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1章 あらたなる挑戦
第14話 初めてひとりで
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近鉄本店の地下で買い物を終え、給湯室に入った紗奈と岡薗さん。さっそく買って来た食材を出す。
「春で良かったな。国産のアスパラもええ値段で買えたわ」
「アスパラガスって春のお野菜なんですね」
「そうやで。春が旬やな。冬とかやったら輸入もんとかになんねん」
「そうなんですね」
今度は旬のお野菜も勉強しなければと思う紗奈だった。
今日の食材は新玉ねぎとアスパラガスに人参、主役のお肉と木綿豆腐だ。
お肉はレシピでは牛肉だったのだが、高かったので豚の切り落としになった。
「あそこはな~、野菜は安いんやけど、肉とか加工品、成城石井エリアは、まぁ普通のスーパーに比べたら高いわ。牛肉も、スーパーやったらオージービーフとかアメリカ産とかで手軽なんがあるし、国産でも細切れとかやったらデパートより安う買えるんやけどな」
紗奈にはいまいちぴんと来なかったのだが、岡薗さんがそう言うのならそうなのだろう。
そう言えば家の近くにもスーパーがあるのに、ろくに行ったことが無かった。たまに行っても直行するのはお菓子やジュースのコーナーだ。今度お野菜やお肉も気を付けて見てみたい。
紗奈と岡薗さんは服の上にエプロンを着ける。岡薗さんの今日のスーツはベージュだった。淡い水色のシャツを合わせ、ネクタイはチャコールグレイだ。紗奈はくすみピンクのカットソーに黒のワイドパンツを合わせていた。
「よっしゃ、作ろか。あ、レシピ広げとかなな。ちょお待ってや」
給湯室を出て、少しして戻って来た岡薗さんの手には黒のブックスタンドがあった。
この事務所ではデザイン仕事の時に、ファッション雑誌やデザイン雑誌などを参考にすることがある。中綴じの雑誌は開きっぱなしができるのだが、特にデザイン雑誌は高い保存性のためか紙が厚くて平綴じが多く、ブックスタンドが重宝するのだ。紗奈も先日ロフトで私物として赤いものを買い求めた。
「これで開いて置いとこ」
「ありがとうございます」
岡薗さんが組み立ててくれたブックスタンドに、紗奈が該当ページを開いて挟んだ。
「よし、ほなレシピ通りに作ってこ。基本は天野さんにお願いするな」
「は、はい。お願いします!」
紗奈が固くなると、岡薗さんは「ははっ」とおかしそうに笑う。
「レシピ通りにやったら絶対に美味しゅうできるから。大丈夫大丈夫」
そうして調理に取り掛かる。紗奈は前もって、それこそ覚えるほど何度もレシピを読み込んだが、きちんとひとつひとつ見ながら調理を進めて行く。
「まずは、お肉ですか」
「なんやけど、先に野菜にしようか。肉切ってしもうたら、包丁とまな板洗わなあかんからな。野菜から切って、揚げとかの油もん、肉とかの脂もん。そうすると洗い物の回数が少なくて楽やで」
「なるほどです」
ではまず豆腐から。木綿豆腐1丁をパックから出し、12当分にする。レシピ通りなのだが、人数が3人なのでちょうど良かった。
次に新玉ねぎだ。レシピでは普通の玉ねぎなのだが、せっかくこの時季だけ買える新玉ねぎがあるのだからと、岡薗さんのおすすめだった。
くし形切りにするとのこと。切り方を紗奈はすでに勉強済みである。芯を切り落としてくし形切りにしていく。ただしスピードはかなり遅いし、恐々ではあるのだが。
やはり知識だけ取り入れても、そう簡単に巧く使える様になるわけでは無い。早く慣れて、速く使える様になりたい。そう願いながら紗奈は包丁を入れて行った。
「よしよし。次はアスパラやな。アスパラは新ものや言うても下の方の皮は硬いねん。レシピには無いんやけど、下3分の1ぐらいの皮をピーラーで剥こか」
そう言って、岡薗さんは調理台の下の引き出しからピーラーを出してくれた。そこには他にもお玉やへらなどの調理器具が収められている。
「これってじゃがいもの皮を剥いたりするんですよね?」
「そうやな。俺と牧田さんは包丁で剥くんに慣れとるから使わへんけど、アスパラはこっちの方が綺麗に剥けるからな。手本とかあったほうがええか?」
「お願いします」
「よし。こうやってな、刃を滑らせて、こうするねん」
岡薗さんがアスパラガスの下部の皮を剥くと、瑞々しい中身が顔を出した。そしてぺろっと細く薄い皮ができあがる。
「そんな力入れんで大丈夫やから、やってみ」
「は、はい」
紗奈は岡薗さんが見せてくれた通りに、アスパラガスにピーラーを当てて滑らせる。するとひらりと綺麗に剥けてくれた。
「わぁ……、できた」
紗奈は感動してしまう。先日初めてしろ菜を切った時にはそんな気持ちが沸くどころでは無かった。少しは余裕が出て来たということなのだろうか。
「よしよし。残りも同じ様にしてな」
「はい」
紗奈は丁寧に、だが少しでも速くできる様に、手早く、を心掛ける。そしてアスパラガス6本の皮剥きが終わった。
「できました」
「よし。そしたら下は皮剥いても硬いから、2センチぐらいを切り落としてな」
「はい」
紗奈はアスパラを2本ずつ揃えて切り落として行く。
「次は人参ですね」
「おう。皮は剥かんでええで」
「はい」
やはりレシピでは皮を剥くのだが、先日人参を使った時も、岡薗さんは剥かなくて良いと言っていた。皮のすぐ下に栄養がたっぷりと詰まっているらしいのだ。剥いてしまうともったいない。なので今回も大丈夫では無いかと思ったのだ。紗奈は人参を拍子木切りにして行った。
