異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈

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#111 マリルの幸せと、リオンの想い。その1

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 マリルは壱を前にしきりに恐縮している。こうなると壱の方こそ慌ててしまう。

「あ、あの、私の話、お聞きになったかと思うんですが、あの、ご迷惑を掛けてしまって、本当にすいません。治したいと思っているんです。でもなかなか巧く行かなくて、あの」

 そう言いながら何度も頭を下げる。

「あ、いや、迷惑だなんて思って無いから、そんな頭下げないで」

「で、でも」

「マリル、とりあえず少し外に出るカピか」

「は、はい」

 サユリの台詞に、マリルは戸惑いながらも頷く。

「な、中に言って来ます」

 マリルは一旦奥に行き、すぐに戻って来た。

「お、お待たせしました」

 壱とマリル、サユリは製糸工房の外に出る。

「ここでなら、幾らでも謝って良いカピ。心置き無く謝れば良いカピ」

「は、はい! では!」

「では、じゃ無い! 本当に大丈夫だから」

 また頭を下げようとしていたマリルを何とか押しとどめる。

「で、でも」

「本当にね、誰も気にして無いよ」

「あ、あの、ありがとうございます。そう言っていただけると救われます」

 マリルはそう言い、小さく笑顔を浮かべた。

 リオンから聞いたマリルの過去の所業を思い出すと、身がすくむ思いがする。だが今、こうして対面しているマリルはどうか。

 ただただこちらに恐縮し、身を縮こませ、頭を下げる。あんな暴挙を犯した人間だとはとても思えない。

 今は猛省もうせいし、大人しく、そして真面目に働いているのだ。

 サユリも言っていた。警戒する必要は無い。他の村人同様、普通に接すれば良いだけだ。

 改めてマリルを見る。緩やかにウエーブが掛かった黒の髪が肩の辺りまで伸びて、ややつぶらな眼が兄のリオンを思い起こさせる。

 服装は上から下まで地味な色で揃えている。洋服を作って販売している工房に勤めているとは思えない様な。

 まるで目立つ事を拒んでいるみたいだ。

 ああしかし、こうしてサユリに連れ出されはしたものの、何を言ったら良いのやら。

 とは言えこのままふたりと1匹で黙りこくっていても気不味きまずいだけなので、壱は頭を巡らせる。

「あのさ」

 壱が口を開くと、俯いていたマリルが素早く顔を上げる。

「は、はい」

「えーと、あの、失礼な事聞くんだけど、発作と言うか、そういうのって、いつから出る様になったの?」

 壱の問いにマリルは気分を害した様子も無く、応えた。

「この村に来てからなんです。この村の人たちはみんな良い人で、こんな私にも普通に、いいえ、優しく接してくださいます。だから理由が判らなくて」

 その話を聞いて、壱はふと思い当たる。

「間違っているかも知れないから、話半分に聞いて欲しいんだけど、もしかしたら、この村の人が優しいからなのかも知れない」

「どういう事ですか?」

 マリルの眸が不安げに揺れる。

「マリルさんは真面目なんだね。多分、罪の意識が深すぎるんだ。前の街では周りの眼があって居辛くなって、って聞いたんだけど」

「はい……でも私がしてしまった事を考えたら、それは当然なんです。怖がられたり、奇異きいの眼で見られたり。私は罪人です。幾ら償っても償い切れないんです。だって私は、実の両親を……」

 マリルは苦しそうにそう言うと、両手で顔を覆ってしまった。しまった、泣かせてしまったか? そう焦ったが、マリルは静かなまま。壱はほっと息を漏らす。

「でもそれが、この村に来てから一切無くなったんだよね?」

「ええ……そうです。だから私、心苦しくて」

「だからじゃ無いかなぁ、その発作が出だしたの」

「え……?」

 マリルが顔から手を離し、壱を見上げた。

「この村には誰もマリルさんを責める人はいない。だから余計に罪の意識が酷くなって、発作みたいなのが起こる様になったんじゃ無いのかな」

「そ、そんな事があるんですか?」

「こういうのは精神的な問題で、俺は専門家じゃ無いから、断言出来る事じゃ無いけど、もしかしたらって。で、それを和らげる方法はもっと判らない。それはマリルさん次第だからね」

「そうですよね……。これ以上兄さんにも迷惑掛けたく無いです。私はどうしたら良いんでしょうか……」

 マリルは眼を伏せる。こればっかりは壱に言える事は何も無いが。

「無責任を承知で言うね。気にしなきゃ良いよ」

 壱が努めてあっけらかんと言うと、マリルは驚いた様に粒らな眼を見開いた。

「え、でもそれは」

「今のマリルさんには難しいかも知れない。もっと時間が要るのかも知れないね。でも今のままじゃ、多分誰も救われないよ。マリルさんも、リオンも」

「兄さんに辛い思いをさせるのは嫌です。もう私は兄さんから両親を奪うと言う大罪を犯しています。これ以上は駄目です」

「じゃあ、まずはリオンを幸せに、安心させる事を最優先に、気持ちを切り替えてみたらどうかな。その感じだと、家でも外でも大人しくしてるでしょ」

「はい。笑ったりはしゃいだり、それは私がしてはいけない事です」

「すれば良いんだよ。そうしたら気持ちも上向きになると思う」

「でも私が笑ったりしたら、兄さんは嫌がると思います。両親を殺めておいて、何笑ってんだって」

「うん、リオンも気持ちの整理が大変だったと思うよ。でもリオンはマリルさんを迎え入れて、家から追い出したりもしなかったし、こうしてこの村にも一緒に来てくれた。だったら大丈夫だと思うよ」

「でも……」

 マリルは口籠くちごもる。気持ちは解る、とは言えない。マリルの罪はマリルだけのもので、共感しようとは出来るだろうが、重く、し切れるものでは無い。

 どう言えば伝わるのだろうか。壱は腕を組んで考えてみる。このままだと堂々巡りだ。
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