琥珀色の秘密〜ウィスキーとお惣菜の癒し時間〜

山いい奈

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3章 うそと本物

第5話 ええように

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「……祖父ちゃんと祖母ちゃんの、好きにしてくれたらええよ」

 お兄ちゃんはぽつりと言う。それは、お兄ちゃんがご祖父母の希望に沿うことを意味する。

 よかった、那津なつは心からそう思う。ご祖父母とお兄ちゃんは那津とは違い、血の繋がりのある家族なのだ。

 家族だから、必ずしも仲良くしなければならないとは思わない。那津は違ったし、周りでもあまり聞くことはなかったが、子にとっての毒親というものがいることぐらいは知っている。そういう人なら、むしろ縁を切ったほうがよい場合もある。

 それでも不思議なもので、やはり血縁のある人がいてくれるかどうかというのは、心の安定が変わってくるように感じる。那津にはかなめ伯母ちゃんや、お母さん方の祖父母もいる。だがお兄ちゃんは離れてしまっていた。

 先が長くないなんて、縁起でもない話ではあるが、それでも少しでも、血が繋がったご祖父母とのふれあいは、お兄ちゃんにとって、そしてご祖父母にとって、よいことだと思うのだ。

 那津は皮を剥いたじゃがいもを1.5センチ角ほどの大きさに切り、表面のデンプンを洗い流し、お水を張ったお鍋に入れて火に掛けた。

「そうか……、ありがとうなぁ」

 お祖父さまは顔をくしゃりとさせて、お兄ちゃんにお礼を言う。それは、心残りだったのかも知れない。気づけば息子を喪っていて、近しい血縁はお兄ちゃんだけ。ごきょうだいはいるのかも知れないが、年齢的に亡くなっていてもおかしくはない。だから、ご祖父母はお兄ちゃんのもとに来たのだと思う。

 もう、自分たちの軌跡を残せるのは、お兄ちゃんだけなのだ。お父さんとお母さんのことで意地を張ってしまったけれど、それを曲げてでも、安心が欲しかったのだ。

 それが、年齢を重ねるということなのかも知れない。ご祖父母も不安なのだろう。自分たちのあとを託せる人がいるかいないか、それは大きなものなのだろう。

 那津は想像しかできない。それでもこうして復活しようとしている絆を、好ましく思う。疎遠にはなっていても、気にかけていたから、きっとこの状況なのだ。ご祖父母は遺産のこともそうだが、お兄ちゃんを大切に思ってくれていたのだ。

 お鍋のなかで、じゃがいもがぐらぐらと揺れている。竹串を刺すと、ほぼ抵抗なく入っていく。火が通った証拠だ。そこに冷凍グリンピースを入れると、温度が下がって静かになった。



 ご祖父母は、今度は「ウィスキーバー TOMO」のお客として来ると約束をして、帰っていった。

「にゃあぁぁ」『やっと帰ったにゃ』

 スイが言いながら、猫かごのなかで大きく伸びをする。ご祖父母がいる間、スイなりに気を使って、息を潜めてくれていたのだ。

「なっちゃん、スイ、騒がせてごめんな、買い物も」

「ううん、大丈夫。お店にあるもんで作れたし、お話もね、聞けてよかった」

「にゃあ」『構わんよ』

 那津は茹で上がったじゃがいもとグリンピースをざるにあげ、水分を切ってお鍋に戻す。また火に掛けて水気を飛ばし、粉ふきにした。

「これはね、単にわたしの感覚なんやけど、大切な縁って、やっぱりたくさんあるほど心強いと思うんよ。心の拠り所とか、そういうのとか。お兄ちゃんも、お祖父さまとお祖母さまのこと、気に掛かってたんとちゃうん?」

「まぁ……、忘れたりすることはないわな」

 お兄ちゃんは気まずそうに首筋を掻いた。途切れていたとはいえ、縁者なのだから、心にあり続けるのだ。

「遺産のことは別として、おふたりともまだぴんしゃんしてはったけど、これからどうなんるか分からんもんね。そのときになったら、多分動けるんはお兄ちゃんだけなんよね。お父さんがおらんくなったから」

「せやな。ま、できる限りのことはするつもりや」

「うん」

 那津は粉ふきにしたじゃがいもとグリンピースにお塩とこしょう、お酢とバターを入れて混ぜ込んだ。粗熱が取れたらマヨネーズで調味をする。

 こうして今日のお惣菜、玉ねぎの塩こんぶ和え、切り干し大根とわかめのごま炒め、シンンプルポテトサラダが仕上がった。



「……そっか」

 お兄ちゃんからご祖父母来店のお話を聞いたたもつさんは、少しばかり安心したような顔で、呟いた。

「ぼくなんかがおこがましいけど、やっぱり没交渉なんは気になってた。理由が理由やったし」

「保さんは、お兄ちゃんが祖父母さんと距離を取ってた理由、知ってはったんですか」

「うん、軽く聞いた程度やけどな」

 保さんとお兄ちゃんの関係性から、保さんが知っていてもおかしくはない。だが那津が知らなかった友永家の事情を保さんが知っていたことは、那津の心を少しざわつかせた。少し考えれば、那津を傷つけないために言わなかったことだと分かるのに。

「もし、ぼくにもできることがあったら、なんでも言うて。力になるから」

「おう」

 お兄ちゃんがにかっと笑う。保さんを信用しているのだな、と思う。そんな関係が羨ましい。

「あの、お兄ちゃん、わたしも協力するから。わたしのことは孫やって、今さら思うんは難しいやろうけど、でも、わたしにできることやったら」

「……おう、ありがとう」

 お兄ちゃんは一瞬呆気にとられたような顔をし、次にはふわりと微笑んだ。
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