2 / 8
2
しおりを挟む「愛しているよ、クロエ」
展開が早くて気持ちがついていかない。
戸惑う私の頬に口づける。
「ルーカスのお嫁さんになりたいって言われたこと、俺は忘れていないよ。やっと約束を叶えてあげられる」
確かに幼い頃、ルーカスにべったりだったし、大好きだったから心からそう思って言った。
それに家に戻ってすぐにメイソンと婚約と言われてショックを受けたし、泣いちゃったけど、日々過ごすうちに受け入れた。
ルーカスは由緒正しい侯爵家で、うちもメイソンも同じ位の伯爵家だってことを。
「……ルーカスに婚約者がいないのはそのせいなの?」
メイソンと結婚していたなら色んなところで不幸が起きていたかも。
「……クロエ以上に好きになれる人がいなかった。そもそも、俺はクロエしか考えられなかったから、領地を引き継いでも子どもは弟の子を養子にしようと思っていたくらいだよ」
なんだか重くなってきた。
「でも。神は俺に味方したみたいだ。……もう離さないからね」
頭の中で言われたことを整理しているうちに抱き上げられて、ベッドに下された。
「ルーカス?」
「うん、愛している」
とろけるような瞳で見つめてくるけれど。
「あの…………なに、を?」
「クロエを全部もらうよ。……大丈夫、もう家族みんなに話してあるから」
ルーカスの腕の中に閉じ込められた私の唇に、指が触れる。
「心配しないで、俺に抱かれて」
なんで当事者の私が一番最後に知らされるの?
こんなの、恥ずかしい。
思わず涙ぐんだ私の目元に口づけを落とす。
「うん……俺も好きだ」
なんでそうなる?
感極まったと思われたの?
下唇を食まれ、触れ合いを楽しむように啄まれる。
「かわいい、柔らかい。全部俺のものだ」
「ルーカス、待って……」
「大丈夫、優しくする。暴れるとちょっと痛くなるかもしれないけど」
止める気はない、と。
「結婚は卒業後すぐに執り行うから、子どもの心配はしなくていいよ。あと数ヶ月でしょ? それに、エリーが赤ちゃん楽しみだって」
これ、決定事項なんだ。
「ルーカス…………痛くしないでね?」
「もちろん、クロエが逃げなければ」
逃げたら痛くするのか、と思いつつ覚悟を決めた。
重いけど……重いけど気の多い男よりいい、はず。多分。
「逃げない。……ルーカスと結婚する。……だから」
今日じゃなくてもいいんじゃない?
「よかった……愛してるよ、クロエ。大切にする」
潤んだ瞳で見つめられ、唇を舐められて驚いた私の口内ににゅるりと舌がすべり込んだ。
「んむっ……! ルー……」
「あぁ、懐かしい呼び名だね。あの頃、クロエだけにそう呼ばせていたんだ。思い出すな……俺のものだって思っていたのに」
前半は甘くささやいていたのに、後半になるにつれ、なんだか不穏な雰囲気を醸し出す。
「俺が両親に願って申し込んだ時には、あいつと婚約した後だった……悔しくて泣いたよ」
私が九歳の時だから、ルーカスは十五歳だったはず。
うん、なんか……ね?
「回り道したけど、ルーカスのおかげで、私は不幸な結婚をしないですんだわ。ありがとう、大好きよ!」
ぎゅっと抱きついてみる。
一瞬固まった彼だけど、私をきつく抱きしめてくれた。
とくとくと少し早い心音が聞こえて心地いい。
そう言えば、よく一緒に眠っていたな、って思い出した。
よく考えたら……いや、考えないほうがいいか、あの当時ルーカスが私をどう思っていたかなんて。
「昔のクロエが戻ってきたみたいだ。すごく嬉しい……もうあいつとは話すなよ? 話はすんでいるから関わって欲しくない」
「でも、学園で会ってしまうかも……」
「卒業パーティまで授業も試験も終わっているから行かなくていいんじゃないか? ほかの男をクロエの瞳に映して欲しくないんだ。俺だけを見ていてほしい」
重い。
ルーカスの言う通り学園は行かなくても大丈夫だけど。
「長く婚約していたし、卒業パーティで俺が同伴している時なら一言くらい別れの挨拶をしてもいい。その翌日には領地に帰るから、一生会うことはないだろう」
「そうね、ありがとう……最後に一言くらい、言ってもいいわね」
それさえも嫌がると思ったからちょっと驚いた。
言いたいことはたくさんあるけど、ルーもいるし、公の場だから本当に一言だろうなと思う。
「ルーが一緒なのが嬉しい。何着ようかしら?」
最近の夜会はすべて従兄に付き添いをお願いしていた。
両親にはメイソンは従妹を連れてくるから合流すると言って。
なんでかばっていたのかと思うけど。
従兄が席を外すと、アーヤさんと一緒にいる王子様やメイソンたちと私をちらちらと見比べて、クスクス笑われたり、憐憫の目で見られたりしていて居心地が悪かった。
アーヤさんは庇護欲をかき立てられる可愛さを持った女の子だと思う。
少しわざとらしく感じるくらいに。
王子様の婚約者のグループが嫌がらせをしたくなる気持ちもわからなくないけど、エリーに言われてから距離を置いていたし、早めに帰って家でゆっくりバスタイムを愉しむのが、パーティの後の私の過ごし方だった。
すでにメイソンと仲良くすることを諦めていたのかも。
「ドレスはこっちで準備するから、待っていて」
「本当?」
「俺の奥さんになるんだから、当然だよ」
「ありがとう、ルー。嬉しい」
にこっと笑うから、和やかな空気が流れる。
「もう、不安はないかな?」
「う、ん」
多分……?
ルーカスの目つきが獲物を狙う猛獣みたい。
なんだろう、違う意味で不安になる。
「俺、もう我慢の限界だ」
16
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢のひとりごと
鬼ヶ咲あちたん
ファンタジー
城下町へ視察にいった王太子シメオンは、食堂の看板娘コレットがひたむきに働く姿に目を奪われる。それ以来、事あるごとに婚約者である公爵令嬢ロザリーを貶すようになった。「君はもっとコレットを見習ったほうがいい」そんな日々にうんざりしたロザリーのひとりごと。
【完結】「幼馴染が皇子様になって迎えに来てくれた」
まほりろ
恋愛
腹違いの妹を長年に渡りいじめていた罪に問われた私は、第一王子に婚約破棄され、侯爵令嬢の身分を剥奪され、塔の最上階に閉じ込められていた。
私が腹違いの妹のマダリンをいじめたという事実はない。
私が断罪され兵士に取り押さえられたときマダリンは、第一王子のワルデマー殿下に抱きしめられにやにやと笑っていた。
私は妹にはめられたのだ。
牢屋の中で絶望していた私の前に現れたのは、幼い頃私に使えていた執事見習いのレイだった。
「迎えに来ましたよ、メリセントお嬢様」
そう言って、彼はニッコリとほほ笑んだ
※他のサイトにも投稿してます。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
エメラインの結婚紋
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――
余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした
ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。
しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義!
そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。
「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」
【完結】17あなたがいらないなら、私はいなくなります。
華蓮
恋愛
アルフィールとカオリーナは、想いあっていた。
アルフィールを好きな伯爵令嬢が、カオリーナを破滅に導いた。
2人の歯車は噛み合わなくなっていた。
【完結】「王太子だった俺がドキドキする理由」
まほりろ
恋愛
眉目秀麗で文武両道の王太子は美しい平民の少女と恋に落ち、身分の差を乗り越えて結婚し幸せに暮らしました…………では終わらない物語。
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿してます。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
【4話完結】 君を愛することはないと、こっちから言ってみた
紬あおい
恋愛
皇女にべったりな護衛騎士の夫。
流行りの「君を愛することはない」と先に言ってやった。
ザマアミロ!はあ、スッキリした。
と思っていたら、夫が溺愛されたがってる…何で!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる