話とか聞いたことがなかったけど、胸の中がもやもやする。
「この辺りのイルミネーションが観たいから、ご飯奢るしつき合えって突然姉に言われてクリスマスにドライブしたんだ。……多分当時の男と別れたばかりだったのかも。外から見て夕食時なのにお客さん三組くらいだったから、なんでも食べろってここに入ったんだよね」
そう言って笑うから私もつられる。
なんだ、心配することはなかったんだ。
「このお店って、どこにあってもたいてい混んでいるから意外です。クリスマスって盲点なんですね。でも、こうしてゆっくり過ごせるから疲れがとれるって思います」
「うん、俺もそう思う。今日のメインはテーマパークだしね」
先輩と一緒に過ごせる時間は幸せで、お店なんて関係ない。
しかもここにいる人達の服装から、時間をつぶしてテーマパークに戻るような気がする。
カップルに友達同士に家族連れ。
みんな一緒なんだと思ったら妙な連帯感を感じて頬が緩んだ。
ここで身体を休めて最後まで楽しみたい。
先輩ともう少し一緒にいられる。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる
九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。
※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。
【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。
東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」
──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。
購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。
それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、
いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!?
否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。
気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。
ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ!
最後は笑って、ちょっと泣ける。
#誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
幼馴染に告白したら、交際契約書にサインを求められた件。クーリングオフは可能らしいけど、そんなつもりはない。
久野真一
青春
羽多野幸久(はたのゆきひさ)は成績そこそこだけど、運動などそれ以外全般が優秀な高校二年生。
そんな彼が最近考えるのは想い人の、湯川雅(ゆかわみやび)。異常な頭の良さで「博士」のあだ名で呼ばれる才媛。
彼はある日、勇気を出して雅に告白したのだが―
「交際してくれるなら、この契約書にサインして欲しいの」とずれた返事がかえってきたのだった。
幸久は呆れつつも契約書を読むのだが、そこに書かれていたのは予想と少し違った、想いの籠もった、
ある意味ラブレターのような代物で―
彼女を想い続けた男の子と頭がいいけどどこかずれた思考を持つ彼女の、ちょっと変な、でもほっとする恋模様をお届けします。
全三話構成です。
失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?
さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。
しかしあっさりと玉砕。
クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。
しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。
そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが……
病み上がりなんで、こんなのです。
プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる