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第六章 匈奴襲来
第四十話
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烏珠留単于に率いられた匈奴軍が、一里(約四百メートル)の距離まで新軍に迫った。壁のように並べられた輜重を見て、進路を右へ転じた。まだ防備が整えられていない箇所を探し、新軍の周囲を駆けた。一周するも守りが薄い箇所を見つけられず、匈奴軍は突撃を中止して烏珠留単于の周りに集結した。於粟置支侯咸が烏珠留単于の前に馬を進めた。
「単于、あれは――」
「わかっている。李陵戦法だ」
李陵戦法、とは輜重等を障害物として自軍の周りに置き、敵騎兵の突撃を防ぎながら投射兵器で応戦する戦法である。百年前の漢帝国と匈奴単于国の大戦で、漢軍の指揮官の一人、李陵が用いたことから名がついた。李陵は秦帝国の始皇帝に仕えた武将、李信の子孫であり、寡兵を指揮していた時に単于が率いる大軍に遭遇し、咄嗟に輜重を周囲に並べて戦いに臨んだ。単于は六倍の兵力で包囲して猛攻を加えたが、李陵に指揮された漢軍は匈奴軍を寄せつけず、矢が尽きるまで戦い続けた。最後は降伏に追い込まれはしたが、単于は李陵を勇者と認めて礼を尽くし、一方、李陵の降伏を伝えられた漢帝国の孝武皇帝は、激怒して李陵の家族を処刑した。
「あれに手を出せば、失う兵は千や二千では済まない。李陵の時は、八日間の戦いで一万騎が戦死したとも聞く。しかし、如何に強力であろうと、李陵戦法は守りの戦法だ。攻めることは勿論、その場から動くことも出来ない。こちらからは手を出さず、距離を置いて包囲を続ければ、やつらは食糧が尽きて動かざるを得なくなる。そこを攻めれば、勝機はある」
「然りながら――」
咸は乾いた大地へ目を向けた。
「――この場所は、馬や羊の餌となる草が少ない。長く留まることは出来ません。新軍の食糧が尽きるまで、果たして包囲を続けられるか」
咸の三男、角が、北へ移動することを提案した。匈奴単于国の国土は、帝国と境を接している南部は沙漠が、北部は凍土が広がり、沙漠と凍土の間に草原が存在する。匈奴軍は現在、人と降雨が少ない沙漠で新軍を迎撃しているが、軍を北へ移動させて新軍を草原へ引き込めば、匈奴軍は長期の包囲戦が可能になる。そう角が言うと、咸は幾つかの懸念を口にした。
「戦いのことだけを考えれば、それが最善であろう。しかし、新軍を草原へ引き込めば、周辺の諸国、諸民族は、新軍が我らを退けて草原まで攻め込んだと誤解するだろう。烏桓は勿論、一度は撃退した丁零も再び攻めてくるだろう。これまで静観していた鮮卑や烏孫も新に靡くかも知れないし、抵抗を続けている高句麗の残党も新に屈するかも知れない。草原で遊牧している牧民も、新軍が草原に到達したとなれば動揺するだろう。兵の――」
咸は声を潜めた。
「――兵の士気も心配だ」
咸は烏珠留単于へ目を向けた。新軍の食糧が残り少ないことに賭けるか、それとも政治情勢が悪化することを覚悟で後退するか、眼差しで単于に判断を仰いだ。数秒、黙考した後、烏珠留単于は口を開いた。
「北へ向かう」
単于の決断が匈奴の戦士たちに伝えられた。僅かではあるが、戦士たちは表情を曇らせた。家族がいる草原へ敵を近づけることに抵抗を覚え、戦いの先行きに不安を感じた。烏珠留単于は馬首を巡らし、匈奴の戦士たちへ声を張り上げた。
「皆、心配するな。我らには、天から贈られた瑞獣、鷲馬がいることを忘れたか」
鷲馬、と戦士の一人が呟いた。烏珠留単于は続けた。
「我らには、鷲馬がいる。鷲馬が、我らを勝たせてくれる。右骨都侯が丁零に勝利したように、我らも勝利する。勝利して、鷲馬のように大地に立とう」
匈奴に勝利を、と戦士の一人が叫んだ。匈奴に勝利を、と別の戦士が叫んだ。匈奴に勝利を、と叫ぶ声と共に、数百の拳が炎のように空へ突き上げられた。烏珠留単于は大きく頷くと、傍らの咸に小声で命じた。
「百騎を率いて辺りに潜み、新軍が移動したら、右屠耆王らの遺体を回収してくれ」
「わかりました」
「あの兄妹が命懸けで庇わなければ、おれは鷲馬を瑞獣ではなく、呪われた仔馬にしていた」
「輿の仇は、必ず討ちましょう」
咸は径路刀を鞘から引き出した。烏珠留単于も径路刀を抜いた。戦死者へ弔意を示すために、共に径路刀の刃を自らの頬に当てようとした。
新軍の歩兵の一隊が左右に分かれ、一騎の人馬が奥から走り出てきたことに、咸は気づいた。
「単于」
咸は烏珠留単于に報せた。烏珠留単于は手を止め、走り出てきた一騎を顧みた。一騎は半里(約二百メートル)の距離まで匈奴軍に近づくと、新軍の指揮官が匈奴軍の指揮官との会談を望んでいることを、匈奴単于国の公用語で伝えた。こちらの要望に応じてくれるのなら、捕虜を解放するとも話した。
「捕虜だと」
烏珠留単于は新軍の戦列に目を凝らした。
左右に分かれた歩兵の間を、両腕を縛られた輿が歩かされている様が見えた。
「賈覧、来い」
烏珠留単于は径路刀を鞘に納めた。漢語を解せる少年、賈覧を伴い、新軍の方へ馬を走らせた。補佐官の竇融と共に、輜重の陰から匈奴軍の様子を見ていた立国将軍孫建が、烏珠留単于の姿を見て驚いた。
「嚢知牙斯ではないか」
「嚢知牙斯?」
「匈奴の今の単于だ。こいつは、とんでもない大物が出てきたな」
捕虜を解放せよ、と孫建は命じた。輿の両腕を縛めていた縄が解かれた。先程、輿と死闘を演じた歩兵が、馬上弓、空の矢箙、径路刀を輿に返した。同じく輿と死闘を繰り広げた弓弩兵が、行け、と手振りで輿に伝えた。輿は無言で歩き出した。乾いた土、乾いた草を踏み、新軍の通訳の前で待つ烏珠留単于の方へ歩いた。咸が輿のために馬を用意し、烏珠留単于の近くまで連れてきた。青空の彼方で風が鳴り、輿が歩いてきた。馬前で足を止めた輿に、烏珠留単于は声をかけた。
「よくぞ生きていた」
「おれ以外は、一人残らず、死にました。皆、最期まで勇敢に戦い、冒頓単于の許に召されました。おれだけが、卑怯者のように生き延びた」
「生き延びたことを恥じるな。戦場で死すことが戦士の誉れなら、生き延びて次の戦いに臨むことは――」
「王昭君の子だから、生かされました」
不意に輿の声が激した。
「王昭君の子だから、おれは名誉の戦死を遂げられませんでした。王昭君の子だから、おれは冒頓単于の許に召されませんでした。おれは――」
数秒、輿は声を詰まらせた。
「――おれは、本当に、匈奴の戦士なのでしょうか」
「その問いに――」
突き放すように、烏珠留単于は表情を険しくした。
「――答えるべきは、おれではない」
馬に乗れ、と烏珠留単于は目で命じた。輿は俯き、咸が連れてきた馬へ近づいた。輿が馬に乗ると、咸は馬首を巡らし、匈奴軍の方へ駆けた。咸に続いて輿が駆け去り、烏珠留単于と賈覧、新軍側の通訳の三騎が、その場に残された。立国将軍孫建が馬に乗り、林のように立つ新軍の黄旗の下から単騎で駆け出た。馬蹄の響きが烏珠留単于に近づいた。近づくに連れ、馬蹄の音の速さが段々と遅くなり、停止した。十数歩の距離を隔て、烏珠留単于と孫建は対峙した。荒野の風が両者の周りを流れ、両軍の旗幟が揺れた。
「単于」
孫建が烏珠留単于に漢語で話しかけた。
「久しぶりだな。おれを憶えているか?」
賈覧が孫建の言葉を匈奴語に訳して烏珠留単于に伝えた。烏珠留単于は頷いた。
「孫建。昔、西域都護をしていた孫建だ」
西域都護、とは漢帝国、及び新帝国のタリム盆地駐留軍の司令官である。新軍側の通訳が烏珠留単于の言葉を漢語に訳すと、孫建は顔を笑ませた。
「今は大新帝国の四大将軍の一人、立国将軍だ」
「捕虜を返してくれたこと、まずは感謝する」
「右屠耆王輿は、大新帝国に対して敵意ある男だ。しかし、輿の父母は漢と匈奴の和親に努めた。その徳に報いるために、生かして帰した。次に捕らえたら、もう容赦はしない」
「おれに話があるらしいな、将軍」
「おまえの通訳は随分と若いな、単于」
賈覧が孫建の言葉を匈奴語に訳そうとして、眉を寄せた。聞き違えたかと訝る賈覧の顔を、じろじろと孫建は観察した。
「顔立ちを見るに、どうやら胡人のようだが、その若さで単于の通訳を務めるとは大したものだ。名は何という? 出身は? どこで漢語を学んだ?」
孫建は賈覧に訊ねた。賈覧は戸惑い、孫建に質問攻めにされていることを烏珠留単于に伝えた。烏珠留単于は眉を顰めたが、或いは雑談で場の緊張を解そうとしているのかと思い、答えてやるよう賈覧に命じた。賈覧は孫建の方へ顔を向け直した。
「我が名は賈覧。去胡来より出で、単于に仕える者である」
「去胡来?」
「わたしが幼い頃、去胡来は侵略を受けた。去胡来の王は漢軍に助けを求めたが、漢軍は去胡来を助けず、窮した王は民を連れて匈奴の地へ逃れた。民を守るために、我らの王はそうした。それなのに、おまえたちの皇帝は我らの王を捕らえ、殺した」
賈覧は漢語で孫建に話した。賈覧が話している間、烏珠留単于は地平線へ目を向けた。十年以上前に見た光景が脳裏に浮かんだ。民を連れて匈奴単于国へ逃げ込んできた去胡来の王を、処刑するから引き渡せと漢帝国は烏珠留単于に要求した。烏珠留単于は帝国の横暴に怒りを覚えたが、結局は逆らうことが出来ず、去胡来の王を漢軍に引き渡した。去胡来の王は烏珠留単于を恨まず、単于が民を受け入れたことに感謝し、漢軍の檻車に乗り込んだ。檻車が馬に牽かれて動き出すと、王は檻車の格子を手で掴み、民を頼みます、と烏珠留単于へ叫んだ。民を頼みます、民を頼みます、と何度も繰り返した。檻車の横を歩いていた漢軍の兵士が、大人しくしろ、と格子を掴んでいる王の手を矛の柄で叩いた。
「わたしが漢語を学んだのは、王の仇を討つためだ」
賈覧の眼が赤く潤んだ。
「狼を狩るには、狼のことを知らねばならない。わたしは、漢人のことを知るために、漢語を学んだ」
「なるほどな。おまえの怒りは正当だ。漢帝国には、不正と怠慢が溢れていた。だから、おれは新都侯を支持し、仮皇帝を支持した。歪んだ帝国を正せるのは、あの御方しかいない。おれは今も――」
「将軍」
もうよいだろう、と烏珠留単于は孫建へ目を戻した。本題に入るよう目で促した。孫建は苦笑した。くだらないことを話した、と自嘲した。本題に入るために、新軍の方を顧みた。風に翻る無数の黄旗を指し、舞台の上の役者のように声を張り上げた。
「見ろ、単于。あれが、おれが率いる軍だ。どうだ、強そうだろう」
孫建の言葉を、賈覧が目の縁を拳で拭いながら匈奴語に訳した。
「おまえたちに、あの堅陣は破れない。何千、何万と騎兵を集めようとも、おれたちには勝てない。そうだろう、単于」
「ほざくな。あれは所詮、守りの戦法だ。守るだけでは、匈奴には勝てない。そうではないか、将軍」
「その通りだ。おれたちは、おまえたちに勝てない。おまえたちも、おれたちには勝てない。この戦いは、この荒野よりも不毛だ。何の意味もありはしない」
「何が言いたい」
孫建が言わんとしていることを察しながらも、敢えて烏珠留単于は孫建に質した。孫建は烏珠留単于の顔を見た。
「兵を退け、単于。この戦争は無意味だ。早く終わらせるべきだ」
「今さら何を言うか。おまえたちは、してはならないことをした」
「おれが皇帝を説得する」
「何?」
「金印の字を旧に復すよう、おれが皇帝を説得する。だから、一年でよい、一年だけ時をくれ」
「おまえたちに、何かを与えるつもりはない」
「単于」
「話は終わりだ」
烏珠留単于は馬首を巡らした。馬蹄が地を打つ音が響き、単于の馬の影が孫建から離れた。孫建は烏珠留単于の背に叫んだ。
「今を逃せば、戦争が長引くぞ。戦争が長引けば、大新と匈奴は共倒れになる。それでよいのか。匈奴の誇りを守ることが単于の務めなら、民の安寧を守ることも単于の務めではないのか。少なくとも、おまえの父はそう考えていたはずだ。違うか、嚢知牙斯」
馬蹄の音が止んだ。
匈奴単于国を二分した内戦を鎮めるために、漢帝国の孝宣皇帝に跪く父の背中を、烏珠留単于は思い出した。民を頼みます、と繰り返し叫ぶ去胡来の王の声を思い出した。歴代の単于に墓に詣でる道中、乾酪を食べさせてくれた老婆の顔を思い出した。
「嚢知牙斯」
孫建は烏珠留単于の背に呼びかけた。喉が裂けんばかりの声で、嚢知牙斯、と繰り返した。烏珠留単于は手綱を強く握りしめた。
「一年だけ待つ」
烏珠留単于は馬を前へ進めた。
翻る鷲獅子の旗を背に、於粟置支侯咸が烏珠留単于を出迎えた。帝国と一年だけ停戦することを、烏珠留単于は咸に伝えた。改めて戦死者の遺体の回収を咸に命じ、軍を北へ移動させた。咸と百騎、通訳の賈覧、そして、遺体の回収作業に志願した右屠耆王輿が、その場に残された。烏珠留単于と三千数百騎が地平線の彼方に去ると、新軍が防御陣形を解いて輜重に荷を積み始めた。輿と死闘を繰り広げた弓弩兵と歩兵が、何かを抱えて賈覧の方へ歩いてきた。何の用かと賈覧が漢語で訊ねると、弓弩兵が答えた。
「孫将軍から、おまえに贈り物だ」
抱えていた数巻の簡冊を、弓弩兵と歩兵は賈覧の馬の前に下ろした。
「孫子だ」
孫子、とは風林火山の教えで知られる古代の軍事思想家、孫武が著した軍事の専門書である。
「これを読んで、漢人の戦争を学べと、孫将軍は仰せられた」
「漢人の施しは受けない」
「これを見ろ」
弓弩兵は簡冊の一つを手に取り、紐を解いて広げた。簡冊に書かれている文章の一つを指し、馬上の賈覧に見せた。賈覧は文章を声に出して読み上げた。
「彼を知り、己を知れば、百戦して殆うからず」
「狼を狩るには、狼のことを知るだけでは駄目だ。狼を狩ろうとしている自分のことも知らねば、狼は狩れない。そういう意味の言葉だ」
「自分のことも知る」
「孫武の教えは、この文章の後も更に続く。どう続くのか、知りたいと思わないのなら、この沙漠に捨て置くとよい」
弓弩兵は簡冊を閉じて戻した。逡巡する賈覧に背を向け、新軍の方へ戻ろうとした弓弩兵と歩兵に、輿が馬を近づけた。歩兵が輿に気づき、弓弩兵を守るために前へ出ようとした。弓弩兵は片腕を上げ、前へ出ようとした歩兵を制した。
「王昭君の子か。おれたちに何か用か?」
「賈覧」
輿は賈覧を一瞥した。
「こいつらに名を訊いてくれ」
賈覧は弓弩兵と歩兵に名を訊ねた。弓弩兵は答えた。
「姓は彭、名は寵、字は伯通。後ろは弟分の呉だ」
前の男は彭、後ろの男は呉、と賈覧は輿に伝えた。輿は軽く頷いた。
「彭と呉か。次に戦場で会うことがあれば、一度だけ見逃してやる」
賈覧は輿の言葉を漢語に訳して弓弩兵に伝えた。弓弩兵は本気にせず、肩を竦めて一笑した。
輜重に荷を積み終え、新軍は南へ引き返した。万里の長城へ戻る途中、沙漠の過酷な環境が老体に堪えたか、立国将軍孫建が発病した。新軍は孫建を輜重に寝かせて長城へ急いだ。陽が西に沈み、東から登る毎に、孫建の体は衰弱した。補佐官の竇融が孫建の手を握り、苦しげに息をする孫建を励ました。
「孫将軍、生きてください。あなたが死んだら、大新帝国はどうなりますか。長城はすぐそこです。もう少しだけ、耐えてください」
「心配するな。おれは生きる。生きて、常安に帰る」
数日後、万里の長城を目前にして孫建は死んだ。
孫建の死と前後して、皇帝の従弟である安新公王舜が死んだ。王舜は皇帝と志を同じくしていた男で、新都侯から安漢公、安漢公から宰衡、仮皇帝へと位を進める皇帝を支えたが、大新帝国成立後は胸を患い、病床に臥していた。死の数日前、皇帝が病床の王舜を見舞うと、王舜は朦朧とした眼で譫言を繰り返した。
「新都侯、あなたは大漢帝国を、どこへ連れていこうとしているのですか。どこへ連れていこうとしているのですか。答えてください、新都侯。答えてください、新都侯」
そして、王舜の死の数日後、太皇太后王政君が定安太后に看取られて死んだ。臨終の間際、王政君は掠れた声で呟いた。
「兄上。聖上。……云」
一年後、烏珠留単于に率いられた匈奴軍が、再び万里の長城と対峙した。烏珠留単于の左右には右骨都侯須卜当と右屠耆王輿がいた。烏珠留単于が率いる五千騎の中には、於粟置支侯咸、咸の三男の角、高祖劉邦の子孫を自称する盧芳、去胡来の遺民の賈覧がいた。烏珠留単于は五千騎の戦士を前に拳を空へ突き上げた。
