聖女の役目を終えたのですが、別のところへ転移したので堅物騎士様助けてください!

能登原あめ

文字の大きさ
6 / 14

6 王宮

しおりを挟む


 気まずい。
 豪華な馬車に2人きり、非常に気まずい。

「…………」
「……あの」
「…………」
「……あの、ベルナルドさん」
「……はい」

 話しづらいんだけど!

「ベルナルドさん、巻き込んでしまってごめんなさい。私、頼りになるのはベルナルドさんしかいなくて……だから、さっき嘘ついちゃって……その」

「いえ、いいんです。わかっています。私でよければ恋人役としてあなたのそばにいさせてください」
「……いいんですか?」

 ベルナルドさん、こんな無茶苦茶なこと言う私に優しい。
 本当なら島でスローライフを満喫してただろうに、初めて会った時からずっと護ってくれている。

「あの……、ここをうまく切り抜けられたら何かお礼をさせてください。とりあえず、私達つき合いたてってことでいいですよね? だって私達……」

 手を握り合ってるだけでお互い真っ赤だし!
 私はベルナルドさんが好きだから演技じゃなくて本気でいけるけど、ベルナルドは堅物でどうやら純情みたいだから。

「わかりました。つき合って……1週間にしましょうか。旅の間に、恋が芽生えたことにしましょう……それならば……」
「はい、そうですね。そうしましょう」

 どっちの手汗かわからないし、恥ずかしいけど、私は離したくないって思ってる!







「この度は多大なる迷惑をおかけした。聖女様がこの国を救ってくれたというのに、このようなことを起こした神殿の者達にはきつい制裁を考えておく。聖職位の剥奪、私財没収、労働刑……それとも希望があるか?」

 この白いお髭のおじいちゃんが陛下だったんだ!
 たくさん紹介されて覚えきれなかったよ。
 口髭のオールバックのおじさんが息子で、次期国王として実務はほとんどやっているのかも。
 神殿にあまり興味はないのかもしれないけど。

「制裁はいりませんので、無事に元の世界の元の場所の元の時間に還してほしいです」

 それだけ! それを最優先でお願いしたい。
 もちろん今度はもらえるものはもらうから。
 ベルナルドさんがこの2ヶ月、私がどうしていたか悲壮感たっぷりに話したから、陛下の顔は神妙。
 なんだかんだと楽しんだなんて言えない!

「さすが聖女様だ。遠慮せず、希望を述べてみよ。余ができることはなんでもしよう。神官長は3日以内に呼び戻すが、その間快適に過ごせるよう王宮内に部屋を用意させよう」

 1週間前に旅立った人を3日以内に呼び戻すんだ……すごいな王族。

「あの、恋人の彼も一緒にお願いします!」

 こんなところで一人きりは嫌だ。
 陛下が白い眉を大きく上に上げる。

「……なるほどわかった。それならばゆっくりできるように離れを用意させよう。聖女様が望めば年頃の孫もいたのだが。いや、詮なき事よ。して、聖女様は彼も元の世界に連れて行こうとしているのかな? 前例がないのでできるかわからないが……それが希望であるなら文献を探してみよう」

 なにか勘違いしてるみたいだけど、そういうことにしておいたほうがいいのかな?

「……ありがとうございます。よろしくお願いします」

 ベルナルドさんと日本へ行く?
 そうなると……国籍もなくて仕事も困るだろうけど。記憶喪失で難民認定みたいなのいけるのかな……?

 ボディガード的なお仕事とか、いやそんな危ない仕事じゃだめか。
 親戚の大叔父さんが、農家の後継ぎがいないって言ってた!  
 ベルナルドさん、体力はありそうだし悪くないかも?
 多分お母さんは味方してくれそうな気がする。イケメンマッチョ好きだし。

 あ、真面目に考えすぎちゃった。
 ベルナルドさんもそんなことは望んでいないだろうな。ずっと黙ったままのベルナルドさんをちらりと見て、余計な想像を追い払う。

 離れに案内されて、大きな風呂に入った後でランチが出てきた。
 
 まず1皿目にいきなり魚介のリゾット。
 最初はサラダかスープくらいでいいのに、やっぱり昼が1日の中でメインみたい。
 2皿目は子羊のあばら骨つきの肉の炭火焼きで、香ばしくてとてもおいしい。

 添えられた焼き野菜もおいしかった。
 3皿目はアーモンドのタルトみたい。
 コーヒーはバルのほうが甘く感じたけど、王宮のものはすっきりして上品に感じた。

「ベルナルドさん、おいしかったですね」
「はい」

 なんだかずっとベルナルドさんがソワソワしている気がする。

「どうしました?」
「その……この後はシエスタにしましょう」

 ベルナルドさんの言葉に、控えていた給仕の方達が静かに退室し始めた。

「何かございましたら、ベルを引いて下さい。裏手の建物に数名控えておりますので」

 私達は恋人同士になりたて……な設定のわけだし、使用人達の配慮が恥ずかしい!
 それはともかくベルナルドさんはきっと2人きりで内緒話をしたいんだと思う。
 






 私の寝室に移動すると、人の気配がすべて消えた。
 窓から王城に向かってぞろぞろと歩く姿が見える。
 離れでは完全に2人きりにしてくれるみたい。

「ベルナルドさん?」

 寝室の入り口に立ったまま固まるベルナルドさんに声をかけた。
 
「……アン。ここはその……すごく言いづらいのですが、恋人のための離れとして作られています」
「へ~、そうなんですか」
「…………」

 雰囲気的にはテレビで観たスイートルームっぽいと思う。広くて、扉もいっぱいあるし。
 この後、探索してもいいかも。

「えーと?」
「その、この部屋はアンが使ってください。私はソファで寝ますので」
「……えっと……。もしかして寝室はここだけで、ベッドがこれだけってこと、ですか?」

 ベルナルドさんが無言で頷く。
 私が恋人だって言ったから、陛下が余計な気をまわしちゃったんだ!

「ベルナルドさん、ごめんなさい。私がソファで寝ます」

 ベルナルドさんだと足は伸ばせないだろうけど、私なら問題ない。
 王族仕様できっと座り心地もいいだろうし、寝ることもできるはず。

「いや、アンにそんなことをさせるわけには」
「ベルナルドさんのほうが体が大きいですし、無理ですよ」
「俺は床で寝てもいいです」

 足指が埋まりそうなくらい深い絨毯ではあるけれど!
 
「あの……素直になりましょう、ベルナルドさん」

 なぜかベルナルドさんが唾をゴクリと喉を鳴らして飲む。

「大きいベッドなので、一緒に寝ましょう。私、それほど寝相は悪くないと思いますし、多分うるさくないと思います。……あ、ベルナルドさんがもしうるさくても、私は一度寝たら起きないので気にしなくていいですよ」

 ベルナルドさんが額に手を当てて、大きく息を吐いた。

「アン……わかりました。あなたはとても……危なっかしくて目が離せません。俺からも……すべてから護ります」
「えっと? ごめんなさい。私、ベルナルドさんに迷惑ばかりかけて」

「そんなことはありません! 俺は……っ、あなたの……護衛騎士ですから」
「ベルナルドさん……ありがとうございます。あの……本当にシエスタとります?」

 ベルナルドさんが真っ赤になって、可愛く見えてしまった私は、彼の手をとって離れの中をひとつひとつ見学することにした。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

契約破棄された聖女は帰りますけど

基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」 「…かしこまりました」 王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。 では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。 「…何故理由を聞かない」 ※短編(勢い)

そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげますよ。私は疲れたので、やめさせてもらいます。

木山楽斗
恋愛
聖女であるシャルリナ・ラーファンは、その激務に嫌気が差していた。 朝早く起きて、日中必死に働いして、夜遅くに眠る。そんな大変な生活に、彼女は耐えられくなっていたのだ。 そんな彼女の元に、フェルムーナ・エルキアードという令嬢が訪ねて来た。彼女は、聖女になりたくて仕方ないらしい。 「そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげると言っているんです」 「なっ……正気ですか?」 「正気ですよ」 最初は懐疑的だったフェルムーナを何とか説得して、シャルリナは無事に聖女をやめることができた。 こうして、自由の身になったシャルリナは、穏やかな生活を謳歌するのだった。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。

私が偽聖女ですって? そもそも聖女なんて名乗ってないわよ!

Mag_Mel
恋愛
「聖女」として国を支えてきたミレイユは、突如現れた"真の聖女"にその座を奪われ、「偽聖女」として王子との婚約破棄を言い渡される。だが当の本人は――「やっとお役御免!」とばかりに、清々しい笑顔を浮かべていた。 なにせ彼女は、異世界からやってきた強大な魔力を持つ『魔女』にすぎないのだから。自ら聖女を名乗った覚えなど、一度たりともない。 そんな彼女に振り回されながらも、ひたむきに寄り添い続けた一人の少年。投獄されたミレイユと共に、ふたりが見届けた国の末路とは――? *小説家になろうにも投稿しています

はずれの聖女

おこめ
恋愛
この国に二人いる聖女。 一人は見目麗しく誰にでも優しいとされるリーア、もう一人は地味な容姿のせいで影で『はずれ』と呼ばれているシルク。 シルクは一部の人達から蔑まれており、軽く扱われている。 『はずれ』のシルクにも優しく接してくれる騎士団長のアーノルドにシルクは心を奪われており、日常で共に過ごせる時間を満喫していた。 だがある日、アーノルドに想い人がいると知り…… しかもその相手がもう一人の聖女であるリーアだと知りショックを受ける最中、更に心を傷付ける事態に見舞われる。 なんやかんやでさらっとハッピーエンドです。

期限付きの聖女

波間柏
恋愛
今日は、双子の妹六花の手術の為、私は病院の服に着替えていた。妹は長く病気で辛い思いをしてきた。周囲が姉の協力をえれば可能性があると言ってもなかなか縦にふらない、人を傷つけてまでとそんな優しい妹。そんな妹の容態は悪化していき、もう今を逃せば間に合わないという段階でやっと、手術を受ける気になってくれた。 本人も承知の上でのリスクの高い手術。私は、病院の服に着替えて荷物を持ちカーテンを開けた。その時、声がした。 『全て かける 片割れ 助かる』 それが本当なら、あげる。 私は、姿なきその声にすがった。

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

処理中です...