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新入部員
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おばあちゃんに話すものかどうか迷いながら家路に着いた風花の悩みは、まったくの杞憂に終わった。どうやら事前にミオの母から自宅に電話があり、本人がいいならという条件付きで、祖母は二つ返事で許可したという。
「ああ、楽しみだわ」
どうやら本人よりも喜んでいるようだ。
風花自身も、ついこの間まで引きこもり気味だった自分が、華やかにウィンドウを飾ることになるなんて想像だにしていなかった。ましてや、すぐそばで見守っていてくれた祖母にとって、これほどうれしいことはないらしい。出来上がりが楽しみで仕方ない風花である。
翌日の月曜日、風花が授業が終わってミオと2人で部室に行くと、風花が見知らぬ生徒が畳の上で正座をしてかるたを並べていた。
「あれ、上本さん。どうしたんですか」
驚いたようにミオが声をかけた。
「なんだ。かるた部に入った新入生って、あなただったの」
そう言って、ニコリと笑った。
彼女はミオが以前、かるたの試合をしたことがある人だという。
「同じ学校の先輩だなんて、知りませんでした。確かかるた部には入ってなかったですよね」
そうミオが聞くと、
「だって去年は部員が秋穂ちゃんしかいなかったから、団体戦も出られなかったもんね。それなら部活で秋穂ちゃんとばかりやるより、強くなろうと思ったら、かるた会に行って違う人とも練習した方がいいからね」
と言う。「秋穂」というのは、中堂先輩の名前だった。
「ですねえ……。同じ相手とばかりやってたら、戦い方が偏っちゃいますもん。去年だったら私でもそうしたかも」
かるた会とは、全国にある民間の競技かるたの普及と鍛錬を目的とする団体である。そのほとんどは、各地元のA級選手など、強い指導者が中心となり活動している。そこで切磋琢磨し、かるたの世界における最高位である、名人——女子はクイーン——を目指しているのだ。上本先輩は、そういう場所で活動してきたため、海潮高校ではかるた部に所属していなかったという事だ。
そんな話をしているところへ、中堂先輩が部室にやってきた。
「あれ、りっちゃん。もう来とったん」中堂先輩はリュックを肩から下ろしながら、そう言う。「もうみんなには?」
「まだよ」上本先輩が首を振った。
「じゃあ、紹介するね。上本梨花ちゃんは私と同じ2年生。これから県大会までかるた部に入ることになったから、よろしくね」
中堂先輩がそう言うと、上本先輩が畳の上で姿勢を正して、
「改めて、上本です。クラスはA級です。よろしくお願いします」
と挨拶をするので、風花とミオも、あわてて姿勢を正した。
「小柴美織です。A級です」
「大道風花です。えっと、F級というより、始めたばかりの初心者です。よろしくお願いします」
と丁寧に挨拶を返した。
「さっ、これで5人で戦える。しかもA級が3人も揃ったんだから、なかなかのチームだよね」と中堂先輩がうれしそうに言った。「これでオノショウと戦う準備ができたってもんね」
中堂先輩のいうオノショウは尾道昇華高校である。ミオの話では、広島県内ではかるたの強豪校であり、去年の県大会予選はベスト4に入ったので、今年はシード校となっているということだ。
「あれ、5人いるってことは、もうひとりは?」
そう言いながら上本先輩がキョロキョロと見回すので、
「ああ、あいつはどっかその辺を適当に走ってますから、気にしないでください。そのうち顔を出しますから。戦力外と考えてもらって結構です」
とミオが答え、風花が「大河内孝太君、私たちと同じ1年です」と添えた。
「イケメン?」唐突に上本先輩が言った。
「えっ?」風花とミオは思わず顔を見合わせた。いまなんて言った?
