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エピローグ
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「25歳で婚活始めて、相談所と関係無いとこで、25歳のうちに結婚決めたか。ほんま、真剣な思いは通じるもんやなぁ、先越されたわ」
「待たんかい! 碧はおれと結婚するんや!」
「おまえの出る幕はあれへん。黙っておれ」
「お祖母ちゃん、あれからもお見合い写真集めとったのよ~。ま、でも、碧ちゃんがええと思える人と一緒になるんが大事やからね」
9月下旬の土曜日、箕面市の都倉本家は今日も賑やかである。大きなダイニングテーブルには家政婦の久慈さんが作ってくれたお料理に、お父さんと碧が作って持ち込んだお料理、そしてお酒が所狭しと並んでいる。
笠野の祖父母は今日も「呉春」の特吟持参である。デカンタに移され、小さなグラスに注がれたそれを、双方のお祖父ちゃんが並んでにこにこと楽しんでいる。
今日の主役は碧と、都倉俊さん、旧姓弓月俊さんである。俊さんには身寄りがおらず、都倉姓を名乗ることになったのだ。
碧は、俊さんの告白からたくさん考えた。そのとき、思い出したのだ。婚活はともかく、お見合いをしたことを俊さんに知られるのが嫌だと感じたことがあったのを。
そうか、わたしは弓月さんを憎からず思っとってんな。それを自覚して、碧は弓月さん、俊さんとお付き合いをすることに決めたのだ。
それから、俊さんの良いところをたくさん知ることができた。優しくて穏やかなのは、だいだらぼっちの特徴なのだろう。だいだらぼっちはそういうあやかしなのだ。人間に害をなすことも無い。
決して派手なときめきとか、そういったものがあるわけでは無い。だが一緒にいると、碧も優しくて穏やかな気持ちになれる。結婚相手には、そういう要素も大事なのでは、と思う様になっていったのだ。
碧が望んでいるものは、夫婦二人三脚での家庭と「とくら食堂」の繁栄と維持だ。そのパートナーに、俊さんはうってつけなのでは無いかと思うのだ。
だから、碧は俊さんとの結婚を決めた。俊さんは本当に心の底から喜んでくれた。
俊さんも碧も派手な結婚式などは望んでいなかったので、お父さんとお母さんのお許しをもらって、入籍だけしとやかに済ませた。
俊さんと真剣交際を始めたころ、結婚相談所の担当者である柏木さんに、お電話で連絡をした。このまま退会になると思うので、直接お礼を言いたかったのだ。
『まぁ! それは大変おめでとうございます!』
碧の話を聞いて、柏木さんは大層喜んでくれた。
『都倉さまのお幸せを、お祈りしております」
お友だちの結依ちゃんにも、もちろんすぐに報告した。
「凄いやん! おめでとう!」
そう言って全力で喜んでくれた。
おめでとう、なんて言われると、本当に心が暖まるのだ。幸せをいただいて、そして幸せを手渡す、そんな気持ちになれる。
「それにしても、だいだらぼっちかぁ。人間の結婚相手にはぴったりのええ相手やん」
陽くんのせりふに黒助くんが「そんなやつより猫又のおれの方が!」と騒ぐが、ざしきちゃんに「せやから黙っておれ」と一蹴される。
お父さんはそんな騒ぎを横に、嬉しそうに「呉春」を傾けている。
「ぼく、俊くんはええ人やって思うんもそうやけど、お父さんと碧がこの世を去ってしもたあとも、安心できるなぁて思っててな」
「お父さん、そんな、縁起でも無いこと」
碧が思わず顔をしかめると。
「お父さんは人間やから、当然お母さんより先に逝く。碧かて、ハーフなんやからお母さんや俊くんより早いやろ? そのあと、お母さんと俊くんが親子として支え合ってくれたら嬉しいなって思ってるんよ」
そうだ、そうだった。碧はハーフだから、普通の人間よりも長寿かも知れない。そうなるとお母さんはひとりになってしまう。笠野の祖父母もあやかしなのだから、実家に戻ることもできるだろうが、そのときに支え合える身近な人がいるのといないのとでは、また違うのかも知れない。
「お義父さん、もちろんお義父さんにはめっちゃ長生きして欲しいですけど、もしものときには、ぼくがお義母さんを守りますから」
俊さんが真面目な顔で言う。お父さんは「頼もしいなぁ」と笑みを浮かべた。
「ま、まだまだ先のことやからね。お父さんにはまだまだ元気でごはん作ってもらわんと。わたしが飢えてまうわ」
お母さんがそんな軽口を叩きながら、久慈さんが作ってくれたポテトサラダを口に入れた。
「ん、やっぱり絶品。お父さんのももちろんめっちゃ美味しいけどね」
そう言ってお父さんを褒めることも忘れない。お父さんは照れた様に口角を上げた。
ところで俊くんは、碧と結婚してから身長が伸びた。もともと178センチで低くは無かったのだが、183センチになったのだ。5センチ増えた。
実はこれが、あやかしが人間と結婚したら生じる利点で、あやかしの能力が高まるのだ。だから俊さんは、結婚してからますます優しい人になった様な気がする。
ちなみにお母さんの利点は、食べられる量の天井が突破したことだった。
俊さんと一緒になってから、碧は実家を出て、本町で別にマンションを借りて一緒に生活をしている。「とくら食堂」は3人がいれば充分なので、俊さんは会社勤めを続けている。お仕事のシフトも早番にしてもらい、碧の生活ペースに合わせてくれている。もちろん家事は協力できている。お料理は碧の担当である。
これからどうなるのか、先のことまで分かるわけが無い。だけど、碧はきっと幸せになれる。そんな予感だけは強いのだ。自分を慈しんでくれる両親がいて、思ってくれている俊さんがいて、見守ってくれる都倉本家の人々と、笠野の祖父母がいる。こんなに心強いことは無い。
「俊さん、ありがとう」
碧が言うと、俊さんは一瞬きょとんとして。
「……こちらこそ、ありがとう」
そう言って、ゆったりと微笑んだ。
こうして碧の25歳は、幸福な年になったのだった。
「待たんかい! 碧はおれと結婚するんや!」
「おまえの出る幕はあれへん。黙っておれ」
「お祖母ちゃん、あれからもお見合い写真集めとったのよ~。ま、でも、碧ちゃんがええと思える人と一緒になるんが大事やからね」
9月下旬の土曜日、箕面市の都倉本家は今日も賑やかである。大きなダイニングテーブルには家政婦の久慈さんが作ってくれたお料理に、お父さんと碧が作って持ち込んだお料理、そしてお酒が所狭しと並んでいる。
笠野の祖父母は今日も「呉春」の特吟持参である。デカンタに移され、小さなグラスに注がれたそれを、双方のお祖父ちゃんが並んでにこにこと楽しんでいる。
今日の主役は碧と、都倉俊さん、旧姓弓月俊さんである。俊さんには身寄りがおらず、都倉姓を名乗ることになったのだ。
碧は、俊さんの告白からたくさん考えた。そのとき、思い出したのだ。婚活はともかく、お見合いをしたことを俊さんに知られるのが嫌だと感じたことがあったのを。
そうか、わたしは弓月さんを憎からず思っとってんな。それを自覚して、碧は弓月さん、俊さんとお付き合いをすることに決めたのだ。
それから、俊さんの良いところをたくさん知ることができた。優しくて穏やかなのは、だいだらぼっちの特徴なのだろう。だいだらぼっちはそういうあやかしなのだ。人間に害をなすことも無い。
決して派手なときめきとか、そういったものがあるわけでは無い。だが一緒にいると、碧も優しくて穏やかな気持ちになれる。結婚相手には、そういう要素も大事なのでは、と思う様になっていったのだ。
碧が望んでいるものは、夫婦二人三脚での家庭と「とくら食堂」の繁栄と維持だ。そのパートナーに、俊さんはうってつけなのでは無いかと思うのだ。
だから、碧は俊さんとの結婚を決めた。俊さんは本当に心の底から喜んでくれた。
俊さんも碧も派手な結婚式などは望んでいなかったので、お父さんとお母さんのお許しをもらって、入籍だけしとやかに済ませた。
俊さんと真剣交際を始めたころ、結婚相談所の担当者である柏木さんに、お電話で連絡をした。このまま退会になると思うので、直接お礼を言いたかったのだ。
『まぁ! それは大変おめでとうございます!』
碧の話を聞いて、柏木さんは大層喜んでくれた。
『都倉さまのお幸せを、お祈りしております」
お友だちの結依ちゃんにも、もちろんすぐに報告した。
「凄いやん! おめでとう!」
そう言って全力で喜んでくれた。
おめでとう、なんて言われると、本当に心が暖まるのだ。幸せをいただいて、そして幸せを手渡す、そんな気持ちになれる。
「それにしても、だいだらぼっちかぁ。人間の結婚相手にはぴったりのええ相手やん」
陽くんのせりふに黒助くんが「そんなやつより猫又のおれの方が!」と騒ぐが、ざしきちゃんに「せやから黙っておれ」と一蹴される。
お父さんはそんな騒ぎを横に、嬉しそうに「呉春」を傾けている。
「ぼく、俊くんはええ人やって思うんもそうやけど、お父さんと碧がこの世を去ってしもたあとも、安心できるなぁて思っててな」
「お父さん、そんな、縁起でも無いこと」
碧が思わず顔をしかめると。
「お父さんは人間やから、当然お母さんより先に逝く。碧かて、ハーフなんやからお母さんや俊くんより早いやろ? そのあと、お母さんと俊くんが親子として支え合ってくれたら嬉しいなって思ってるんよ」
そうだ、そうだった。碧はハーフだから、普通の人間よりも長寿かも知れない。そうなるとお母さんはひとりになってしまう。笠野の祖父母もあやかしなのだから、実家に戻ることもできるだろうが、そのときに支え合える身近な人がいるのといないのとでは、また違うのかも知れない。
「お義父さん、もちろんお義父さんにはめっちゃ長生きして欲しいですけど、もしものときには、ぼくがお義母さんを守りますから」
俊さんが真面目な顔で言う。お父さんは「頼もしいなぁ」と笑みを浮かべた。
「ま、まだまだ先のことやからね。お父さんにはまだまだ元気でごはん作ってもらわんと。わたしが飢えてまうわ」
お母さんがそんな軽口を叩きながら、久慈さんが作ってくれたポテトサラダを口に入れた。
「ん、やっぱり絶品。お父さんのももちろんめっちゃ美味しいけどね」
そう言ってお父さんを褒めることも忘れない。お父さんは照れた様に口角を上げた。
ところで俊くんは、碧と結婚してから身長が伸びた。もともと178センチで低くは無かったのだが、183センチになったのだ。5センチ増えた。
実はこれが、あやかしが人間と結婚したら生じる利点で、あやかしの能力が高まるのだ。だから俊さんは、結婚してからますます優しい人になった様な気がする。
ちなみにお母さんの利点は、食べられる量の天井が突破したことだった。
俊さんと一緒になってから、碧は実家を出て、本町で別にマンションを借りて一緒に生活をしている。「とくら食堂」は3人がいれば充分なので、俊さんは会社勤めを続けている。お仕事のシフトも早番にしてもらい、碧の生活ペースに合わせてくれている。もちろん家事は協力できている。お料理は碧の担当である。
これからどうなるのか、先のことまで分かるわけが無い。だけど、碧はきっと幸せになれる。そんな予感だけは強いのだ。自分を慈しんでくれる両親がいて、思ってくれている俊さんがいて、見守ってくれる都倉本家の人々と、笠野の祖父母がいる。こんなに心強いことは無い。
「俊さん、ありがとう」
碧が言うと、俊さんは一瞬きょとんとして。
「……こちらこそ、ありがとう」
そう言って、ゆったりと微笑んだ。
こうして碧の25歳は、幸福な年になったのだった。
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