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4章 琥珀色の真実
第9話 いつまでも繋がっていて欲しくて
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お兄ちゃんと那津は気持ちを確かめ合ったあと、休日だったこともあって、その日はお家でスイと3人でのんびりと過ごした。
最初こそは気まずさから、那津の動きなどがぎこちなくて、情けなくなったものだが、だんだんと慣れてきて、やがてこれまで通りに笑いあえるようになった。
不思議だ。リビングで一緒にテレビを見ているだけでも楽しい。今日は月曜日だから、お昼には全国区のバラエティ、それが終わると関西ローカル局のバラエティ番組へと続き、サスペンスドラマの再放送へとなだれ込む。
それは、いつもの月曜日。でも、いつもとは少し違う月曜日。
スイはいつもよりも伸び伸びして、お兄ちゃんとも那津とも会話を繰り広げる。
「にゃあん」『蛍は思ったよりもへたれやったのにゃ』
「へたれて」
お兄ちゃんは苦笑し、那津も笑みをこぼす。
「にゃあぁ」『那津も笑ってる場合やないにゃ。鈍感にもほどがあるのにゃ』
「そんなん言われても~」
那津は情けない声を上げる。でもすぐに持ち直して。
「でもスイ、なんでお兄ちゃんに猫又なことを黙ってたん? お父さんには結構始めのころに言うてたよね?」
「あ、おとんも知ってたんや。なんかずっこい」
お兄ちゃんは小さく拗ねたような表情になる。するとスイはつんと澄まして。
「にゃ、にゃあ」『蛍がほんまのことを言わなかったからにゃ。ぼくが助け舟を出さなかったら、まだ黙っていたつもりだったのにゃ?」
「そ、れは、まぁ」
お兄ちゃんはうろたえる。
「いや、だって、なっちゃんとの関係が壊れるん、怖かったんや。情けないんやけど」
そう言って、苦笑いを浮かべる。でも、それは。
「多分、わたしもそうやった。せやから、気づけんかったんやと思う」
「おれら、同じ心配してたんやな」
「せやね」
ほのぼのとした空気が流れる。スイは呆れたように「にゃん」と鳴いた。
「にゃあん」『それがたとえ那津のためやったとしても、ぼくにとっては蛍は嘘つきだったのにゃ。だから正体を明かさなかったのにゃ。蛍は反省するのにゃ』
「おう……」
スイの辛辣とも言える言葉にお兄ちゃんはうなだれる。だがこれはある意味、那津との連帯責任だ。お兄ちゃんと那津の臆病な部分が、引き伸ばしただけなのだ。
「あ、でもお兄ちゃん、保さんは? 保さんとのお付き合いは?」
「もちろん嘘や。保も協力者やった。おれもやけど、保も恋愛対象は一般的な女性や。おれの嘘の信憑性を高めるために、協力してもろた。ま、これであいつも、本命にいけるやろ」
「保さん、本命さんがいてはるん?」
「おう。ま、そのうち分かるわ」
誰だろう。保さんは夜はずっと「ウィスキーバー TOMO」にいたが、出会いなどはあったのだろうか。それは那津が心配するようなことではない気もするが。
「そっか、お兄ちゃんには保さんとかなめ伯母ちゃんの手助けがあったんやね。ぜんぜん気づかんかった」
「そこは、おれも細心の注意を払った。でも行きつけのバーからばれるとはなぁ。おれも、保とふたりで気が緩んで、油断してしもたかも。迂闊やったわ」
「保さんは親友やから、きっとリラックスするよね。お兄ちゃんもずっと気を張り詰めてて、しんどかったんとちゃう?」
「それはぜんぜん。おれ、ある意味楽しんどった。あ、周りを騙すこととちゃうで、それはさすがに少しは罪悪感あった。女装のことな。結構似合っとったと思わん?」
お兄ちゃんはにやりと笑う。那津もそう思うので、「せやね」と微笑んだ。
「まぁ、店でも急におれが男の格好しても、客も混乱するやろしな。このままでいくわ」
「うん。お店も華やかでええと思う」
那津は頷いた。
火曜日。お昼営業を経て、夜の営業が始まる。今日も保さんは開店と同時に来てくれた。まずは瓶ビールをグラス注ぎ、美味しそうに傾ける。1杯目を注いだのは、いつも通りお兄ちゃんだ。他にお客さまはいない。
「保、なっちゃんにあれ、ばれたわ」
保さんはぴくりと眉を上げ、グラスを置いた。
「どこまで?」
「全部。おれが女やないってことも、なっちゃんが好きやってことも」
「そっか」
保さんはあっさりとそう言う。
「遅すぎるぐらいやで。蛍、結構ぐらぐらやったのに」
「嘘やん、おれ、かなりがんばったつもりやで?」
お兄ちゃんはショックを受けたようで、たじろぐ。
「ははは」
保さんはおかしそうに笑い、お兄ちゃんは追い討ちをかけられたように「まじか」とうなだれた。
「ま、蛍にしてはようやったんちゃうか?」
「なんでそんな上から目線やねん」
からかうような保さんのせりふに、お兄ちゃんは不機嫌な様子を隠さない。
「まぁ、これでぼくも、堂々と出口さんにアタックできるわ」
那津は思わず目を見張ってしまう。まさか、保さんの本命さんは出口さんなのか?
「せやな。待たせてすまんかったな」
どうやら、本当にそのようだ。確かに出口さんはとても可愛らしい女性で、おっとりしていて、保さんともうまが合うようだった。なるほど、と、那津は納得した。
お兄ちゃんの疑惑を教えてくれた出口さんには、他言無用と添えて、真実を伝えた。その理由までは、那津とのこともあるので言っていない。出口さんはお兄ちゃんが好きだったので、今、それを言うのは憚られたのだ。きっといつか、しかるべきときが来るのだと思う。
「でも、ま、いくらなんでも蛍に協力は頼まんよ。出口さんはもともと蛍が好きやったんやから、傷つけるようなことはしたくないからな」
「せやな。巧くいくように願ってるわ」
那津もぜひ応援したい。なので、保さんに向かって笑顔で頷いた。スイも「にゃあ」『保は見る目があるのにゃ』と呟いた。
「TOMO」はこれまで通り、続いていく。お兄ちゃんと那津、スイは、少し関係性が変わったけれども、これからも家族でいることができる。
保さんがこうして毎日来てくれるのは、いつまでだろうか。出口さんはきっとまた、金曜日に来てくれる。日々、ご常連によって、お店が彩られて。
そんな宝物のような時間が、これからも繋がってほしいと思うのだ。
最初こそは気まずさから、那津の動きなどがぎこちなくて、情けなくなったものだが、だんだんと慣れてきて、やがてこれまで通りに笑いあえるようになった。
不思議だ。リビングで一緒にテレビを見ているだけでも楽しい。今日は月曜日だから、お昼には全国区のバラエティ、それが終わると関西ローカル局のバラエティ番組へと続き、サスペンスドラマの再放送へとなだれ込む。
それは、いつもの月曜日。でも、いつもとは少し違う月曜日。
スイはいつもよりも伸び伸びして、お兄ちゃんとも那津とも会話を繰り広げる。
「にゃあん」『蛍は思ったよりもへたれやったのにゃ』
「へたれて」
お兄ちゃんは苦笑し、那津も笑みをこぼす。
「にゃあぁ」『那津も笑ってる場合やないにゃ。鈍感にもほどがあるのにゃ』
「そんなん言われても~」
那津は情けない声を上げる。でもすぐに持ち直して。
「でもスイ、なんでお兄ちゃんに猫又なことを黙ってたん? お父さんには結構始めのころに言うてたよね?」
「あ、おとんも知ってたんや。なんかずっこい」
お兄ちゃんは小さく拗ねたような表情になる。するとスイはつんと澄まして。
「にゃ、にゃあ」『蛍がほんまのことを言わなかったからにゃ。ぼくが助け舟を出さなかったら、まだ黙っていたつもりだったのにゃ?」
「そ、れは、まぁ」
お兄ちゃんはうろたえる。
「いや、だって、なっちゃんとの関係が壊れるん、怖かったんや。情けないんやけど」
そう言って、苦笑いを浮かべる。でも、それは。
「多分、わたしもそうやった。せやから、気づけんかったんやと思う」
「おれら、同じ心配してたんやな」
「せやね」
ほのぼのとした空気が流れる。スイは呆れたように「にゃん」と鳴いた。
「にゃあん」『それがたとえ那津のためやったとしても、ぼくにとっては蛍は嘘つきだったのにゃ。だから正体を明かさなかったのにゃ。蛍は反省するのにゃ』
「おう……」
スイの辛辣とも言える言葉にお兄ちゃんはうなだれる。だがこれはある意味、那津との連帯責任だ。お兄ちゃんと那津の臆病な部分が、引き伸ばしただけなのだ。
「あ、でもお兄ちゃん、保さんは? 保さんとのお付き合いは?」
「もちろん嘘や。保も協力者やった。おれもやけど、保も恋愛対象は一般的な女性や。おれの嘘の信憑性を高めるために、協力してもろた。ま、これであいつも、本命にいけるやろ」
「保さん、本命さんがいてはるん?」
「おう。ま、そのうち分かるわ」
誰だろう。保さんは夜はずっと「ウィスキーバー TOMO」にいたが、出会いなどはあったのだろうか。それは那津が心配するようなことではない気もするが。
「そっか、お兄ちゃんには保さんとかなめ伯母ちゃんの手助けがあったんやね。ぜんぜん気づかんかった」
「そこは、おれも細心の注意を払った。でも行きつけのバーからばれるとはなぁ。おれも、保とふたりで気が緩んで、油断してしもたかも。迂闊やったわ」
「保さんは親友やから、きっとリラックスするよね。お兄ちゃんもずっと気を張り詰めてて、しんどかったんとちゃう?」
「それはぜんぜん。おれ、ある意味楽しんどった。あ、周りを騙すこととちゃうで、それはさすがに少しは罪悪感あった。女装のことな。結構似合っとったと思わん?」
お兄ちゃんはにやりと笑う。那津もそう思うので、「せやね」と微笑んだ。
「まぁ、店でも急におれが男の格好しても、客も混乱するやろしな。このままでいくわ」
「うん。お店も華やかでええと思う」
那津は頷いた。
火曜日。お昼営業を経て、夜の営業が始まる。今日も保さんは開店と同時に来てくれた。まずは瓶ビールをグラス注ぎ、美味しそうに傾ける。1杯目を注いだのは、いつも通りお兄ちゃんだ。他にお客さまはいない。
「保、なっちゃんにあれ、ばれたわ」
保さんはぴくりと眉を上げ、グラスを置いた。
「どこまで?」
「全部。おれが女やないってことも、なっちゃんが好きやってことも」
「そっか」
保さんはあっさりとそう言う。
「遅すぎるぐらいやで。蛍、結構ぐらぐらやったのに」
「嘘やん、おれ、かなりがんばったつもりやで?」
お兄ちゃんはショックを受けたようで、たじろぐ。
「ははは」
保さんはおかしそうに笑い、お兄ちゃんは追い討ちをかけられたように「まじか」とうなだれた。
「ま、蛍にしてはようやったんちゃうか?」
「なんでそんな上から目線やねん」
からかうような保さんのせりふに、お兄ちゃんは不機嫌な様子を隠さない。
「まぁ、これでぼくも、堂々と出口さんにアタックできるわ」
那津は思わず目を見張ってしまう。まさか、保さんの本命さんは出口さんなのか?
「せやな。待たせてすまんかったな」
どうやら、本当にそのようだ。確かに出口さんはとても可愛らしい女性で、おっとりしていて、保さんともうまが合うようだった。なるほど、と、那津は納得した。
お兄ちゃんの疑惑を教えてくれた出口さんには、他言無用と添えて、真実を伝えた。その理由までは、那津とのこともあるので言っていない。出口さんはお兄ちゃんが好きだったので、今、それを言うのは憚られたのだ。きっといつか、しかるべきときが来るのだと思う。
「でも、ま、いくらなんでも蛍に協力は頼まんよ。出口さんはもともと蛍が好きやったんやから、傷つけるようなことはしたくないからな」
「せやな。巧くいくように願ってるわ」
那津もぜひ応援したい。なので、保さんに向かって笑顔で頷いた。スイも「にゃあ」『保は見る目があるのにゃ』と呟いた。
「TOMO」はこれまで通り、続いていく。お兄ちゃんと那津、スイは、少し関係性が変わったけれども、これからも家族でいることができる。
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