琥珀色の秘密〜ウィスキーとお惣菜の癒し時間〜

山いい奈

文字の大きさ
7 / 38
2章 それは、あなたなんです

第2話 似ていないから

しおりを挟む
「こんばんは」

「あ、かなめ伯母ちゃん、伯父さん、こんばんは、いらっしゃいませ」

「かなめさん、伯父さんいらっしゃい」

 かなめ伯母ちゃんとその旦那さんは、長居から2駅しか離れていない昭和町に住んでいるので、ときどき週末に夫婦で来てくれるのだ。今日は土曜日、時間は開店すぐの18時過ぎ。今日は深川さんたちファンクラブの来店はないはずだ。

 昭和町は大阪でも有数の繁華街である天王寺の隣駅なのだが、昭和町は住宅街の色が濃い。駅周辺や、御堂筋線の上を走っているときはま線沿いにはスーパーやドラッグストア、飲食店なども多いが、1本路地に入れば民家やマンションがずらりと並ぶのである。

 かなめ伯母ちゃんたちは、保さんともすっかりと顔なじみだ。お兄ちゃんとの関係も知ったうえで、見守ってくれている。ふたりは保さんに「こんばんは」と会釈をしつつ、保さんからひとつ開けた席に並んで掛けた。そして。

「スイくーん」

 かなめ伯母ちゃんはそう言って手を振った。スイはむくりと起き上がると、のそりと猫かごから出てくる。優雅に、しかし器用にボトルやグラスなどを避けながらカウンタを歩いて、かなめ伯母ちゃんの手にすり寄った。そこには半透明のタコちゃんがいる。

 この場でタコちゃんの姿が見えているのは、スイと那津、そしてかなめ伯母ちゃんと伯父さん。猫又は自らの意思で、半透明になった姿を見せるか見せないかを選んでいる。かなめ伯母ちゃんと結婚した伯父さんは、タコちゃんの信用を勝ち得たいうことだ。だからタコちゃんは伯父さんと会話もできる。

 かなめ伯母ちゃんたちにはお子さんがいないので、タコちゃんをお子さんのように可愛がっているのだ。タコちゃんと話をすることができることが嬉しいと、以前伯父さんは言っていた。

 それを言うと、お兄ちゃんはまだスイに信用されていないということになる。お兄ちゃんはスイのことも那津のことも大事にしてくれるし、スイもお兄ちゃんへの好感度は低くないはずだ。だがスイにとってはまだなのだ。スイは少し警戒心が強いのかも知れない。

「蛍くん、ボトルを。あたしはハイボールで」

「私はロックで頼むわ」

「はい」

 瀬畑夫妻がキープしているボトルは「富士」である。日本製のシングルモルトだ。りんごのようなフルーティな香りを持ち、すっきりとした味わいな一品だ。

「那津ちゃん、お惣菜全種よろしくね」

「はい。晩ごはんは食べはったんですか?」

「うん、駅前の天一で。たまに食べると美味しいんよね~、こってり」

 京都に本店があるラーメン屋さん「天下一品」さん。鶏がらスープとお野菜で作られる唯一無二のこってりスープが人気で、今やほぼ全国に店舗展開している。最近は味噌ラーメンや塩ラーメンも開発され、きっとお客さまを増やしていることだろう。

 那津はなつめ伯母ちゃんと伯父さんの前に、3種のお惣菜と取り皿、割り箸を置いた。今日のお惣菜はすり白ごまたっぷりのきんぴら蓮根、ベーコンと里芋の塩煮っころがし、お大根と人参のハニーマスタード和えだ。

「私はもっとしょっちゅう食べたいんやけどなぁ」

 伯父さんが言うと、かなめ伯母ちゃんは「ちょっとぉ」と咎めるような声を出す。

「たまにならええけど、あんま頻繁はあかんて。あんた、血圧高めなんやから」

「ありゃ、それやったらラーメンは天敵やないですか」

 ラーメンのスープは、全部飲み干すと塩分過多になることは常識である。控えめなラーメンもあるのかも知れないが、基本は塩分が高いとされている。那津のせりふに伯父さんは苦笑して。

「せやねん。参ったで、ほんま」

「さっきもやめとけって言うたのに、スープ飲み干してもたんよ。なんや普段あたしが減塩食作ってるんがあほらしくなるわ」

「ごめんて」

 伯父さんはほとほと弱り切った顔になってしまうが。

「伯父さん、長生きしてくださいね。お元気でおって欲しいです」

「ありがとう」

 那津が言うと、ほわりと微笑んだ。かなめ伯母ちゃんはお母さんの姉だから、年齢は60歳近いはずで、伯父さんはかなめ伯母ちゃんと同じ歳である。血圧の心配があってもおかしくない年齢だ。

 年齢的に、かなめ伯母ちゃんや伯父さんのほうが先に逝くなんてことは分かっている。それでもできることなら、もう大切な人を喪いたくないのだ。あんな辛さはもうまっぴらなのである。

 見ると、スイはかなめ伯母ちゃんの膝の上で心地よさげに、お餅のようにだらんと伸びている。タコちゃんは半透明の姿で、伯父さんの水割りをぺろぺろと舐めていた。

 伯父さんはいつもロックを頼むのだが、それはタコちゃんのためなのだ。背が低く口が広いロックグラスのほうが、タコちゃんが飲みやすいからだ。伯父さんはお酒には強いほうではあるが、好きなのは水割りなのだ。だから伯父さんは氷が溶けるまで少し待つのである。

 猫又は、おねぎ類やチョコレートだけではなく、お酒だって飲めてしまうのだ。スイはそこまでお酒好きではないが、甘い缶酎ハイなどは好きで、お家でお兄ちゃんの目を盗んで飲ませたりしている。タコちゃんは辛党らしく、ウィスキーどんとこいなのだ。

「それにしても、ここはいつ来てもええお店よねぇ」

「ほんま。ブラウンが主体になってるからかなぁ、照明の落ち具合もちょうどええわ」

「蛍くんは可愛いし、那津ちゃんはまどかに似て、さらにきれいになった気がする」

「あら、かなめさん、嬉しいこと言うてくれますねぇ」

「ありがとうございます」

 かなめ伯母ちゃんとお母さんは、あまり容姿の似ていない姉妹だった。かなめ伯母ちゃんがお祖母ちゃん似、お母さんがお祖父ちゃん似なのだ。お祖父ちゃんはなかなかの美丈夫で、なのでお母さんは美人タイプ。かなめ伯母ちゃんは可愛いという印象だ。

 那津は、かなめ伯母ちゃんとお母さんがあまり似ていなくてよかったと思ってしまう。似ていたら、かなめ伯母ちゃんと会うたびにお母さんを思い出すだろうし、へたをしたら面影を重ねてしまう。それはかなめ伯母ちゃんに失礼だと思うのだ。

「うん。蛍くんのほんまの性別を聞いたときにはびっくりしたけど、那津ちゃんとスイと、ちゃんと家族でおってくれて、ほんまによかった」

「当然ですよ。なっちゃんは大事な妹ですからね。スイも可愛い我が家の一員ですから」

 お兄ちゃんはそう言って、胸を張ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とくら食堂、朝とお昼のおもてなし

山いい奈
キャラ文芸
25歳の都倉碧は、両親と一緒に朝昼ごはんのお店「とくら食堂」を営んでいる。 やがては跡を継ぐつもりで励んでいた。 そんな碧は将来、一緒に「とくら食堂」を動かしてくれるパートナーを探していた。 結婚相談所に登録したり、紹介してもらったりしながら、様々な男性と会うのだが? 前職でのトラブルや、おかしなお見合い相手も乗り越えて。 25歳がターニングポイントになるのか。碧の奮闘記です。

冷たい舌

菱沼あゆ
キャラ文芸
 青龍神社の娘、透子は、生まれ落ちたその瞬間から、『龍神の巫女』と定められた娘。  だが、龍神など信じない母、潤子の陰謀で見合いをする羽目になる。  潤子が、働きもせず、愛車のランボルギーニ カウンタックを乗り回す娘に不安を覚えていたからだ。  その見合いを、透子の幼なじみの龍造寺の双子、和尚と忠尚が妨害しようとするが。  透子には見合いよりも気にかかっていることがあった。  それは、何処までも自分を追いかけてくる、あの紅い月――。

あやかし警察おとり捜査課

紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。  しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。  反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。  

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

黄泉津役所

浅井 ことは
キャラ文芸
高校入学を機にアルバイトを始めようと面接に行った井筒丈史。 だが行った先は普通の役所のようで普通ではない役所。 一度はアルバイトを断るものの、結局働くことに。 ただの役所でそうではなさそうなお役所バイト。 一体何をさせられるのか……

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます! 神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。 美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者! だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。 幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?! そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。 だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった! これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。 果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか? これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。 *** イラストは、全て自作です。 カクヨムにて、先行連載中。

処理中です...