カオルの家

内藤 亮

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 一浪したものの、志望校に受からず、二次募集をしていた大学になんとか滑り込んだ。自分と同じ学年になり、更には都落ちすることになった宥己を泰明はあからさまに憐れんでいた。
「兄さん、辺境の地に行くからって自暴自棄になるなよ。そのうちいいことだってあるさ」
 綾はため息ばかりついている。義明も一緒に見送りにはきたものの、宥己とは一言も口をきかなかった。
 義明は貧しい家に生まれ育ち、己の才覚と努力だけでここまで昇り詰めてきた。今の大学に入学が決まった時も、情けない奴だ、と言ったきりだった。
「兄弟で同じに金をかけてやってるんだ。結果を出さないお前が悪い」
 父の言うことは至極当然だった。宥己は何を言われても下を向いて殊勝な顔をしていたが、思いはとっくに彼の地へと馳せていた。冬は雪に閉ざされるが、酒と食べ物が美味い土地だという。これからは好きな絵を思いきり描いても皮肉を言われることはない。雪の音に耳をすませながら、熱燗をやったり本を読んだりするのも悪くない。諸々の事を鑑みると、都落ちも捨てたものではない、と思えてくるのだ。
 下宿は隙間風がひどい。風が強いと窓がガタガタ揺れて、吹雪いた翌日は窓枠に雪が薄っすらと積もっている。冬の間はほとんど風邪をひいていて、講義中もしょっちゅう鼻水が垂れるから、宥己はティッシュペーパーの箱を持ち歩いていた。そんな宥己を見て、同じ学部の榎田が呆れたように言った。
「駅前に新しくできたワンルームマンション、快適だぜ。あんなぼろ下宿、さっさと引き払ってさ、お前も引っ越して来いよ。由紀子ちゃんも越してきたんだぜ」
 へへっと榎田は相好を崩した。建築学科は野郎ばかりで、むさくるしいことこの上ない。その中に、何を間違ったか、いかにも北国らしいきめ細かい白い肌をした娘がいた。身体も餅の様に柔らかい、と安原が自慢気に吹聴していたっけ。
「家賃が安いから。学校からも近いし」
「親父さん、金、持ってるんだろ?」
「まあな」
 奨学金制度を使って大学を出ようと思ったが、父親の年収が良すぎて金を借りることができなかった。その代わり、送られてくる生活費には一切手をつけなかった。四年間、ほとんど実家にも帰らなかった。
 今にして思うと、地吹雪が吹き荒れる中でフジツボのように地面に張り付いて建っている磯崎荘に、自分を重ねていたのかもしれない。  
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