現世に馴染めなかった雪女は異世界転生でリミットブレイク

ざとういち

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雪女、死す。

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私と鈴子ちゃんはたびたび会って、遊んだり、お喋りしたり、とにかく楽しい時間を過ごした。
私は本当に鈴子ちゃんのことが大好きだった。彼女のためなら何をしても良いと、そう思えた。

今日もいつも通り鈴子ちゃんの元へと向かう。
いつもの場所に鈴子ちゃんがいた。
私はおーい!と声を掛けようとしたが、様子がいつもと違った。

鈴子ちゃんの周りを同じ年頃の少女が3人取り囲んでいる。

「鈴子あんた最近何やってんの?」

「…別にどうでもいいでしょ…?」

私と遊んでいる時とは別人のようにそっけない態度を取る鈴子ちゃん。ただならぬ雰囲気に私は咄嗟に物陰に隠れてしまい、様子を伺う。

「その髪色と服装、
 ギャルにでもなったつもり?」

「…ほっといてよ。」

「はぁ…?」

「うッ…!?」

鈴子ちゃんは突然、髪を掴まれ引っ張られる。
私はその光景にふつふつと怒りが湧いてきてしまう…。

「あんたみたいな地味な奴と
 遊んでやってたのに…。
 調子に乗ってんじゃないわよ。」

「だ…誰も頼んでない…ッ!!」

「お金だって…いつも私が払って…!!」

「だってそれがあんたの役目でしょ?」

「久しぶりに会ったんだからさぁ。
 一緒に遊びましょうよ?」

「い…嫌ッ…!!」

あんなに優しい鈴子ちゃんが、暴力を振るわれ、理不尽な要求をされている…。私の大好きな鈴子ちゃんが…ッ!!

『パキンッ。』

私が隠れていた自販機が一瞬で凍り付く。
力が抑えきれなくなった。

「なんの音?」

私は彼女たちの前に姿を現した。
体から冷気を漂わせながら。

「な…何こいつ…?」

「私たちのこと隠れて
 見てたの?こわっ。」

「見せもんじゃないんですけどー。」

「ゆ…雪ちゃん…。」

少女たちが口々に何か言っているが、私の耳には入らなかった。

「ほら。行くよ鈴子。」

相変わらず鈴子ちゃんの髪を引っ張り続ける女。こいつがまず許せなかった。

『パキンッ。』

「……え?」

周囲の空気が凍り付く。

髪を引っ張っていた少女は一瞬で全身が凍り付いた。街頭に照らされ氷の彫刻のように光っていた。

「は、はは…。どういう、こと…?」

「嘘だよね…。これ…?ねぇ…!?」

「ゆ…雪…ちゃん…?」

これでもう暴力は振るわれない。良かった。でも、他の2人も野放しにしてたら、また鈴子ちゃんがいじめられちゃうかもしれないよね?

「や……。」

「やめて雪ちゃん…ッ!!」

『パキンッ。』

さっきまで少女たちの罵声で騒がしかったのが、嘘のように静まり返っていた。
待ち合わせの路地はいつも通り、私と鈴子ちゃんのふたりっきりになった。

良かったね?鈴子ちゃん?

そう声を掛けようと彼女の方を見る。


…彼女も凍っていた。


私は我に返った。

「あ……あぁ……。」

私はもうただの化け物になっていた…。


「うわああああっ!!」

「はぁ…はぁ…はぁ…。」

「はぁ……。」

目を開けると、私がいつも寝床にしている洞窟の天井が見えた。

私の体は溶けてしまったんじゃないかと思うくらい汗で濡れていた。

こんなに怖い夢を見たのは初めてだった…。あまりのショックに膝を抱えながら震えた。しばらく動けなくなっていた…。

今のはただの夢じゃない。そう思えた。

何故なら私には、今の夢を簡単に現実にしてしまえる力があるのだから…。

「お!雪ちゃん来た来た!
 …どったの?いつもにも増して
 白い顔してるけど…?」

「いや!別になんでもないの…!
 あははは…。」

その日の夕暮れ時、私はいつも通り鈴子ちゃんとの待ち合わせ場所に来ていた。
もしかしたら正夢になるんじゃないか…そんなことを考えてしまい怖くてたまらなかったけど、鈴子ちゃんが一人で待っていたので、私はほっと胸を撫で下ろした…。

ひと通りぶらぶらと街を散策した私たちはハンバーガーショップに立ち寄った。
お店に入るのは鈴子ちゃんの奢りになってしまうので、私はいつも遠慮している…。

でも、鈴子ちゃんは気にしないの!と言いながら、申し訳なさそうにしている私をお店に押し込んで入るのであった…。

「でさー!教頭が挟まっててさー!
 あそこに挟まるか普通!?って
 思ってマジウケたんだけどー!」

鈴子ちゃんは今日学校とやらであったお話を私に聞かせてくれる。
私は雪山にいて特に話のネタがないので、鈴子ちゃんが楽しそうに話してくれるのを聞いているだけで満足なのだ。

私は話を聞きながら鈴子ちゃんが買ってくれたコーラという物を飲む。シュワシュワして甘くて美味しい。私はこれが好きだった。

しかし、ストローからいつまで経ってもコーラが上って来ない。どうしたんだろう?と手にしている紙コップを見た。

…凍り付いていた。カチコチに。

お店の人が凍らせた訳じゃない。
私が今凍らせたのだ…。無意識に…!

