2 / 28
1 王宮のお茶会
しおりを挟む初めて彼と出会ったのは、私が十二歳になって初めて参加した王宮のお茶会。
産まれた時に不運が重なって、人よりほんの少し脚が弱い。
私は履き慣れない靴と、前日の雨で濡れた芝生のせいで転んでしまったの。
それまでは脚のことなんて、あまり気にしたことはなかった。
周りの女の子達にクスクス笑われて、あの子歩き方がへんだったわね、きっと田舎育ちなのよ、どうしてこの場にいるのかしら、って。
わたくしなら恥ずかしくていられないわって。
身体を起こした私は、派手に着飾ったその子達をじっと見つめる。
ぜっったい、いじわるなその顔忘れないんだから!
「失礼する」
後ろからひょいっと抱き起こされて、私は驚いて顔だけ振り返った。
焦茶色の髪に、同じ色の瞳。
怒っているみたいにきゅっと唇を閉じた、クマみたいに大柄な男の子が立たせてくれた。
それから、怪我していないか私の全身をみる。
なんとなくドレスが湿っぽくて薄汚れたように感じて恥ずかしい。
「ありがとう、ございます」
私はハンカチをぎゅっと握った。
後ろで女の子達がこそこそ言ってるのが聞こえる。
動物みたいに抱えられたわ。
きっと、お行儀はお猿の先生に教わったのね、粗野だものって。
笑っちゃダメよ、完璧ないい生徒じゃないって。
ここにいるの、いやだな。
「どこか痛むか?」
首を横に振る私をじっと見て、彼は何も言わずにそこから連れ出してくれた。
庭園の端にある、会場から見えないベンチに私に座るよううながしてから、しゃがみ込んでじっと足先を見る。
五つ年上のローガン兄様と同じくらいの歳なのかな?
彼の前にスッと足首まで出して確認してから言った。
「さっきは転んでしまったけど、怪我はありません。痛くもないし、大丈夫です。助けてくれて……ここまで連れてきてくれて、ありがとうございます」
彼はちらっと私の足を見たけれど、赤くなって不自然に視線を動かしてそっぽをむいたまま言った。
「気にしなくていい……そんなふうに男に足を見せてはいけない」
彼が赤くなっているのを見て、私もつられて顔が熱くなる。
「ごめんなさい。……その、私はエヴァ、です。あなたは……?」
「……アーサーだ」
「アーサー様。私、もう帰りたいのですが」
私の言葉に彼が眉間にしわを寄せて首を傾げる。
「殿下と会わずに?」
本当に絵本に出てくる王子様みたいなのか、殿下を一度見てみたかったけど、あの雰囲気は好きじゃない。
だって、楽しいお茶会になんて、なりそうもないもの。
これまで父様がお茶会に行かせたくないって断っていたのも、私が楽しめそうにないって思ったからなのかな。
私は見た目も中身も父様にそっくりだって言われているから。
あんなふうにわざと聞こえるようにいじわるを言う人達が、領地にいなかったからすごく驚いた。
領民の中には、私のことを脚が悪くてお可哀想って言う人もいたけど、気にしたことはあまりない。
だって、ずっとこの体とつきあってきたから。
いいお医者様に出会って、今ではほとんどみんなと変わりなく過ごせてる。
困ることは早く走れないことと、たくさん歩くと疲れることくらい。
どっちも、レディには関係ないって父様も母様も言う。
兄様達も、うちで暮らす者達はみんな優しかった。
早く家に帰りたい。
みんなのいるところへ。
王宮なんて、嫌いだわ。
「はい。ドレスも汚れてしまいましたし。……アーサー様は、お茶会はよく参加されるのですか?」
「いや、そうでもない。……ここからなら馬車まで近い。案内する」
差し出された大きな手にそっと自分の手を重ねる。
「大きい手」
父様とも兄様達とも違って、なんだかどきどきするのに、温かくて安心する。
「アーサー様の手、好き」
私がそう言うと、彼がギュッと握ってから私の手をそうっとひっぱった。
「こっちだ」
顔を背けてしまったから、どんな顔をしてるかわからないけど、耳が赤いみたい。
私より頭一つ分、大きなアーサー様を見上げて思った。
もっとアーサー様のことが知りたい。
******
お読みいただきありがとうございます。
足→足首より下
脚→足首より上
そのように分けているのでややこしくてごめんなさい。
20
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
元恋人が届けた、断りたい縁談
待鳥園子
恋愛
シュトルム辺境伯の末娘ソフィに隣国の帝国第二皇子から届けられた『縁談』の使者は、なんと元恋人のジョサイアだった。
手紙ひとつで別れることになったソフィは、素直になれずジョサイアから逃げ回る。
「私に届けなければ、彼は帝国に帰ることが出来ない」
そう思いようやく書状を受け取ろうと決意したソフィに、ジョサイアは何かを言い掛けて!?