「戦場で死すは戦士の誉れ。生き延びて次の戦いに臨むは戦士の務め。戦士たちよ、務めを果たせ。誉れを掴む、その時まで」
務めを果たせ、と右骨都侯須卜当が叫んだ。誉れを掴め、と右屠耆王輿が叫んだ。務めを果たせ、誉れを掴め、と五千の拳が空を突いた。烏珠留単于は馬首を巡らし、万里の長城の方を向いた。
「長城を越えろ」
烏珠留単于は馬を駆けさせた。馬蹄の轟きが烏珠留単于の後に続いた。鷲獅子の戦旗を翻し、匈奴軍は再び長城を越えて大新帝国へ侵入した。
劉秀が帝都の太学に進学したのは、そのような時であった。
「単于、あれは――」
「わかっている。李陵戦法だ」
李陵戦法、とは輜重等を障害物として自軍の周りに置き、敵騎兵の突撃を防ぎながら投射兵器で応戦する戦法である。百年前の漢帝国と匈奴単于国の大戦で、漢軍の指揮官の一人、李陵が用いたことから名がついた。李陵は秦帝国の始皇帝に仕えた武将、李信の子孫であり、寡兵を指揮していた時に単于が率いる大軍に遭遇し、咄嗟に輜重を周囲に並べて戦いに臨んだ。単于は六倍の兵力で包囲して猛攻を加えたが、李陵に指揮された漢軍は匈奴軍を寄せつけず、矢が尽きるまで戦い続けた。最後は降伏に追い込まれはしたが、単于は李陵を勇者と認めて礼を尽くし、一方、李陵の降伏を伝えられた漢帝国の孝武皇帝は、激怒して李陵の家族を処刑した。
「あれに手を出せば、失う兵は千や二千では済まない。李陵の時は、八日間の戦いで一万騎が戦死したとも聞く。しかし、如何に強力であろうと、李陵戦法は守りの戦法だ。攻めることは勿論、その場から動くことも出来ない。こちらからは手を出さず、距離を置いて包囲を続ければ、やつらは食糧が尽きて動かざるを得なくなる。そこを攻めれば、勝機はある」
「然りながら――」
咸は乾いた大地へ目を向けた。
「――この場所は、馬や羊の餌となる草が少ない。長く留まることは出来ません。新軍の食糧が尽きるまで、果たして包囲を続けられるか」
咸の三男、角が、北へ移動することを提案した。匈奴単于国の国土は、帝国と境を接している南部は沙漠が、北部は凍土が広がり、沙漠と凍土の間に草原が存在する。匈奴軍は現在、人と降雨が少ない沙漠で新軍を迎撃しているが、軍を北へ移動させて新軍を草原へ引き込めば、匈奴軍は長期の包囲戦が可能になる。そう角が言うと、咸は幾つかの懸念を口にした。
「戦いのことだけを考えれば、それが最善であろう。しかし、新軍を草原へ引き込めば、周辺の諸国、諸民族は、新軍が我らを退けて草原まで攻め込んだと誤解するだろう。烏桓は勿論、一度は撃退した丁零も再び攻めてくるだろう。これまで静観していた鮮卑や烏孫も新に靡くかも知れないし、抵抗を続けている高句麗の残党も新に屈するかも知れない。草原で遊牧している牧民も、新軍が草原に到達したとなれば動揺するだろう。兵の――」
咸は声を潜めた。
「――兵の士気も心配だ」
咸は烏珠留単于へ目を向けた。新軍の食糧が残り少ないことに賭けるか、それとも政治情勢が悪化することを覚悟で後退するか、眼差しで単于に判断を仰いだ。数秒、黙考した後、烏珠留単于は口を開いた。
「北へ向かう」
単于の決断が匈奴の戦士たちに伝えられた。僅かではあるが、戦士たちは表情を曇らせた。家族がいる草原へ敵を近づけることに抵抗を覚え、戦いの先行きに不安を感じた。烏珠留単于は馬首を巡らし、匈奴の戦士たちへ声を張り上げた。
「皆、心配するな。我らには、天から贈られた瑞獣、鷲馬がいることを忘れたか」
鷲馬、と戦士の一人が呟いた。烏珠留単于は続けた。
「我らには、鷲馬がいる。鷲馬が、我らを勝たせてくれる。右骨都侯が丁零に勝利したように、我らも勝利する。勝利して、鷲馬のように大地に立とう」
匈奴に勝利を、と戦士の一人が叫んだ。匈奴に勝利を、と別の戦士が叫んだ。匈奴に勝利を、と叫ぶ声と共に、数百の拳が炎のように空へ突き上げられた。烏珠留単于は大きく頷くと、傍らの咸に小声で命じた。
「百騎を率いて辺りに潜み、新軍が移動したら、右屠耆王らの遺体を回収してくれ」
「わかりました」
