私が好きと言ったら抱きしめるあなたは、好きと言ってくれない。

能登原あめ

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15 川を挟んで。

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 アーサー様が伯爵領に泊まった夏の朝は、お互いに川を挟んで向かい合う。
 お互いの領地の境になっている川で、泳げない私は絶対入っちゃダメだって言われている。
 兄様達でも足がつかないところがあるらしい。

 アーサー様と一緒に散歩していくうちに、危ない場所がないか確認してくれていて、私が一人で歩いても大丈夫だって認めてもらった。
 アーサー様って結構心配性だと思う。
 少しくすぐったい気持ちになるの。

(アーサー様っ!)

 声に出さないで、手を振って挨拶する。
 ここが人気のない場所でも、静かな朝に大声を出して誰かに見つかるのはいや。
 すれ違った庭師はいつでも黙っていてくれるけどね?

 私達が会っているって知られたら、きっと父様とローガン兄様は騒ぐと思う。
 母様とイーサン兄様は見守ってくれていて、どちらかというと協力的。

 だって、イーサン兄様は私が外に出たのを黙っていてくれたもの。
 それに、川を挟んで会えるって教えてくれた。

 あ、アーサー様が胸の前で小さく手を上げた。
 
 さりげない。格好いい!
 私ももう一度振り返す。
 アーサー様の顔を拝めたのは嬉しいけど、物足りないなって思いながら私達はその場を離れた。
 






 真夏のある朝、なんとアーサー様が泳いで渡ってきた。
 上半身は裸で、がっしりとした体つきにどこを見ていいかわからなくて、私は困った。
 
「アーサー様、寒くないですか?」
「……大丈夫だ」

 でも、朝も早くそれほど気温が上がってない。
 
「それほど弱くない。……それに、近くで顔を見たかった」

 アーサー様も私と会いたかった?
 嬉しくて飛び上がりそう。

「私も、アーサー様と近くで会えて嬉しいです。それに……この距離なら言えますから」

 首を傾げるアーサー様に、好きです、と伝える。

 あぁ、ほんとに大好き。
 どこを見ていいか分からないから、アーサー様の焦茶色の瞳をじっと見つめる。

「……まいったな……。あなたを濡らしてしまいそうだ」

 アーサー様が何かに耐えるように拳を握る。
 私も首を傾げてその仕草を眺めた。

 これって、私を抱きしめたいけど、服が濡れちゃうからできないって意味かな?

「アーサー様、大好きです。すぐ乾きますよ?」

 私の言葉に勢いよく胸の中に抱き込まれた。
 
 きゅん。
 もしかしたらきゅん、って聞こえちゃう?
 アーサー様が近すぎて、心臓が止まるかも。

 少しは私のことを好きになってくれているのかな?

 力一杯抱きしめた後、すまないといって離れる。
 私が首を横にぶんぶん振ると、一瞬口元を緩めたけど、すぐキリッとした顔になった。

 それから、真似して泳いじゃダメだってことと、他の季節は川に近づいてはいけないって約束した。
 
「大丈夫です、私泳げないので。約束します」
「……あなたに何かあったら、死ぬほど後悔する」

 そんなふうに言われたら、命をかけて約束を守り抜くんだから!
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