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3章 チョコレートコスモスを添えて
第12話 それぞれの家庭のあり方
心を鎮める。タロットに限らず占いは、その人の背景やこれからなどを暗示する。だが世都はつい、勝川さんの奥さまにとって少しでも励みになる様な結果になって欲しいと願ってしまう。
もしそれで歪んでしまうことがあっても、咎を負うのは世都だ。奥さまの慰めになるのなら、構わない。
占いの意義は、と問われれば、世都ははっきりと言いたい。「大事なのはその人が救われること」だと。
タロット占いの場合は、カードが持つ意味をどう解釈するのかが大事になってくる。それによってその人の心は変化する。だから世都はいつでも慎重になる。
良く無いカードが出て来てしまっても、少しでも前向きになれる様に言葉を選ぶ。ときには辛辣になってしまうこともあるが、できる限りその人に必要なこと、ものを探し出しているつもりだ。
そうして奥さまのために出て来たカードは「ペンタクルのナイト」の正位置だった。世都は心底安堵した。意味は安定感、確かな基盤を築く、管理・運営能力、実務に優れる、など。
お仕事などに重きを置いているカードの様にも思えるが、これを今の、そしてこれからの奥さまに当てはめて解釈すると。
奥さまは固唾を飲んで、結果を待っていた。世都は安心してもらえるように、口角を上げた。
「大丈夫ですよ。最初は勝川さんがいてはれへんで寂しいかも知れませんけど、ココナちゃんと奥さま、おふたりでちゃんとご家庭を回せますよ。ココナちゃんのお世話は大変かも知れませんが、奥さまなら大丈夫です」
「……ほんまですか?」
奥さまの目が見開かれ、きらりと輝いた。
「はい。そういう風に出ました。ココナちゃん、ええ子や無いですか。最初はワンオペで戸惑われることもあるかも知れませんけど、それもご自分のペースとかすぐに見付かると思いますよ」
世都が穏やかに言うと、奥さまは安心した様に目尻を緩やかに下げた。
「良かったぁ。そう言うてもらえると、ほっとします。これまでふたりでして来たことをひとりでって思うと不安ばっかりやったんですけど、何とかやってみます」
「私は結婚もしてませんし、子どももおりませんけど、私で良ければいつでもお話お伺いしますから。それにお母さまっていう大先輩かていてはるんですから。たった2年です。大丈夫です!」
世都が力強く言うと、奥さまは少し驚いた様で目をぱちくりさせる。そしておかしそうに「ふふ」と笑みを漏らした。
「私、難しく考え過ぎてたんかも知れませんね。そうですよね、母もいてますし、どうにかなりますよね。女将さん、ありがとうございます」
「いえいえ、私は何も。思い切って、女同士の生活を楽しんでみましょうよ。ココナちゃんと恋バナとかできるかも知れませんよ」
「ほんまや。夫の前では話さんかったら。ココナも女の子やから、何か感じとったんかも知れませんね。そうや、夫に東京に染まんなって言うとかんと。帰ってきて「何々じゃん」とかいい出したらぶっ飛ばしたるからって」
奥さまは楽しそうにくすくすと笑った。
高階さんはゆっくりと七水純米大吟醸45を傾け、しみじみと「良かったなぁ」と口を開いた。21時を回り、勝川さんの奥さまは上機嫌で帰って行った。
「勝川さん家族、めっちゃええやん。仲が良くて互いに思いやりがあって、娘さんも可愛いええ子で」
七水は栃木県の虎屋本店さんが醸す日本酒である。ほのかな果実の様な香りに、やさしい旨味が感じられる、すっきりとした上品な味わいの一献だ。
「ほんまですねぇ」
本当に、素敵な家族だと思う。世都は注文のあった白菜のコールスローを小鉢に盛り付ける。
コールスローの白菜は繊維に沿って太めの千切りにし、お塩で揉んで水分を出したら水気をしっかりと絞り、マヨネーズとレモン汁、黒こしょうを合わせたソースを混ぜ込んだ。
こっくりとしたマヨネーズの中にレモンの爽やかな酸味が香り、黒こしょうのほのかなアクセントが旬の甘い白菜を際立たせるのだ。
「女将の親御さんて、どんな人なん?」
何気無く聞かれ、世都は応えに窮しながらも、不自然にならない様に気を付けつつ。
「お仕事人間でしたよ。私はお祖父ちゃんお祖母ちゃん子でした」
「ふぅん。ほな、あんま両親との交流は無かったとか?」
「まぁ、それなりに。普通ですよ、きっと」
「へぇ。ま、家庭それぞれやわな」
高階さんはそうして話を切り上げてくれた。世都はほっとする。嘘を言う必要は無いだろうが、ご常連相手に世都の家庭事情を言うつもりは無い。
自分の家庭が、どちらかと言うと特殊だろうと言うことは、ある程度の歳になったら分かる。親御さんがいるご家庭では、子どものお世話を主にするのは親御さんだということは、同級生との会話で知れるからだ。
だが世都はそれを悲観したことは無い。同級生にはご祖父母と同居してご両親と一緒にお世話をしてもらっている子もいたし、大まかに言えばそれと変わらない。
ちゃんと愛されていた、可愛がられていた、その事実、実感さえあれば、世都は大丈夫だったのだ。
それはきっと龍平くん……龍ちゃんも同じだ。だから世都と龍ちゃんは、バランス良く一緒にいることができるのだった。
もしそれで歪んでしまうことがあっても、咎を負うのは世都だ。奥さまの慰めになるのなら、構わない。
占いの意義は、と問われれば、世都ははっきりと言いたい。「大事なのはその人が救われること」だと。
タロット占いの場合は、カードが持つ意味をどう解釈するのかが大事になってくる。それによってその人の心は変化する。だから世都はいつでも慎重になる。
良く無いカードが出て来てしまっても、少しでも前向きになれる様に言葉を選ぶ。ときには辛辣になってしまうこともあるが、できる限りその人に必要なこと、ものを探し出しているつもりだ。
そうして奥さまのために出て来たカードは「ペンタクルのナイト」の正位置だった。世都は心底安堵した。意味は安定感、確かな基盤を築く、管理・運営能力、実務に優れる、など。
お仕事などに重きを置いているカードの様にも思えるが、これを今の、そしてこれからの奥さまに当てはめて解釈すると。
奥さまは固唾を飲んで、結果を待っていた。世都は安心してもらえるように、口角を上げた。
「大丈夫ですよ。最初は勝川さんがいてはれへんで寂しいかも知れませんけど、ココナちゃんと奥さま、おふたりでちゃんとご家庭を回せますよ。ココナちゃんのお世話は大変かも知れませんが、奥さまなら大丈夫です」
「……ほんまですか?」
奥さまの目が見開かれ、きらりと輝いた。
「はい。そういう風に出ました。ココナちゃん、ええ子や無いですか。最初はワンオペで戸惑われることもあるかも知れませんけど、それもご自分のペースとかすぐに見付かると思いますよ」
世都が穏やかに言うと、奥さまは安心した様に目尻を緩やかに下げた。
「良かったぁ。そう言うてもらえると、ほっとします。これまでふたりでして来たことをひとりでって思うと不安ばっかりやったんですけど、何とかやってみます」
「私は結婚もしてませんし、子どももおりませんけど、私で良ければいつでもお話お伺いしますから。それにお母さまっていう大先輩かていてはるんですから。たった2年です。大丈夫です!」
世都が力強く言うと、奥さまは少し驚いた様で目をぱちくりさせる。そしておかしそうに「ふふ」と笑みを漏らした。
「私、難しく考え過ぎてたんかも知れませんね。そうですよね、母もいてますし、どうにかなりますよね。女将さん、ありがとうございます」
「いえいえ、私は何も。思い切って、女同士の生活を楽しんでみましょうよ。ココナちゃんと恋バナとかできるかも知れませんよ」
「ほんまや。夫の前では話さんかったら。ココナも女の子やから、何か感じとったんかも知れませんね。そうや、夫に東京に染まんなって言うとかんと。帰ってきて「何々じゃん」とかいい出したらぶっ飛ばしたるからって」
奥さまは楽しそうにくすくすと笑った。
高階さんはゆっくりと七水純米大吟醸45を傾け、しみじみと「良かったなぁ」と口を開いた。21時を回り、勝川さんの奥さまは上機嫌で帰って行った。
「勝川さん家族、めっちゃええやん。仲が良くて互いに思いやりがあって、娘さんも可愛いええ子で」
七水は栃木県の虎屋本店さんが醸す日本酒である。ほのかな果実の様な香りに、やさしい旨味が感じられる、すっきりとした上品な味わいの一献だ。
「ほんまですねぇ」
本当に、素敵な家族だと思う。世都は注文のあった白菜のコールスローを小鉢に盛り付ける。
コールスローの白菜は繊維に沿って太めの千切りにし、お塩で揉んで水分を出したら水気をしっかりと絞り、マヨネーズとレモン汁、黒こしょうを合わせたソースを混ぜ込んだ。
こっくりとしたマヨネーズの中にレモンの爽やかな酸味が香り、黒こしょうのほのかなアクセントが旬の甘い白菜を際立たせるのだ。
「女将の親御さんて、どんな人なん?」
何気無く聞かれ、世都は応えに窮しながらも、不自然にならない様に気を付けつつ。
「お仕事人間でしたよ。私はお祖父ちゃんお祖母ちゃん子でした」
「ふぅん。ほな、あんま両親との交流は無かったとか?」
「まぁ、それなりに。普通ですよ、きっと」
「へぇ。ま、家庭それぞれやわな」
高階さんはそうして話を切り上げてくれた。世都はほっとする。嘘を言う必要は無いだろうが、ご常連相手に世都の家庭事情を言うつもりは無い。
自分の家庭が、どちらかと言うと特殊だろうと言うことは、ある程度の歳になったら分かる。親御さんがいるご家庭では、子どものお世話を主にするのは親御さんだということは、同級生との会話で知れるからだ。
だが世都はそれを悲観したことは無い。同級生にはご祖父母と同居してご両親と一緒にお世話をしてもらっている子もいたし、大まかに言えばそれと変わらない。
ちゃんと愛されていた、可愛がられていた、その事実、実感さえあれば、世都は大丈夫だったのだ。
それはきっと龍平くん……龍ちゃんも同じだ。だから世都と龍ちゃんは、バランス良く一緒にいることができるのだった。
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