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#112 マリルの幸せと、リオンの想い。その2
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「……ねぇ、マリルさんが発作みたいなの起こした時、リオンはどうやってくれるの?」
「あの、暴れる私を強く抱き締めてくれて、背中を優しく叩いてくれて、大丈夫だからって何度も言ってくれます」
「ああ、だったら本当に大丈夫だと思うんだけどな。家でリオンと話をしたりする? あ、リオンは無口だから、あまり無いかな」
「兄さんは、その日にあった事なんかを話してくれます。兄さんは無口ですけど、ずっと黙っている訳じゃ無いんですよ。面白い事だって言ってくれるんです。でも私は、小さく笑う事しか出来なくて」
「マリルさんに笑って欲しいんだよ、リオンも。だから話をするんだ。今度、思いっきり笑ってみたら良いよ。そしたらきっと喜んでくれるよ」
「そ、そうでしょうか」
「そうだよ。忘れない事も、反省する事も大切だと思う。でも、前を見る事も大事なんよ。幸せになっちゃいけないなんて、それは多分周りも幸せにならない。1番身近にいるリオンも幸せにはなれないよ」
「そう、ですよね」
お、これは良い傾向だろうか。ここを間違ってはいけない。
「この村の人たちの殆どは、みんな何かしらの罪を背負ってるって聞いた。でもみんな明るいだろ? 多分解ってるんだよ。反省は必要だけども、それだけじゃ駄目だって。だからまずはさ、リオンの面白い話に、素直に笑ってみる所から始めてみたらどうかな」
壱は言うと、笑顔を浮かべる。するとマリルの顔にも小さく笑みが浮かんだ。
「巧く出来るかまだ自信はありませんが、頑張ってみようと思います。そうですよね。兄さんを不幸にはしたく無いですから。まずはそこから、努力してみます」
「うん。それで良いと思う」
良かった。壱の広いとは言えない視野からの見解ではあったが、少しは前向きになってくれた様だ。
これがリオンの為にもなってくれたら良いのだが。そこは少し不安だ。
さて、すっかりと長居をしてしまった。壱は懐中時計で時間を確かめる。これはもう服を選んでいる時間は無いだろう。また出直すとしよう。
「じゃ、俺は帰るね。長話に付き合わせちゃってごめんね」
「いいえ、こちらこそありがとうございました。何だか気が晴れた感じがします」
マリルは言い、また笑顔を寄越してくれた。
食堂に戻る道すがら、壱はサユリに訊いてみる。
「俺、間違って無かったかな。リオンとマリルさん、おかしな事になったら怖いな」
「大丈夫カピ。マリルはいつでも下を向いていたカピ。これで少しはましになるのでは無いカピか。いつも明るい元罪人の村人の元気を分けてやりたいぐらいだカピ」
「ああ、それはそうかも」
壱は苦笑する。しかしサユリにそう言って貰えて、少し安心する。
食堂に到着し、夜営業の仕込みが始まった時、パンを捏ねるリオンに訊いてみた。
「ねぇリオン、妹さんに笑って欲しいと思う?」
するとリオンは何かを察したのか、躊躇い無く頷いた。
「勿論だ。確かに犯した罪は大きい。けど、あいつは気に病み過ぎだ。昔は悪かったけど、真面目でもあったから、きっとそれが仇になっているんだ。もう、大丈夫なのにな」
「そっか。なら良かった」
壱が安堵して言うと、リオンは笑みを浮かべて言った。
「ありがとう」
「え、いや、俺は何も」
壱は慌てて首を振り、仕込みの手を進めた。
夜営業の客足が落ち着いた頃、マユリが戸惑う様に壱を呼びに来た。
「あ、あの、お、お客さまです。イ、イチさんを呼んで欲しいって。あ、あの、マリルさんって言って、あの」
「ああ、リオンの妹さんね。何だろう。じいちゃん、手が空いたらちょっと行って来て良い?」
「構わんぞい」
「ありがとう」
壱はクリームソースのパスタを完成させると皿に盛り、マユリに渡す。
「これ、よろしくね」
「あ、はい、あ、あの」
「ん?」
「あ、い、いえ」
壱が返すが、マユリは口籠ってしまう。どうしたんだろうと思いながらも壱はフロアへと向かう。マユリもパスタの皿を手に付いて来た。
「マリルさんお待たせ。どうしたの?」
「あ、あの、イチさん、昼間はありがとうございました」
マリルは微笑んで言うと、頭を下げる。
「いや、こちらこそ時間取らせちゃって」
「それで、あの、これ、お礼です」
そう言って差し出される、やや大きめの紙の袋。
「え、俺に?」
「はい。是非受け取ってください」
「でも俺、お礼される様な事なんて何も」
「いえ。お話して貰って、私、少しですが変われる様な気がします。それは私にとっては凄く大きくて。なので、お礼がしたくて。少しでも気に入ってくださると良いんですけど」
そう言ってマリルははにかんだ。そこまで言われて固辞する程、壱は頑なでは無い。マリルの手から紙袋を受け取った。
「じゃあ受け取らせて貰うよ。ありがとう、マリルさん」
「あ、あの、良ければマリルって呼んでください」
「うん、解った」
壱が頷くと、マリルは嬉しそうに笑みを浮かべた。
マリルは既に食事を済ませていた様で、壱と話し終えると会計をして食堂を出て行った。
壱が厨房に戻ろうとすると、マユリと眼が合う。まるで絶望でもしたかの様な、呆然とした表情。
「マユリ、どうしたの? 何かあった?」
訊いてみると、マユリは表情を動かさぬまま応えた。
「い、いいえ、何でも、ありません」
まるでロボットの様な棒読みで、しかし壱は首を傾げたまま厨房に入った。
「あの、暴れる私を強く抱き締めてくれて、背中を優しく叩いてくれて、大丈夫だからって何度も言ってくれます」
「ああ、だったら本当に大丈夫だと思うんだけどな。家でリオンと話をしたりする? あ、リオンは無口だから、あまり無いかな」
「兄さんは、その日にあった事なんかを話してくれます。兄さんは無口ですけど、ずっと黙っている訳じゃ無いんですよ。面白い事だって言ってくれるんです。でも私は、小さく笑う事しか出来なくて」
「マリルさんに笑って欲しいんだよ、リオンも。だから話をするんだ。今度、思いっきり笑ってみたら良いよ。そしたらきっと喜んでくれるよ」
「そ、そうでしょうか」
「そうだよ。忘れない事も、反省する事も大切だと思う。でも、前を見る事も大事なんよ。幸せになっちゃいけないなんて、それは多分周りも幸せにならない。1番身近にいるリオンも幸せにはなれないよ」
「そう、ですよね」
お、これは良い傾向だろうか。ここを間違ってはいけない。
「この村の人たちの殆どは、みんな何かしらの罪を背負ってるって聞いた。でもみんな明るいだろ? 多分解ってるんだよ。反省は必要だけども、それだけじゃ駄目だって。だからまずはさ、リオンの面白い話に、素直に笑ってみる所から始めてみたらどうかな」
壱は言うと、笑顔を浮かべる。するとマリルの顔にも小さく笑みが浮かんだ。
「巧く出来るかまだ自信はありませんが、頑張ってみようと思います。そうですよね。兄さんを不幸にはしたく無いですから。まずはそこから、努力してみます」
「うん。それで良いと思う」
良かった。壱の広いとは言えない視野からの見解ではあったが、少しは前向きになってくれた様だ。
これがリオンの為にもなってくれたら良いのだが。そこは少し不安だ。
さて、すっかりと長居をしてしまった。壱は懐中時計で時間を確かめる。これはもう服を選んでいる時間は無いだろう。また出直すとしよう。
「じゃ、俺は帰るね。長話に付き合わせちゃってごめんね」
「いいえ、こちらこそありがとうございました。何だか気が晴れた感じがします」
マリルは言い、また笑顔を寄越してくれた。
食堂に戻る道すがら、壱はサユリに訊いてみる。
「俺、間違って無かったかな。リオンとマリルさん、おかしな事になったら怖いな」
「大丈夫カピ。マリルはいつでも下を向いていたカピ。これで少しはましになるのでは無いカピか。いつも明るい元罪人の村人の元気を分けてやりたいぐらいだカピ」
「ああ、それはそうかも」
壱は苦笑する。しかしサユリにそう言って貰えて、少し安心する。
食堂に到着し、夜営業の仕込みが始まった時、パンを捏ねるリオンに訊いてみた。
「ねぇリオン、妹さんに笑って欲しいと思う?」
するとリオンは何かを察したのか、躊躇い無く頷いた。
「勿論だ。確かに犯した罪は大きい。けど、あいつは気に病み過ぎだ。昔は悪かったけど、真面目でもあったから、きっとそれが仇になっているんだ。もう、大丈夫なのにな」
「そっか。なら良かった」
壱が安堵して言うと、リオンは笑みを浮かべて言った。
「ありがとう」
「え、いや、俺は何も」
壱は慌てて首を振り、仕込みの手を進めた。
夜営業の客足が落ち着いた頃、マユリが戸惑う様に壱を呼びに来た。
「あ、あの、お、お客さまです。イ、イチさんを呼んで欲しいって。あ、あの、マリルさんって言って、あの」
「ああ、リオンの妹さんね。何だろう。じいちゃん、手が空いたらちょっと行って来て良い?」
「構わんぞい」
「ありがとう」
壱はクリームソースのパスタを完成させると皿に盛り、マユリに渡す。
「これ、よろしくね」
「あ、はい、あ、あの」
「ん?」
「あ、い、いえ」
壱が返すが、マユリは口籠ってしまう。どうしたんだろうと思いながらも壱はフロアへと向かう。マユリもパスタの皿を手に付いて来た。
「マリルさんお待たせ。どうしたの?」
「あ、あの、イチさん、昼間はありがとうございました」
マリルは微笑んで言うと、頭を下げる。
「いや、こちらこそ時間取らせちゃって」
「それで、あの、これ、お礼です」
そう言って差し出される、やや大きめの紙の袋。
「え、俺に?」
「はい。是非受け取ってください」
「でも俺、お礼される様な事なんて何も」
「いえ。お話して貰って、私、少しですが変われる様な気がします。それは私にとっては凄く大きくて。なので、お礼がしたくて。少しでも気に入ってくださると良いんですけど」
そう言ってマリルははにかんだ。そこまで言われて固辞する程、壱は頑なでは無い。マリルの手から紙袋を受け取った。
「じゃあ受け取らせて貰うよ。ありがとう、マリルさん」
「あ、あの、良ければマリルって呼んでください」
「うん、解った」
壱が頷くと、マリルは嬉しそうに笑みを浮かべた。
マリルは既に食事を済ませていた様で、壱と話し終えると会計をして食堂を出て行った。
壱が厨房に戻ろうとすると、マユリと眼が合う。まるで絶望でもしたかの様な、呆然とした表情。
「マユリ、どうしたの? 何かあった?」
訊いてみると、マユリは表情を動かさぬまま応えた。
「い、いいえ、何でも、ありません」
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