学校に行きたくない私達の物語

能登原あめ

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3 それが儚いものだと知ったら

5 この時が続いたなら

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 お腹は空いてないと思っていたけど、メニューを見ているうちに食欲がわいてきた。
 考えてみたら飲み物休憩を合間にとったものの昼間にワッフルを食べた後は固形物をとっていない。

 そのせいか先輩はハンバーグのセット。
 先輩のお腹の具合まで気が回らなくて、少し落ち込む。
 この後は今まで以上に気をつけようと思って、悩んだ末にラザニアとサラダにした。

 一番好きなチキンステーキは今日は油が跳ねたら嫌だし、お腹の空いている時に選ぶデミソースのかかったオムライスは量が多いからもしも口から空気が漏れたら嫌。

 ペンネアラビアータなら食べやすくておしゃべりもできる……と思ったけど友達や家族ならともかくニンニクの匂いが気になりそうでやめた。

 好きな人の前で食べられる料理って限られている気がする。
 その後すぐに料理が運ばれてきて、さっそくお互いに手をつけた。

「先輩って結構食べるんですね」

 先輩の食べ方は綺麗で、目の前で淡々と平らげていく。
 たくさん食べられるってことはまだ大丈夫なのかな。

 おばあちゃんの時に、食べられなくなったらもう終わりだって叔父さんがぽつりと呟いた。
 多分聞いていたのは私だけかも。
 昔入院していた時期のある叔父さんだけは、少しでもいいから口から食べろとずっと言っていたっけ。

 お腹が空かないから栄養を点滴でとっているんだって、歳をとってたくさん食べられないからよかったわとおばあちゃんが笑顔を浮かべていたのを思い出す。
 それからはあっという間で早かった。

「まいちゃん、お腹いっぱい?」

 先輩に言われて、まだ三分の一くらいお皿に残っている事に気づいた。

「えっと……夢見たいな空間にいたから、ぼんやりしちゃったみたいです」
「そう? 食べられるだけ食べたらケーキ食べない?」
 
 いつもの定番のデザートに加えてちょっと華やかな盛り合わせの十二月限定メニュー。

「食べます!」

 冷めかけのラザニアをスプーンで大きくすくって口へ運ぶ。
 先輩がますます笑みを深めた。

「ゆっくりで大丈夫だよ。飲み物とってくるね。……まいちゃんの分、何か持ってこようか?」

 慌てて飲み込んで、首を横に振る。
 
「……まだあるので大丈夫です。先輩、ありがとうございます」
「時間はあるから、焦らないで」

 先輩がドリンクバーへ向かい、私はその背中をじっと見つめる。
 制服姿の先輩も格好いいけど、ざっくりしたライトグレーのニットがとても似合っていて、脚が細いなぁってじっくり眺めた。
 だって、気づかれるはずがないから。

 このまま時が止まればいいのに。
 先輩の時間を全部私のものにして、ずっと一緒にいられたら――。

 ふと、ドリンクバーの壁にかけられた鏡越しに先輩と目が合った。
 見たことがない表情にすぐに視線をそらす。
 それは知らない男の人の顔で、私を動揺させた。

 もしかして私がずっと見つめていた事に気づいていた?
 そう思ったら顔が熱い。
 うつむいてラザニアを食べる事に集中して、ジンジャーエールを一気に飲んだ。

「まいちゃん」
「……っ、私も飲み物とってきます」

 いつもより低い声の先輩とは目を合わせずに立ち上がって、そのままトイレへ向かう。
 鏡の前でドキドキする心臓をなんとかなだめた。

 初デートだから浮かれている。
 それに先輩の態度を私の都合のいいように受け止めてしまう自分がいて困った。

 もっとずっと一緒にいたいと欲が出る。
 でも……叶わない願いに胸が痛い。
 先輩は優しいから、もしかしたら無理をさせちゃうかもしれない。
 私がこんな態度だと先輩に気を遣わせてしまうから、もっとしっかりしないと。