私、お母様の言うとおりにお見合いをしただけですわ。
いさき遊雨
恋愛
お母様にお見合いの定石?を教わり、初めてのお見合いに臨んだ私にその方は言いました。
「僕には想い合う相手いる!」
初めてのお見合いのお相手には、真実に愛する人がいるそうです。
小説家になろうさまにも登録しています。
十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。
あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。
宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。
対極のような二人は姉妹。母親の違う。
お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。
そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。
天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。
生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。
両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。
だが……。運命とは残酷である。
ルビアの元に死神から知らせが届く。
十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。
美しい愛しているルビア。
失いたくない。殺されてなるものか。
それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。
生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。
これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。
どんなあなたでも愛してる。
piyo
恋愛
遠征から戻った夫の姿が変わっていたーー
騎士である夫ディーノが、半年以上の遠征を終えて帰宅した。心躍らせて迎えたシエラだったが、そのあまりの外見の変わりように失神してしまう。
どうやら魔女の呪いでこうなったらしく、努力しなければ元には戻らないらしい。果たして、シエラはそんな夫を再び愛することができるのか?
※全四話+後日談一話。
※毎日夜9時頃更新(予約投稿済)&日曜日完結です。
※なろうにも投稿しています。
妻が通う邸の中に
月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。
【完結】美しい家庭教師を女主人にはしません、私は短剣をその女に向けたわ。
BBやっこ
恋愛
私は結婚している。子供は息子と娘がいる。
夫は、軍の上層部で高級取りだ。こう羅列すると幸せの自慢のようだ。実際、恋愛結婚で情熱的に始まった結婚生活。幸せだった。もう過去形。
家では、子供たちが家庭教師から勉強を習っている。夫はその若い美しい家庭教師に心を奪われている。
私は、もうここでは無価値になっていた。
どうぞお好きになさってください
はなまる
恋愛
ミュリアンナ・ベネットは20歳。母は隣国のフューデン辺境伯の娘でミュリアンナは私生児。母は再婚してシガレス国のベネット辺境伯に嫁いだ。
兄がふたりいてとてもかわいがってくれた。そのベネット辺境伯の窮地を救うための婚約、結婚だった。相手はアッシュ・レーヴェン。女遊びの激しい男だった。レーヴェン公爵は結婚相手のいない息子の相手にミュリアンナを選んだのだ。
結婚生活は2年目で最悪。でも、白い結婚の約束は取り付けたし、まだ令息なので大した仕事もない。1年目は社交もしたが2年目からは年の半分はベネット辺境伯領に帰っていた。
だが王女リベラが国に帰って来て夫アッシュの状況は変わって行くことに。
そんな時ミュリアンナはルカが好きだと再認識するが過去に取り返しのつかない失態をしている事を思い出して。
なのにやたらに兄の友人であるルカ・マクファーレン公爵令息が自分に構って来て。
どうして?
個人の勝手な創作の世界です。誤字脱字あると思います、お見苦しい点もありますがどうぞご理解お願いします。必ず最終話まで書きますので最期までよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる