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第三章

④ 忌々しい血脈と愛しい子(公爵視点①) 

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 収納棚を開くと、むわりと濃厚な、甘い果実のような香りがたちこめた。

 ずらりと衣装や靴の収納された棚の片隅に、顔を真っ赤にして、ふるふると震えるルディがうずくまっている。

「ルディ!」

 ちいさな身体を抱き上げると、ルディはうっすらと目を開き、うつろな声で「公爵さま……」と私を呼ぶ。

 ルディの身体から、花の蜜のように甘く淫らな芳香が漂った。淫靡なその香りに包まれると、くらりと目の前の景色が歪む。

「貴様ら、いったいルディになにをしたッ!」

 立ち眩みを起こしそうになるのに耐えながら、ルディを抱きしめたまま、レオンとブラッツを怒鳴りつける。

 ルディは苦しそうに肩で息をしながら、私の腕から抜け出そうとした。

「ちがい、ます……公爵さま。レオンも、ブラッツも悪くない……ぼく、怖い夢を見て……どうしても、ひとりでお部屋にいられなかったんです……」

 あまりの怖さに、震えが止まらなくなって、レオンの部屋に駆け込んだのだと、ルディは途切れ途切れに訴える。

 ルディの吐く息が、とても甘い。蜜のようなその甘さに吸い寄せられ、ちいさな薄桃色の唇に、なりふり構わず喰らいつきたい衝動に駆られた。

「なん、だ、これは……」

 くらり、とふたたび眩暈が襲ってくる。

「公爵、さま……くるし……たす、けて……」 

 腕のなかのルディが、甘い声で喘ぐ。

 私の中心が、ずくりと熱を持つのがわかった。下腹が疼いて、燃えるように熱い。

「公爵、さま……」

 爵位に「さま」をつけるな、と、何度言っても直さない、ルディの悪癖。けれども――その呼び方が、今はとてつもなく扇情的に聞こえた。

 苦しげに喘ぎながら、ルディは必死で手を伸ばす。何度も、何度も、伸びをするように伸ばして、彼は、やっとのことで私の頬に触れた。

「ほゎ……公爵さま、つめたくて、きもちいい……」

 ふわり、とつぼみが開くように微笑み、ルディはうっとりした声で囁く。その瞬間、私のなかの、なにかが壊れた。

「公爵!」

 レオンに強く腕を掴まれ、ようやく、私は我にかえる。

 ベッドの上には、着乱れたルディの姿。彼のちいさな身体に跨り、私は己の中心を怒張させていた。

「ル、ルディ!? す、すまないっ……」

 私はいったい、ルディになにをしようとした……?

 己の頬を平手打ちして、必死で理性を保つ。ばくばくと暴れまわる心臓。血液が沸騰したかのような、湧き上がる身体の熱さ。溢れ出る劣情を堪えきれず、私は欲望のままにルディを力づくで抱こうとしていた。

 ――これでは、あの男たちと同じではないか。私が何よりも忌み嫌う、父や兄と同じだ。

 若い娘のほうが孕みやすいから、と、年端もいかぬ少女たちを『国の未来のため』と称し、とっかえひっかえ、毎夜犯し続ける。人の妻であっても、気に入れば強引に組み敷き、孕ませる。

 あの外道どもと――同類になど、絶対になりたくない。

 ふたたび、自らの頬を強く殴る。脳みそが揺れるような衝撃が走り、ほんの少しだけ、身体の熱を振り払えた気がした。

「レオン、いったいこれはなんだ。毒か。今すぐ解毒剤を出せッ」

 ルディの着衣の乱れを直してやり、私はレオンを問いただした。

「媚薬、です。効きすぎたとき、効き目を緩和するための、薬があります」

 青ざめた顔で、レオンは答えた。

「私の不注意のせいで、大変申し訳ありません……!」

 怯えるレオンの前に、すばやくブラッツが躍り出る。

「悪いのは俺です。レオンじゃない。そんなところに、不注意に媚薬を置きっぱなしにしたのは俺なんです。罰するのなら、どうか俺を罰してくださいッ」

「いえ、その薬は私が――」

「そんなことはどうでもいい! さっさと緩和剤を出せ!」

 二人まとめて怒鳴りつけ、一刻も早く緩和剤を出すよう命じる。怯え切ったレオンが差し出してきたのは、ちいさな錠剤だった。

「水をよこせ」

「いえ、それは経口薬ではなく――」

 口ごもったレオンに代わり、ブラッツが「座薬です」と続けた。

「座薬……? 経口薬はないのか」

「ありません……」

 いたたまれない表情で、レオンは答える。ため息を吐いた後、私は「席を外せ」と二人に命じた。

 青ざめた顔で、二人は顔を見合わせる。

 部屋を出ていく前に、レオンは私に、ちいさな壺のようなものを差し出した。

「この座薬は小さいので、浅い場所に挿れても、すぐに出てきてしまいます。この潤滑剤を使って、可能なかぎり、奥のほうまで挿れてあげてください」

 そう言い残し、レオンは去ってゆく。ムートも、バサバサッと羽ばたき、ブラッツの肩に留まって部屋を出ていった。

 二人きりになると、静まりかえった部屋のなかに、ぜぇぜぇとルディの荒い呼吸だけが響く。

 湿り気を帯びた、甘やかな吐息。耳を撫でるその声に、くらりと脳みそが蕩けてしまいそうになった。

 相変わらず、身体は湧き上がるような熱に苛まれている。少しでも気を抜くと、猛々しい牡を、ルディのちいさな身体に、突き立ててしまいそうだ。

 最悪な己の血を呪いながら、再び私は自分の頬を殴る。

 口のなかに広がる錆くさい血の味が、少しだけ理性を取り戻させてくれた気がした。

「ルディ。すまない。嫌な感じがするかもしれないが、少しだけ我慢してくれ」

 苦しそうに喘ぐルディに声をかけ、私は彼のズボンのベルトに手をかけた。
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