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4章 碧、転機を迎える
第14話 まさかのことに
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お母さんは冷酷とも言える様な顔で、また口を開く。
「それやったら、わたしが二口女で、碧ちゃんが人間とのハーフやっちゅうことも分かってるやんね?」
「もちろんです」
弓月さんはお母さんをまっすぐに見据えて頷く。
「あやかしの中には、人間と結婚したがってるのもいるってのは知ってる。小さいけど利点があるからね。言うてもわたしもそうやった。できたら嬉しいな、ぐらいやったけど。せやからわたしは、お父さんに会えたんがもの凄い幸運やったし、ありがたいご縁やったって思ってる。弓月さんはどうや? 碧を思ってそう言うてるん? それともハーフとはいえ人間と結婚したいだけ?」
お母さんはいつもの丁寧語がすっかりと抜けている。ほのかな怒りすら感じる。どうしてお母さんはここまで怒っているのか。それに利点とは何のことだろうか。
弓月さんはお母さんに詰められ、それでもぐっと表情を引き締めた。
「もちろん、碧さんを思ってるからです。そして、この「とくら食堂」が好きやからです。せやので、碧さんを支えていきたいって思いました」
「本気やね?」
「本気です」
店内に緊張が走る。碧は思わずこくりと喉を鳴らしてしまう。静まり返ってしまい、碧はますます強張ってしまう。お父さんは、と見ると、ゆったりとした笑顔でお母さんたちを見守っている。
「ほんまやね?」
「ほんまです。偽りはありません」
そしてまた、訪れる静寂。これを打ち破るためにあらたなお客さまが来て欲しい様な、でも今来てもらっては困る様な、そんな思いに駆られたとき。
「よっしゃ」
お母さんが表情を緩ませると、場の雰囲気もほころんだ。弓月さんはほっとした様な表情を見せる。
「やったら、あとは碧ちゃん次第やな。わたしもお父さんも当然中立やけど、邪魔とかもちろんせんから、せいぜいがんばり」
「はい!」
そう応える弓月さんの顔は、きらきらと輝いていた。お母さんは、もちろんお父さんも後押しをするわけでは無いにしても、お許しはもらえたということだ。
碧と、一緒になることを。
と、ここまではさすがの碧も理解できる。だが、弓月さんが本当に? にわかには信じられないのだが。
「碧さん!」
弓月さんが碧に笑顔を向ける。碧はびくりとして目をぱちくりさせた。
「ぼくは、真剣に碧さんを思っています。このお店も大好きです。どうか、ぼくとの未来を考えてみてもらえませんか」
「ふぇ、あの」
弓月さんの熱い眼差しにとらわれ、碧は間抜けな声をあげることしかできなかった。碧、碧の気持ちは。
「もちろん、お返事は急ぎません。いつまでかて待ちます。碧さんが30になっても40になっても50になっても。ぼくはあやかしですから、時間はたっぷりあるんです」
弓月さんは優しく言って、立ち上がる。お母さんがレジに向かったので、それを追いかけていった。
お会計をしてもらい、碧にぺこりと一礼して、弓月さんはお店を出ていった。
碧はあまりのことに、その場にへなへなとへたり込みそうになってしまう。お父さんが「碧、大丈夫か?」と慌てた声で支えてくれた。
「うん……。まさか、弓月さんが、あんな」
碧が呟くと、お父さんは少し呆れた様に言った。
「碧、多分気付いてへんのは碧だけや。お父さんもお母さんも、多分、佐竹さんも知っとった。でも弓月さんが何のアクションも起こさんかったから、静観してたんや」
「そうなん? それに、弓月さんがあやかしなんも、全然気付かんかった」
「だって、碧ちゃんは目が良く無いから」
お母さんがカウンタ越しに言う。ああ、そう言えば以前に、お母さんにそんな言い回しをされて、違和感を覚えたことを思い出した。
「お母さんは知ってたん?」
「知ってたし、あやかしは碧が思ってるより日常に溶け込んでるよ。ここのお客さんにもいてはるしね」
「そうなん?」
碧が目を丸くすると、お母さんはにっこりと笑う。
「弓月さんとのことは、ゆっくり考えたらええよ。多分、弓月さんはいつも通りに毎日きてくれはる。碧の気持ちが固まったら、返事したらええ。ああ、でもね、あんま堅苦しく考えることは無いと思う。結婚相談所でマッチングして付き合えたとしても、成婚できるとは限らんのが、人のご縁やからね。例え弓月さんとお付き合いすることになったとしても、結婚せなあかんわけや無い。それを縛りにしたらあかんよ。それが碧の目を曇らしてまうからね」
「うん、ちゃんと、考えてみる」
「うん」
お母さんも、お父さんも微笑んでくれる。碧は大切にされている。弓月さんとどうなるかはまだ分からない。それでも、きっと、慈しんでくれるものに囲まれて、幸せになれる、強く、そう思うのだ。
「それやったら、わたしが二口女で、碧ちゃんが人間とのハーフやっちゅうことも分かってるやんね?」
「もちろんです」
弓月さんはお母さんをまっすぐに見据えて頷く。
「あやかしの中には、人間と結婚したがってるのもいるってのは知ってる。小さいけど利点があるからね。言うてもわたしもそうやった。できたら嬉しいな、ぐらいやったけど。せやからわたしは、お父さんに会えたんがもの凄い幸運やったし、ありがたいご縁やったって思ってる。弓月さんはどうや? 碧を思ってそう言うてるん? それともハーフとはいえ人間と結婚したいだけ?」
お母さんはいつもの丁寧語がすっかりと抜けている。ほのかな怒りすら感じる。どうしてお母さんはここまで怒っているのか。それに利点とは何のことだろうか。
弓月さんはお母さんに詰められ、それでもぐっと表情を引き締めた。
「もちろん、碧さんを思ってるからです。そして、この「とくら食堂」が好きやからです。せやので、碧さんを支えていきたいって思いました」
「本気やね?」
「本気です」
店内に緊張が走る。碧は思わずこくりと喉を鳴らしてしまう。静まり返ってしまい、碧はますます強張ってしまう。お父さんは、と見ると、ゆったりとした笑顔でお母さんたちを見守っている。
「ほんまやね?」
「ほんまです。偽りはありません」
そしてまた、訪れる静寂。これを打ち破るためにあらたなお客さまが来て欲しい様な、でも今来てもらっては困る様な、そんな思いに駆られたとき。
「よっしゃ」
お母さんが表情を緩ませると、場の雰囲気もほころんだ。弓月さんはほっとした様な表情を見せる。
「やったら、あとは碧ちゃん次第やな。わたしもお父さんも当然中立やけど、邪魔とかもちろんせんから、せいぜいがんばり」
「はい!」
そう応える弓月さんの顔は、きらきらと輝いていた。お母さんは、もちろんお父さんも後押しをするわけでは無いにしても、お許しはもらえたということだ。
碧と、一緒になることを。
と、ここまではさすがの碧も理解できる。だが、弓月さんが本当に? にわかには信じられないのだが。
「碧さん!」
弓月さんが碧に笑顔を向ける。碧はびくりとして目をぱちくりさせた。
「ぼくは、真剣に碧さんを思っています。このお店も大好きです。どうか、ぼくとの未来を考えてみてもらえませんか」
「ふぇ、あの」
弓月さんの熱い眼差しにとらわれ、碧は間抜けな声をあげることしかできなかった。碧、碧の気持ちは。
「もちろん、お返事は急ぎません。いつまでかて待ちます。碧さんが30になっても40になっても50になっても。ぼくはあやかしですから、時間はたっぷりあるんです」
弓月さんは優しく言って、立ち上がる。お母さんがレジに向かったので、それを追いかけていった。
お会計をしてもらい、碧にぺこりと一礼して、弓月さんはお店を出ていった。
碧はあまりのことに、その場にへなへなとへたり込みそうになってしまう。お父さんが「碧、大丈夫か?」と慌てた声で支えてくれた。
「うん……。まさか、弓月さんが、あんな」
碧が呟くと、お父さんは少し呆れた様に言った。
「碧、多分気付いてへんのは碧だけや。お父さんもお母さんも、多分、佐竹さんも知っとった。でも弓月さんが何のアクションも起こさんかったから、静観してたんや」
「そうなん? それに、弓月さんがあやかしなんも、全然気付かんかった」
「だって、碧ちゃんは目が良く無いから」
お母さんがカウンタ越しに言う。ああ、そう言えば以前に、お母さんにそんな言い回しをされて、違和感を覚えたことを思い出した。
「お母さんは知ってたん?」
「知ってたし、あやかしは碧が思ってるより日常に溶け込んでるよ。ここのお客さんにもいてはるしね」
「そうなん?」
碧が目を丸くすると、お母さんはにっこりと笑う。
「弓月さんとのことは、ゆっくり考えたらええよ。多分、弓月さんはいつも通りに毎日きてくれはる。碧の気持ちが固まったら、返事したらええ。ああ、でもね、あんま堅苦しく考えることは無いと思う。結婚相談所でマッチングして付き合えたとしても、成婚できるとは限らんのが、人のご縁やからね。例え弓月さんとお付き合いすることになったとしても、結婚せなあかんわけや無い。それを縛りにしたらあかんよ。それが碧の目を曇らしてまうからね」
「うん、ちゃんと、考えてみる」
「うん」
お母さんも、お父さんも微笑んでくれる。碧は大切にされている。弓月さんとどうなるかはまだ分からない。それでも、きっと、慈しんでくれるものに囲まれて、幸せになれる、強く、そう思うのだ。
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