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再戦
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風花が高校生になって初めての授業は、古典だった。中学までとは比較にならないくらい、一気にレベルが上がった気がして、1時間目から授業についていくのに必死だった。
夕方を迎える頃には、もうこれ以上頭に何も入らない気がした。1日目がこれでは先が思いやられる。
これが3年間、受験の頃にはきっともっと。本当に私、続けられるんだろうか。
それに——
まずは、百首を覚えること。それからね。
昨日の夜、おばあちゃんからサラリと課された宿題。「百首を覚える」とはもちろん「競技かるた」で使う百人一首、正確には「小倉《おぐら》百人一首」と呼ばれる百首の和歌を覚えるということだ。
和歌は五七五七七の31文字で構成された「歌」であり、最初の五七五の部分を「上の句」《かみのく》、後の七七の部分を「下の句」《しものく》という。
競技かるたは、上の句が詠まれたらそれに対応する下の句が書かれた札を、相手より早く取るという、極めてシンプルなゲームだと教えてくれた。
だからね、まず百首を覚えちゃいなさい。
おばあちゃんはいとも簡単げに笑って言い、そして「まずはこれ」と百人一首の本を渡された。きっとおばあちゃんも何度もページをめくった本なのだろう。なかなかの「歴史」を感じる本だった。
実は、学校に通うリュックにその本は入っていた。風花は、授業の合間などを利用して、少しずつ百人一首を覚えようと思っていたのだが、授業のことでいっぱいいっぱいで、残念ながらそれどころじゃなかったのだった。
よし、せめて部活の時間だけでも——
ミオには言っていないが、すでにかるた部に入ると決めていた風花。まだ初心者なので、と断りを入れて、部活が始まったら百首を覚えることから始めよう。
授業が終わる。そそくさと片付けて教科書をリュックに詰めて立ち上がると、ミオがこちらを見て、
「ええっと、うちはかるた部に行くんだけど……」
とそっと探りを入れてきた。
「もちろん、私も行くよ」
風花がそういうと、ミオはとてもうれしそうに笑って立ち上がった。
ミオの後ろの席にいた孝太は、すでに荷物をまとめて教室から姿を消していた。
そういえば、水泳部の話はあれからどうなったんだろうと、少し気になった。
部室に着くと、すでに中堂先輩が来ていて昨日と同じ場所に座っている。ミオの顔を見るとニヤリと笑い、「さっ、昨日の決着をつけるよ」と言い、ミオも昨日と同じ場所に黙って座り、2人の真ん中に置いたかるたの札をかき混ぜ始めた。
「風花、悪いけど、とりあえずうちが勝つところを見ててね。それがすんだら、かるたのルールとか、うちが勝ってから教えるから」
と微笑みながら、チラリと中堂先輩を見ると、
「ほほお、なかなか面白い冗談ね。じゃあ私が勝つから、風花ちゃんにかるたを教えるのは、私ってことになるけどオッケー?」
と、中堂先輩も譲らず、すでに2人はバチバチの戦闘モードに入ったのだ。
「わ、私はとりあえず自習しておきます」
と、風花は2人の気迫に取り込まれないよう、おばあちゃんから貰った本を取り出した。
交互にかるたを取って並べた後、「5分ね」と先輩が言って、また2人が黙り込んだ。そういえば、昨日もそうしてた。もしかして記憶してるんだろうか。
風花は取り出した本を広げることもなく、そっと2人を観察していた。
パン——
すごい勢いで畳を叩くようにミオの払った札が、バラバラと数枚、部室のガラス窓まで飛んだ。風花には何の歌が詠まれたのかよく聞こえなかったほどだ。それほどミオの動きは早かった。
おばあちゃんは、百首を覚えなさいとは言ったけど、でも今の動きを見ていた風花には、ミオがとても上の句を聞いていたとは思えなかった。
何かおかしい。なんであんなに早く動けたんだろ。
本を読むのを忘れて、風花は2人の試合を、2人の動きを見ていた。
不思議だった。上の句を聞いて下の句を取る。そんな単純なゲームだとおばあちゃんは言ったはず。それなのに、2人ともほとんど上の句を聞いてないとしか思えなかった。あれはいったい——。
気がつくといつの間にか、ミオの前に置かれた札が1枚になっていた。中堂先輩が残り3枚。多分、早く札がなくなった方が勝ちだということなんだろう。
2人がすごく集中していることが伝わってくる。
しの——
携帯からその音が聞こえてきた瞬間、ミオが自分の左側にあった札をポンと押さえると、中堂先輩がギュッと唇を噛んだが、すぐに座り直した。
「ありがとうございました」
2人がお互いに礼をする。
「やったあ。先輩に勝てたあ!」
とミオが言いながら、そのまま後ろに倒れ込んだ。
「去年より強くなったね。だいぶ練習したんでしょ」
爽やかな顔で中堂先輩がいう。ミオは体を起こし、