「あの兄妹が命懸けで庇わなければ、おれは鷲馬を瑞獣ではなく、呪われた仔馬にしていた」
「輿の仇は、必ず討ちましょう」
咸は径路刀を鞘から引き出した。烏珠留単于も径路刀を抜いた。戦死者へ弔意を示すために、共に径路刀の刃を自らの頬に当てようとした。
新軍の歩兵の一隊が左右に分かれ、一騎の人馬が奥から走り出てきたことに、咸は気づいた。
「単于」
咸は烏珠留単于に報せた。烏珠留単于は手を止め、走り出てきた一騎を顧みた。一騎は半里(約二百メートル)の距離まで匈奴軍に近づくと、新軍の指揮官が匈奴軍の指揮官との会談を望んでいることを、匈奴単于国の公用語で伝えた。こちらの要望に応じてくれるのなら、捕虜を解放するとも話した。
「捕虜だと」
烏珠留単于は新軍の戦列に目を凝らした。
左右に分かれた歩兵の間を、両腕を縛られた輿が歩かされている様が見えた。
「賈覧、来い」
烏珠留単于は径路刀を鞘に納めた。漢語を解せる少年、賈覧を伴い、新軍の方へ馬を走らせた。補佐官の竇融と共に、輜重の陰から匈奴軍の様子を見ていた立国将軍孫建が、烏珠留単于の姿を見て驚いた。
「嚢知牙斯ではないか」
「嚢知牙斯?」
「匈奴の今の単于だ。こいつは、とんでもない大物が出てきたな」
捕虜を解放せよ、と孫建は命じた。輿の両腕を縛めていた縄が解かれた。先程、輿と死闘を演じた歩兵が、馬上弓、空の矢箙、径路刀を輿に返した。同じく輿と死闘を繰り広げた弓弩兵が、行け、と手振りで輿に伝えた。輿は無言で歩き出した。乾いた土、乾いた草を踏み、新軍の通訳の前で待つ烏珠留単于の方へ歩いた。咸が輿のために馬を用意し、烏珠留単于の近くまで連れてきた。青空の彼方で風が鳴り、輿が歩いてきた。馬前で足を止めた輿に、烏珠留単于は声をかけた。
「よくぞ生きていた」
「おれ以外は、一人残らず、死にました。皆、最期まで勇敢に戦い、冒頓単于の許に召されました。おれだけが、卑怯者のように生き延びた」
「生き延びたことを恥じるな。戦場で死すことが戦士の誉れなら、生き延びて次の戦いに臨むことは――」
「王昭君の子だから、生かされました」
不意に輿の声が激した。
「王昭君の子だから、おれは名誉の戦死を遂げられませんでした。王昭君の子だから、おれは冒頓単于の許に召されませんでした。おれは――」
数秒、輿は声を詰まらせた。
「――おれは、本当に、匈奴の戦士なのでしょうか」
「その問いに――」
突き放すように、烏珠留単于は表情を険しくした。
「――答えるべきは、おれではない」
馬に乗れ、と烏珠留単于は目で命じた。輿は俯き、咸が連れてきた馬へ近づいた。輿が馬に乗ると、咸は馬首を巡らし、匈奴軍の方へ駆けた。咸に続いて輿が駆け去り、烏珠留単于と賈覧、新軍側の通訳の三騎が、その場に残された。立国将軍孫建が馬に乗り、林のように立つ新軍の黄旗の下から単騎で駆け出た。馬蹄の響きが烏珠留単于に近づいた。近づくに連れ、馬蹄の音の速さが段々と遅くなり、停止した。十数歩の距離を隔て、烏珠留単于と孫建は対峙した。荒野の風が両者の周りを流れ、両軍の旗幟が揺れた。
「単于」
孫建が烏珠留単于に漢語で話しかけた。
「久しぶりだな。おれを憶えているか?」
賈覧が孫建の言葉を匈奴語に訳して烏珠留単于に伝えた。烏珠留単于は頷いた。
「孫建。昔、西域都護をしていた孫建だ」
西域都護、とは漢帝国、及び新帝国のタリム盆地駐留軍の司令官である。新軍側の通訳が烏珠留単于の言葉を漢語に訳すと、孫建は顔を笑ませた。
「今は大新帝国の四大将軍の一人、立国将軍だ」
「捕虜を返してくれたこと、まずは感謝する」
「右屠耆王輿は、大新帝国に対して敵意ある男だ。しかし、輿の父母は漢と匈奴の和親に努めた。その徳に報いるために、生かして帰した。次に捕らえたら、もう容赦はしない」
「おれに話があるらしいな、将軍」
「おまえの通訳は随分と若いな、単于」
賈覧が孫建の言葉を匈奴語に訳そうとして、眉を寄せた。聞き違えたかと訝る賈覧の顔を、じろじろと孫建は観察した。
