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しおりを挟むガーデンパーティーだなんて、こんな日差しの強い時にやらなくてもいいのに。
南国育ちの王太子妃の気まぐれで始まった今日の茶会で、ご機嫌なのは彼女だけ。
太陽を愛でる会、発足記念だからしかたない。
第六王女の私、フレイアも笑顔で楽しげな表情を浮かべているけれど、内心は。
エアコン欲しい。
炭酸、飲みたい。
私には前世の記憶がある。
日本という島国で育ち、十八歳で結婚出産、そして数年で離婚。
二十五で再婚して初めての海外旅行で家族揃って事件に巻き込まれて命を落としたらしい。
思い出した時は一本の映画を見終わった気分だった。
生き急いだ人生だった。
「コーラ、飲みたい」
うっかり漏らした呟きに、男爵令嬢のリリアンが顔を上げた。
聞かれた?
「……暑いですわね、リリアン」
「はい、本当に…………フレイア様、少しお時間いただけないでしょうか?」
彼女がキラキラした瞳で私を見つめ、耳元でささやいた。
「もしかして、転生者ですか……? コーラをご馳走しますので、相談に乗っていただけませんか?」
翌日、リリアンを私の住まいに招待した。
彼女も転生者で、この世界は乙女ゲームの世界なのだという。
よくわからないけど。
ヨーロッパっぽいけど国の名前全然違うなとか、イベントとか生活環境とか日本と大差ないなって思っていたけど。
お互い元日本人だし普通に話してって言ったら、うっかり外でボロが出ると困るからこのままで話しますと笑った。
リリアンがヒロインで攻略対象者は、王太子、第三王子、遊学中の隣国の第二王子、騎士団長令息。
前世から騎士団長令息のワイアット一筋だと言う。
本来の悪役令嬢は第五王女らしいけど、人をいじめるような性格でもなかったしさっさと貿易の盛んな新興国へ嫁いでしまった。
結構遠くの。
どのルートでも身分剥奪の上、国外追放らしいから彼女も転生者だった可能性が……なくもない。
「代わりに、イベントを起こして欲しいんです!」
ヒロインであるリリアンに、ドレスが流行遅れだと言ってワインをぶちまけてほしい、と。
バルコニーに取り残されて困っていると騎士団長令息ワイアットが助けてくれて恋が始まるんだとか。
ふらぐとやらが立たなくてストーリーが始まらないから困っていたらしい。
私は乙女ゲーム自体やったことがないけど、シュミレーションゲームだと言われればなんとなくわかる。
「私の品性が問われるよね……半年後に結婚するんだけど」
私の身分剥奪と国外追放は困る。
この国の宰相令息グレイソンとの政略結婚だけど、国内の派閥のバランスをとる意味合いも兼ねているから。
ありがたいことに、私の相手はインテリ系イケメンで、性格は淡々としているというか落ち着いているし、恋とか愛がなくても信頼関係を築いていけばうまくやっていけそうかなと思う。
「バルコニーで人目につきませんし、小さなイベントですので、大丈夫です! どうか、お願いします!」
そういって、薄茶色の液体の入った小瓶を取り出した。
「今日は味見です」
そう言って、グラスに一センチほど注ぎ、お水で割った。
「……どうぞ」
「今、水だった? 炭酸はない?」
「……今日は味見です。……この世界の炭酸ってお酒しかないですからね……あ、毒味します? 王女様ですもんね」
そう言って、一口飲んだ。
「……どうぞ」
恐る恐るグラスを持ち上げ匂いを嗅いで、一口含んだ。
「……味はコーラだわ……! すごい!……だけど、……炭酸水が恋しい」
「ですよね! 私たち、この世界では成人だから、イベントが成功した暁には、お酒で割ってパーティしましょう!」
この世界では十八歳で成人して、お酒が飲める。
私は十八歳で、リリアンは十九歳。
本来ならゲームは彼女が十六歳の時に始まるらしいけど、その前に王太子である兄が結婚しちゃったし、悪役令嬢のはずの姉も嫁いでしまった。
第三王子の弟の年齢もゲームでは私と同じ十八歳らしいのにまだ十三歳。
隣国の王子もゲームより下半身の緩い女たらしらしい。
ゲームとはだいぶ違うから名前だけ一緒で、リリアンの妄想かもと思わなくもないけど、前世の記憶もあるし、何よりコーラの魅力に勝てそうにない。
「スパークリングワインで? それともビールを手に入れるべき?」
「どちらもやりたいですよね!」
「……合うのかな、それ」
「よりコーラに近づくように調整しておくので……是非、イベントに協力してください!」
「……今回だけだよ?」
私はコーラという誘惑に負けた。
それから念入りに計画を練り、当日を待った。
暑いから、と赤ワイン片手に一人で涼みに出たバルコニーには、すでにリリアンがスタンバイしていた。
室内はほどよくパーティが盛り上がりざわついていたけど、扉を閉めればかなりの音が遮断できる。
周りには……誰もいないように見えた。
そろそろこの近くをワイアットが巡回して通るらしい。
では予定通り。
「そこのあなた、私にこの場を譲ってくださいませ」
「でも……私が先にいたので」
「あら、あなた。…………そんなドレスでは恥ずかしくて広間にいられませんものね」
「……」
黙り込むリリアンに三歩近づいた私は、よろけるフリをしてワインをドレスにかけた。
「あら、ごめんなさい……私、思ったより酔っていたみたいだわ。人を呼んであげるからそこでお待ちになって」
そう言って私は退場した。
うん、ほぼ言われた通り、できたはず。
演技派にはなれないけど。
ちらりと振り返るとリリアンは呆然と立っている……演技をした後、男がやってきて急にしゃがみ込んだ。
私は一度離れてからこっそりのぞく。
通りがかったワイアットがリリアンに話しかけて上着をかけてあげていた。
そして、そのまま二人で暗闇に消えて行った……。
なるほど。
これが恋の始まり?
ふらぐがたったのかな。
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