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6 (終)

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 リーがそのまま成長した姿そのものに見える!
 髪長いけど。女の子だけど!

「もしかして兄弟がいるとか?」

 ありえる。
 もしかしたら従兄弟かもしれない。希望が見えた!

「おりません。あの時出会ったのは……私です」
「そう、そうなのね。いないの……うん、わかった。……ずっと会いたかったよ」

 複雑だけど。とても複雑だけど。
 でも、リーとはもう一度会いたかったから嬉しい。
 
 真面目で誠実で気遣いのできるコリンのおかげ。
 学園に残っていたら卒業する頃には仲良しになれたかもね。いや、セシルがいたら無理かな。

「……あの頃は子どもで、シンシア様には大変失礼いたしました。私にとってはこっそり塔を抜け出して安らげるひとときだったのです。すてきな時間をありがとうございました」

 隣の領地の伯爵の隠し子で、可愛さのあまり閉じ込められていたらしい。
 んん? なんか聞いたことある童話があったような。すっごい長い髪の女の子。

 あれも高い塔に閉じ込められていたし、誰かが!
 助けてくれたんだ!

「遠縁のコリン様に助け出されて、私を守るために彼の侍女となりました」
「やっぱり頭がいいから気づいたのね」
 
「はい、コリン様は先読みもできる方で……、あの、今言ったことは内緒にしてくださいますか? 大切なコリン様が王族に狙われたら大変なので」

 先読みで未来が視えるのは聖職者だもんね~。
 ん? そうじゃないかも……?
 コリン・ポヴェイが転生者でゲームの内容を知っているってことかもしれない!
 私がここにいるんだから、ほかに転生者がいてもおかしくないもの。
 聞きたい、知りたい!
 
「わかった。内緒にする! 代わりにひとつ彼に聞いてもらえない?」
「それは……」

 困った顔のリーに私は続けて言う。

「私、もうすぐセシルと一緒に彼の国へ行くの。幸せになれるか不安で……。このルートはやめたほうがいいなら教えてほしい。もちろんわからなかったら気にしなくていいの。内緒にするから!」

 リーはなぜか不思議そうな顔をしていた。
 
「……ルート、ですか。シンシア様も不思議な言葉を使うのですね。いえ、わかっています、経路のことですよね」
 
「うん、そうだよ。山賊が出たら困るし。内緒にすると言っておきながら、頼み事してごめんね」

 コリンに伝われー! 

「大丈夫だと思います。さりげなく聞いてみますね」

 リーが浮かべた笑顔は幼い頃を思い出して、懐かしくなる。

「リーとの思い出はすごく大切に思ってる。今日、会えてよかったわ」
「はい、私もお話しできて嬉しく思います」

 さようなら、初恋。
 思い出にしがみついていたらいけないよね。
 心機一転、新しい土地でがんばろう。


 
 

 2日後に訪ねて来たリーから、問題ないそうですと笑顔で言われた。私はコリンの秘密を永遠に守ると誓った。

 話を聞くまで破滅ルートだったらどうしようと思うくらいには、セシルと一緒にいることになれている。
 
 あ、あれだ。
 友だち以上恋人未満。
 うん、しっくりくる。

 そうして転校の手続きや引っ越しの準備に忙しく、あっという間に旅立ちの日。
 男爵家までセシルが背赤サラマンダー族の王族専用の馬車で迎えに来てくれた。

 きらびやかですごいと思ったんだけど、セシルが王族とか聞いてない!

「たいしたことじゃない。俺は俺だし、シンシアが嫌なら国は弟に任せてもいい」

 セシルの発言に驚いていると、すてきな衣装の男爵家の面々がすり寄って来た。
 彼はちらっと見たけど何も言わない。

「あの、やはり、なんとか都合をつけて大切な娘のために結婚式に出ようと思います」
「いや、もう俺の国の宰相の養女になるから、お前たちは必要ない」

 セシルに私の保証人を頼んだとは聞いていたけど、宰相の娘って驚いちゃう。

「え! そんな……娘の幸せをひとめ……」
「エミリーおねえ様が心配だから、私のことは大丈夫です。それにメグおねえ様も忙しい時期ですし」

 私より先に結婚すると言って、メグが強引に連れて来たのは裕福な商家の息子。ちらっと見たけどイケメン。
 でも女好きらしくメイドにちょっかいかけていたし、働く気もなさそうだし平民だから男爵夫妻は気に入ってない。

