異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈

文字の大きさ
112 / 190

#112 マリルの幸せと、リオンの想い。その2

しおりを挟む
「……ねぇ、マリルさんが発作みたいなの起こした時、リオンはどうやってくれるの?」

「あの、暴れる私を強く抱き締めてくれて、背中を優しく叩いてくれて、大丈夫だからって何度も言ってくれます」

「ああ、だったら本当に大丈夫だと思うんだけどな。家でリオンと話をしたりする? あ、リオンは無口だから、あまり無いかな」

「兄さんは、その日にあった事なんかを話してくれます。兄さんは無口ですけど、ずっと黙っている訳じゃ無いんですよ。面白い事だって言ってくれるんです。でも私は、小さく笑う事しか出来なくて」

「マリルさんに笑って欲しいんだよ、リオンも。だから話をするんだ。今度、思いっきり笑ってみたら良いよ。そしたらきっと喜んでくれるよ」

「そ、そうでしょうか」

「そうだよ。忘れない事も、反省する事も大切だと思う。でも、前を見る事も大事なんよ。幸せになっちゃいけないなんて、それは多分周りも幸せにならない。1番身近にいるリオンも幸せにはなれないよ」

「そう、ですよね」

 お、これは良い傾向だろうか。ここを間違ってはいけない。

「この村の人たちの殆どは、みんな何かしらの罪を背負ってるって聞いた。でもみんな明るいだろ? 多分解ってるんだよ。反省は必要だけども、それだけじゃ駄目だって。だからまずはさ、リオンの面白い話に、素直に笑ってみる所から始めてみたらどうかな」

 壱は言うと、笑顔を浮かべる。するとマリルの顔にも小さく笑みが浮かんだ。

「巧く出来るかまだ自信はありませんが、頑張ってみようと思います。そうですよね。兄さんを不幸にはしたく無いですから。まずはそこから、努力してみます」

「うん。それで良いと思う」

 良かった。壱の広いとは言えない視野からの見解ではあったが、少しは前向きになってくれた様だ。

 これがリオンの為にもなってくれたら良いのだが。そこは少し不安だ。

 さて、すっかりと長居をしてしまった。壱は懐中時計で時間を確かめる。これはもう服を選んでいる時間は無いだろう。また出直すとしよう。

「じゃ、俺は帰るね。長話に付き合わせちゃってごめんね」

「いいえ、こちらこそありがとうございました。何だか気が晴れた感じがします」

 マリルは言い、また笑顔を寄越してくれた。

 食堂に戻る道すがら、壱はサユリに訊いてみる。

「俺、間違って無かったかな。リオンとマリルさん、おかしな事になったら怖いな」

「大丈夫カピ。マリルはいつでも下を向いていたカピ。これで少しはましになるのでは無いカピか。いつも明るい元罪人の村人の元気を分けてやりたいぐらいだカピ」

「ああ、それはそうかも」

 壱は苦笑する。しかしサユリにそう言って貰えて、少し安心する。

 食堂に到着し、夜営業の仕込みが始まった時、パンを捏ねるリオンに訊いてみた。

「ねぇリオン、妹さんに笑って欲しいと思う?」

 するとリオンは何かを察したのか、躊躇い無く頷いた。

「勿論だ。確かに犯した罪は大きい。けど、あいつは気に病み過ぎだ。昔は悪かったけど、真面目でもあったから、きっとそれが仇になっているんだ。もう、大丈夫なのにな」

「そっか。なら良かった」

 壱が安堵して言うと、リオンは笑みを浮かべて言った。

「ありがとう」

「え、いや、俺は何も」

 壱は慌てて首を振り、仕込みの手を進めた。



 夜営業の客足が落ち着いた頃、マユリが戸惑う様に壱を呼びに来た。

「あ、あの、お、お客さまです。イ、イチさんを呼んで欲しいって。あ、あの、マリルさんって言って、あの」

「ああ、リオンの妹さんね。何だろう。じいちゃん、手が空いたらちょっと行って来て良い?」

「構わんぞい」

「ありがとう」

 壱はクリームソースのパスタを完成させると皿に盛り、マユリに渡す。

「これ、よろしくね」

「あ、はい、あ、あの」

「ん?」

「あ、い、いえ」

 壱が返すが、マユリは口籠ってしまう。どうしたんだろうと思いながらも壱はフロアへと向かう。マユリもパスタの皿を手に付いて来た。

「マリルさんお待たせ。どうしたの?」

「あ、あの、イチさん、昼間はありがとうございました」

 マリルは微笑んで言うと、頭を下げる。

「いや、こちらこそ時間取らせちゃって」

「それで、あの、これ、お礼です」

 そう言って差し出される、やや大きめの紙の袋。

「え、俺に?」

「はい。是非受け取ってください」

「でも俺、お礼される様な事なんて何も」

「いえ。お話して貰って、私、少しですが変われる様な気がします。それは私にとっては凄く大きくて。なので、お礼がしたくて。少しでも気に入ってくださると良いんですけど」

 そう言ってマリルははにかんだ。そこまで言われて固辞する程、壱は頑なでは無い。マリルの手から紙袋を受け取った。

「じゃあ受け取らせて貰うよ。ありがとう、マリルさん」

「あ、あの、良ければマリルって呼んでください」

「うん、解った」

 壱が頷くと、マリルは嬉しそうに笑みを浮かべた。

 マリルは既に食事を済ませていた様で、壱と話し終えると会計をして食堂を出て行った。

 壱が厨房に戻ろうとすると、マユリと眼が合う。まるで絶望でもしたかの様な、呆然とした表情。

「マユリ、どうしたの? 何かあった?」

 訊いてみると、マユリは表情を動かさぬまま応えた。

「い、いいえ、何でも、ありません」

 まるでロボットの様な棒読みで、しかし壱は首を傾げたまま厨房に入った。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

【完結】うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...