「顔立ちを見るに、どうやら胡人のようだが、その若さで単于の通訳を務めるとは大したものだ。名は何という? 出身は? どこで漢語を学んだ?」
孫建は賈覧に訊ねた。賈覧は戸惑い、孫建に質問攻めにされていることを烏珠留単于に伝えた。烏珠留単于は眉を顰めたが、或いは雑談で場の緊張を解そうとしているのかと思い、答えてやるよう賈覧に命じた。賈覧は孫建の方へ顔を向け直した。
「我が名は賈覧。去胡来より出で、単于に仕える者である」
「去胡来?」
「わたしが幼い頃、去胡来は侵略を受けた。去胡来の王は漢軍に助けを求めたが、漢軍は去胡来を助けず、窮した王は民を連れて匈奴の地へ逃れた。民を守るために、我らの王はそうした。それなのに、おまえたちの皇帝は我らの王を捕らえ、殺した」
賈覧は漢語で孫建に話した。賈覧が話している間、烏珠留単于は地平線へ目を向けた。十年以上前に見た光景が脳裏に浮かんだ。民を連れて匈奴単于国へ逃げ込んできた去胡来の王を、処刑するから引き渡せと漢帝国は烏珠留単于に要求した。烏珠留単于は帝国の横暴に怒りを覚えたが、結局は逆らうことが出来ず、去胡来の王を漢軍に引き渡した。去胡来の王は烏珠留単于を恨まず、単于が民を受け入れたことに感謝し、漢軍の檻車に乗り込んだ。檻車が馬に牽かれて動き出すと、王は檻車の格子を手で掴み、民を頼みます、と烏珠留単于へ叫んだ。民を頼みます、民を頼みます、と何度も繰り返した。檻車の横を歩いていた漢軍の兵士が、大人しくしろ、と格子を掴んでいる王の手を矛の柄で叩いた。
「わたしが漢語を学んだのは、王の仇を討つためだ」
賈覧の眼が赤く潤んだ。
「狼を狩るには、狼のことを知らねばならない。わたしは、漢人のことを知るために、漢語を学んだ」
「なるほどな。おまえの怒りは正当だ。漢帝国には、不正と怠慢が溢れていた。だから、おれは新都侯を支持し、仮皇帝を支持した。歪んだ帝国を正せるのは、あの御方しかいない。おれは今も――」
「将軍」
もうよいだろう、と烏珠留単于は孫建へ目を戻した。本題に入るよう目で促した。孫建は苦笑した。くだらないことを話した、と自嘲した。本題に入るために、新軍の方を顧みた。風に翻る無数の黄旗を指し、舞台の上の役者のように声を張り上げた。
「見ろ、単于。あれが、おれが率いる軍だ。どうだ、強そうだろう」
孫建の言葉を、賈覧が目の縁を拳で拭いながら匈奴語に訳した。
「おまえたちに、あの堅陣は破れない。何千、何万と騎兵を集めようとも、おれたちには勝てない。そうだろう、単于」
「ほざくな。あれは所詮、守りの戦法だ。守るだけでは、匈奴には勝てない。そうではないか、将軍」
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「おれが皇帝を説得する」
「何?」
「金印の字を旧に復すよう、おれが皇帝を説得する。だから、一年でよい、一年だけ時をくれ」
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「単于」
「話は終わりだ」
烏珠留単于は馬首を巡らした。馬蹄が地を打つ音が響き、単于の馬の影が孫建から離れた。孫建は烏珠留単于の背に叫んだ。
「今を逃せば、戦争が長引くぞ。戦争が長引けば、大新と匈奴は共倒れになる。それでよいのか。匈奴の誇りを守ることが単于の務めなら、民の安寧を守ることも単于の務めではないのか。少なくとも、おまえの父はそう考えていたはずだ。違うか、嚢知牙斯」
馬蹄の音が止んだ。
匈奴単于国を二分した内戦を鎮めるために、漢帝国の孝宣皇帝に跪く父の背中を、烏珠留単于は思い出した。民を頼みます、と繰り返し叫ぶ去胡来の王の声を思い出した。歴代の単于に墓に詣でる道中、乾酪を食べさせてくれた老婆の顔を思い出した。
「嚢知牙斯」
孫建は烏珠留単于の背に呼びかけた。喉が裂けんばかりの声で、嚢知牙斯、と繰り返した。烏珠留単于は手綱を強く握りしめた。
「一年だけ待つ」
烏珠留単于は馬を前へ進めた。
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「孫将軍から、おまえに贈り物だ」
