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4章 碧、転機を迎える
第3話 新たなる関係
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佐竹さんのお隣に座っている弓月さんが、ぎょっとした顔になり、だが失礼だと思ったのか、ぱっと片手で口を押さえた。
佐竹さんはそんな弓月さんに朗らかに笑いかけ、「気にせんでください」と言った。
「ほら、昔よりはましになったっちゅうても、マイノリティへの偏見てまだまだあるやん。ゲイは男やったらだれかれ構わずアタックするとかさ。んなわけ無いやん。ノーマルかて、異性見て誰でも好きになるわけや無いやん。一緒や。そりゃマジョリティよりはままならんことは多いわ。でもこれもおれの個性やから、受け入れるしか無いんやわ。まぁ弓月さんには確かに下心があるんやけど」
また弓月さんが目を白黒させる。佐竹さんは「はは」と屈託なく笑った。
「弓月さんの気持ちとかは分かってるつもりっすから、そこを無理強いしたりするほど、おれは無神経なつもり無いっすよ」
弓月さんはほっとした様な表情を浮かべる。それはあからさまで。
「ははっ、正直っすねぇ、弓月さん」
佐竹さんはどこまでも明るい。そこに佐竹さんの強さが表れている様な気がする。碧はあらためて佐竹さんを見直す。なのだが。
「それやのに、何で結婚相談所に登録してはったんですか?」
碧の素朴な疑問である。ゲイであるのなら、女性とマッチングする可能性は限りなく低い。それに相手の女性に失礼とも言える。
「いや、「ペンギンキッチン」の店舗拡大の狙いもあったんやけど、ゲイのおれでも結婚したいて思える女の人に出会えたらっちゅう、一縷の望みっちゅうんか? そんな奇跡が起こったらなって」
「佐竹さん、結婚したいんですか?」
「おれ自身はこだわってへんねん。でもさ、おれらの親世代って、どうしてもおれみたいなのって理解が難しい人が多いみたいでな。うちの親もそうで。恋愛対象は同性で、異性は好きになられへんて言うても、「じゃあどんな女性やったらええねん」て言われる。どんなええ女でも、女性やっていうだけで難しいのにな。ほんま、しんどいわ」
佐竹さんはらしく無くも苦笑を見せる。親御さんに理解されないことは、佐竹さんにとってやはり辛いことなのだろう。親御さんこそ、いちばん分かって欲しい存在だろうに。
碧が何を言っても、どうにもならないのだろう。なぜなら、碧に佐竹さんの気持ちは分からない。碧は恋愛対象が異性で、今はまだ結婚相手に巡り合っていないだけで、その選択肢はきっと多い。だが佐竹さんはそうでは無いのだと思う。
「わたしは、佐竹さんがご納得される形で、お好きな人と寄り添って欲しいって思います。それが男性でも、もしかしたら女性でも、理解してくれはる人がいるって、それだけで心強いというか、安心できるんかなって」
碧が言うと、佐竹さんはぽかんとした表情になる。ああ、おかしなことを言ってしまったのだろうか。
「変なこと言うてすいません」
碧が慌てて頭を下げると。
「ううん、ありがとう、碧ちゃん」
佐竹さんは、少し照れた様な笑みを見せてくれた。それもまた、意外な表情で。
「碧ちゃんがそう言ってくれて嬉しいわ。おれはこんなんやけど、同じ様な人は世間が思うよりもたくさんおって、しんどい思いしてる人もおる。おれは結構楽観的な方やと思うけど、それでもしんどいなぁて思うときはあってな。せやから、碧ちゃんの言葉って救われるんよ」
「いえ、わたしはほんまに何も分かってへんくて。でも、いろんな人がいてはるってことは知っていたくて。このお店のお客さまもおひとりおひとりのお考えとか価値観とかがあって、でもそういう方たちがみなさまここの味を求めてくださって。わたしは自分ができることしかできひんので、みなさまをお迎えすることしかできませんけど、佐竹さんみたいにご自分のことをお話してくださる方に、少しでも寄り添えたらなって、生意気なことを思ってしまうんです」
おこがましいことは分かっている。それでもひとりひとり違う人だから、その人に合った接し方ができたら、と思っている。難しいことだと思う。ましてや碧はまだ未熟だ。どこまでそうすることができるのか。それはその人の人となりを見て、努力するしか無い。
「生意気なことあれへんよ。碧ちゃんのその気持ちだけで充分やわ。そういう思いやりの気持ちって、誰もに備わってるもんや無いからな。せやからおれは、碧ちゃんと友だちになりたいって思ったんや」
「友だち、ですか?」
「そう。弓月さんとも、そう。おれがいくら弓月さんを思ってても、それが叶わんことはおれがいちばん分かってるから、せめて友だちでおりたいなって」
明るい佐竹さんの言葉に、嘘などは感じられない。きっと本当にそう思ってくれているのだ。そしてそう言ってもらえることこそが、碧にとってありがたいことなのだ。
「ありがとうございます。嬉しいです。でもやっぱり、わたしはお客さまとの線引きは、ちゃんとしといた方がええって思ってまうんです。こうしてきていただいて、お話さしてもらうんは楽しいですけど、飲みに行ったりとか、それ以上は。申し訳無いです」
碧ができるかぎり丁寧に頭を下げると、佐竹さんは「そっか~」と残念そうに呟いた。
「でも、それでも充分やわ。けど、おれ、碧ちゃんの友だちやって思っててええ? それだけでも、おれは嬉しいねん」
「はい。こちらこそ、光栄です。ありがとうございます」
碧が微笑むと、佐竹さんは「よっしゃ! ありがとう!」とガッツポーズを作った。
佐竹さんはそんな弓月さんに朗らかに笑いかけ、「気にせんでください」と言った。
「ほら、昔よりはましになったっちゅうても、マイノリティへの偏見てまだまだあるやん。ゲイは男やったらだれかれ構わずアタックするとかさ。んなわけ無いやん。ノーマルかて、異性見て誰でも好きになるわけや無いやん。一緒や。そりゃマジョリティよりはままならんことは多いわ。でもこれもおれの個性やから、受け入れるしか無いんやわ。まぁ弓月さんには確かに下心があるんやけど」
また弓月さんが目を白黒させる。佐竹さんは「はは」と屈託なく笑った。
「弓月さんの気持ちとかは分かってるつもりっすから、そこを無理強いしたりするほど、おれは無神経なつもり無いっすよ」
弓月さんはほっとした様な表情を浮かべる。それはあからさまで。
「ははっ、正直っすねぇ、弓月さん」
佐竹さんはどこまでも明るい。そこに佐竹さんの強さが表れている様な気がする。碧はあらためて佐竹さんを見直す。なのだが。
「それやのに、何で結婚相談所に登録してはったんですか?」
碧の素朴な疑問である。ゲイであるのなら、女性とマッチングする可能性は限りなく低い。それに相手の女性に失礼とも言える。
「いや、「ペンギンキッチン」の店舗拡大の狙いもあったんやけど、ゲイのおれでも結婚したいて思える女の人に出会えたらっちゅう、一縷の望みっちゅうんか? そんな奇跡が起こったらなって」
「佐竹さん、結婚したいんですか?」
「おれ自身はこだわってへんねん。でもさ、おれらの親世代って、どうしてもおれみたいなのって理解が難しい人が多いみたいでな。うちの親もそうで。恋愛対象は同性で、異性は好きになられへんて言うても、「じゃあどんな女性やったらええねん」て言われる。どんなええ女でも、女性やっていうだけで難しいのにな。ほんま、しんどいわ」
佐竹さんはらしく無くも苦笑を見せる。親御さんに理解されないことは、佐竹さんにとってやはり辛いことなのだろう。親御さんこそ、いちばん分かって欲しい存在だろうに。
碧が何を言っても、どうにもならないのだろう。なぜなら、碧に佐竹さんの気持ちは分からない。碧は恋愛対象が異性で、今はまだ結婚相手に巡り合っていないだけで、その選択肢はきっと多い。だが佐竹さんはそうでは無いのだと思う。
「わたしは、佐竹さんがご納得される形で、お好きな人と寄り添って欲しいって思います。それが男性でも、もしかしたら女性でも、理解してくれはる人がいるって、それだけで心強いというか、安心できるんかなって」
碧が言うと、佐竹さんはぽかんとした表情になる。ああ、おかしなことを言ってしまったのだろうか。
「変なこと言うてすいません」
碧が慌てて頭を下げると。
「ううん、ありがとう、碧ちゃん」
佐竹さんは、少し照れた様な笑みを見せてくれた。それもまた、意外な表情で。
「碧ちゃんがそう言ってくれて嬉しいわ。おれはこんなんやけど、同じ様な人は世間が思うよりもたくさんおって、しんどい思いしてる人もおる。おれは結構楽観的な方やと思うけど、それでもしんどいなぁて思うときはあってな。せやから、碧ちゃんの言葉って救われるんよ」
「いえ、わたしはほんまに何も分かってへんくて。でも、いろんな人がいてはるってことは知っていたくて。このお店のお客さまもおひとりおひとりのお考えとか価値観とかがあって、でもそういう方たちがみなさまここの味を求めてくださって。わたしは自分ができることしかできひんので、みなさまをお迎えすることしかできませんけど、佐竹さんみたいにご自分のことをお話してくださる方に、少しでも寄り添えたらなって、生意気なことを思ってしまうんです」
おこがましいことは分かっている。それでもひとりひとり違う人だから、その人に合った接し方ができたら、と思っている。難しいことだと思う。ましてや碧はまだ未熟だ。どこまでそうすることができるのか。それはその人の人となりを見て、努力するしか無い。
「生意気なことあれへんよ。碧ちゃんのその気持ちだけで充分やわ。そういう思いやりの気持ちって、誰もに備わってるもんや無いからな。せやからおれは、碧ちゃんと友だちになりたいって思ったんや」
「友だち、ですか?」
「そう。弓月さんとも、そう。おれがいくら弓月さんを思ってても、それが叶わんことはおれがいちばん分かってるから、せめて友だちでおりたいなって」
明るい佐竹さんの言葉に、嘘などは感じられない。きっと本当にそう思ってくれているのだ。そしてそう言ってもらえることこそが、碧にとってありがたいことなのだ。
「ありがとうございます。嬉しいです。でもやっぱり、わたしはお客さまとの線引きは、ちゃんとしといた方がええって思ってまうんです。こうしてきていただいて、お話さしてもらうんは楽しいですけど、飲みに行ったりとか、それ以上は。申し訳無いです」
碧ができるかぎり丁寧に頭を下げると、佐竹さんは「そっか~」と残念そうに呟いた。
「でも、それでも充分やわ。けど、おれ、碧ちゃんの友だちやって思っててええ? それだけでも、おれは嬉しいねん」
「はい。こちらこそ、光栄です。ありがとうございます」
碧が微笑むと、佐竹さんは「よっしゃ! ありがとう!」とガッツポーズを作った。
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