 ドリンクバーで鏡を視界に入れないようにして、飲んだことのないフレーバーティーを選んで席に戻る。

「これ、シェアしない?」

 先輩がメニュー表の中からデザートの盛り合わせを指す。
 私がさっきいいなと思ったプレート。

「おいしそうです! ちょっとずつ食べれていいですね」

 すぐに注文して先輩がきれいに取り分けてくれる。

「さっき話した姉なんだけど、四つも年上なのに平等に分けろってうるさかったんだ」

 そう言いながらも、私の好みを訊いてくれてベリーのシャーベットを多くのせてくれた。
 かわりに先輩がチョコケーキを多めにとって、味の感想を言い合うのが楽しいし二倍おいしく感じる。
 
「うちは妹がそういう感じですよ。……先輩って昼間もワッフル食べてましたし、意外と甘いもの好きなんですね」
「うん、言ったことなかったかな。冷凍庫にチョコを常備している。カロリーとれるしね」

 今日はたくさん先輩のことを知った。
 保健室で食べ物の話なんてしたことがなくて、お互いに知っている先生の話とか学校のイベントとか、クラスの話をすることが多かったから。

 それからショーを観るためにもう一度テーマパークへ戻った。
 全体的に人が減ったのを感じるけど、みんなショーを観るために同じ場所に集まっていて、スタッフが誘導している。

 もう少し早く戻ればよかったかなと思いつつ、この人の多さに酔わないかと心配になって先輩を見上げた。

「あの辺りに行く? 少し見づらいかもしれないけどこの辺りより人が少なそうだから」
「はい」

 先輩が自然と私の手をとって先を歩く。
 近くで立ち見するより、先輩のためにも座れるほうがいい。
 今日は具合が良さそうだけど、やっぱり疲れていると思うから。
 
 最後のクリスマスバージョンのショーは大きなベルの音で始まった。
 屋根がある分音楽が大きく響く。
 定番のクリスマスソングとオリジナルの曲が流れる中、ダンサーやキャラクターが楽しそうに踊る。

 キラキラと華やかなライティングの後に、続けて始まったプロジェクションマッピングも、すごくきれいで胸がいっぱいになった。

「……先輩、これを観なきゃここに来たって言えませんね! 感動しました……」
「俺もそう思う。今日はまいちゃんと一緒に見ることができて本当によかった」

 先輩のいい思い出になってほしいと願ったけれど、その時間が終わりに近づいて寂しい。
 握ったままの手も離したくなくて、強く握る。

「……まいちゃん、もう少し時間大丈夫? 今帰ると電車混みそうだからできれば」
「大丈夫です! 先輩さえよければぎりぎりまでいたいです」

 勢いこんで言う私に、先輩が優しい。
 閉園まで一時間近くあるけれど、出口へ向かう人達に逆らって奥へと向かう。
 今なら待ち時間なしで乗り物に乗れるだろうけど、誰にも邪魔されたくない。 

 私のそんな気持ちが通じたのか、人目につかない場所にポツンとあるベンチに促されて私達は座った。
 こちらからは人の流れが出口へ向かうのが見えるけど、彼らが振り向いても私達には気づかないと思う。

「まいちゃん、俺」

 先輩が口を開いて、再び閉じた。
 もしかして先輩の病気のことを話そうとしている?

 怖い。
 聞きたくない。

「先輩、今日誘ってもらってすごく嬉しかったです。それに楽しくて、時間が過ぎるのがすごく、早いですね」

 私が黙ったら先輩が話してしまう。
 だから私は話し続ける。

「やっぱり、昼間のショーは小さい子向けで、夜は大人も楽しめるように工夫されてるんだなって。昼間も、キャラクターとの距離が近いから親しみやすいしファンが増えるのもわかりますね。また来たいって」

「まいちゃん、俺とまた来てくれる?」
「……っ、はい! 何度でも!」

 でもそんな日は来るはずないってわかってるから、視界がにじむ。
 どうしよう。

「ショーに感動したのを思い出して、泣きそうです」
「本当にその理由?」

 先輩の言葉に私は言葉に詰まった。
 
 
 
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