「はい。去年負けたのが、本当に悔しくて。あの時先輩と試合してなかったら、あんなに練習することもなかったです。先輩のおかげで少し強くなれました」
と言い、中堂先輩がうれしそうに笑った。
夕方を迎える頃には、もうこれ以上頭に何も入らない気がした。1日目がこれでは先が思いやられる。
これが3年間、受験の頃にはきっともっと。本当に私、続けられるんだろうか。
それに——
まずは、百首を覚えること。それからね。
昨日の夜、おばあちゃんからサラリと課された宿題。「百首を覚える」とはもちろん「競技かるた」で使う百人一首、正確には「小倉《おぐら》百人一首」と呼ばれる百首の和歌を覚えるということだ。
和歌は五七五七七の31文字で構成された「歌」であり、最初の五七五の部分を「上の句」《かみのく》、後の七七の部分を「下の句」《しものく》という。
競技かるたは、上の句が詠まれたらそれに対応する下の句が書かれた札を、相手より早く取るという、極めてシンプルなゲームだと教えてくれた。
だからね、まず百首を覚えちゃいなさい。
おばあちゃんはいとも簡単げに笑って言い、そして「まずはこれ」と百人一首の本を渡された。きっとおばあちゃんも何度もページをめくった本なのだろう。なかなかの「歴史」を感じる本だった。
実は、学校に通うリュックにその本は入っていた。風花は、授業の合間などを利用して、少しずつ百人一首を覚えようと思っていたのだが、授業のことでいっぱいいっぱいで、残念ながらそれどころじゃなかったのだった。
よし、せめて部活の時間だけでも——
ミオには言っていないが、すでにかるた部に入ると決めていた風花。まだ初心者なので、と断りを入れて、部活が始まったら百首を覚えることから始めよう。
授業が終わる。そそくさと片付けて教科書をリュックに詰めて立ち上がると、ミオがこちらを見て、
「ええっと、うちはかるた部に行くんだけど……」
とそっと探りを入れてきた。
「もちろん、私も行くよ」
風花がそういうと、ミオはとてもうれしそうに笑って立ち上がった。
ミオの後ろの席にいた孝太は、すでに荷物をまとめて教室から姿を消していた。
そういえば、水泳部の話はあれからどうなったんだろうと、少し気になった。
部室に着くと、すでに中堂先輩が来ていて昨日と同じ場所に座っている。ミオの顔を見るとニヤリと笑い、「さっ、昨日の決着をつけるよ」と言い、ミオも昨日と同じ場所に黙って座り、2人の真ん中に置いたかるたの札をかき混ぜ始めた。
「風花、悪いけど、とりあえずうちが勝つところを見ててね。それがすんだら、かるたのルールとか、うちが勝ってから教えるから」
と微笑みながら、チラリと中堂先輩を見ると、
「ほほお、なかなか面白い冗談ね。じゃあ私が勝つから、風花ちゃんにかるたを教えるのは、私ってことになるけどオッケー?」
と、中堂先輩も譲らず、すでに2人はバチバチの戦闘モードに入ったのだ。
「わ、私はとりあえず自習しておきます」
と、風花は2人の気迫に取り込まれないよう、おばあちゃんから貰った本を取り出した。
交互にかるたを取って並べた後、「5分ね」と先輩が言って、また2人が黙り込んだ。そういえば、昨日もそうしてた。もしかして記憶してるんだろうか。
風花は取り出した本を広げることもなく、そっと2人を観察していた。
パン——
すごい勢いで畳を叩くようにミオの払った札が、バラバラと数枚、部室のガラス窓まで飛んだ。風花には何の歌が詠まれたのかよく聞こえなかったほどだ。それほどミオの動きは早かった。
おばあちゃんは、百首を覚えなさいとは言ったけど、でも今の動きを見ていた風花には、ミオがとても上の句を聞いていたとは思えなかった。
何かおかしい。なんであんなに早く動けたんだろ。
本を読むのを忘れて、風花は2人の試合を、2人の動きを見ていた。
不思議だった。上の句を聞いて下の句を取る。そんな単純なゲームだとおばあちゃんは言ったはず。それなのに、2人ともほとんど上の句を聞いてないとしか思えなかった。あれはいったい——。
気がつくといつの間にか、ミオの前に置かれた札が1枚になっていた。中堂先輩が残り3枚。多分、早く札がなくなった方が勝ちだということなんだろう。
2人がすごく集中していることが伝わってくる。
しの——
携帯からその音が聞こえてきた瞬間、ミオが自分の左側にあった札をポンと押さえると、中堂先輩がギュッと唇を噛んだが、すぐに座り直した。
「ありがとうございました」
2人がお互いに礼をする。
「やったあ。先輩に勝てたあ!」
とミオが言いながら、そのまま後ろに倒れ込んだ。
「去年より強くなったね。だいぶ練習したんでしょ」
爽やかな顔で中堂先輩がいう。ミオは体を起こし、
「はい。去年負けたのが、本当に悔しくて。あの時先輩と試合してなかったら、あんなに練習することもなかったです。先輩のおかげで少し強くなれました」
と言い、中堂先輩がうれしそうに笑った。
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