ドケチな私はアイテムも魔法も使いたくないっ!!

ざとういち

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ドケチな『リサイクル』

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私たちはたびたび襲って来るモンスターを撃退しつつ、洞窟の奥へ奥へと進んでいく。

私は正直、トカゲとの一戦で疲れちゃったので、ほとんどエリカに任せていたが…。
私が戦わなければ脳筋お嬢様が勝手にドーピングしてやっつけてくれる。

無駄な戦いは避けるべきなのだ…。
私は悪い顔でニヤリと笑った。

ずいぶん奥まで進んできたが、それらしいキノコは見当たらない。衝撃を与えないと光らないとなると、遠目で見て気付くのは至難の業なのではないだろうか。
だからなかなか発見されないレアなキノコなのだろう。

そんなことを考えながら歩いていると、開けた場所に出た。ポッカリと洞窟の中に大きな空洞が空いている。
周りには地底湖が広がっていた。光る苔が無数に生えており、とても綺麗な輝きを放っている。

「わぁっ…。」

「凄い…。」

女の子ならば、この絵本のような光景に自然と心が動かされてしまう。私が目を輝かせながら辺りを見回しているのと同じように、エリカも心を奪われているようだった。

「ん…あれは…!?」

「…ドラゴンの…骨…!?」

よく見ると、地底湖の中には巨大な生き物の骨が、綺麗に形を残したまま沈んでいた。
かなりの大きさだ…。おそらく、この地底湖でひっそりと暮らしていたドラゴンが、ここで寿命を迎えたのであろう…。

壮大な光景を前に、なんとも言えない感情に包まれてしまった。

私がドラゴンの亡骸に息を呑んでいると…。

「あら、なんでしょうこれは。」

エリカが何か手に持っていた。
それはキノコのようだった。

いやいや…まさかそんなあっさり見つかる訳が…と私は思っていた。
すると、エリカはキノコを軽く殴った。青い光に包まれていた洞窟内に赤い光が混じる。

ま…まさか…そんな…。

「見つけました!!スマッシュ!!」

「ええええええええっ!?」

な、なんで…?こんなすぐ見つかるなんて…。
あまりのショックに、私の目の前はなんだか白く霞んできた…。

「おそらく、ここの景色に
 夢中になって、みんなスマッシュを
 見落としてしまったのでしょう…。」

「わたくし、あんまりこういうの
 興味ないので…。」

な…なんだとおおおお…!?
こんな綺麗な景色を前に興味ないなんて…やはり金持ちはどこかおかしい…。
ぶっ飛んでいるんだ…!!(※モッタさん個人の感想です。)

「勝負はわたくしの勝ちですねっ!!」

エリカが勝ち誇った顔で私を見た。

私は、自分が負けたことをじわじわと実感し、目からポロポロと涙が溢れてきてしまった。

絶対に負ける訳にいかなかったのに…。
これでもうケンジくんと二度と組めないのかと思うと、絶望的な気持ちになった…。

エリカは情にほだされることもなく、クールに洞窟をあとにしようと歩き始めた…。

約束だ…。潔く諦めよう…。そう私が決意しようとしていた時だった。

「へへへっ…。」

「ふふふっ…。」

「……?」

エリカのボディーガードが不敵に笑いながら、彼女の前に立ちはだかった。

私とエリカは何が起きようとしているのか分からず、ぽかんと彼らを見ている。

「ここはドラゴンが寿命まで、
 誰にも気付かれずに
 暮らせるような場所なんですなぁ。」

「だったらよぉ…。ここで、
 ガキ2人消えても、
 誰も気付かねェよなァ?」

「あ、貴方たち…!!
 一体何を言っているのです!?」

明らかに様子のおかしいボディーガード2人の物騒な発言に、私は恐怖で震えていた…。

2人の雇い主であろうエリカも、2人の様子に困惑しきっているようだった…。

「100万マニー…だったか…?」

「そんな大金をよォ…
 あんな小僧に渡すのは
 もったいねェよなァ?」

「えぇ、同感ですなぁ。」

男たちの目的がお金なのは明らかだった。

お金渡したら許してくれるかも…!
エリカ渡しちゃいなよ…!
私のお金だったら絶対渡したくないけど…!!

「貴方たちのお給料は
 たっぷりと払っているはず
 ですが…。」

「エリカ様…。世間知らずな
 あなたに教えてあげますが。」

「金はいくらあっても
 困らねェんだぜェ…?」

「…貴方たちはここでクビです!」

エリカがファイティングポーズを取る。
彼らと交戦するつもりのようだった…。
だっ…大丈夫なの…?

