20 / 28
19 誕生日
しおりを挟む私の誕生日に、アーサー様が黄色のフリージアを抱えてやってきた。
「エヴァ、誕生日おめでとう」
大きくてがっしりしたアーサー様がお花を持つと、何だかとっても可愛らしい。
ちょっと恥ずかしそうに私に差し出すから、私は両手でそれを受け取った。
「ありがとうございます。アーサー様」
甘酸っぱい匂いを思い切り吸い込んで、そっと息を吐いた。
幸せ。
「……どうして、黄色なんだ? どうして……?」
後ろで父様がブツブツ言っている。
「一番きれいに咲いていたのと、エヴァのための花だと思ったので」
アーサー様が父様に向けて挨拶してからそう言った。
黄色のフリージアは無邪気って意味なんだって。
私って無邪気?
アーサー様にはそう見えるの?
今日から成人なのに、子供っぽいかな?
「明日は、赤のフリージアにするのか?」
母様になだめられながら、父様が訊いた。
「いえ。室内の装飾に合わせて……」
「まさか、あなた達は⁉︎」
父様がいきなり荒ぶった。
母様が、食事まで庭をみてきたら、って私達に早く行くよう言った。
よくわからないけど、明日私が結婚するのがものすごく寂しいのかもしれない。
だから、父様あんなに情緒不安定なのかも……。
隣の領地なんだけど。
庭に出る前に花を預けて私の部屋に飾るように侍女に頼んだ。
「アーサー様、ごめんなさい……」
首を傾げて、アーサー様が私を見つめる。
「いや、説明が足りなくてすまない。……赤のフリージアは純潔を意味するから、それを飾らない理由を侯爵は勘違いをしたのかもしれない」
勘違い?
「ドレスのサイズが変わるようなことをするなって話?」
私がそう言うと、アーサー様が唸った。
ちょっと赤くなって私から目を逸らして小声で言う。
「……明日はエヴァのためにちゃんと準備している」
「ありがとうございます。私達のために、ですよね。私、とっても幸せで嬉しい。……今日から大人の仲間入りで、明日にはアーサー様の妻に、なれるんですね」
言葉に出したらもっと幸せな気持ちがあふれた。
どうしよう。
私、今世界一幸せだと思う!
「……エヴァ」
アーサー様が私を包み込むように抱きしめる。
「好きだ」
きゅーん。
私が好きだと言うと、好きって返してくれていた近頃のアーサー様が、今日は初めて先に言ってくれた!
あぁ、もう、人生で一番幸せな誕生日だわっ。
だから私もせいいっぱい、腰にしがみつくの!
好きって気持ちを込めて。
「アーサー様、だいっすきです! 愛しています! ずっと、ずっと、アーサー様だけが好きです」
「……」
アーサー様がぎゅうっと私を抱きしめ返す。
熱い。
アーサー様の体温が上がってる。
「アーサー様、すき……」
「黙って」
でも!
だって!
好きがあふれちゃうんだもん。
その後すてきなブローチをもらって、アーサー様につけて、って頼んだら震える指で胸元の生地を掴んだ。
ちょっと不器用な手つきで、なぜか赤くなって汗までかいて。
私までどうしたらいいかわからなくなったけど、刺さったら怖いから大人しくしていた。
「アーサー様になら、痛くされてもいい、ですよ」
ちょっとチクッとするくらいなら。
アーサー様ったらなぜかますます真っ赤になって、額から汗が流れ落ちた。
一生懸命なアーサー様、格好いい!
今日は初めてブローチをつけてくれた記念日にもなったわ!
「ありがとうございます」
「いや、すまない……」
アーサー様が謝ることなんて一つもないのに!
食事会の時には落ち着いた父様がブローチに気づいて褒めてくれた。
母様は隣で穏やかにほほ笑んでいる。
「ステキダネ、アーサーアリガトウ、エヴァ、ヨカッタナ」
ちょっと硬かったけど!
今日は誕生日を祝ってもらって、幸せな一日だった。
明日はとうとう私達の結婚式!
1
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【短編】ちゃんと好きになる前に、終わっただけ
月下花音
恋愛
曖昧な関係を続けていたユウトとの恋は、彼のインスタ投稿によって一方的に終わりを告げた。
泣くのも違う。怒るのも違う。
ただ静かに消えよう。
そう決意してトーク履歴を消そうとした瞬間、指が滑った。
画面に表示されたのは、間の抜けたクマのスタンプ。
相手に気付かれた? 見られた?
「未練ある」って思われる!?
恐怖でブロックボタンを連打した夜。
カモメのフンより、失恋より、最後の誤爆が一番のトラウマになった女子大生の叫び。
もう何も信じられない
ミカン♬
恋愛
ウェンディは同じ学年の恋人がいる。彼は伯爵令息のエドアルト。1年生の時に学園の図書室で出会って二人は友達になり、仲を育んで恋人に発展し今は卒業後の婚約を待っていた。
ウェンディは平民なのでエドアルトの家からは反対されていたが、卒業して互いに気持ちが変わらなければ婚約を認めると約束されたのだ。
その彼が他の令嬢に恋をしてしまったようだ。彼女はソーニア様。ウェンディよりも遥かに可憐で天使のような男爵令嬢。
「すまないけど、今だけ自由にさせてくれないか」
あんなに愛を囁いてくれたのに、もう彼の全てが信じられなくなった。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる