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終幕
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二郎は実家に戻ると、両親が温かく迎えてくれた。この時、不本意にも生きててよかったと思ってしまった。それから二郎は実家の農業を手伝っていた。そして運命の8月6日を迎えるのである。その日は朝から晴天に恵まれ、とても暑かった。二郎は暑さをしのぐために川で釣りをすることにした。すると上空に1機の飛行機か飛んでいた。明らかに日本のものではない。しかし、空襲にしては敵機が1機しかないのは不自然である。しかし、他に敵機は見当たらない。二郎が何かを見落としているのではないかと考えているときだった。突然の閃光と地響きが二郎を襲った。二郎は思わず地に付した。少しして、二郎が顔を上げると、中心部の方から見たことのない、まるでキノコのような雲が見えた。そして、その下は真っ赤な炎に市街が包まれていた。二郎の父親は市街の変電所で働いていた。二郎が居るところから市街までは約25km あった。だが、父親の事が心配で居ても立ってもいられなかった。二郎は走っていた。考えるよりも先に足が前に出た。そして、市街にたどり着く頃には午後3時に近かった。そして二郎は市街にたどり着いて我に返って後悔する。町は瓦礫の山と化し、人は殆どが死に絶え、生きている人も殆どがこの世の者とは思えない形となっていた。しかし、どうにか少年は前に進み変電所へとたどり着いた。しかし、変電所は大きく崩れていた。生存は絶望的かと思われた。二郎はただ泣いた。すると後ろから、二郎を呼ぶ声がした。父親だった。どうやら変電所の壁が厚いおかげで、突風と熱から運よく逃れる事ができたのとのことだった。そして二郎は、父親と共に帰路についた。
家に着くと母親が飛び出してきた。余程心配だったのだろう。普段涙を見せることのない母親が泣いている。当然だろう。あれだけの被害が出ながら最愛の夫が帰って来たのだ。涙しない方がおかしい。しかし、翌日より父親の体に異変が起こり始める。体の至るとこから出血が起こり始めたのだ。初めは鼻血程度の軽いものだった。しかし、日を追うごとに症状は悪化し父親は苦しんでいた。医者にも診てもらったが、見たことのない症状に医者も匙を投げざるを得なかった。そして父親は、最期まで苦しんだ挙句に亡くなった。母親はすっかり沈んでしまって、かつての面影はどこにもない。二郎は何かできることはないかと必死に探した。しかし、何も良い案は出なかった。そんな時、父親の部屋を片付けている時だった、少年は日記のようなものを見つけた。その中身は、床に付してからの日記と母親と自分に対する感謝の手紙だった。二郎は早速それを母親のもとへと持って行った。すると母親は父親の名前を呼びながら大粒の涙を流しながら、泣いた。それから数日後、母親はすっかり元に戻り前を向いて歩いていた。だが、完全に吹っ切れたわけではないだろう。今でも時折、寂しそうな顔をするときがあった。そんな顔を見るたびに少年は母親を支えて生きようと思うようになった。そして母親と二郎は支え合いながら生活をしていた。そして、長かった戦争は終わりを告げた。誰もが予想打にしなかった日本の大敗という結果と共に。国民達は信じられなかった。しかし、下ばかり向いてはいられない。やれねばならない事が山積みなのだ。壊れた町の復興、ライフラインの再構築、住民の安否確認。どれも課題が山積していた。
そんなある日、二郎の下に見合いの話が浮上する。その中に、見覚えのある顔があった。それは幼馴染みのハルの顔だった。小さい頃はよく遊んだものだった。最近は見かけないと思っていたら、どうやら田舎の方に避難していたらしかった。あの戦乱のなかではよくある話である。そして二郎はハルと見合いをするとこにした。見合いをしてからの時間はあっという間だった。昔話に花が咲き、気づけば夜明け間近なんてことがよくあった。本当に楽しかったのだ。そんな時、待望の第1子を授かった。男子なら二郎が、女子ならハルが命名することで、互いに納得していた。本当に幸せな時間が2人の周りを流れた。だが、そんな二郎の体を病魔は静かに蝕んでいた。ゆっくりと、しかし確実に。二郎が、体の異常に気付いたのは、子供を授かってから約半年のことである。胃もたれが続き、食が細くなり、体重が減少した。しかし、二郎は夏バテだと思い特に何もしなかった。しかし症状は一向に改善することなく、悪化の一途をたどった。見かねたハルが病院に連れていき、病名を聞いて唖然とした。病名は胃癌だった。それもかなり進行していたらしい。寿命も持って1ヶ月とのことだった。二郎は即入院となった。そして、心配して見舞いに来た母親を二郎は笑顔で迎えた。それは母親に心配を掛けたくないという意地からだった。勿論二郎は本来、笑顔を作っていられる状態ではない。それでも二郎は必死に笑顔を作った。先生には母親には伝えないように頼んでいた。二郎の笑顔を見た母親は安堵の表情を浮かべた。それから二郎は、必死に病魔と戦った。しかし、二郎の体力は限界だった。1週間後母親が病室を訪ねた時母親は泣き崩れた。二郎は亡くなったのである。ハルによれば、昨夜病状が急変したとのことだった。母親には言うなと次郎に言われ連絡ができなかったらしい。
