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2章 多種多様なお客さま
第11話 今のこと、先のこと
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生ビールは季節問わず、好まれる傾向にある様だ。暑いときに飲む生ビールが格別なのは由祐も経験済みだが、寒くなっても1杯目は生ビール、というお客さまは多い。
それは人間だけでは無く、あやかしも同様である。正体がくだんの久田さんは生ビールが好きで、季節問わず生ビールばかりをまるでお水の様に飲む。ビールは日本酒などよりはアルコール度数が低いが、それでも10杯15杯と重ねるのは相当だろう。
くだんには、予知能力がある。久田さんはそれを活かして、占い師をしているのだ。アメリカ村、通称アメ村にある占いの館に所属していて、それはもう良く当たると人気なのだそうだ。だからなのか、いつも紫色のワンピースを着ていた。何となく神秘的だ。
アメ村は若者向けのおしゃれで雑多な街、そんな印象だ。ブティックや雑貨店などが所狭しと連なる。大人気のたこ焼き屋さん「甲賀流」さんの本店があり、イートインスペースもあるのだが、アメリカ村の中心にある三角公園で若い子たちがぱくついてることが多い。
最寄り駅は大阪メトロ御堂筋線と長堀鶴見緑地線の心斎橋駅か、四つ橋線の四ツ橋駅。大阪で最大級の繁華街であるなんばにも近く、いつでも人でいっぱいである。
そんなアメ村なので、占いのお客さまも若い女性が多い。そして恋愛相談も多い。
もう少し年齢を重ねたお客さまだったら、お仕事のことや金運、先々のことも含めて占って欲しがるが、若い女性は「今」を知りたがる。それはとても健全だと言えるのだと思う。
学生さんでも社会人であっても、若いときは先よりも「今」の自分の周りを見がちなのだと思う。狭い世界であっても、その人にとってはそれが全て。
でも、それで良いのだ。それだけでもその人には「たくさん」で、「いっぱいいっぱい」なのだ。それが若い人を輝かせるのだ。
そこに、恋愛というエッセンスが加わる。キャパシティの幾分かがそちらに割かれ、それはバラ色に染まる。そして花開く。
もちろん叶わないことだってあるだろう。だがその傷を乗り越えるのも、大切なこと。その人の経験、糧になる。
素晴らしい青春だな、と、恋愛経験も乏しい由祐は、久田さんのお話を聞いていて思うのだ。
「ほんまにねぇ、お客さんのお嬢さんら、みんな可愛らしいんよ。でもね、ほら、まだまだ若いから、その相手と思いが通じ合ったとしても、生涯を添い遂げる可能性はあんま高く無いやん? それでもね、あの子たちには「今」なんよ。今の快楽で、今の幸せ。でも若いうちはそれでええんよね。ほんま、愛らしいわぁ」
久田さんはそう言いながら、うっとりとした顔で微笑む。慈愛深いあやかしなのだな、と、由祐は暖かな気持ちになるのだ。
由祐も女性の端くれとして、占いに少しは興味がある。だがプロである久田さんに軽々に「視てください」なんて言えるわけが無い。それがくだんの能力だと分かっていても。
なのだが。
「ねぇ久田ちゃぁん、わたくしと茨木の未来を視てよ~う」
なんて、雲田さんは久田さんに会うたびに軽く言う。そんな雲田さんのお願いに、久田さんはいつも。
「なぁんも無いよ。なぁんにも」
としれっと応える。
「何やねん、それぇ~」
毎度のごとく雲田さんは不貞腐れるが、久田さんはいつだって何処吹く風である。その光景に由祐は思わず苦笑してしまう。懲りひんなぁ、なんて思ってしまうのだ。
久田さんは雲田さんをいなしているというより、聞かれれば、ぱっと分かってしまうのだろう。だからきっと本当のことを言っているのだと思う。
それについて、残念も良かったも無い。由祐はただ、できることなら今のままで、と願うだけだ。
茨木さんは久田さんと雲田さんの会話を聞きながらも、奥の席で他人事の様な顔をしているが、何を考えているかなんて分からない。表情も変わらないから、察することもできない。
難しいな、と思いながらも、由祐は粛々と手を動かすのだった。
「由祐、酒」
茨木さんに言われ、由祐は「はーい」と返事をする。盛り付けたばかりの白菜のごま和えを大村さんに出し、茨木さんの前へ。
「同じの。「伯楽星」な」
「はい、お待ちくださいね」
由祐は冷蔵庫から「伯楽星」の一升瓶を出し、広口とっくりに注いだ。
これからもきっとこれまでの様に、由祐にはどうしようも無いことが起こるだろう。だがその時々で精一杯向き合うしか無いのだ。
「毎度!」
由祐が少し心を暗くしてしまったそのとき、平井さんが明るさを伴って来店し、由祐の心はほっと和んだのだった。
それは人間だけでは無く、あやかしも同様である。正体がくだんの久田さんは生ビールが好きで、季節問わず生ビールばかりをまるでお水の様に飲む。ビールは日本酒などよりはアルコール度数が低いが、それでも10杯15杯と重ねるのは相当だろう。
くだんには、予知能力がある。久田さんはそれを活かして、占い師をしているのだ。アメリカ村、通称アメ村にある占いの館に所属していて、それはもう良く当たると人気なのだそうだ。だからなのか、いつも紫色のワンピースを着ていた。何となく神秘的だ。
アメ村は若者向けのおしゃれで雑多な街、そんな印象だ。ブティックや雑貨店などが所狭しと連なる。大人気のたこ焼き屋さん「甲賀流」さんの本店があり、イートインスペースもあるのだが、アメリカ村の中心にある三角公園で若い子たちがぱくついてることが多い。
最寄り駅は大阪メトロ御堂筋線と長堀鶴見緑地線の心斎橋駅か、四つ橋線の四ツ橋駅。大阪で最大級の繁華街であるなんばにも近く、いつでも人でいっぱいである。
そんなアメ村なので、占いのお客さまも若い女性が多い。そして恋愛相談も多い。
もう少し年齢を重ねたお客さまだったら、お仕事のことや金運、先々のことも含めて占って欲しがるが、若い女性は「今」を知りたがる。それはとても健全だと言えるのだと思う。
学生さんでも社会人であっても、若いときは先よりも「今」の自分の周りを見がちなのだと思う。狭い世界であっても、その人にとってはそれが全て。
でも、それで良いのだ。それだけでもその人には「たくさん」で、「いっぱいいっぱい」なのだ。それが若い人を輝かせるのだ。
そこに、恋愛というエッセンスが加わる。キャパシティの幾分かがそちらに割かれ、それはバラ色に染まる。そして花開く。
もちろん叶わないことだってあるだろう。だがその傷を乗り越えるのも、大切なこと。その人の経験、糧になる。
素晴らしい青春だな、と、恋愛経験も乏しい由祐は、久田さんのお話を聞いていて思うのだ。
「ほんまにねぇ、お客さんのお嬢さんら、みんな可愛らしいんよ。でもね、ほら、まだまだ若いから、その相手と思いが通じ合ったとしても、生涯を添い遂げる可能性はあんま高く無いやん? それでもね、あの子たちには「今」なんよ。今の快楽で、今の幸せ。でも若いうちはそれでええんよね。ほんま、愛らしいわぁ」
久田さんはそう言いながら、うっとりとした顔で微笑む。慈愛深いあやかしなのだな、と、由祐は暖かな気持ちになるのだ。
由祐も女性の端くれとして、占いに少しは興味がある。だがプロである久田さんに軽々に「視てください」なんて言えるわけが無い。それがくだんの能力だと分かっていても。
なのだが。
「ねぇ久田ちゃぁん、わたくしと茨木の未来を視てよ~う」
なんて、雲田さんは久田さんに会うたびに軽く言う。そんな雲田さんのお願いに、久田さんはいつも。
「なぁんも無いよ。なぁんにも」
としれっと応える。
「何やねん、それぇ~」
毎度のごとく雲田さんは不貞腐れるが、久田さんはいつだって何処吹く風である。その光景に由祐は思わず苦笑してしまう。懲りひんなぁ、なんて思ってしまうのだ。
久田さんは雲田さんをいなしているというより、聞かれれば、ぱっと分かってしまうのだろう。だからきっと本当のことを言っているのだと思う。
それについて、残念も良かったも無い。由祐はただ、できることなら今のままで、と願うだけだ。
茨木さんは久田さんと雲田さんの会話を聞きながらも、奥の席で他人事の様な顔をしているが、何を考えているかなんて分からない。表情も変わらないから、察することもできない。
難しいな、と思いながらも、由祐は粛々と手を動かすのだった。
「由祐、酒」
茨木さんに言われ、由祐は「はーい」と返事をする。盛り付けたばかりの白菜のごま和えを大村さんに出し、茨木さんの前へ。
「同じの。「伯楽星」な」
「はい、お待ちくださいね」
由祐は冷蔵庫から「伯楽星」の一升瓶を出し、広口とっくりに注いだ。
これからもきっとこれまでの様に、由祐にはどうしようも無いことが起こるだろう。だがその時々で精一杯向き合うしか無いのだ。
「毎度!」
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