「春で良かったな。国産のアスパラもええ値段で買えたわ」
「アスパラガスって春のお野菜なんですね」
「そうやで。春が旬やな。冬とかやったら輸入もんとかになんねん」
「そうなんですね」
今度は旬のお野菜も勉強しなければと思う紗奈だった。
今日の食材は新玉ねぎとアスパラガスに人参、主役のお肉と木綿豆腐だ。
お肉はレシピでは牛肉だったのだが、高かったので豚の切り落としになった。
「あそこはな~、野菜は安いんやけど、肉とか加工品、成城石井エリアは、まぁ普通のスーパーに比べたら高いわ。牛肉も、スーパーやったらオージービーフとかアメリカ産とかで手軽なんがあるし、国産でも細切れとかやったらデパートより安う買えるんやけどな」
紗奈にはいまいちぴんと来なかったのだが、岡薗さんがそう言うのならそうなのだろう。
そう言えば家の近くにもスーパーがあるのに、ろくに行ったことが無かった。たまに行っても直行するのはお菓子やジュースのコーナーだ。今度お野菜やお肉も気を付けて見てみたい。
紗奈と岡薗さんは服の上にエプロンを着ける。岡薗さんの今日のスーツはベージュだった。淡い水色のシャツを合わせ、ネクタイはチャコールグレイだ。紗奈はくすみピンクのカットソーに黒のワイドパンツを合わせていた。
「よっしゃ、作ろか。あ、レシピ広げとかなな。ちょお待ってや」
給湯室を出て、少しして戻って来た岡薗さんの手には黒のブックスタンドがあった。
この事務所ではデザイン仕事の時に、ファッション雑誌やデザイン雑誌などを参考にすることがある。中綴じの雑誌は開きっぱなしができるのだが、特にデザイン雑誌は高い保存性のためか紙が厚くて平綴じが多く、ブックスタンドが重宝するのだ。紗奈も先日ロフトで私物として赤いものを買い求めた。
「これで開いて置いとこ」
「ありがとうございます」
岡薗さんが組み立ててくれたブックスタンドに、紗奈が該当ページを開いて挟んだ。
「よし、ほなレシピ通りに作ってこ。基本は天野さんにお願いするな」
「は、はい。お願いします!」
紗奈が固くなると、岡薗さんは「ははっ」とおかしそうに笑う。
「レシピ通りにやったら絶対に美味しゅうできるから。大丈夫大丈夫」
そうして調理に取り掛かる。紗奈は前もって、それこそ覚えるほど何度もレシピを読み込んだが、きちんとひとつひとつ見ながら調理を進めて行く。
「まずは、お肉ですか」
「なんやけど、先に野菜にしようか。肉切ってしもうたら、包丁とまな板洗わなあかんからな。野菜から切って、揚げとかの油もん、肉とかの脂もん。そうすると洗い物の回数が少なくて楽やで」
「なるほどです」
ではまず豆腐から。木綿豆腐1丁をパックから出し、12当分にする。レシピ通りなのだが、人数が3人なのでちょうど良かった。
次に新玉ねぎだ。レシピでは普通の玉ねぎなのだが、せっかくこの時季だけ買える新玉ねぎがあるのだからと、岡薗さんのおすすめだった。
くし形切りにするとのこと。切り方を紗奈はすでに勉強済みである。芯を切り落としてくし形切りにしていく。ただしスピードはかなり遅いし、恐々ではあるのだが。
やはり知識だけ取り入れても、そう簡単に巧く使える様になるわけでは無い。早く慣れて、速く使える様になりたい。そう願いながら紗奈は包丁を入れて行った。
「よしよし。次はアスパラやな。アスパラは新ものや言うても下の方の皮は硬いねん。レシピには無いんやけど、下3分の1ぐらいの皮をピーラーで剥こか」
そう言って、岡薗さんは調理台の下の引き出しからピーラーを出してくれた。そこには他にもお玉やへらなどの調理器具が収められている。
「これってじゃがいもの皮を剥いたりするんですよね?」
「そうやな。俺と牧田さんは包丁で剥くんに慣れとるから使わへんけど、アスパラはこっちの方が綺麗に剥けるからな。手本とかあったほうがええか?」
「お願いします」
「よし。こうやってな、刃を滑らせて、こうするねん」
岡薗さんがアスパラガスの下部の皮を剥くと、瑞々しい中身が顔を出した。そしてぺろっと細く薄い皮ができあがる。
「そんな力入れんで大丈夫やから、やってみ」
「は、はい」
紗奈は岡薗さんが見せてくれた通りに、アスパラガスにピーラーを当てて滑らせる。するとひらりと綺麗に剥けてくれた。
「わぁ……、できた」
紗奈は感動してしまう。先日初めてしろ菜を切った時にはそんな気持ちが沸くどころでは無かった。少しは余裕が出て来たということなのだろうか。
「よしよし。残りも同じ様にしてな」
「はい」
紗奈は丁寧に、だが少しでも速くできる様に、手早く、を心掛ける。そしてアスパラガス6本の皮剥きが終わった。
「できました」
「よし。そしたら下は皮剥いても硬いから、2センチぐらいを切り落としてな」
「はい」
紗奈はアスパラを2本ずつ揃えて切り落として行く。
「次は人参ですね」
「おう。皮は剥かんでええで」
「はい」
やはりレシピでは皮を剥くのだが、先日人参を使った時も、岡薗さんは剥かなくて良いと言っていた。皮のすぐ下に栄養がたっぷりと詰まっているらしいのだ。剥いてしまうともったいない。なので今回も大丈夫では無いかと思ったのだ。紗奈は人参を拍子木切りにして行った。
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