母親がふと二郎の引き出しの上を見た。そこには1冊の本が置いてあった。母親がその本を手に取ると封筒が中に挟んであった。中には母親に宛てたものと、ハルに宛てたもの、そして、子供の名前を記したものが出てきた。その裏には
「男子が生まれたらこの名前にしてくれ。俺が最も好きな名前だ。」
そして表には見事な字で「大和」と書いてあった。
二郎が亡くなってから約4ヶ月後ハルは出産した。元気な男子だった。勿論名前は「大和」である。
家に着くと母親が飛び出してきた。余程心配だったのだろう。普段涙を見せることのない母親が泣いている。当然だろう。あれだけの被害が出ながら最愛の夫が帰って来たのだ。涙しない方がおかしい。しかし、翌日より父親の体に異変が起こり始める。体の至るとこから出血が起こり始めたのだ。初めは鼻血程度の軽いものだった。しかし、日を追うごとに症状は悪化し父親は苦しんでいた。医者にも診てもらったが、見たことのない症状に医者も匙を投げざるを得なかった。そして父親は、最期まで苦しんだ挙句に亡くなった。母親はすっかり沈んでしまって、かつての面影はどこにもない。二郎は何かできることはないかと必死に探した。しかし、何も良い案は出なかった。そんな時、父親の部屋を片付けている時だった、少年は日記のようなものを見つけた。その中身は、床に付してからの日記と母親と自分に対する感謝の手紙だった。二郎は早速それを母親のもとへと持って行った。すると母親は父親の名前を呼びながら大粒の涙を流しながら、泣いた。それから数日後、母親はすっかり元に戻り前を向いて歩いていた。だが、完全に吹っ切れたわけではないだろう。今でも時折、寂しそうな顔をするときがあった。そんな顔を見るたびに少年は母親を支えて生きようと思うようになった。そして母親と二郎は支え合いながら生活をしていた。そして、長かった戦争は終わりを告げた。誰もが予想打にしなかった日本の大敗という結果と共に。国民達は信じられなかった。しかし、下ばかり向いてはいられない。やれねばならない事が山積みなのだ。壊れた町の復興、ライフラインの再構築、住民の安否確認。どれも課題が山積していた。
そんなある日、二郎の下に見合いの話が浮上する。その中に、見覚えのある顔があった。それは幼馴染みのハルの顔だった。小さい頃はよく遊んだものだった。最近は見かけないと思っていたら、どうやら田舎の方に避難していたらしかった。あの戦乱のなかではよくある話である。そして二郎はハルと見合いをするとこにした。見合いをしてからの時間はあっという間だった。昔話に花が咲き、気づけば夜明け間近なんてことがよくあった。本当に楽しかったのだ。そんな時、待望の第1子を授かった。男子なら二郎が、女子ならハルが命名することで、互いに納得していた。本当に幸せな時間が2人の周りを流れた。だが、そんな二郎の体を病魔は静かに蝕んでいた。ゆっくりと、しかし確実に。二郎が、体の異常に気付いたのは、子供を授かってから約半年のことである。胃もたれが続き、食が細くなり、体重が減少した。しかし、二郎は夏バテだと思い特に何もしなかった。しかし症状は一向に改善することなく、悪化の一途をたどった。見かねたハルが病院に連れていき、病名を聞いて唖然とした。病名は胃癌だった。それもかなり進行していたらしい。寿命も持って1ヶ月とのことだった。二郎は即入院となった。そして、心配して見舞いに来た母親を二郎は笑顔で迎えた。それは母親に心配を掛けたくないという意地からだった。勿論二郎は本来、笑顔を作っていられる状態ではない。それでも二郎は必死に笑顔を作った。先生には母親には伝えないように頼んでいた。二郎の笑顔を見た母親は安堵の表情を浮かべた。それから二郎は、必死に病魔と戦った。しかし、二郎の体力は限界だった。1週間後母親が病室を訪ねた時母親は泣き崩れた。二郎は亡くなったのである。ハルによれば、昨夜病状が急変したとのことだった。母親には言うなと次郎に言われ連絡ができなかったらしい。
母親がふと二郎の引き出しの上を見た。そこには1冊の本が置いてあった。母親がその本を手に取ると封筒が中に挟んであった。中には母親に宛てたものと、ハルに宛てたもの、そして、子供の名前を記したものが出てきた。その裏には
「男子が生まれたらこの名前にしてくれ。俺が最も好きな名前だ。」
そして表には見事な字で「大和」と書いてあった。
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