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4 私の脚は
しおりを挟む「母様、二人きりでお話したいです!」
母様のいるところには、仕事中以外は父様がいる。
私達にとって当たり前の光景だけど、今は困るの。
「あの……」
私がモジモジしていると、母様が父様にしばらく二人きりにして、って優しくお願いした。
父様は母様の頬に口づけしてから名残惜しそうに去って行った。
明日の仕事を今日進めるんだって。
父様はとっても仕事が早いんだって仕事を教えてもらっているイーサン兄様が言っていた。
「エヴァ、どうしたの?」
さっきまで父様が座っていた椅子に座るように誘われた。
それから、甘いお菓子といい香りのするお茶を用意してくれて、母様の緑色の瞳が優しく見つめてくる。
「あのね。母様は、王宮の小さな紳士淑女のためのお茶会って、楽しかった?」
「うーん、そうねぇ……とってもおいしいお菓子を食べることができて、よかったけど……堅苦しいところだったわ」
「そうなの! みんなツンとおすまししていて、嫌な気持ちになったわ!」
「……殿下と結婚したい子達は、周りがみんなライバルにみえるのでしょうね」
母様に渡されたサブレを口に放り込んだ。
甘さが口の中に広がって幸せな気持ちになる。
「私は殿下と結婚なんて考えてないのに! 本当に、もう二度と行きたくないの!」
「そうなの」
母様のあいづちに私は続けて話す。
「それに、気の合いそうなお友達だってできないと思う。王都の女の子達ってみんなあんななのかな? あんなに歩きにくい靴で濡れた芝生を静かに歩くのだもの! 私は慣れなくて転んだら笑われちゃった……歩き方がおかしいって! 粗野だって! すごく、すごく嫌だった!」
思い出してまた腹が立つ。
「すごく、すごく嫌な思いしたのね。それは行きたくないと思うわよね」
「そうなの! 笑うより助けるほうが先だと思うのに! 私だったらそうするわ……なのに、笑うなんて」
話しているうちにちょっと悲しくなった。
母様の眉も下がる。
「エヴァは何も悪くないわ。エヴァは私達の最愛の娘だもの。謝るのは母様だわ。辛い思いをさせてごめんね」
これまで私の脚は産まれた時に不運が重なったのだと聞いていた。
母様は私が産まれる日のことを詳しく教えてくれた。
兄様達が産まれる時にいたお医者様が体調をくずして、代わりの方を探してる時だったって。
それから、私の産まれた夜は大嵐でお産が重なり、慣れた産婆さんは初産の娘の元にいて、三人目の母様の元には経験の浅い産婆さんだけだった。
父様はその日に限って王都にいて、天候のせいで帰ってくることができず、私は頭から産まれるところを足から産まれたらしい。
多分その時に脚の骨をおかしくして、すぐに気づかずそのまま成長してしまったんだって。
母様が気にすることないのに。
新しくやってきたお医者様が私の脚に気づいて、ずっと診てくれるようになって、よくなってきたのだもの。
ぴょこぴょこ跳ねるように歩いていた小さい頃とは違う。
ただ、脚に負担のかかるレディらしい靴は今もほとんど履かないから失敗しちゃっただけで。
「私、歩けるし走れるわ。慣れない靴だから転んでしまったけど、先生の施術のおかげで普段は母様の次くらいに綺麗に歩いてると思うの!」
「ええ、そうね。家庭教師の先生もダンスの先生も褒めてらしたわ。エヴァが努力したからよね。あなたは自慢の娘だわ」
そう言って私を抱きしめる。
母様は柔らかくていい匂いがして温かくて、安心するの。
父様がくっつきたくなる気持ちがよくわかるわ。
「エヴァは素敵なレディよ。父様なんて、初めての女の子が産まれて、ずっと抱きしめて泣いていたわ」
エヴァの泣き声が聞こえないくらい嬉し泣きしたのは内緒よって笑う。
「私……脚のことは気にしてない」
王宮に行かなければいいんだもの。
「母様と父様の娘に産まれて幸せ! 兄様達も大好きだから」
私からも抱きしめ返した後、優しくほほ笑む母様の顔を見て言った。
「あのね、お茶会で、助けてくれた男の子がいたの。私、会ってお礼を言いたいのだけど……母様はアーサー様を知ってる? 兄様達くらい大きくて、父様ともお知り合いみたい。アーサー様はジョンという方にそっくりらしいのだけど……母様?」
私の言葉に母様が考え込む。
「思い当たる子はいるのだけど、さりげなく父様に確認してみるわね」
母様も、兄様達もすぐに教えてくれないのはどうしてだろう。
******
お読みいただきありがとうございます。
イメージとしては、それほど医療の発達してない国での股関節脱臼です。
メインの取り扱いではないので、そのあたりはふわっと進めます。
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