「ひッ…!?」

私はゾッとして紙コップを倒してしまう。
凍っているので中身はこぼれなかった。

「どうしたの?」

鈴子ちゃんが心配そうに私を見た。

「い…いや大丈夫…!
 なんでもないから…!」

こんなことは今まで一度もなかった…。
私は怖くなった…。

私は今あったことを誤魔化しながら、鈴子ちゃんとお店を後にする。今のはきっと何かの間違い。外の空気を吸って少し落ち着こうと思った。

「ふうぅ…。」

私が深呼吸すると目の前がキラキラ光った。
口から冷気が漏れていた。

「うぐっ!?」

私は慌てて両手で口を塞いだ…!
なんで…!?力がコントロール出来てない…!?

私の様子がおかしいことに気付き、鈴子ちゃんが再び心配そうな顔をする。

「どうしたの…?雪ちゃん…?
 やっぱり何か変だよ…?」

大丈夫と答えたかったが、口を両手で塞いでいるので首をふるふると左右に振るしかなかった…。

口から手を離して返事でもしたら、私は鈴子ちゃんを凍らせてしまうかもしれない…!今すぐこの場から立ち去りたかった…!

「あれ?もしかしてあんた鈴子?」

そんな私を尻目に鈴子ちゃんに誰かが声を掛けてきた。聞いたことないはずなのに、聞き覚えのある声だった。

「…あんたたちは…。」

私たちの前には鈴子ちゃんの学生服と同じ服を着た少女が3人立っていた。見覚えがある…。今朝、悪夢の中に出てきた3人組と瓜二つだった…。

本当に正夢だったとしか思えない光景に、私は戦慄して動けなくなった…。しかも、こんな最悪のタイミングで…。

「誰その子?見ない顔だけど。」

「…別に誰でもいいでしょ。」

少女の一人が私のことを尋ねる。夢と違って鈴子ちゃんと仲良しの普通の友達なんじゃないかと、一瞬期待したが…。
鈴子ちゃんの態度を見ればそうじゃないことは明らかだった。

「私たち用事があるから…。
 行こ。雪ちゃん…。」

鈴子ちゃんは私を連れてさっさとこの場から立ち去ろうとする。私もそうしたかったので、そそくさと彼女の後について行こうとするが…。

「ちょっと待ちなよ~。」

3人が私たちの前に立ち塞がる。頼むからどいてくれ…。余計なことはしないでくれ…。そう祈ることしか出来なかった…。このままではあなたたちを凍らせる羽目になってしまう…。

「用事ってどうせ遊んでたんでしょ?
 うちらも混ぜてよ…?」

「トモダチでしょ?私たち?
 いひひひっ…。」

「そういうのいいから…!」

鈴子ちゃんは苛立って少し声を荒げてしまった。

「あ?」

「うッ…!!」

胸ぐらを掴まれ、鈴子ちゃんが電信柱に叩き付けられていた。私は怒りが湧いてきてしまうが必死で抑える…。

「人が遊んでやるって言ってるのに
 なんだその態度…?」

「だ…誰も頼んでない…ッ!!」

「ほんとウザいな鈴子はー。」

「いいから一緒に来いっつってんだよ。」

やめろ…。

「やめて…!離して…!」

やめろ…。

「 や め ろ ォ ッ !! 」

私の絶叫が辺りに響く。
私の足元や近くに停めてある車が凍り付いていた。

「……え?」

「なにこれ…。」

幸いにも彼女たちはまだ誰も凍っていない。でも凍らせてしまうのは時間の問題だった…。

私は手のひらから冷気を大量に放出する。それを鋭く尖らせ大きな槍を作った。

『ドガアァンッ!!』
  
それを地面に突き刺して、コンクリートに大きな亀裂を作ってやった。

「殺すぞ…。」

殺したくない私は彼女たちに向かって精一杯威嚇する。

「ば…化け物…!?」

「うわああああっ!?」

彼女たちは慌てて逃げ出してくれた。
良かった…。殺さずに済んだ…。本当に良かった…。

「うぅっ…!!」

私は安心して泣き崩れた。体から漏れ出る冷気で涙はすぐに凍り、氷の粒がコロコロと辺りに転がった。

「雪ちゃん…!ありがとう…!
 あたしのこと助けてくれて…。」

鈴子ちゃんが私にお礼を言いながら近づこうとしていた。

「近づくなッ!!」

「…雪ちゃんっ。」

私は氷の涙を流しながら彼女を睨みつける。
彼女は拒絶されたのかと思い悲しそうな顔をしていた。

私の体からは絶えず冷気が溢れている。
今近づかれたら間違いなく鈴子ちゃんを凍らせてしまう…。鈴子ちゃんだけは何があっても絶対に凍らせる訳にはいかなかった…。

「ごめんね鈴子ちゃん…。」

「私たちもう一緒に
 いられないから…。」

「え…。」

私はもう自分の力を完全に制御出来なくなっていた。彼女との関係はここで絶たなければならない。

「今までありがとう…。
 本当に楽しかった…!!」

「雪ちゃんっ…!!」

私は駆け出した。鈴子ちゃんが私の名前を叫んでいるのが聞こえたが、もう戻ることは出来なかった…。

「うぅ…ッ!ううぅッ!!」

なんでこんなことに…!大好きな友達と一緒にいることも出来ないなんて…!私は雪女として生まれてきたことに絶望していた…。

生まれ変わるなら、こんな氷の力なんてない普通の人間として生まれ変わりたい…。

そう願いながら夢中で走っていた。

道路に飛び出した私の右半身は明るく照らされていた。トラックだった。無我夢中で走っていたせいでトラックの目の前に飛び出してしまった。

私にはトラックを凍らせる選択肢はなかった。
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