日本酒バー「はなやぎ」のおみちびき

山いい奈

文字の大きさ
39 / 46
3章 チョコレートコスモスを添えて

第12話 それぞれの家庭のあり方

 心を鎮める。タロットに限らず占いは、その人の背景やこれからなどを暗示する。だが世都せとはつい、勝川かつかわさんの奥さまにとって少しでも励みになる様な結果になって欲しいと願ってしまう。

 もしそれで歪んでしまうことがあっても、とがを負うのは世都だ。奥さまの慰めになるのなら、構わない。

 占いの意義は、と問われれば、世都ははっきりと言いたい。「大事なのはその人が救われること」だと。

 タロット占いの場合は、カードが持つ意味をどう解釈するのかが大事になってくる。それによってその人の心は変化する。だから世都はいつでも慎重になる。

 良く無いカードが出て来てしまっても、少しでも前向きになれる様に言葉を選ぶ。ときには辛辣しんらつになってしまうこともあるが、できる限りその人に必要なこと、ものを探し出しているつもりだ。

 そうして奥さまのために出て来たカードは「ペンタクルのナイト」の正位置だった。世都は心底安堵した。意味は安定感、確かな基盤を築く、管理・運営能力、実務に優れる、など。

 お仕事などに重きを置いているカードの様にも思えるが、これを今の、そしてこれからの奥さまに当てはめて解釈すると。

 奥さまは固唾かたずを飲んで、結果を待っていた。世都は安心してもらえるように、口角を上げた。

「大丈夫ですよ。最初は勝川さんがいてはれへんで寂しいかも知れませんけど、ココナちゃんと奥さま、おふたりでちゃんとご家庭を回せますよ。ココナちゃんのお世話は大変かも知れませんが、奥さまなら大丈夫です」

「……ほんまですか?」

 奥さまの目が見開かれ、きらりと輝いた。

「はい。そういう風に出ました。ココナちゃん、ええ子や無いですか。最初はワンオペで戸惑われることもあるかも知れませんけど、それもご自分のペースとかすぐに見付かると思いますよ」

 世都が穏やかに言うと、奥さまは安心した様に目尻を緩やかに下げた。

「良かったぁ。そう言うてもらえると、ほっとします。これまでふたりでして来たことをひとりでって思うと不安ばっかりやったんですけど、何とかやってみます」

「私は結婚もしてませんし、子どももおりませんけど、私で良ければいつでもお話お伺いしますから。それにお母さまっていう大先輩かていてはるんですから。たった2年です。大丈夫です!」

 世都が力強く言うと、奥さまは少し驚いた様で目をぱちくりさせる。そしておかしそうに「ふふ」と笑みを漏らした。

「私、難しく考え過ぎてたんかも知れませんね。そうですよね、母もいてますし、どうにかなりますよね。女将さん、ありがとうございます」

「いえいえ、私は何も。思い切って、女同士の生活を楽しんでみましょうよ。ココナちゃんと恋バナとかできるかも知れませんよ」

「ほんまや。夫の前では話さんかったら。ココナも女の子やから、何か感じとったんかも知れませんね。そうや、夫に東京に染まんなって言うとかんと。帰ってきて「何々じゃん」とかいい出したらぶっ飛ばしたるからって」

 奥さまは楽しそうにくすくすと笑った。



 高階たかしなさんはゆっくりと七水しちすい純米大吟醸45を傾け、しみじみと「良かったなぁ」と口を開いた。21時を回り、勝川さんの奥さまは上機嫌で帰って行った。

「勝川さん家族、めっちゃええやん。仲が良くて互いに思いやりがあって、娘さんも可愛いええ子で」

 七水は栃木県の虎屋とらや本店さんが醸す日本酒である。ほのかな果実の様な香りに、やさしい旨味が感じられる、すっきりとした上品な味わいの一献だ。

「ほんまですねぇ」

 本当に、素敵な家族だと思う。世都は注文のあった白菜のコールスローを小鉢に盛り付ける。

 コールスローの白菜は繊維に沿って太めの千切りにし、お塩で揉んで水分を出したら水気をしっかりと絞り、マヨネーズとレモン汁、黒こしょうを合わせたソースを混ぜ込んだ。

 こっくりとしたマヨネーズの中にレモンの爽やかな酸味が香り、黒こしょうのほのかなアクセントが旬の甘い白菜を際立たせるのだ。

「女将の親御さんて、どんな人なん?」

 何気無く聞かれ、世都は応えにきゅうしながらも、不自然にならない様に気を付けつつ。

「お仕事人間でしたよ。私はお祖父ちゃんお祖母ちゃん子でした」

「ふぅん。ほな、あんま両親との交流は無かったとか?」

「まぁ、それなりに。普通ですよ、きっと」

「へぇ。ま、家庭それぞれやわな」

 高階さんはそうして話を切り上げてくれた。世都はほっとする。嘘を言う必要は無いだろうが、ご常連相手に世都の家庭事情を言うつもりは無い。

 自分の家庭が、どちらかと言うと特殊だろうと言うことは、ある程度の歳になったら分かる。親御さんがいるご家庭では、子どものお世話を主にするのは親御さんだということは、同級生との会話で知れるからだ。

 だが世都はそれを悲観したことは無い。同級生にはご祖父母と同居してご両親と一緒にお世話をしてもらっている子もいたし、大まかに言えばそれと変わらない。

 ちゃんと愛されていた、可愛がられていた、その事実、実感さえあれば、世都は大丈夫だったのだ。

 それはきっと龍平くん……龍ちゃんも同じだ。だから世都と龍ちゃんは、バランス良く一緒にいることができるのだった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~

馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」 入社した会社の社長に 息子と結婚するように言われて 「ま、なぶくん……」 指示された家で出迎えてくれたのは ずっとずっと好きだった初恋相手だった。 ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ ちょっぴり照れ屋な新人保険師 鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno- × 俺様なイケメン副社長 遊佐 学 -Manabu Yusa- ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 「これからよろくね、ちとせ」 ずっと人生を諦めてたちとせにとって これは好きな人と幸せになれる 大大大チャンス到来! 「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」 この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。 「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」 自分の立場しか考えてなくて いつだってそこに愛はないんだと 覚悟して臨んだ結婚生活 「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」 「あいつと仲良くするのはやめろ」 「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」 好きじゃないって言うくせに いつだって、強引で、惑わせてくる。 「かわいい、ちとせ」 溺れる日はすぐそこかもしれない ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 俺様なイケメン副社長と そんな彼がずっとすきなウブな女の子 愛が本物になる日は……

触れられないはずの私が、ただ一人の彼にだけ心も体も許してしまいました

由香
恋愛
男性に触れられると体調を崩す令嬢リリア。 そんな彼女にとって唯一“触れられる”存在は――幼なじみの公爵令息レオンだけだった。 手を取られ、抱き寄せられ、当たり前のように触れられる日々。 それがどれほど特別なことなのか、彼女はまだ知らない。 やがて政略結婚の話が持ち上がり、“触れられない相手との結婚”か、“彼に触れられる人生”かを選ぶことに。 「お前に触れていいのは俺だけだ」 逃げ場のない独占と、甘すぎる溺愛。 これは、触れられないはずの少女が、ただ一人にだけすべてを許していく物語。

✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント120万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています