私が好きと言ったら抱きしめるあなたは、好きと言ってくれない。

能登原あめ

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1 王宮のお茶会

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 初めて彼と出会ったのは、私が十二歳になって初めて参加した王宮のお茶会。

 産まれた時に不運が重なって、人よりほんの少し脚が弱い。
 私は履き慣れない靴と、前日の雨で濡れた芝生のせいで転んでしまったの。

 それまでは脚のことなんて、あまり気にしたことはなかった。

 周りの女の子達にクスクス笑われて、あの子歩き方がへんだったわね、きっと田舎育ちなのよ、どうしてこの場にいるのかしら、って。
 わたくしなら恥ずかしくていられないわって。

 身体を起こした私は、派手に着飾ったその子達をじっと見つめる。

 ぜっったい、いじわるなその顔忘れないんだから!

「失礼する」

 後ろからひょいっと抱き起こされて、私は驚いて顔だけ振り返った。

 焦茶色の髪に、同じ色の瞳。
 怒っているみたいにきゅっと唇を閉じた、クマみたいに大柄な男の子が立たせてくれた。

 それから、怪我していないか私の全身をみる。
 なんとなくドレスが湿っぽくて薄汚れたように感じて恥ずかしい。

「ありがとう、ございます」

 私はハンカチをぎゅっと握った。
 後ろで女の子達がこそこそ言ってるのが聞こえる。

 動物みたいに抱えられたわ。
 きっと、お行儀はお猿の先生に教わったのね、粗野だものって。
 笑っちゃダメよ、完璧ないい生徒じゃないって。

 ここにいるの、いやだな。

「どこか痛むか?」

 首を横に振る私をじっと見て、彼は何も言わずにそこから連れ出してくれた。
 庭園の端にある、会場から見えないベンチに私に座るよううながしてから、しゃがみ込んでじっと足先を見る。

 五つ年上のローガン兄様と同じくらいの歳なのかな?
 彼の前にスッと足首まで出して確認してから言った。

「さっきは転んでしまったけど、怪我はありません。痛くもないし、大丈夫です。助けてくれて……ここまで連れてきてくれて、ありがとうございます」

 彼はちらっと私の足を見たけれど、赤くなって不自然に視線を動かしてそっぽをむいたまま言った。

「気にしなくていい……そんなふうに男に足を見せてはいけない」

 彼が赤くなっているのを見て、私もつられて顔が熱くなる。

「ごめんなさい。……その、私はエヴァ、です。あなたは……?」
「……アーサーだ」
「アーサー様。私、もう帰りたいのですが」

 私の言葉に彼が眉間にしわを寄せて首を傾げる。

「殿下と会わずに?」

 本当に絵本に出てくる王子様みたいなのか、殿下を一度見てみたかったけど、あの雰囲気は好きじゃない。
 だって、楽しいお茶会になんて、なりそうもないもの。

 これまで父様がお茶会に行かせたくないって断っていたのも、私が楽しめそうにないって思ったからなのかな。
 私は見た目も中身も父様にそっくりだって言われているから。

 あんなふうにわざと聞こえるようにいじわるを言う人達が、領地にいなかったからすごく驚いた。

 領民の中には、私のことを脚が悪くてお可哀想って言う人もいたけど、気にしたことはあまりない。
 だって、ずっとこの体とつきあってきたから。

 いいお医者様に出会って、今ではほとんどみんなと変わりなく過ごせてる。
 困ることは早く走れないことと、たくさん歩くと疲れることくらい。

 どっちも、レディには関係ないって父様も母様も言う。
 兄様達も、うちで暮らす者達はみんな優しかった。

 早く家に帰りたい。
 みんなのいるところへ。
 王宮なんて、嫌いだわ。

「はい。ドレスも汚れてしまいましたし。……アーサー様は、お茶会はよく参加されるのですか?」
「いや、そうでもない。……ここからなら馬車まで近い。案内する」

 差し出された大きな手にそっと自分の手を重ねる。

「大きい手」

 父様とも兄様達とも違って、なんだかどきどきするのに、温かくて安心する。

「アーサー様の手、好き」

 私がそう言うと、彼がギュッと握ってから私の手をそうっとひっぱった。
 
「こっちだ」

 顔を背けてしまったから、どんな顔をしてるかわからないけど、耳が赤いみたい。
 私より頭一つ分、大きなアーサー様を見上げて思った。
 
 もっとアーサー様のことが知りたい。






******


 お読みいただきありがとうございます。

足→足首より下
脚→足首より上

そのように分けているのでややこしくてごめんなさい。
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