27 / 97
OVER THE SEA
しおりを挟む
「今の歌詞は何?」
日本語がわからない圭が「遥かなる大地」を英語で歌っていたのには圭司も驚いたが、意味はほとんど繋がってなかった
「適当よ。だって日本語の歌詞の意味はわかんないんだもん」
圭はあっさりと言う。今の「遥かなる大地」は即興で歌ったらしい。確かにオリジナルの日本語詞のままでは単語の途中をぶった斬るような圭のアレンジバージョンだったが、そういうところが逆に格好良く感じたりもする。むしろ、その方が正解だったのではないかと圭司は考えていた。
そこで、圭司は英語で歌詞を組み直してみることにした。10年もアメリカに住むと英語の歌詞も書けるようになったが、圭が歌ったリズムを完璧に覚えているわけではないため、言葉を何度も入れ替えたり、日本語と意味が変わらないようにしながら別の表現を入れたりして、なんとか英語バージョンの「遥かなる大地」が出来上がった。
「圭、この歌詞でもう一度歌ってもらえるかい?」
「OK」
タイトルは「OVER THE SEA」とした「遥かなる大地」を圭が歌い出した。圭のバージョンはソウルフルで、圭が歌い方が大好きだというレイ・チャールズを思わせるような心に染み入るような歌に仕上がっている。それはまるで若い頃に作った曲が時間をおいてワインのように熟成したかのようだ。
「最高だ、圭。この曲はもう君が生まれ変わらせたものだ。作曲者を名乗ってもいいよ」
圭司は原曲とは全く違った味わいの曲に仕上げた圭のセンスに惜しみない拍手を送った。
「でもこれは圭司の曲でしょ。私はまだこんな曲は作れない」
圭は少し照れたように言う。
「じゃあ、歌詞は俺が書いたから、Kei & Keijiの初めての共同作品だ。それでどうだい?」
圭司がそういうと、圭はとてもうれしそうで、それから店前コンサートをやる時には「OVER THE SEA」は彼女の定番ソングになった。
⌘
それからは圭はキーボードをステラから教えてもらっている。ギターのコードと鍵盤の和音とのつながりを少しづつ身につけているようで、半年もするとオリジナルの短い曲も作り始めたようだ。まだ圭司もちゃんとは聴かせてもらえてないが、作詞も始めたようで熱心にノートに何か書いているので、そのうちに何か披露されるだろうと思っている。
圭司と圭が2人で暮らし始めて半年が過ぎた。何回も面接があったりもしたが、ステラが2人に深く関わってくれたのがやはり大きく、最終的に役所から里親として認められた。
ストロベリーハウスには、その間も月に一度、テッドの店でパンを仕入れては3人で子供たちの様子を伺うように訪問していた。そして、里親として認可が下りた日に、その足でアミティ地区の役所に駆け込んだ。最初は怪訝そうにしていた担当者も、未だに圭の背中に残る傷をみて顔色が変わった。
ジョシー夫妻がハウスから追放され、訴追されたと聞いたのは、それから2週間ほどしてからのことだった。あとで聞いた話だが、ジョシー夫妻はもともとあのハウスを経営していたわけではなかった。圭がハウスに預けられた11年前は別の人物がハウスを経営していたが、人が良過ぎてハウスの経営が厳しくなったところを、あのあたりの不動産を手広く持っていたジョシー夫妻がハウスの土地の債権を盾に強引に経営を引き継ぐ形だったらしい。
何よりそれを1番喜んだのはもちろん圭で、彼女の中には自分が圭司に引き取られたあとも、ずっと残されたハウスの仲間たちのことをいつも心配していると言っていた。圭司とステラは穏やかに眠る圭の寝顔を見ながら、やっとこれで彼女の心のつかえを取ってあげられたことに胸をなでおろし、2人で細やかに祝杯をあげたのだった。
全てが落ち着いた後、正式に里親と認められた圭司は圭に関わるもうひとつの問題に踏み込む決意をした。それは、圭がなぜストロベリーハウスに預けられたのか、両親はどうしているのか、それをはっきりとさせようとすることだ。
圭は別に知らなくてもいいと圭司に言うのだが、圭司としては、これから2人で暮らしていくにしても、少なくとも圭がどこからきたのかは知っておきたかったのだ。
