異世界で再会した姉はおばあちゃんで、私はそこで恋に落ちた

能登原あめ

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番外編

古書がつないだ物語

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* あみ編全四話、Rは最終話がメインです。







 * * * * *


 どうしてあんなに夢中になって読んだのか今ならわかる。
 私は物語の中の彼に恋をした。

 ひたむきに相手を思う彼の心に憧れて、どうしようもないほど焦がれた。
 私もこんな風に誰かに想われたい。
 私だけを愛してくれるたった一人の人がほしい、と。








「君は、誰だ?」

 布団で寝ていたはずなのに目が覚めるとたくさんの書物に囲まれていて、今にも自分の上に倒れてくるかのような圧迫感を感じた。

 どこからか咎めるような男の声が聞こえたけれど、身動きするのも戸惑う状況に、目を瞬いた。

「どうやってここに入った?」
「あの、すみません……私自身よくわからなくて……ここは一体どこでしょう?……私は自宅で寝ていたはずなんです……」

 男が書物を移動させて、私をのぞき込んだ。
 父よりも少し若いくらいの、気難しく近づきがたい雰囲気をもった男の人。

「子どもか……何かの魔術が発動されたのか?…………この辺りでは見かけない異国の顔つきだな。家族も心配しているだろう、家に帰してあげるからしばらく待ちなさい」

 ほんの少しだけ声が柔らかくなって、ほっとする。

「君、名前は?……私はブライアン」
「私はあみです」

 あの日記を書いた人と同じ名前だと思って親近感がわいた。
 海外では同じ名前の人で溢れていると聞いたことがあるし、学校のALTはジョージという名前の先生が二年連続で来た。
 この人も日本で働いているのかな。

「あの……、ここはどこですか?」
 
 記憶にないけど夜中にトイレに起きて、寝ぼけてこの部屋まで来てしまったとか?
 外に出たら目が覚めたんじゃないかとか鍵がかかってなかったのかとか、この状況に納得いかないけれど。
 ものすごく疲れてこんなところに来たとしたら、とにかく申し訳ないしゆみが心配していないか気になる。

「うーん、痕跡が残っていれば……ここ?サンクだよ。……一体、何が起こったのかな、これは」

 ブツブツと呟きながらも答えてくれる。

「三区……?」
「サンク国。……知らない?国の名前。言葉が通じてるからそう遠くない場所だと思ったんだけど。……ね、ちょっと立ってみて。後ろ向いて。……ちょっとごめんね?」

 そう言って私の背中に手を当て、うーんと唸る。
 サンクコクとはどこだろう?

「ここは日本じゃないんですか?」
「ニホン?……聞いたことないな……。君、ここで目覚める前のことで覚えてること話して」
「……読書して、眠くなったので布団に入って眠りました。そして目が覚めたらここにいました」
「普通だな……読書の前は?」
「ご飯食べて、妹とおしゃべりして、お風呂に入りました……」

 ブライアンさんも眉間にシワを寄せているし、私も困惑した。

「ちなみに最近新しく手に入れたものとかあるかい?部屋に飾ったり、一緒に寝たりする人形とか……」

 今度は私が眉間にシワを寄せる。
 
「人形はないです。ただ……一つ言えるのは、読んでた本が、古書で」
「あぁ、それかもね。どんな内容?」
「……あの、……とある魔術師の日記、というか……ブライアンさんと同じ名前の方が書かれたみたいで……」
「………………ふむ、冒険物語?」
「いえ、その……魔術師の会合の内容とか、その……ブライアンさんの恋の話、とか」

 ブライアンさんはしばらく黙った後、立ち上がって引き出しの中をガサゴソ探し出し、しまいにはひっくり返してますます眉間にシワが寄る。

「……まさか。しかし、いったい何故?…………その日記はどこで手に入れた?」
「……日本の古書店で、本棚に並んでました。……その、革の装丁が美しくて、思わず手を伸ばしました……茶色の皮で、背表紙に何か鷹?……のマークがついていました」
わしね……今ここにある?」

 私はあたりを見回したけど、どこにもなかった。

「日本の布団の上かもしれません……」
「そう……しかしなんでまた、そんなことに……」

 しばらく気難しい顔をしていた彼だけど、ふぅっと息を吐いて私の頭をくしゃくしゃと撫でた。

「君が国へ帰れるまで、面倒みるよ。……どうやら私の日記が原因のようだから」

 あれは物語じゃなくて、本当にあったことが書かれた日記だったの?
 今夢を見ているのではなくて?
 寝る前まで読んでいたからきっとひきずられてるんじゃない?
 現実味がなくて、一瞬ぼんやりした。

「しかし君はあんなものをなんて、眠れなかったのかい?」

 彼は私を子どもだと思ってる。
 きっとあの日記を理解して読んだとは思っていない。
 もし、十八歳だと言ったらこんな風に優しく接してくれないだろう。
 頭の中で忙しく考える。
 大人の顔色を伺うのは元々得意だ。

 私は頷いて、あの本の皮がいい匂いなのだと答えた。
 彼は目尻にシワを寄せて薄く微笑む。

 あぁ、初めて笑った。
 きっと私が子どもだから見せてくれる顔なんだと思う。

「あぁ、それはわかる。……そうか、家族と引き離してすまない。……今いくつだ?……十歳くらいか?」

 そう言われて迷わず頷いた。
 じぃっとブライアンさんを見つめながら、これが夢ならまだしばらく醒めないで欲しい。
 もっと彼のことを知って、たっぷりゆみに話したいと思った。








* ALT   assistant language teacher 
  
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