 昨日婚約してたけど。
 今はセシルに身内を紹介してもらいたいんだと思う。
 
「シンシア……私たちは」
「今までお世話になりました! それではさようなら! お元気で!」

 とっととお別れした。
 関わりたくないよー。
 みんな唖然とした顔をしていたけど、セシルにエスコートされてゴージャスな馬車に乗り込む。
 セシルが窓から顔を出して言った。

「残った支度金がお前たちへの手切金だ」
「そんな⁉︎ ドレスしか作ってないのに!」

 男爵夫人の高い声が響く。
 珍しく馬鹿正直に行動したみたい。

「セシル、たくさん装飾品を準備してもらったの」
「そうか。国に着いたらまだまだある。シンシアのために特別なダイヤモンドを用意させているんだ」
「へー、すごーい」

 馬車の外でずるいずるいって騒いでいるのが聞こえた。
 いつもの彼らならごまかしただろうし、セシルもそう思っていたみたいだけど。

「シンシア! 形見分けして~!」

 誰の形見? 私、生きてますけど~?

「……黙れ。もしシンシアの前に現れたら命はないと思え」
「ヒェ……ッ!」

 ラスボスみたいな暗い笑みを浮かべたセシルは、カーテンをシャッと閉めた。

「馬車を出せ」

 それから私に寄り添うように座る。
 
「俺に寄りかかって楽にするといい」
「ありがとう……まだ大丈夫」

 閉ざされた空間は、これまでと違って緊張する。
 セシルが誰にでもタメ口だったのは王族だったからなのかぁ。

「王子様だったなんて」
「信じられないか? 慣れろ。この国より堅苦しくないから心配するな」
「うん」

 セシルの両親からの手紙もフレンドリーな雰囲気で歓迎ムードだった。
 
 次に学校に寄り書類を受け取った後、授業が始まる前だったからクラスに顔を出す。
 
 コーンズ先生はセシルの身分を知っていて、時々話しかけていたんだって。
 今も2人で話していて、このすきにコリンがやって来た。
 いつもと同じ無害そうな笑顔。

「シンシア、ここは乙女ゲーの世界じゃない。童話モチーフのメルヘンな異世界だ」
「嘘⁉︎ よかったぁー!」

 じゃあ、バッドエンドなんて気にしなくていいんだ。

「どうした? 俺の番に何をした?」

 私の興奮した声を聞きつけて、セシルが飛んでくる!
 
「すみませんッ、彼女の肩にクモがいたので払いました。勝手にすみません。では、お二人ともお幸せに」

 そそくさとコリンは去って行った。正解!

「シンシア……本当か?」
「うん。私、虫全般苦手で……それにセシルがいなかったから!」

 ごまかそうとやけになって叫ぶ。
 セシルが少し照れた顔をするのはなぜだ。
 可愛いことは言ってないのに。

「そうか、離れてすまなかった。もう2度と離れない。これからはずっと一緒だ」

 ずっと一緒は重すぎる!
 でも、もう乙女ゲームから離れていいんだ。何だかとても気が楽になった。

「セシル、これからもよろしくね。もっとセシルのこと教えて」

 結婚するなら、仲良く過ごせる方がいいよね。地雷は避けたいし!
 じっとセシルを見つめる。
 
 悪い男、じゃない。
 一途で、ワイルド系で俺様。
 しかも王子様。

「……あぁ、なんだって教えてやる。2人でいたら、退屈はしないはずだ」

 そっか、喧嘩祭りの国へ向かうんだもんね!
 私はヒロインじゃなかったけど、セシルは本物の王子様で卒業したら結婚することになる。

 童話みたいに玉の輿で、私たちの行く先はハッピーエンドしかない。

「セシル、一緒に幸せになろうね」
「……あ、あぁ」

 珍しく赤くなったセシルがちょっと可愛い。
 クラスメイトもセシルの表情に驚いているし、ギャップ萌えしてる子もいる気がするけど……これ以上彼を見せたくないなぁ、なんて変なことを思う。

 これまで好意を向けられていたのに、本気にしなかった私はずっともったいないことをしていたみたい。

「セシル」
「なんだよ」
「早くセシルの国が見たい」
「……もう行くぞ」
「うん!」
 
 みんなと別れ、手を取られてそのまま馬車に乗り込んだ。
 私が指を絡めるようにつなぎ直すと、セシルは空いているほうの手で顔を隠す。

 照れてる?
 意外と純情な一面に顔が緩む。

 もっとグイグイくるかと思ったのに。
 なんとなく国に着くまでに2人の関係が、変わる気がする。
 今のままではいられない。
 何だか楽しみになってきた!

 




 
        
            本編・終


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 お読みいただきありがとうございます。
 次回おまけとしてこの世界のネタバレ回です。(Rなし)

 
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