「ふっ!!」

エリカが高速で彼らの後ろに回り込む。
薬の効果を示す体の光は、目視出来ないほど薄くなっていたが、増強薬の効果はまだかろうじて続いているようだった。

「一瞬で決める…!」

勝負が決まるかと思ったその矢先、エリカの拳は誰もいない空中を空振りしていた。

男たちも高速で動いていた。
彼らが空のビンを投げ捨てると洞窟内にパリーン!という音が反響する。

増強薬は彼らに預けていたのだ。
利用されて当然だった…。

「そらよォ!!」

「うあぁッ…!!」

凄まじい速度の男の蹴りがエリカの脇腹に直撃する…!とても起き上がれるとは思えない一撃だった…。

「かはっ…!うぅ…っ!」

エリカが血を吐いていた…。
女の子になんて酷いことを…!と私は怒りに震えた。勝算などなかったがやるしかなかった…!

「フレイッ…!!」

私は魔法を唱えた。彼らに気付かれる前に当たってくれと心の中で願ったが…。

「あぁん?」

命中しそうなところで瞬時にかわされた…!
薬の効果がなかったら当たっていたかもしれないのに…!

男のひとりが私の胸ぐらを掴み、高く掲げた。

「ぐっ…!」

「おいおい…?さっきまで
 あの女に泣かされてたのに
 友情ごっこかぁ?」

「うぅ…っ!」

息が上手く出来ず、私は苦しくてもがいていた…!

「ただ金をぶん取るだけじゃ
 つまんねェと思ってたんだよな…。」

「このガキ共の身ぐるみ剥いで
 少し遊んでやるかァ…?」

「ふふふ…良いですなァ…。」

「ひっ…!」

私は初めて向けられる男の怪しい視線に恐怖していた…。自分が何をされるのかはっきりとは分からなかったが、酷いことをされるのは間違いなかった…。

「フ…フレイアッ!!」

「うおぉぉっ!?」

私はエリカとは違って、杖さえあれば魔法が使える。薬に頼りきっているエリカの戦い方に慣れていて、油断したのだろう。男は炎に包まれていた…。

人間に向けてフレイアを使うのは初めてだった…。殺してしまわないか怖かったが、自分の身を守るので精一杯だった…!

「くっ…!このガキ…ッ!!」

男が炎を振り払うと、火傷した体を物ともせず、私を睨みながら再び近付いてきた…!
フレイアの直撃を受けてあの程度で済むはずがない。防御薬も飲んでいたのかもしれない…。

私はほっとしたような絶望したような複雑な感情で固まっていた…。

男が目の前に迫り、拳を振り上げていた。
人間に魔法を使うのが怖くて、私はもう戦意喪失していた…。目を瞑り、少しでも痛くないことを祈ることしか出来なかった…。

ガッ…!!

鈍い音が目の前で鳴った。
私が恐る恐る目を開けると、私の前にエリカが腕をクロスして立っていた…。

「よォ…エリカさん…?
 あんたも友情ごっこかい?」

「この…下衆が…!」

動くのがやっとなはずなのに、エリカは強い口調と共に男を睨んでいる…。

「なら代わりに殴られろや!!」

「ぐっ…!!」

エリカが私を庇って攻撃を受け続けている…。私はどうしたらいいのか分からず、それを見ていることしか出来ない…。

だ……誰か……。

誰か……助けて……っ!!

私の頭の中には、さっき見たドラゴンの亡骸が浮んでいた。

あんな大きなドラゴンが死んでいるのが、私はなんだかもったいなく感じてしまった…。

『グオォォォン…。』

地底湖の底から何か音が響いている…。
なんだろう…ついに幻聴でも聞こえ始めたか…。

「なんだァ…?」

「地底湖からか…?」

男たちも音に気付いているようだった。
じゃあこれは幻聴じゃない…?

『ザッパアァァァァァン!!』

神秘的な光に包まれながら、巨大な影が地底湖から飛び出していた…。

それは間違いなくドラゴンだった。

しかも、骨ではなく、肉体を持ったドラゴン…。
よく見ると、そのドラゴンはさっき見た骨の形とは似ても似つかない姿をしていた。

私は訳が分からず、その光景を呆然と眺めていた…。

「ド…ドラゴン…ッ!?」

「ヒィッ!!逃げろッ!!」

男たちは慌てて駆け出すが、ドラゴンは逃がすものかと言わんばかりに大きな翼をはためかせていた。

そして、駆け出した男たちに向けて、空中から鋭い突風の塊を撃ち出した…!ゴオォッ!と激しい音が響く…!

「うおわああああっ!?」

男たちは勢いよく吹き飛ばされ、岩に叩き付けられめり込んでしまった…。

「が…がはっ…。」

男たちが気絶したのを見届けたかのように、ドラゴンはゆっくりと消えていった…。

い…一体なんだったんだろう…。

私はふと気付いた…。

自分のMPが減っている感覚に…。

「これ…私が…?」

いろいろなことが一度に起きて、私はしばらく何も考えられなかった…。
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