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2 アーサー様と父様
しおりを挟む通りがかった侍女に帰る旨を伝えて、私の歩みに合わせてアーサー様が歩いてくれる。
「アーサー様、ありがとうございました。あのっ、また会えますか?」
「ああ、きっと」
私の言葉に小さく頷いてじっと見つめてくる。
私もアーサー様の顔を永久に忘れないようにじーーっと見つめた。
「気をつけて」
ずっと手を握ってくれていたアーサー様がそっと手を離す。
さっきまで温かかったのに、なんだかさみしい。
もっと握っていたかったな。
「絶対、また会ってくださいね?」
アーサー様がほんの少し口元をゆるめて笑った。
その顔を見たらなぜか胸が苦しくなって何も言えなくなった。
どうしよう、もっと一緒にいたい。
一緒についてきてくれないかな。
ちょうどそこに侯爵家の馬車がやってきて、中から父様が飛び出した。
「エヴァ~! おかえり! 会いたかったよ! さあ、帰ろう!」
急に父様に抱きあげられて、恥ずかしい!
アーサー様がまだ近くに立っているのに。
「父様、あの」
私の言葉に顔を上げた父様がアーサー様に気づいた。
「君は……」
「お久しぶりです。……アーサーです」
「あぁ。久しぶりだね。ますますジョンにそっくりになったな。ここまで娘を連れてきてくれてありがとう。さあ、あなたもあちらで楽しんでくるといい」
父様とアーサー様は知り合いらしい。
私が順番に二人の顔を見ていると、アーサー様がこっちを見てお辞儀した後、さっと背を向けて去ってしまった!
アーサー様が行っちゃう!
まだ知りたいことがいっぱいなのに‼︎
「侍女も戻ってきたから、さぁ帰ろう」
「~~っ。……はい、父様」
そう答えてからも彼の姿が見えなくなるまで私は見つめ続けた。
一度も振り返ってくれなくてさびしい。
もう一度、顔を見たかったな。
馬車が動き出してしばらくすると、父様が口を開いた。
「エヴァ、さぁこれで王宮の茶会に出たことになるし、二週間ほど王都で行事をこなした後、領地に送って行くから。その間、買い物や観劇を楽しんで」
「はい、父様! 私、お茶会はとっっても、楽しくなかったです!」
王子様に会わずにすぐ帰ってきた私を、父様はなぜか嬉しそうな顔で見つめる。
「そうか、エヴァはずっと私達と暮らしてくれたら嬉しいな。殿下とお会いしていないのだろう? 会ってしまったらエヴァのかわいさに気づかないわけがないからね。王子妃なんて大変な立場に立たせたくないんだ……それに誰に見染められてもおかしくないくらいかわいいからな、ウン。国内の貴族との縁談ならほとんど断ることができるが、噂が広がって隣国の王族に求婚されるとなると、大変なことになる。まずいな……」
「父様……」
父様は時々、ものすごい想像力を発揮するから驚いてしまう。
「そんなこと、あるわけないわ……脚が弱いもの」
思わずつぶやいた私に、父様がじっと見つめる。
「エヴァ、そんなのささいなことだ。エヴァは最高にかわいい女の子だよ。……なにか、言われたのかい?」
「…………」
もしかしたら先回りした誰かに何があったか聞いているかもしれない。
口に出して、また嫌な気持ちになりたくない。
せっかくアーサー様に出会えて幸せだったのに!
「あのね、父様」
「なんだい?」
「アーサー様ってお兄様のお友達なの?」
父様がぐうっと唸った。
まるで母様がほかの男の人と話しているのを見てヤキモチを妬いた時みたいに。
なんだかよくない話題だったみたい。
慌てて、私は口を開いた。
「あのね、父様はどうしてここへ?」
「ああ、ちょうど近くにいたからね。たまたまだよ、たまたまね。たまたま、一緒に乗り合わせることになったんだ」
私が本当にそうなのかと首をかしげて見つめると、モゴモゴと言った。
私が心配で王宮付近をうろうろしていたんだって。
「父様、ありがとう。一緒に帰れて嬉しい!」
「エヴァ! かわいい! どうしてこんなにかわいいんだ! 私も嬉しいよ……さぁ、明日からまた楽しく過ごそう」
「はい」
そう頷きながら、私はアーサー様を思い浮かべる。
王都にいる間、アーサー様にもう一度会えるといいな。
あとで兄様達に訊けばいいんだわ。
きっとどちらかの友達だもの。
どちらかのお友達なら家に招待してってお願いすればいい。
絶対に、これっきりになんてしたくない。
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