抱えていた数巻の簡冊を、弓弩兵と歩兵は賈覧の馬の前に下ろした。
「孫子だ」
孫子、とは風林火山の教えで知られる古代の軍事思想家、孫武が著した軍事の専門書である。
「これを読んで、漢人の戦争を学べと、孫将軍は仰せられた」
「漢人の施しは受けない」
「これを見ろ」
弓弩兵は簡冊の一つを手に取り、紐を解いて広げた。簡冊に書かれている文章の一つを指し、馬上の賈覧に見せた。賈覧は文章を声に出して読み上げた。
「彼を知り、己を知れば、百戦して殆うからず」
「狼を狩るには、狼のことを知るだけでは駄目だ。狼を狩ろうとしている自分のことも知らねば、狼は狩れない。そういう意味の言葉だ」
「自分のことも知る」
「孫武の教えは、この文章の後も更に続く。どう続くのか、知りたいと思わないのなら、この沙漠に捨て置くとよい」
弓弩兵は簡冊を閉じて戻した。逡巡する賈覧に背を向け、新軍の方へ戻ろうとした弓弩兵と歩兵に、輿が馬を近づけた。歩兵が輿に気づき、弓弩兵を守るために前へ出ようとした。弓弩兵は片腕を上げ、前へ出ようとした歩兵を制した。
「王昭君の子か。おれたちに何か用か?」
「賈覧」
輿は賈覧を一瞥した。
「こいつらに名を訊いてくれ」
賈覧は弓弩兵と歩兵に名を訊ねた。弓弩兵は答えた。
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前の男は彭、後ろの男は呉、と賈覧は輿に伝えた。輿は軽く頷いた。
「彭と呉か。次に戦場で会うことがあれば、一度だけ見逃してやる」
賈覧は輿の言葉を漢語に訳して弓弩兵に伝えた。弓弩兵は本気にせず、肩を竦めて一笑した。
輜重に荷を積み終え、新軍は南へ引き返した。万里の長城へ戻る途中、沙漠の過酷な環境が老体に堪えたか、立国将軍孫建が発病した。新軍は孫建を輜重に寝かせて長城へ急いだ。陽が西に沈み、東から登る毎に、孫建の体は衰弱した。補佐官の竇融が孫建の手を握り、苦しげに息をする孫建を励ました。
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「心配するな。おれは生きる。生きて、常安に帰る」
数日後、万里の長城を目前にして孫建は死んだ。
孫建の死と前後して、皇帝の従弟である安新公王舜が死んだ。王舜は皇帝と志を同じくしていた男で、新都侯から安漢公、安漢公から宰衡、仮皇帝へと位を進める皇帝を支えたが、大新帝国成立後は胸を患い、病床に臥していた。死の数日前、皇帝が病床の王舜を見舞うと、王舜は朦朧とした眼で譫言を繰り返した。
「新都侯、あなたは大漢帝国を、どこへ連れていこうとしているのですか。どこへ連れていこうとしているのですか。答えてください、新都侯。答えてください、新都侯」
そして、王舜の死の数日後、太皇太后王政君が定安太后に看取られて死んだ。臨終の間際、王政君は掠れた声で呟いた。
「兄上。聖上。……云」
一年後、烏珠留単于に率いられた匈奴軍が、再び万里の長城と対峙した。烏珠留単于の左右には右骨都侯須卜当と右屠耆王輿がいた。烏珠留単于が率いる五千騎の中には、於粟置支侯咸、咸の三男の角、高祖劉邦の子孫を自称する盧芳、去胡来の遺民の賈覧がいた。烏珠留単于は五千騎の戦士を前に拳を空へ突き上げた。
「戦場で死すは戦士の誉れ。生き延びて次の戦いに臨むは戦士の務め。戦士たちよ、務めを果たせ。誉れを掴む、その時まで」
務めを果たせ、と右骨都侯須卜当が叫んだ。誉れを掴め、と右屠耆王輿が叫んだ。務めを果たせ、誉れを掴め、と五千の拳が空を突いた。烏珠留単于は馬首を巡らし、万里の長城の方を向いた。
「長城を越えろ」
烏珠留単于は馬を駆けさせた。馬蹄の轟きが烏珠留単于の後に続いた。鷲獅子の戦旗を翻し、匈奴軍は再び長城を越えて大新帝国へ侵入した。
劉秀が帝都の太学に進学したのは、そのような時であった。
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