異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈

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#104 鰹節の味見と、新メニューの算段。その2

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「良い香りだ……」

 軽く鼻で息を吸い込むと、ほんのりと甘く香ばしい香りを感じる事が出来た。

「食べてみよう。サユリも食べてみる?」

「当然カピ」

 壱が箱に手を入れ、壊さない様に軽い力で鰹節を取り上げる。3枚の小振りの皿に等分に置く。1枚をサユリの前に置き、1枚を茂造に。

 サユリは興味深げに香りを嗅ぐ。

「ふむ、今までいだ事の無い香りだカピ。だが良い香りカピ」

「良かった。じゃあ食べてみてよ。口の中の水分持ってかれるから、少しずつ、気を付けて食べてね」

「解ったカピ」

 サユリは鰹節にそっと口を付ける。もごもごと口を動かし、やがてのどが上下する。

「風味が豊かだカピな。面白い味がするカピ。これが出汁になるのだカピな?」

「勿論他の食べ方もあるけどね。食堂では豚汁の出汁に使う。出汁殻だしがらでご飯のふりかけとか作れるよ」

「ほう、それは楽しみだカピな。あの昆布の佃煮とやらも旨かったカピ」

 サユリは言って鼻を鳴らす。どうやらサユリが鼻を鳴らすのは、得意がっている時や、嬉しい、楽しいと思っている時らしい。

 なかなか表情が読めないカピバラのサユリだが、そう思うと解りやすいかも知れない。

 壱も鰹節を摘んで口に運び、ゆっくりと口内で舐める様に。広がる風味に頬が緩む。これは大成功だ。

「おお、鰹節じゃ。良いのう、嬉しいのう」

 茂造も満足そうである。

「じゃ、明日の朝から早速これでご飯作るね。後は食堂用の味噌も仕込まなきゃ。昆布は漁師さんにお願いしたら良いのかな。鰹節も鰹を漁師さんにお願いして、調理師免許持ってる人に捌いて貰って、茹でた後は牧場に頼んで燻製くんせい……うわ、思った以上に豚汁をメニューに加えるの大変かも!」

 壱は頭を抱える。今までサユリの魔法に頼っていたから軽く考えがちだったが、時間魔法や複製魔法を一切使わずに、この世界に無かった材料を使った料理を取り入れるのは、大変な事だった。

「焦らんと、ゆっくりやれば良いぞい。そうじゃの、時間的にはまずは味噌かの。鰹節と昆布はそれから考えれば良いぞい。まずは畑に頼んで、枝豆と言うか大豆の栽培量を増やしてもらうかの」

 茂造ののんびりした口調に、壱は次第に落ち着く。そうだ。焦る事は無い。ゆっくりと整えて行けば良いのだ。

「さて、そろそろ夜営業の仕込みじゃぞ。晩の賄いには、また鰹のたたきが食べられるんじゃろ? 楽しみじゃのう」

 そう言いながら茂造が立ち上がる。壱も行かなければ。鰹節削り器は刃などに付いてしまった粉を丁寧に落とし、袋に入れて棚に。

 鰹節は冷蔵庫での保存が良いとの事なので、袋に入れて厨房に持って降りた。



 さて、夜営業も終わり、賄いの準備をする。

 壱は冷蔵庫から、昼にさばいて置いておいた鰹の腹身を取り出す。これはサユリの魔法には頼っていないので、少し出てしまっていた透明度のあるドリップを紙で拭き取る。

 フライパンを強めの中火に掛け、オリーブオイルを引く。

「お、鰹か。焼くのか?」

 隣でホワイトソースのパスタの準備をしているカリルが覗き込んで来る。

「うん。表面だけね」

「へぇ、面白いな!」

 しっかりと熱くなったフライパンに、鰹を乗せる。ジュウと大きな音かする。少し置いてフライパンを軽く揺すると、鍋肌から身が離れて動く鰹の腹身。表面が焼けている合図である。

 そうなると返して別の面を焼く。それを全面分繰り返して、鰹のたたきの出来上がりである。

 水を張ったボウルに入れ、何度か水を入れ替えて冷まして行く。

 そして表面の水分をしっかりと拭き取って、トレイに置いておく。

「よし、終わり。カリル、俺、肉とか焼いて行ったら良いかな」

「おお、頼む」

 そうして賄いの準備は続く。
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