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16 婚約したのは?
しおりを挟むアーサー様が十八歳で学校を卒業し、すぐに伯爵領へ戻った。
姫様と長く続いた手紙のやりとりも、王宮の使者が運ぶようになってアーサー様が侯爵領に泊まることはなくなった。
近くにいるのになかなか会えなくてさみしい。
時間ができるとつい川の手前まで行ってしまうし、何回かに一度は会うことができる。
早く夏にならないかな。
私は婚約者のいないまま十七歳になった。
だって、アーサー様しか好きじゃないのに他の人なんて考えられない。
父様はずーっとうちにいればいいって言うし、まだローガン兄様だって婚約していないもの。
アーサー様が他の方と結婚してしまったら、私は泣いて泣いて池ができるほど涙を流すと思う。
今だって、そんなこと考えるだけで涙が浮かんじゃう。
「エヴァ、どうしたの?」
ルーナ様とは年に何度かお会いして親睦を深めてきた。
今では姫様じゃなくて、名前で呼ぶ関係。
『ここあ』の味も、いつもの四人のお茶会で少し前に初めて知った。
『甘くて、苦い初体験でした』って私が言ったら、なぜかアーサー様が『ここあ』を吹き出して、赤くなった。
フィンレー殿下がそれを見て笑うから、私は思わず睨んじゃったけど。
殿下がお茶を吹いた時は私は笑わなかったのに‼︎
『お兄様、よくないわ』
『いや、だってアーサーが……いや、元はと言えばエヴァが……っはは‼︎』
あれ?
私のせい?
『エヴァは何も悪くありません』
『くくっ……そうだね、すまない』
あの時殿下も、アーサー様まで謝ってくれたけど、なんで笑ったかは結局わからなかった。
『ここあ』も特別にあの日だけ。
思わず、色んなことを思い出してしまった。
ルーナ様は十三歳になって、相変わらず可愛らしく美しい。
しかも聡明なの。
好きにならないわけがない。
私達は仲良しで、今日は二人きりでお茶を飲みながらおしゃべりを楽しんでいる。
「それは……アーサー様が成人したので、結婚が決まったら悲しいと、考えてしまいました」
口に出したら余計に悲しくなる。
「エヴァ……聞いていないの?」
ルーナ様が目を見開いた。
驚き過ぎて口まで開いちゃっている。
「あのね、落ち着いて聞いてね。エヴァ、あなた、結婚が決まったの。それでね、もう両家で話がついているし、陛下の口添えもあるからね」
だからねって、ルーナ様が話し出したけど私の頭は真っ白で。
「……エヴァ? 聞こえてる? これから準備で大変だものね。色々考えることも多いでしょうし、早く帰ってドレスの採寸をするといいわ」
「はい……では、今日はこれで失礼します」
私、アーサー様以外と結婚なんてしたくないのに!
とぼとぼと王宮の廊下を歩いていると、目の前に影がかかる。
顔を上げた私は、はっと息を呑んだ。
「……アーサー様」
今一番会いたくて、一番会いたくなかった人。
でもやっぱり顔を見ると、好きだと思うし、嬉しくて苦しい。
「どうした?」
気遣わしげに私を見下ろす。
この三年でアーサー様はますます大きくなって男らしくなった。
いつだって格好いい。
「アーサー様……」
もう近づいちゃだめなの?
アーサー様のお嫁さんになりたかった‼︎
視界が歪んで、喉が詰まった。
思わず下唇を噛む。
「……エヴァ?」
アーサー様が低い声で滅多に呼ばない私の名前を口にする。
いつもなら嬉しくてたまらないのに。
これが最後になるのかな、って。
大人になるって楽しくない。
それから彼が私の背中に手を当ててそっと庭に連れ出した。
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