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朝の散歩のお供はクロ親子だ。クロがついてくると、子猫たちもついてくる。猫を連れて、それも親子を連れて歩いていると、色々な人が声をかけてくる。挨拶を交わし、顔見知りもできた。おかげで店に顔を出してくれる人も増えた。生きている招き猫、それも親子の威力は半端ではない。
「まあ、すっかり大きくなって」
あの時、友達と店に来て、藍の染付の骨壺を購入した佳子《よしこ》が子猫たちを見て目を細めた。佳子はこの近所に住んでいるそうで、毎朝、ご主人と一緒に池の周りを散歩しているのだ。愛犬は、よちよち歩きの年老いたマルチーズ、ハナ。ご主人の名前は正雄。正しい雄! 名前を聞いたときは笑いを堪えるのに苦労した。
佳子の話を聞いて、何となく脂ぎったオヤジを想像していたのだが、正雄は小柄でカサカサした干物のような男だった。佳子は店ではあんなことを言っていたが、こうやって夫婦仲良く散歩しているのを見ると、やはり安心する。
「最初は警戒心マックスだったんですけど、やっと飼い猫になりました」
今では布団の中にも入ってくるようになって、こちらの方が驚いている。寅吉がいないと、クロは普通の猫だ。私が電話をしていたりすると、じっと耳を傾けている。商品の搬入がある日や、模様替えをする日など、いつなのかちゃんと分かっている。今までは偶然と思っていたのだが、ちゃんと話を聞いていたのだ。そんな日は朝から子供たちを連れてどこかへ出かけていく。寅吉がいないとクロの言葉はニャア、としか聞こえないのだが、何か話かけてくれているようだ。鈍くてごめん。
初めて寅吉に会ってから二週間ほどたったが、あれ以来、姿を見ていない。猫又になりかけだから、修行とか忙しいのだろうか。クロは通常運転で、落ち着いている。親子もしくは二人だけで会っているのかもしれない。
「避妊とか去勢とかしないとですよね、やっぱり」
クロも聞いているのだろうな、と思いながら佳子にきいてみた。池の周りには、片耳を少しカットした猫が沢山いる。こうした猫は保護活動をする方々が地域猫として管理していて、避妊去勢の手術が終わった猫は、捕獲されないよう目印として耳をカットしているのだ。人懐こい猫も多いが、きちんと餌をもらっているので、我が家には入ってこない。そのあたりの取り決めは猫同士できちんとやっているらしい。
「急いだほうがいいわ。猫ちゃんは奔放な生活をしているから、すぐに子供を作るわよ」
そういって、佳子は正雄にちらりと目をやった。当の本人は蓮の花を見て、気がつかないふりをしている。
ハナが世話になっているという獣医師を紹介してもらい、夫婦と別れた。
重大な案件だ。寅吉に会ったら早速みんなで相談しないと、と思いながら佳子夫婦と別かれた。
朝の散歩から戻ると、親子に餌をやり朝食を済ませる。外回りを掃いて打ち水をしたら店を開ける。朝のルーティーンもすっかり身についた。
日常使いの器と骨壷をさり気なく並べて置いておくと、骨壺も思いのほか売れた。ここに来る客は、マグカップや茶碗と一緒に骨壺も買っていくのだ。
祖母は元気な頃から梅干しの壺に入りたいと言っていた。5人の子供を生んだが、一人は赤ん坊のうちに病気で、もう一人は事故で失くしている。昔はそんなものよ、とあっけらかんと話してくれた。小学校しか出ていない祖母だったが、生と死が隣り合わせであることを、身をもって知ったのだろう。自分が死んだ後の事をごく普通に私に話してくれた。死後の世界とか、輪廻とかの難しい話はなしで、自分の死後の家の始末などのごく事務的な話だったが。私がこんな店をやっていることを知ったら祖母はどんな顔をするだろうか。
店を開けてしばらくすると、正雄がやってきた。
あのころのまんまだ、と懐かしそうに店の中を見回している。
「茶トラの子猫、寅吉にそっくりだね」
「ご存知なんですか」
「俺、菊水庵の常連だったから。島崎は高校時代からの幼馴染なんだよ。寅吉をそりゃあ可愛がっていてね。トラックにひかれて寅吉が死んじゃったときは、ひどく落胆して。こっちのほうが辛くなるくらいだった。それからすぐだったんだよ、店が売りに出されたのは。あれからどうしてるかなぁ」
「お元気ですよ。先日、お店にみえました」
「そうなの! この歳になると周りが歯が抜けるみたいにいなくなってさ。寂しいもんさ。そうかあ。よかったよかった」
正雄は一人で何度も何度も頷いていた。
また、店の扉が開いた。島崎だった。キャトフードが入った袋を手に下げている。
「やぁ!」
島崎は突然声をかけられキョトンとしていたが、声の主が正雄だと気がつくと、瞬く間に笑顔になった。
「やぁ、久しぶり。どう、あれから奥さんとは仲良くやってる?」
正雄は、その話は勘弁してくれ、というふうに手をひらひらさせた。島崎はクスクスと笑っている。
「尚子さんは何も知らないんだから。ね?」
「ええと、その、奥様からあらましは伺いました」
「うへ。知ってたのか。参ったな」
正雄は島崎の方に向き直ると、その節はお世話になりました、と頭を下げた。
「その話はもう時効さ。今日は何を買いにきたんだい?」
「お、そうだった。あいつの誕生日プレゼントを買いに来たんだ」
「なんだ、ちゃんといい夫をやってるじゃないか」
「へへへ。まぁな」
正雄は満更でもないらしく、鼻の下をのばしている。スマホを片手に店の中をうろうろと探し回っていたが、やがて歓声を上げた。
「あった、あった!」
あの日、手持ちがないからと、佳子が買うのを諦めたマグカップだ。一つだけかと思ったら、お揃いで買っていった。佳子が骨壷を買ったことは知らないのかもしれない。でも、イロイロあってもやっぱり夫婦は夫婦なのだろう。長年連れ添った者同士にしかわからない機微があるにちがいない。ちりり、と胸の奥が痛んだ。
「これ、あの親子に、と思って」
「こんなに沢山! ありがとうございます」
クロ親子のことを思うと、たちまち気持ちが浮上する。ありがたいこっちゃ。
「寅吉とクロに食べさせていた餌なんだ」
「すごく嬉しいです。ありがとうございました」
嬉々としてキャトフードを袋から出していると、島崎が言った。
「喜んでもらえてよかった」
「キャットフードも色々あって、いつも迷っちゃうんです。高いのが好きともかぎらないし。やっぱり島崎さんが持ってきてくれる、このメーカーがおきにいりみたいです」
「尚子さんって、いつも楽しそうだよね」
「そうですか?」
「なんていうか、若いのに偉いなって」
「そんな、大げさな。能天気なだけですよ」
「いやいや、本気で言ってるんだよ。菊水庵でも、愚痴を肴にしてる客も結構いたけど。尚子さんはそういうの、一切なかったね」
「そうでしたっけ?」
「うん」
「人生の大先輩? のイロイロなお話を聞くだけで面白くって。お酒も御飯も美味しいし。お店に行くだけでリセットされましたから」
両親が早くに亡くなって、祖母の家に落ち着くまでは親戚の家をたらい回しだった。泣き言や愚痴をいっても安住の地が得られるわけではない、と子供ながらに学んだ。泣きっ面に蜂、というが、これは本当なのだ。べそべそ泣いて、いつまでも育てる側を困らせても仕方がない。最初は機嫌を取ってもらえるかもしれないが、やがて扱いにくい子とみなされて、嫌われるようになる。
「僕は飯を炊いただけだよ」
「いや、まあ、そうなんですけど。店主がほっておいてくれる感じがよかったんです」
そういうと、島崎はなるほど、と言ってクスクス笑った。
「ここが売りに出ていることを知ったときは、天啓だ!って本気で思ったんですよ」
「尚子さんは大げさだなあ。そろそろお昼だね。この近くに旨い飯屋があるんだけど。一緒にどう?」
「いいですね」
〝放蕩な日々〟を送ってきただけのことはある。夕食といわれると身構えるが、さらりと昼食に誘うあたり、さすがだ。
島崎が案内してくれたのは、近所の商店街の一角にある一膳飯屋だった。昼食時の店内は、ちょっと立ち寄った、という普段着の人々であふれかえっている。
人と食事をするのは会社を辞めて以来だった。ご飯が美味しくてやたらと食がすすむ。夢中になって焼き魚定食を食べていると、島崎が言った。
「お店に来てる時も思ったんだけど。尚子さんは食べ方が綺麗だね。その魚なんか、本当に見事なもんだ」
私の皿には頭としっぽと背骨しか残っていない。
「魚愛(さかなあい)ですかね。食べられるところは全部食べてあげないと、魚が可哀想ですから」
「なるほど。僕も見習わなくちゃ」
そういうと、煮魚の半身を残していた島崎は残りを綺麗に平らげた。
「魚が喜んでますよ、きっと」
「骨しか残ってないのに?」
「お空の上で喜んでいるんです」
大真面目に答えると、島崎がクックックと笑った。
「尚子さんと一緒だと楽しいね。お昼、また一緒にいいかな?」
「はい、喜んで」
それぞれの勘定を払い、店の前で島崎と別れた。
黙々と酒肴の支度をしている島崎に話かける客はいなかった。整った風貌も相まって、島崎は気さくに話しかけられるような雰囲気ではなかったのだ。行儀の悪い客がいると、静かな声でたしなめることもあったが、基本、客には無頓着だった。静かに酒を飲みたい客にとってはうってつけの店だったのだ。正雄は島崎と高校の頃からの友人で、さすがの島崎も知らん顔はできなかったそうだ。
今日の島崎は居酒屋の頃とは別人のようによく笑ってよく喋った。クロと子供たちのおかげに違いない。モフモフパワーは偉大だ。
寅吉のことを島崎になんど伝えようと思ったかしれない。でも、独断で話すわけにはいかない。先ずは寅吉やクロと相談してからだ。クロ親子には去勢避妊手術の話もしないといけない。
夕飯の後、クロに相談してみた。
「今朝の話、聞いたでしょう。色々相談したいから、寅吉さんを呼んで貰えないかしら」
食後の身繕いをしていたクロが、顔を上げ、しっかりと頷いた。今朝の話を聞いて、一家全員で家出をされたら困るな、と心配していたのだが、クロは人間側の事情もちゃんと分かっているらしい。
「まあ、すっかり大きくなって」
あの時、友達と店に来て、藍の染付の骨壺を購入した佳子《よしこ》が子猫たちを見て目を細めた。佳子はこの近所に住んでいるそうで、毎朝、ご主人と一緒に池の周りを散歩しているのだ。愛犬は、よちよち歩きの年老いたマルチーズ、ハナ。ご主人の名前は正雄。正しい雄! 名前を聞いたときは笑いを堪えるのに苦労した。
佳子の話を聞いて、何となく脂ぎったオヤジを想像していたのだが、正雄は小柄でカサカサした干物のような男だった。佳子は店ではあんなことを言っていたが、こうやって夫婦仲良く散歩しているのを見ると、やはり安心する。
「最初は警戒心マックスだったんですけど、やっと飼い猫になりました」
今では布団の中にも入ってくるようになって、こちらの方が驚いている。寅吉がいないと、クロは普通の猫だ。私が電話をしていたりすると、じっと耳を傾けている。商品の搬入がある日や、模様替えをする日など、いつなのかちゃんと分かっている。今までは偶然と思っていたのだが、ちゃんと話を聞いていたのだ。そんな日は朝から子供たちを連れてどこかへ出かけていく。寅吉がいないとクロの言葉はニャア、としか聞こえないのだが、何か話かけてくれているようだ。鈍くてごめん。
初めて寅吉に会ってから二週間ほどたったが、あれ以来、姿を見ていない。猫又になりかけだから、修行とか忙しいのだろうか。クロは通常運転で、落ち着いている。親子もしくは二人だけで会っているのかもしれない。
「避妊とか去勢とかしないとですよね、やっぱり」
クロも聞いているのだろうな、と思いながら佳子にきいてみた。池の周りには、片耳を少しカットした猫が沢山いる。こうした猫は保護活動をする方々が地域猫として管理していて、避妊去勢の手術が終わった猫は、捕獲されないよう目印として耳をカットしているのだ。人懐こい猫も多いが、きちんと餌をもらっているので、我が家には入ってこない。そのあたりの取り決めは猫同士できちんとやっているらしい。
「急いだほうがいいわ。猫ちゃんは奔放な生活をしているから、すぐに子供を作るわよ」
そういって、佳子は正雄にちらりと目をやった。当の本人は蓮の花を見て、気がつかないふりをしている。
ハナが世話になっているという獣医師を紹介してもらい、夫婦と別れた。
重大な案件だ。寅吉に会ったら早速みんなで相談しないと、と思いながら佳子夫婦と別かれた。
朝の散歩から戻ると、親子に餌をやり朝食を済ませる。外回りを掃いて打ち水をしたら店を開ける。朝のルーティーンもすっかり身についた。
日常使いの器と骨壷をさり気なく並べて置いておくと、骨壺も思いのほか売れた。ここに来る客は、マグカップや茶碗と一緒に骨壺も買っていくのだ。
祖母は元気な頃から梅干しの壺に入りたいと言っていた。5人の子供を生んだが、一人は赤ん坊のうちに病気で、もう一人は事故で失くしている。昔はそんなものよ、とあっけらかんと話してくれた。小学校しか出ていない祖母だったが、生と死が隣り合わせであることを、身をもって知ったのだろう。自分が死んだ後の事をごく普通に私に話してくれた。死後の世界とか、輪廻とかの難しい話はなしで、自分の死後の家の始末などのごく事務的な話だったが。私がこんな店をやっていることを知ったら祖母はどんな顔をするだろうか。
店を開けてしばらくすると、正雄がやってきた。
あのころのまんまだ、と懐かしそうに店の中を見回している。
「茶トラの子猫、寅吉にそっくりだね」
「ご存知なんですか」
「俺、菊水庵の常連だったから。島崎は高校時代からの幼馴染なんだよ。寅吉をそりゃあ可愛がっていてね。トラックにひかれて寅吉が死んじゃったときは、ひどく落胆して。こっちのほうが辛くなるくらいだった。それからすぐだったんだよ、店が売りに出されたのは。あれからどうしてるかなぁ」
「お元気ですよ。先日、お店にみえました」
「そうなの! この歳になると周りが歯が抜けるみたいにいなくなってさ。寂しいもんさ。そうかあ。よかったよかった」
正雄は一人で何度も何度も頷いていた。
また、店の扉が開いた。島崎だった。キャトフードが入った袋を手に下げている。
「やぁ!」
島崎は突然声をかけられキョトンとしていたが、声の主が正雄だと気がつくと、瞬く間に笑顔になった。
「やぁ、久しぶり。どう、あれから奥さんとは仲良くやってる?」
正雄は、その話は勘弁してくれ、というふうに手をひらひらさせた。島崎はクスクスと笑っている。
「尚子さんは何も知らないんだから。ね?」
「ええと、その、奥様からあらましは伺いました」
「うへ。知ってたのか。参ったな」
正雄は島崎の方に向き直ると、その節はお世話になりました、と頭を下げた。
「その話はもう時効さ。今日は何を買いにきたんだい?」
「お、そうだった。あいつの誕生日プレゼントを買いに来たんだ」
「なんだ、ちゃんといい夫をやってるじゃないか」
「へへへ。まぁな」
正雄は満更でもないらしく、鼻の下をのばしている。スマホを片手に店の中をうろうろと探し回っていたが、やがて歓声を上げた。
「あった、あった!」
あの日、手持ちがないからと、佳子が買うのを諦めたマグカップだ。一つだけかと思ったら、お揃いで買っていった。佳子が骨壷を買ったことは知らないのかもしれない。でも、イロイロあってもやっぱり夫婦は夫婦なのだろう。長年連れ添った者同士にしかわからない機微があるにちがいない。ちりり、と胸の奥が痛んだ。
「これ、あの親子に、と思って」
「こんなに沢山! ありがとうございます」
クロ親子のことを思うと、たちまち気持ちが浮上する。ありがたいこっちゃ。
「寅吉とクロに食べさせていた餌なんだ」
「すごく嬉しいです。ありがとうございました」
嬉々としてキャトフードを袋から出していると、島崎が言った。
「喜んでもらえてよかった」
「キャットフードも色々あって、いつも迷っちゃうんです。高いのが好きともかぎらないし。やっぱり島崎さんが持ってきてくれる、このメーカーがおきにいりみたいです」
「尚子さんって、いつも楽しそうだよね」
「そうですか?」
「なんていうか、若いのに偉いなって」
「そんな、大げさな。能天気なだけですよ」
「いやいや、本気で言ってるんだよ。菊水庵でも、愚痴を肴にしてる客も結構いたけど。尚子さんはそういうの、一切なかったね」
「そうでしたっけ?」
「うん」
「人生の大先輩? のイロイロなお話を聞くだけで面白くって。お酒も御飯も美味しいし。お店に行くだけでリセットされましたから」
両親が早くに亡くなって、祖母の家に落ち着くまでは親戚の家をたらい回しだった。泣き言や愚痴をいっても安住の地が得られるわけではない、と子供ながらに学んだ。泣きっ面に蜂、というが、これは本当なのだ。べそべそ泣いて、いつまでも育てる側を困らせても仕方がない。最初は機嫌を取ってもらえるかもしれないが、やがて扱いにくい子とみなされて、嫌われるようになる。
「僕は飯を炊いただけだよ」
「いや、まあ、そうなんですけど。店主がほっておいてくれる感じがよかったんです」
そういうと、島崎はなるほど、と言ってクスクス笑った。
「ここが売りに出ていることを知ったときは、天啓だ!って本気で思ったんですよ」
「尚子さんは大げさだなあ。そろそろお昼だね。この近くに旨い飯屋があるんだけど。一緒にどう?」
「いいですね」
〝放蕩な日々〟を送ってきただけのことはある。夕食といわれると身構えるが、さらりと昼食に誘うあたり、さすがだ。
島崎が案内してくれたのは、近所の商店街の一角にある一膳飯屋だった。昼食時の店内は、ちょっと立ち寄った、という普段着の人々であふれかえっている。
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「お店に来てる時も思ったんだけど。尚子さんは食べ方が綺麗だね。その魚なんか、本当に見事なもんだ」
私の皿には頭としっぽと背骨しか残っていない。
「魚愛(さかなあい)ですかね。食べられるところは全部食べてあげないと、魚が可哀想ですから」
「なるほど。僕も見習わなくちゃ」
そういうと、煮魚の半身を残していた島崎は残りを綺麗に平らげた。
「魚が喜んでますよ、きっと」
「骨しか残ってないのに?」
「お空の上で喜んでいるんです」
大真面目に答えると、島崎がクックックと笑った。
「尚子さんと一緒だと楽しいね。お昼、また一緒にいいかな?」
「はい、喜んで」
それぞれの勘定を払い、店の前で島崎と別れた。
黙々と酒肴の支度をしている島崎に話かける客はいなかった。整った風貌も相まって、島崎は気さくに話しかけられるような雰囲気ではなかったのだ。行儀の悪い客がいると、静かな声でたしなめることもあったが、基本、客には無頓着だった。静かに酒を飲みたい客にとってはうってつけの店だったのだ。正雄は島崎と高校の頃からの友人で、さすがの島崎も知らん顔はできなかったそうだ。
今日の島崎は居酒屋の頃とは別人のようによく笑ってよく喋った。クロと子供たちのおかげに違いない。モフモフパワーは偉大だ。
寅吉のことを島崎になんど伝えようと思ったかしれない。でも、独断で話すわけにはいかない。先ずは寅吉やクロと相談してからだ。クロ親子には去勢避妊手術の話もしないといけない。
夕飯の後、クロに相談してみた。
「今朝の話、聞いたでしょう。色々相談したいから、寅吉さんを呼んで貰えないかしら」
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