日本語がわからない圭が「遥かなる大地」を英語で歌っていたのには圭司も驚いたが、意味はほとんど繋がってなかった
「適当よ。だって日本語の歌詞の意味はわかんないんだもん」
圭はあっさりと言う。今の「遥かなる大地」は即興で歌ったらしい。確かにオリジナルの日本語詞のままでは単語の途中をぶった斬るような圭のアレンジバージョンだったが、そういうところが逆に格好良く感じたりもする。むしろ、その方が正解だったのではないかと圭司は考えていた。
そこで、圭司は英語で歌詞を組み直してみることにした。10年もアメリカに住むと英語の歌詞も書けるようになったが、圭が歌ったリズムを完璧に覚えているわけではないため、言葉を何度も入れ替えたり、日本語と意味が変わらないようにしながら別の表現を入れたりして、なんとか英語バージョンの「遥かなる大地」が出来上がった。
「圭、この歌詞でもう一度歌ってもらえるかい?」
「OK」
タイトルは「OVER THE SEA」とした「遥かなる大地」を圭が歌い出した。圭のバージョンはソウルフルで、圭が歌い方が大好きだというレイ・チャールズを思わせるような心に染み入るような歌に仕上がっている。それはまるで若い頃に作った曲が時間をおいてワインのように熟成したかのようだ。
「最高だ、圭。この曲はもう君が生まれ変わらせたものだ。作曲者を名乗ってもいいよ」
圭司は原曲とは全く違った味わいの曲に仕上げた圭のセンスに惜しみない拍手を送った。
「でもこれは圭司の曲でしょ。私はまだこんな曲は作れない」
圭は少し照れたように言う。
「じゃあ、歌詞は俺が書いたから、Kei & Keijiの初めての共同作品だ。それでどうだい?」
圭司がそういうと、圭はとてもうれしそうで、それから店前コンサートをやる時には「OVER THE SEA」は彼女の定番ソングになった。
⌘
それからは圭はキーボードをステラから教えてもらっている。ギターのコードと鍵盤の和音とのつながりを少しづつ身につけているようで、半年もするとオリジナルの短い曲も作り始めたようだ。まだ圭司もちゃんとは聴かせてもらえてないが、作詞も始めたようで熱心にノートに何か書いているので、そのうちに何か披露されるだろうと思っている。
圭司と圭が2人で暮らし始めて半年が過ぎた。何回も面接があったりもしたが、ステラが2人に深く関わってくれたのがやはり大きく、最終的に役所から里親として認められた。
ストロベリーハウスには、その間も月に一度、テッドの店でパンを仕入れては3人で子供たちの様子を伺うように訪問していた。そして、里親として認可が下りた日に、その足でアミティ地区の役所に駆け込んだ。最初は怪訝そうにしていた担当者も、未だに圭の背中に残る傷をみて顔色が変わった。
ジョシー夫妻がハウスから追放され、訴追されたと聞いたのは、それから2週間ほどしてからのことだった。あとで聞いた話だが、ジョシー夫妻はもともとあのハウスを経営していたわけではなかった。圭がハウスに預けられた11年前は別の人物がハウスを経営していたが、人が良過ぎてハウスの経営が厳しくなったところを、あのあたりの不動産を手広く持っていたジョシー夫妻がハウスの土地の債権を盾に強引に経営を引き継ぐ形だったらしい。
何よりそれを1番喜んだのはもちろん圭で、彼女の中には自分が圭司に引き取られたあとも、ずっと残されたハウスの仲間たちのことをいつも心配していると言っていた。圭司とステラは穏やかに眠る圭の寝顔を見ながら、やっとこれで彼女の心のつかえを取ってあげられたことに胸をなでおろし、2人で細やかに祝杯をあげたのだった。
全てが落ち着いた後、正式に里親と認められた圭司は圭に関わるもうひとつの問題に踏み込む決意をした。それは、圭がなぜストロベリーハウスに預けられたのか、両親はどうしているのか、それをはっきりとさせようとすることだ。
圭は別に知らなくてもいいと圭司に言うのだが、圭司としては、これから2人で暮らしていくにしても、少なくとも圭がどこからきたのかは知っておきたかったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる