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第12話 真子と里子は殴り合う!
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やあ! と、気合と共に面を叩き込む。真子さんは受けることも出来ず、綺麗に竹刀が炸裂する。人気のない武道場に、パアン、と乾いた音が響き渡った。
「い……痛あ!」
真子さんは膝を折って蹲り、頭を抱える。
「はい、早く立って。もう一本。かかってきなさい!」
私は厳しく言い放つ。
「で、でも」
「叫びなさい、負けるかあ! さんはい!」
「……ま、まけるか」
「声が小さい! 叫べ、負けるかあ!」
私は再び、真子さんに襲い掛かった。
籠手を打つと見せて、素早く面を打ち込む。攻撃は綺麗に頭部を捉え、真子さんは悲鳴を上げて蹲る。
「痛い。もう、嫌だよお」
真子さんはべそをかき始める。私は、間合いを取って竹刀を正眼に構える。
「津藤鋼って人が愛したのは、こんな程度の女なんだね。がっかりした。さぞや良い男なんだって思ったけど、こんな根性なしを好きになるようじゃ、見る目のない馬鹿男たいね」
吐き捨てるように言い放つ。胸の奥がキリリと痛む。眼に、薄く涙が込み上げてきた。止まれ。溢れるな。まだ泣くな。それは卑怯者がすることだ。内心、自分に言い聞かせ、涙を押し込めて顔を上げる。
すると、急に真子さんの気配が変わった。呼吸が静まり、華奢な身体が冷徹な何かを纏う。武術的な気当たりとは少し違う、妙な威圧感を感じる。
「取り消しなさい」
真子さんが、ゆらりと立ち上がる。
「取り消させてみろ!」
怒声を浴びせた次の瞬間、真子さんが気合を発し、竹刀を上段に構えた。
「わあああ! 負けるかぁ!」
彼女は滅茶苦茶に竹刀を振り回しながら、摺り足も使わずに突進してきた。私は真子さんの攻撃をかわし、打ち払って距離を取る。
「どうした! そんなものかあ!」
呼応して吠える。
「わあああ! 馬鹿、馬鹿。わあああ!」
真子さんは、再び突進して竹刀を振り下ろす。一回、二回、三回……! 私は入り身を使い、三度目の攻撃をかわすと同時に踏み込んで、すり抜けながら横薙ぎの一閃を見舞う。
ドシリと、確かな手応えがある。
得意の抜き胴が決まった。我ながら、完璧な一本だった。私は駆け抜けて、真子さんに背を向けたまま、決めの形で静止した。
静寂の中、私はそっと竹刀を下ろす。
「まだまだ気合が足り──」
言い終わる前に、バシッ。と、音が響き渡る。私の後頭部に痛烈な痛みが走り、たまらず苦悶の声を上げる。
「えい。えい、ええい、くたばれ、ええい! やあ! やあああ!」
つんのめった私に、次々と真子さんの竹刀が襲い掛かる。真子さんは、これでもかと私を打ち据えまくり、脚をもつれさせて転びそうになる流れで体当たりまで繰り出した。私は跳ね飛ばされそうになりながら、なんとか体勢を立て直して迎撃する。が、真子さんのあまりの気迫に防戦一方となる。滅茶苦茶な攻撃なのに、勢いが凄くて対処が追いつかない。
「ちょ、一本取ったでしょ。ルール。ルールば考えて!」
「言い訳無用!」
真子さんは、問答無用で追撃の竹刀を打ち下ろす。暴れ狂う攻撃を打ち払い、私は慌てて距離を取った。正直、ハラハラしていた。真子さんめ、一本取られたことに気付かぬ程、頭に血が上っているのか。
考える暇はなかった。
真子さんは再び雄叫びを発し、竹刀を振りかざして突進して来る。私も腹を括り、迎え撃つ。
それは最早、剣道ではなかった。
一本取ろうが打ち込もうが、真子さんはひるまずお構いなしで打ち返してくる。私も打たれたくないので、必死で応戦する。だが、回避からの反撃を見舞っても、鋭く小手への一撃をお見舞いしても、真子さんは相打ち覚悟で打ち込んでくるのだ。打っても、打っても、突進と攻撃が止まらない。なんという覚悟と我慢強さだ!
そうか。だから、真子さんはあの大型犬に負けなかったのか……。打たれながら、ぼやりと頭に過ぎる。互いに、じゃんじゃん竹刀を打ち込みまくるそれは、竹刀を使ったただの殴り合いだった。私たちは、きゃあ、きゃあと悲鳴を上げ、くたくたになるまで叩き合った。
やがて互いに力尽き、大の字になって床に寝っ転がる。流石の私も息が切れ、暫く声が出なかった。身体中のいたるところが痛い。喉がカラカラだ。
「ねえ、真子さん」
私は、やっと言葉を発する。
真子さんは、まだ、息を切らしている。
「思い切り剣を振るって、楽しいでしょう?」
再び言う。すると、真子さんは寝転がったまま、ゆっくりと顔をこっちに向け、竹刀で私の頭をポカリとやった。
★
三◯分後。私たちは、食堂で遅めの昼食を食べた。
真子さんはまだ、ご機嫌斜めである。私に背を向けて、ぷりぷりと怒った気配を漂わせている。
「ごめんって。ねえ、いい加減、許してよ」
と、私は真子さんの顔を覗き込む。すると真子さんは、ぷいっと顔を背けるのだ。怒った様子までもが異常に可愛らしい。
「ねえ、謝ってるでしょう。ごめんなさい」
「……豚骨ラーメン」
真子さんが呟いた。
「え?」
「次は、豚骨ラーメンが食べたい。角煮とか、チャーシューとかが乗ってるのじゃないと嫌だ。大盛で」
「解った。おごります。だけん、許してくれる?」
「餃子も付けてくれる?」
「……チャーハンも付ける」
観念して言と、真子さんは、やっとくすりと笑ってくれた。
「い……痛あ!」
真子さんは膝を折って蹲り、頭を抱える。
「はい、早く立って。もう一本。かかってきなさい!」
私は厳しく言い放つ。
「で、でも」
「叫びなさい、負けるかあ! さんはい!」
「……ま、まけるか」
「声が小さい! 叫べ、負けるかあ!」
私は再び、真子さんに襲い掛かった。
籠手を打つと見せて、素早く面を打ち込む。攻撃は綺麗に頭部を捉え、真子さんは悲鳴を上げて蹲る。
「痛い。もう、嫌だよお」
真子さんはべそをかき始める。私は、間合いを取って竹刀を正眼に構える。
「津藤鋼って人が愛したのは、こんな程度の女なんだね。がっかりした。さぞや良い男なんだって思ったけど、こんな根性なしを好きになるようじゃ、見る目のない馬鹿男たいね」
吐き捨てるように言い放つ。胸の奥がキリリと痛む。眼に、薄く涙が込み上げてきた。止まれ。溢れるな。まだ泣くな。それは卑怯者がすることだ。内心、自分に言い聞かせ、涙を押し込めて顔を上げる。
すると、急に真子さんの気配が変わった。呼吸が静まり、華奢な身体が冷徹な何かを纏う。武術的な気当たりとは少し違う、妙な威圧感を感じる。
「取り消しなさい」
真子さんが、ゆらりと立ち上がる。
「取り消させてみろ!」
怒声を浴びせた次の瞬間、真子さんが気合を発し、竹刀を上段に構えた。
「わあああ! 負けるかぁ!」
彼女は滅茶苦茶に竹刀を振り回しながら、摺り足も使わずに突進してきた。私は真子さんの攻撃をかわし、打ち払って距離を取る。
「どうした! そんなものかあ!」
呼応して吠える。
「わあああ! 馬鹿、馬鹿。わあああ!」
真子さんは、再び突進して竹刀を振り下ろす。一回、二回、三回……! 私は入り身を使い、三度目の攻撃をかわすと同時に踏み込んで、すり抜けながら横薙ぎの一閃を見舞う。
ドシリと、確かな手応えがある。
得意の抜き胴が決まった。我ながら、完璧な一本だった。私は駆け抜けて、真子さんに背を向けたまま、決めの形で静止した。
静寂の中、私はそっと竹刀を下ろす。
「まだまだ気合が足り──」
言い終わる前に、バシッ。と、音が響き渡る。私の後頭部に痛烈な痛みが走り、たまらず苦悶の声を上げる。
「えい。えい、ええい、くたばれ、ええい! やあ! やあああ!」
つんのめった私に、次々と真子さんの竹刀が襲い掛かる。真子さんは、これでもかと私を打ち据えまくり、脚をもつれさせて転びそうになる流れで体当たりまで繰り出した。私は跳ね飛ばされそうになりながら、なんとか体勢を立て直して迎撃する。が、真子さんのあまりの気迫に防戦一方となる。滅茶苦茶な攻撃なのに、勢いが凄くて対処が追いつかない。
「ちょ、一本取ったでしょ。ルール。ルールば考えて!」
「言い訳無用!」
真子さんは、問答無用で追撃の竹刀を打ち下ろす。暴れ狂う攻撃を打ち払い、私は慌てて距離を取った。正直、ハラハラしていた。真子さんめ、一本取られたことに気付かぬ程、頭に血が上っているのか。
考える暇はなかった。
真子さんは再び雄叫びを発し、竹刀を振りかざして突進して来る。私も腹を括り、迎え撃つ。
それは最早、剣道ではなかった。
一本取ろうが打ち込もうが、真子さんはひるまずお構いなしで打ち返してくる。私も打たれたくないので、必死で応戦する。だが、回避からの反撃を見舞っても、鋭く小手への一撃をお見舞いしても、真子さんは相打ち覚悟で打ち込んでくるのだ。打っても、打っても、突進と攻撃が止まらない。なんという覚悟と我慢強さだ!
そうか。だから、真子さんはあの大型犬に負けなかったのか……。打たれながら、ぼやりと頭に過ぎる。互いに、じゃんじゃん竹刀を打ち込みまくるそれは、竹刀を使ったただの殴り合いだった。私たちは、きゃあ、きゃあと悲鳴を上げ、くたくたになるまで叩き合った。
やがて互いに力尽き、大の字になって床に寝っ転がる。流石の私も息が切れ、暫く声が出なかった。身体中のいたるところが痛い。喉がカラカラだ。
「ねえ、真子さん」
私は、やっと言葉を発する。
真子さんは、まだ、息を切らしている。
「思い切り剣を振るって、楽しいでしょう?」
再び言う。すると、真子さんは寝転がったまま、ゆっくりと顔をこっちに向け、竹刀で私の頭をポカリとやった。
★
三◯分後。私たちは、食堂で遅めの昼食を食べた。
真子さんはまだ、ご機嫌斜めである。私に背を向けて、ぷりぷりと怒った気配を漂わせている。
「ごめんって。ねえ、いい加減、許してよ」
と、私は真子さんの顔を覗き込む。すると真子さんは、ぷいっと顔を背けるのだ。怒った様子までもが異常に可愛らしい。
「ねえ、謝ってるでしょう。ごめんなさい」
「……豚骨ラーメン」
真子さんが呟いた。
「え?」
「次は、豚骨ラーメンが食べたい。角煮とか、チャーシューとかが乗ってるのじゃないと嫌だ。大盛で」
「解った。おごります。だけん、許してくれる?」
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