13 / 46
1章 ばら色の日々
第12話 良くても悪くても
世都はタロットカードを両手でかき混ぜる。ひと山にまとめ、3山に分け、またひとつに。
そしていちばん上のカードをめくろうとして、その手を止めた。このままこの結果を伝えて良いものなのか、躊躇してしまう。
「女将さん……?」
結城さんが怪訝そうに首を傾げる。早く結果が知りたくてたまらないのだろう。
しかし、この結果が良いものであっても悪いものであっても、今のままでは。
きっと、結城さんが望む様な未来は訪れない。奇跡でも起きなければ。
「結城さん、結城さんはどうしはりたいんですか?」
世都の質問に、結城さんはぽかんとする。
「え、どうって」
「素敵な人と出会いたいて、言うてはりましたよね?」
「はい、そうです」
世都はまだカードをめくらない。この結果は「今の」結城さんによるものだ。それだときっと意味が無いのだ。
「そのためには、私は、結城さんが自立しはることが大事なんや無いかなぁって思うんです」
すると、結城さんはまたきょとんと目を瞬かせる。
「あたし、自立してますよ。働いてひとり暮らししてますし」
「そうや、無いんですよ」
世都はふるりと首を振る。確かに経済的には自立しているのだろうが。
「心の、自立です」
「心……?」
言われた意味が理解できないのか、結城さんは眉をしかめる。気分を害させてしまったかも知れない。だが世都は言葉を続ける。
「結城さんは、男性と、恋人と常に一緒にいたいと思ってはるんですよね?」
「恋人やったら、それが当たり前や無いんですか? 好きやから一緒にいたい、何をしてるか知りたい、そう思うんや無いですか?」
「思う人もいれば、思わん人もいますよ」
「そんなの、寂しく無いですか?」
「無いんですよねぇ」
互いが同じ熱量なら、釣り合いも取れるのだろう。それは勝手にやってくれと思う。だが結城さんの場合はそうでは無かったから、破局に至ったのだ。
恋は求めるもの、愛は与えるもの。良く言ったものである。相手のために尽くしてあげたいと思うことも、愛の側面なのかも知れない。だがそれは自己満足という見方もできる。
世都は尽くすことは相手のためにならないと思っているので、余計にそう感じてしまうのかも知れない。世都の個人的感情なのではあるが。
相手のことを思う、考える、慮る、何を望んでいるのかを汲み取る。それはとても難しいことだ。だがそれをしようとする心が「愛」なのだと思う。一緒に暮らしたいと言うのなら、それは必要不可欠なものなのだ。家族同士であっても、友人同士であっても、恋人同士であっても。
結城さんは相手のことを考えている様で、そうでは無かった。求めていただけだったのだ。きっと山縣さんには重荷になっていただろう。結城さんの感情は「恋」の域を超えてはいなかった。
「だって、恋は人生のオプションですもん」
恋や趣味などは人生を彩るものであって、不可欠なものでは無いのだ。あれば気持ちが、人生が豊かになる、それだけのものだ。暴論だとも思うが、それは事実であると世都は思う。
未熟な恋が育ってたおやかな愛になる。それはその通りだと思う。だが育てきれない人だっている。今の結城さんがその典型なのだ。
「オプション、ですか……?」
「はい。無くてもええもんやと、私は思ってます」
「でも、あたしには無くてはならんもんで……」
それが悪いことだとは言わない。それも大きな潤いだ。だが先を考えるのであれば、発展させてあげなければならないのだと思う。
恋特有のときめきなども大事なものなのだろう。だが相手の悪いところも受け入れることができる器は愛から生まれる。少なくとも世都はそう思っている。もちろん限度はあるが。言葉であれ物理であれ暴力行為を受けたら逃げて欲しいし、浮気などされたら社会的に痛め付けてやれなんて過激なことを思ってしまう。
相手を思いやれなければ、健全な関係なんて築けない。相手に求めてばかりだと、その関係は歪みを起こす。簡単なことなのだ。
「結城さん、一緒に暮らすのに、関係を続けるのに大事なことは、なんやと思います?」
「え、な、なんやろ」
結城さんはうろたえてしまう。相手を優先し、尽くし、そして縛ってしまっていた結城さん。そんな結城さんに言うには酷なのかも知れない。だが、そうしなければきっと結城さんは一生このままだ。自分で気付くにはきっと難しい。なぜなら。
「自分勝手にならんことです」
結城さんが目を見張り、息を飲むのが分かる。
「あたし、自分勝手、ですか?」
世都はゆっくりと頷く。結城さんの顔がみるみると強張って行った。
「そんな、そんなつもりは」
「もちろん無いんやと思いますよ。でもね、結城さん、結城さんはお相手に求めてしもうてばかりなんや無いかと思うんですよ」
「でもあたし、家事とかも全部やってあげたりして、いつでもたっくんのためにって」
世都は泣きそうになる結城さんに穏やかに、だがはっきりと問うた。
「それを、お相手は望んではりましたか?」
「……え?」
結城さんは愕然とした表情で、ぽつりと呟いた。
そしていちばん上のカードをめくろうとして、その手を止めた。このままこの結果を伝えて良いものなのか、躊躇してしまう。
「女将さん……?」
結城さんが怪訝そうに首を傾げる。早く結果が知りたくてたまらないのだろう。
しかし、この結果が良いものであっても悪いものであっても、今のままでは。
きっと、結城さんが望む様な未来は訪れない。奇跡でも起きなければ。
「結城さん、結城さんはどうしはりたいんですか?」
世都の質問に、結城さんはぽかんとする。
「え、どうって」
「素敵な人と出会いたいて、言うてはりましたよね?」
「はい、そうです」
世都はまだカードをめくらない。この結果は「今の」結城さんによるものだ。それだときっと意味が無いのだ。
「そのためには、私は、結城さんが自立しはることが大事なんや無いかなぁって思うんです」
すると、結城さんはまたきょとんと目を瞬かせる。
「あたし、自立してますよ。働いてひとり暮らししてますし」
「そうや、無いんですよ」
世都はふるりと首を振る。確かに経済的には自立しているのだろうが。
「心の、自立です」
「心……?」
言われた意味が理解できないのか、結城さんは眉をしかめる。気分を害させてしまったかも知れない。だが世都は言葉を続ける。
「結城さんは、男性と、恋人と常に一緒にいたいと思ってはるんですよね?」
「恋人やったら、それが当たり前や無いんですか? 好きやから一緒にいたい、何をしてるか知りたい、そう思うんや無いですか?」
「思う人もいれば、思わん人もいますよ」
「そんなの、寂しく無いですか?」
「無いんですよねぇ」
互いが同じ熱量なら、釣り合いも取れるのだろう。それは勝手にやってくれと思う。だが結城さんの場合はそうでは無かったから、破局に至ったのだ。
恋は求めるもの、愛は与えるもの。良く言ったものである。相手のために尽くしてあげたいと思うことも、愛の側面なのかも知れない。だがそれは自己満足という見方もできる。
世都は尽くすことは相手のためにならないと思っているので、余計にそう感じてしまうのかも知れない。世都の個人的感情なのではあるが。
相手のことを思う、考える、慮る、何を望んでいるのかを汲み取る。それはとても難しいことだ。だがそれをしようとする心が「愛」なのだと思う。一緒に暮らしたいと言うのなら、それは必要不可欠なものなのだ。家族同士であっても、友人同士であっても、恋人同士であっても。
結城さんは相手のことを考えている様で、そうでは無かった。求めていただけだったのだ。きっと山縣さんには重荷になっていただろう。結城さんの感情は「恋」の域を超えてはいなかった。
「だって、恋は人生のオプションですもん」
恋や趣味などは人生を彩るものであって、不可欠なものでは無いのだ。あれば気持ちが、人生が豊かになる、それだけのものだ。暴論だとも思うが、それは事実であると世都は思う。
未熟な恋が育ってたおやかな愛になる。それはその通りだと思う。だが育てきれない人だっている。今の結城さんがその典型なのだ。
「オプション、ですか……?」
「はい。無くてもええもんやと、私は思ってます」
「でも、あたしには無くてはならんもんで……」
それが悪いことだとは言わない。それも大きな潤いだ。だが先を考えるのであれば、発展させてあげなければならないのだと思う。
恋特有のときめきなども大事なものなのだろう。だが相手の悪いところも受け入れることができる器は愛から生まれる。少なくとも世都はそう思っている。もちろん限度はあるが。言葉であれ物理であれ暴力行為を受けたら逃げて欲しいし、浮気などされたら社会的に痛め付けてやれなんて過激なことを思ってしまう。
相手を思いやれなければ、健全な関係なんて築けない。相手に求めてばかりだと、その関係は歪みを起こす。簡単なことなのだ。
「結城さん、一緒に暮らすのに、関係を続けるのに大事なことは、なんやと思います?」
「え、な、なんやろ」
結城さんはうろたえてしまう。相手を優先し、尽くし、そして縛ってしまっていた結城さん。そんな結城さんに言うには酷なのかも知れない。だが、そうしなければきっと結城さんは一生このままだ。自分で気付くにはきっと難しい。なぜなら。
「自分勝手にならんことです」
結城さんが目を見張り、息を飲むのが分かる。
「あたし、自分勝手、ですか?」
世都はゆっくりと頷く。結城さんの顔がみるみると強張って行った。
「そんな、そんなつもりは」
「もちろん無いんやと思いますよ。でもね、結城さん、結城さんはお相手に求めてしもうてばかりなんや無いかと思うんですよ」
「でもあたし、家事とかも全部やってあげたりして、いつでもたっくんのためにって」
世都は泣きそうになる結城さんに穏やかに、だがはっきりと問うた。
「それを、お相手は望んではりましたか?」
「……え?」
結城さんは愕然とした表情で、ぽつりと呟いた。
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness
碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞>
住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。
看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。
最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。
どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……?
神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――?
定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。
過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
触れられないはずの私が、ただ一人の彼にだけ心も体も許してしまいました
由香
恋愛
男性に触れられると体調を崩す令嬢リリア。
そんな彼女にとって唯一“触れられる”存在は――幼なじみの公爵令息レオンだけだった。
手を取られ、抱き寄せられ、当たり前のように触れられる日々。
それがどれほど特別なことなのか、彼女はまだ知らない。
やがて政略結婚の話が持ち上がり、“触れられない相手との結婚”か、“彼に触れられる人生”かを選ぶことに。
「お前に触れていいのは俺だけだ」
逃げ場のない独占と、甘すぎる溺愛。
これは、触れられないはずの少女が、ただ一人にだけすべてを許していく物語。
✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント120万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています