聖女の役目を終えたのですが、別のところへ転移したので堅物騎士様助けてください!

能登原あめ

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7 殿下

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「はっ……⁉︎ せ、聖女様……! 聖女様、なんということだ……私の命に替えても、聖女様を元の世界に! お、お、お還りいただきますので! 今しばらく、どうか今しばらくお待ちくださいますよう!」

 3日もかからずへろへろな様子の神官長が姿を表した。
 私を見るなり、ますます顔を青ざめさせて唇をブルブル震わせている。

「無事に元の世界の、元の場所の、元の時間に戻してもらえれば大丈夫です」
「聖女様……! ああ、やはり聖女様は寛大で選ばれしお方です! 1日も早く戻れるよう準備いたします!」

 倒れ込みそうになった神官長を後ろからすらりとした金髪、すみれ色の目をした青年……というか確か3番目か4番目の王子様が支えた。
 アレ……なんとか殿下。どうしよう、名前を呼べない。

「神官長、とりあえず座ったほうがいいよ。……聖女様、私も王室の書物から恋人と一緒に戻る方法を探してみたんだ……詳しくは向こうで話そう」

 アレ……殿下と神官長、私とベルナルドさんの4人で個室へと向かった。
 爽やかな笑顔を浮かべているのに、なんとなく警戒してしまうのはなんでだろう。

 無意識にベルナルドさんの手を握る。
 恋人(仮)の手はいつも通り温かい。包み込むように大きな手で握り込まれて安心した。
 こっそり息をつく。
 殿下がそれをチラリと見て、笑顔のまま私に言った。

「アン、久しぶりだね。今回のこと……還ったはずの聖女がここに現れたのは、建国以来初めてでね。なんとしても次の満月には元の世界へ無事に還ってほしいんだ。実は還れなかっただなんて、国民も不安になる。何か災いがあるのでは、ってね。アンは自ら聖女だなんて、言いふらすことはなかっただろう?」

 私が無言で頷くと、にこっと笑う。怖い。
 ぺらぺら話さなくてよかった。
 言ってたらどうなったかは考えないことにしよう。

 だけど神官長がだらだらと汗を流しているのがすごく気になるのだけど。

「アンがここにいることはかん口令を敷いているからね、安心して」

 言われてみれば、王家にとっても神殿にとっても私が無事に還れなかったって知られたら大問題なのか。
 平和の象徴っぽく神官長の視察旅を始めちゃってるし。
 あの新人の神官も災いが~、なんて言っていたっけ。

「それでね、全部の文献を見たわけじゃないけど身につけているものと、腕の中にあるものは一緒に還ることができているはずだ。それに、これまで我が国に災いは起こっていないからね」

 理論上はベルナルドさんと一緒に日本に還れるということかな。
 でもさ、私みたいに別のところに飛ばされたけど、なんだかんだと聖女気質でたくましく人生楽しんじゃった人達がいたかもとか思っちゃう。
 言えないけど。

「……恐れながら、殿下」

 ベルナルドさんの声に、殿下は非公式なんだから気軽に話していいよ、と言った。

「聖女様が無事に元の世界へ戻れることを優先していただきたいです。もしもまた彼女が思いがけないところに飛ばされてしまったらと思うと不安で仕方ありません。……私は、ここに残ります」

 殿下は口端を片方上げるような少し皮肉な笑い方をした。

「へぇ……愛だね。とても献身的だ。……聖女様はそれでいいの?」
「私は……」

 還りたい、1人でも確実に……その言葉がなぜか喉に引っかかって出てこない。

「あの……」
「あぁ、慌てて今答えなくていいよ。話し合いをして早めに決めてくれる? 今回のことは陛下からすべて私が任せてもらっているんだ。こちらも準備を進めておくから」

 そういえばこの殿下は王位継承権が下の方だから、今回のことで能力を見せつけて優位に立ちたいのかも。
 まだおじいちゃんが陛下だし、次は口髭殿下で、さらに先だもんね。

「あの……すこぅし、いいでしょうか……?」

 神官長が恐る恐る口を開いた。

「大変、大変申し訳ないのですが……召喚の場はすでに取り壊してしまい、すぐに帰還の儀を行えるような」
「いや、神官長ならばどんな場所でも執り行うことができるだろう? 過去にも別の場所で儀式をした記録がある」

 だらだら汗を流す神官長に、殿下は笑みを深める。

「確か国境の教会の祈りの場であったか。あれは隣国にほど近く、その影響か美味しいワインが作れる地であったな。教会の裏側が国境で、見事な葡萄畑が広がっていた」
「……確かにそのような記録はあります……。ですが、不安要素も大きく……」

「神官長ならばしっかりやれるだろう? もちろんアンには一生困らないよう、それから今回の謝罪の分も含めて報奨金を持って行ってほしい。これまでの聖女と同じように」

 殿下の威圧感がすごいけど、神官長も負けずに口を開いた。

「ですが、聖女様の幸せのためには確実に還れるほうが……」
「大丈夫。これまで我が国に災いは起こっていないからね」


 なんだろう?
 何か引っかかる。
 なんだか2人の会話に不穏な感じが混じっているような?

 えーと、もう一回言ってくれないかな?
 それってたくさん金品やるから別の国に行って戻ってくるなって聞こえなくもないんだけど⁉︎

「日も迫っているから、明日中……いや、2日後に一緒にランチをとりながら話そう。私は恋人同士離れるべきではないと思うよ。それに……2人でこちらに残るなら新しい身分を与えることができるし、私達にとってはそのほうがありがたいかな」

 見た目キラキラ腹黒殿下はそう言って笑った。
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