「その大河内孝太君はイケメンかって聞いてんのよ」
「え、ええっと……。まあ、まあ……」
しどろもどろになりながら風花が答える。
「で、どっちの彼氏なん?」
上本先輩はいきなりど真ん中を責めてきた。
「い、いや、うちと孝太はただの幼馴染で、どっちの彼氏かって言ったら、風花で……」
とミオがとんでもないことを言い出した。あわてたのは風花だ。
「ちょっ、ちょっと! あわ、私たちはそんな」
ろれつさえも回らないが、必死に否定したが、
「まあ、孝太の片想いですけど」
と、ミオがすまして言ったのだ。
「うーす」
そこへ突如襖が開いて孝太が登場した。今の会話を孝太に聞かれたんじゃないかと、風花はちょっとドキドキとしていた。
お父さん、お母さん。私は尾道にきて、この高校に入ってよかった。あのとき折れかけた気持ちが治ったわけじゃないけど、友達や先輩たちと過ごす時間がいま本当に、こんな毎日がとても楽しくて——
「ああ、楽しみだわ」
どうやら本人よりも喜んでいるようだ。
風花自身も、ついこの間まで引きこもり気味だった自分が、華やかにウィンドウを飾ることになるなんて想像だにしていなかった。ましてや、すぐそばで見守っていてくれた祖母にとって、これほどうれしいことはないらしい。出来上がりが楽しみで仕方ない風花である。
翌日の月曜日、風花が授業が終わってミオと2人で部室に行くと、風花が見知らぬ生徒が畳の上で正座をしてかるたを並べていた。
「あれ、上本さん。どうしたんですか」
驚いたようにミオが声をかけた。
「なんだ。かるた部に入った新入生って、あなただったの」
そう言って、ニコリと笑った。
彼女はミオが以前、かるたの試合をしたことがある人だという。
「同じ学校の先輩だなんて、知りませんでした。確かかるた部には入ってなかったですよね」
そうミオが聞くと、
「だって去年は部員が秋穂ちゃんしかいなかったから、団体戦も出られなかったもんね。それなら部活で秋穂ちゃんとばかりやるより、強くなろうと思ったら、かるた会に行って違う人とも練習した方がいいからね」
と言う。「秋穂」というのは、中堂先輩の名前だった。
「ですねえ……。同じ相手とばかりやってたら、戦い方が偏っちゃいますもん。去年だったら私でもそうしたかも」
かるた会とは、全国にある民間の競技かるたの普及と鍛錬を目的とする団体である。そのほとんどは、各地元のA級選手など、強い指導者が中心となり活動している。そこで切磋琢磨し、かるたの世界における最高位である、名人——女子はクイーン——を目指しているのだ。上本先輩は、そういう場所で活動してきたため、海潮高校ではかるた部に所属していなかったという事だ。
そんな話をしているところへ、中堂先輩が部室にやってきた。
「あれ、りっちゃん。もう来とったん」中堂先輩はリュックを肩から下ろしながら、そう言う。「もうみんなには?」
「まだよ」上本先輩が首を振った。
「じゃあ、紹介するね。上本梨花ちゃんは私と同じ2年生。これから県大会までかるた部に入ることになったから、よろしくね」
中堂先輩がそう言うと、上本先輩が畳の上で姿勢を正して、
「改めて、上本です。クラスはA級です。よろしくお願いします」
と挨拶をするので、風花とミオも、あわてて姿勢を正した。
「小柴美織です。A級です」
「大道風花です。えっと、F級というより、始めたばかりの初心者です。よろしくお願いします」
と丁寧に挨拶を返した。
「さっ、これで5人で戦える。しかもA級が3人も揃ったんだから、なかなかのチームだよね」と中堂先輩がうれしそうに言った。「これでオノショウと戦う準備ができたってもんね」
中堂先輩のいうオノショウは尾道昇華高校である。ミオの話では、広島県内ではかるたの強豪校であり、去年の県大会予選はベスト4に入ったので、今年はシード校となっているということだ。
「あれ、5人いるってことは、もうひとりは?」
そう言いながら上本先輩がキョロキョロと見回すので、
「ああ、あいつはどっかその辺を適当に走ってますから、気にしないでください。そのうち顔を出しますから。戦力外と考えてもらって結構です」
とミオが答え、風花が「大河内孝太君、私たちと同じ1年です」と添えた。
「イケメン?」唐突に上本先輩が言った。
「えっ?」風花とミオは思わず顔を見合わせた。いまなんて言った?
「その大河内孝太君はイケメンかって聞いてんのよ」
「え、ええっと……。まあ、まあ……」
しどろもどろになりながら風花が答える。
「で、どっちの彼氏なん?」
上本先輩はいきなりど真ん中を責めてきた。
「い、いや、うちと孝太はただの幼馴染で、どっちの彼氏かって言ったら、風花で……」
とミオがとんでもないことを言い出した。あわてたのは風花だ。
「ちょっ、ちょっと! あわ、私たちはそんな」
ろれつさえも回らないが、必死に否定したが、
「まあ、孝太の片想いですけど」
と、ミオがすまして言ったのだ。
「うーす」
そこへ突如襖が開いて孝太が登場した。今の会話を孝太に聞かれたんじゃないかと、風花はちょっとドキドキとしていた。
お父さん、お母さん。私は尾道にきて、この高校に入ってよかった。あのとき折れかけた気持ちが治ったわけじゃないけど、友達や先輩たちと過ごす時間がいま本当に、こんな毎日がとても楽しくて——
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