聖女の役目を終えたのですが、別のところへ転移したので堅物騎士様助けてください!

能登原あめ

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8 決断

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 離れに戻って、ポルボロンをつまみながらベルナルドさんとティータイム。
 一口サイズでほろほろと口の中でほどけるから噛まなくても大丈夫。大丈夫っていうか食べすぎてしまう難点があるけど。
 使用人達が下がったところで、疑問に思っていたことを口にした。

「ベルナルドさん。さっきの話を聞いて、どう思いました?」
「どう、とは?」

 眉間にぎゅっとしわが寄る。
 ずっとそんな顔をさせているみたいで申し訳なくなってきた。

「……隣国近くの教会で帰還の儀なんて形だけで、そのまま隣の国へ追い払ったのかな、って。そう聞こえました。亡命って言うのかな」

 きっと、召喚に使った場所じゃなきゃ還れないって私の本能は感じてる。

「あの話と、神官長の態度から俺も同じように考えました。それと……もし、遠い異国に飛ばされた時に一生遊んで暮らせる報奨金を持っていたら……最初はこの国を目指すかもしれませんが、どこか安らげる場所に留まるかもしれません。俺なら、ですが」

 私は頷きかけて、思い出した!

「でも、戻りたいって日記に書いてあった人達の中に、小さい子供がいるお母さんや結婚相手が年上で心配な人もいたんです! ちゃんと戻れたならいいですけど」

「その方達が帰還に失敗していたなら、きっとアンのように神殿に行こうとしたはずです。これまでにそんな記録はないようですが……隠している可能性もありますから、過去に聖女様がいた後に災いがなかったか調べれば何かわかるかもしれません」 

 明日図書室をのぞかせてもらえないかなぁ。
 せめて神官長か、残っている新人神官ならある程度は知っているかも。でも誤魔化されちゃうのかな。

「調べる時間が足りないですね。……ベルナルドさん、私が元の世界に戻れる可能性ってどれくらいあると思いますか? 正直に教えてもらいたいです」

「……こんなことを言いたくないのですが、すぐには難しいと思います。次の満月ではなく、召喚の場を作り直してからなら、いつの日か……次の聖女を呼ぶ準備が整う頃には還ることかできるかもしれません」

 それって10年とか、すごく先の話に感じる。

「そんなの……私がいきなり年をとって現れたら家族も困ると思うし、私もあっちでどうしたらいいかわからないと思う」

 頭の中が真っ白になる。どうしよう。
 私のつぶやきに反応するようにベルナルドさんが私の手を痛いくらい強く握った。

「このまま還ることができなくても、俺があなたを支えます」

 まっすぐな視線に一緒に過ごした時間を思い出す。好きな人にそんなこと言われちゃうと、私……。

「ベルナルドさん」
「はい」

 ベルナルドさんがじっと私を見つめて。
 私もベルナルドさんから目がそらせなかった。

「お酒、飲みたいです。できれば! 強いやつを下さい!」

 ベルナルドさんの眉間の皺が深くなる。

「…………アンは飲めるのですか?」

 聖女時代は24時間お仕事な気持ちでピリッとしてたから飲まなかった。
 でも、ゆるい雰囲気の島で働いていたんだよ!
 仕事の後のお酒は美味しかった。

「もちろん。オルホだって飲めますよ! 成人してますから!」

 今ならあの40度近い度数のオルホだってストレートで飲める気がする!

「……では、一杯だけですよ。あまり時間がありませんから」

 ガーッと一気に飲んで酔って眠って何もかも忘れてしまいたかったのに、小さなグラスに赤いサングリア。
 オレンジとスパイスが香っておいしそうだけど。

「……ベルナルドさん、私、子供じゃないんです」
「わかっています。ただ……アンはこれからの人生を左右する決断をしなければなりません」
「ベルナルドさんのケチ」

 甘いサングリアを一気に飲み干して、お行儀悪くテーブルに置いた。

「アン……」
「もう一杯だけ、お願いします」
「だめですよ」
「ベルナルドさんは女心がわかってないです!」
「…………」

 シュン、としたように見えて私は慌てた。

「もう、還るのが現実的ではないってことも……ベルナルドさんに今八つ当たりしてるってことも……わかってます!」
 
 でも、こんなことってある?
 どうしようもない気持ちをどこに持っていったらいいかわからない。
 そんな私を、ベルナルドさんが抱きしめた。

「アン、俺と島に住みませんか? 恋人のふりじゃなくて本物の恋人として」

 今、なんと?
 タイミングも言っている内容も唐突過ぎて、怒りとかやるせない気持ちがぽんと抜け落ちた。

 ベルナルドさんの胸に手を押し当てて、まじまじと見る。私の仕草に、彼はその腕を緩めた。

「いきなりで驚かせてしまったかもしれませんが……俺はあなたが聖女様だった時から、いや、アンをひと目見た時から、惹かれました。独りでこの世界にやってきたのに不満を漏らすこともなく、前向きで明るくて、一生懸命で……そんなあなたを愛しています」

 あれ?
 もしかして私達、ずっと両想いだった?

「あの……」
「アンが……還ってしまうのがつらくて悲しくて、この想いは封印するつもりでいました」

 今、本物のベルナルドさんが話しているんだよね?
 私の中の想像じゃなくて。
 
「ですが、こうして再会できたことに運命を感じています。だから、俺はあなたといたい」

「私、ベルナルドさんのことがずっと好きです。還るって決めていたから言えませんでした。……私、子供っぽいし、迷惑ばかりかけて、こんな私ですけど、ベルナルドさんの恋人になりたい」

 ベルナルドさんの顔が一気に赤くなるのをみて、私も釣られて赤くなる。

「……アン、結婚して」
「え? あのっ……」

 さすがにそれは早いんじゃないかと焦る私に、ベルナルドさんが赤い顔のまま、決意をこめて見つめてきた。

「アン、俺と共に歩んで下さい。……この先、後悔することもあるかもしれない。その責任はすべて俺が引き受けます。だから、この世界で共に生きましょう」

「ベルナルドさん……それはだめです。だって私、きっと時々家族のことや国のこと、友達のことも思い出して悲しくなる時もあると思います。その時にベルナルドさんに当たっちゃうってことですよ? それはよくないです」

「いいんですよ。あなたのすべてを受け入れて、あなたの悲しみも分かち合いたい。半分俺が引き受ければ、少しは楽になるかもしれません。あなたの心も護りたいんです」

「ベルナルドさんこそ後悔するかもしれません」
「あなたと離れるほうが後悔します」
「…………っ‼︎」

 私が好きになった人、男前すぎる!

「ベルナルドさん、大、大、大好きです」

 感極まって飛びついてしまった私をベルナルドさんはなんなく支えた。彼の腕の中でこっそり涙を拭う。家族や友達にさよならくらい言いたかったな。

「さっきは八つ当たりしてごめんなさい」
「気にしないで……アン、大切にします」

 ため息のようにささやかれた言葉に胸がじんとして、絶対幸せになるんだって思った。
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