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4章 ふたりでいるために
第1話 年が明けて
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年が明けた。「ゆうやけ」は新世界にあるが、個人店なので、お正月休みを数日いただいた。三が日の3日間だ。
年明けは学校や会社などが冬季休暇中なこともあって、観光客も含めて新世界は大変賑わう。なので営業した方が、とも思ったのだが、さすがにぶっ続けの営業では由祐の身体が参ってしまう。
それに、深雪ちゃんにゆっくり会いたいということもあった。
「ゆうやけ」の定休日は月曜日なので、週始めに一般企業勤めの深雪ちゃんは誘いにくい。それでも1~2ヶ月に1度程度の割り合いで飲みにいっているのだが、互いに翌日に響くので、気持ちが落ち着かないのだ。
だが、お正月休みならその心配は無い。深雪ちゃんは今、婚約者である松本さんとの挙式準備で忙しい。だが「由祐ちゃんに会いたい!」と時間を空けてくれた。
1月2日のことだった。深雪ちゃんと由祐はお昼過ぎ、落ち合って串かつを食べにいった。これまでもふたりで何度も行った「だるま」さんである。
実は、深雪ちゃんとは久々の串かつだった。月曜日に会うときには、深雪ちゃんのお家がある本町周辺のお店に行っていたからだ。由祐も翌日には「ゆうやけ」の営業があるが、起きる時間は深雪ちゃんより遅い。なので、深雪ちゃんが早く帰られる様にしていたのだ。
由祐は恵美須町に住んでいるのだから、休日にはいつでも新世界で串かつを食べることができる。由祐はひとりでも平気で飲食店に入ることができるタイプだ。
だが節約するくせがまだ続いていて、基本自炊は変わらず、「どうしても食べたい!」というもので無ければ外食をすることは無かった。
なんばシティの旭屋書店さんに行ったときに、以前勤めていたチェーンのカフェのなんば店で、懐かしい味を食べることがあるぐらいだ。特に独立のきっかけとなったナポリタンを好んだ。
深雪ちゃんと由祐は「横綱」さん新世界本館の、黄金色の巨大ビリケンさんの前で待ち合わせをした。お目当は「だるま」さんの動物園前店。ふたりでは予約ができないので、少しできていた列に並んだ。
並んでいる間も、中に入って生ビールとどて焼き、串かつを堪能している間も、ふたりの会話は止まらなかった。深雪ちゃんはお仕事であった楽しかったことやちょっとした愚痴、挙式準備の大変さなど。由祐はプライバシーに注意しながら「ゆうやけ」であった良かったこと、など。
昔話だって盛り上がる。あんなことがあった、こんなことだって、と、笑いの絶えない楽しい飲み会になったのだ。
その深雪ちゃん、年明け営業の4日、婚約者の松本さんと「ゆうやけ」に来てくれることになった。
ふたりは2月に挙式と入籍をする予定にしていて、由祐もその日ばかりは「ゆうやけ」をお休みにして、参列するつもりだ。土曜日なのでかきいれどきなのだが、深雪ちゃんのお祝い、晴れ姿とは比べられない。
そんな深雪ちゃんが、やっと「ゆうやけ」に来てくれる。だから由祐ははりきってしまう。お惣菜はいつもの5品に加え、日替わりを5品。おでんは仕込まず、メインを5品。
ごま和えは今日はごま炒めに変えて、食材は難波ねぎである。難波ねぎはなにわ伝統野菜のひとつで、日本に入ってきたときにはなんばで育てられていたのでこの名前である。今は松原市で栽培されている。
難波ねぎが京都に渡って九条ねぎとなり、関東に渡って千住ねぎとなった。難波ねぎは日本のおねぎのルーツとも言えるのだ。
日替わりお惣菜はベーコンとタアサイのオイスターソース炒め、ブロッコリとカリフラワのコンソメ煮浸し、長芋短冊、お大根とたこの煮付け、蓮根のきんぴらである。
メインはビーフさいころステーキ、チキンステーキか鶏の照り焼き、ぶりの塩焼きか照り焼きだ。
仕込みを終えた由祐は客席に出て、予約席のプレートを置いた。再奥の茨木さん、横には龍さん、その横にはいつも雲田さんなのだが、今日来るどうかは分からないので、龍さんからひとつ空けた2席にした。
深雪ちゃんたちは休日なこともあって、開店時間の16時に来てくれることになっているのだが、念のためだ。
うきうきする。やっと深雪ちゃんにこの「ゆうやけ」を見てもらえる。また由祐のお料理を食べてもらえる。
「楽しそうやんか」
茨木さんに言われ、由祐は「そりゃあ」と破顔する。
「深雪ちゃんに来てもらうんですもん。楽しみですよ~」
「お前の親友やったな」
「そうですよ。大丈夫やと思いますけど、おかしなこと言わんといてくださいよ」
「何を言うねん。心配せんでもおとなしゅうしとるわ。お前こそ浮かれすぎて下手打つなよ」
「そんなことしませんよ。変なフラグ立てんといてください」
由祐が思わず膨れっ面をすると、茨木さんは「くく」とおかしそうに笑う。
「ま、ほどほどにな」
「はい。深雪ちゃんにも松本さんにも満足して欲しいですからね」
「けどその親友、結婚するんやろ、寂しくならんか?」
「赤ちゃんができるまでは、これまで通りに会おうねって言うてます。お子さんができたら、ちょっとは寂しくなりますけど、今生の別れになるわけでも無いですし。頻度は落ちるでしょうけど、繋がりそのものがあればええんです」
「そっか」
「はい」
「じゃ、酒くれ」
「はいはい」
由祐は軽やかに厨房に戻った。
年明けは学校や会社などが冬季休暇中なこともあって、観光客も含めて新世界は大変賑わう。なので営業した方が、とも思ったのだが、さすがにぶっ続けの営業では由祐の身体が参ってしまう。
それに、深雪ちゃんにゆっくり会いたいということもあった。
「ゆうやけ」の定休日は月曜日なので、週始めに一般企業勤めの深雪ちゃんは誘いにくい。それでも1~2ヶ月に1度程度の割り合いで飲みにいっているのだが、互いに翌日に響くので、気持ちが落ち着かないのだ。
だが、お正月休みならその心配は無い。深雪ちゃんは今、婚約者である松本さんとの挙式準備で忙しい。だが「由祐ちゃんに会いたい!」と時間を空けてくれた。
1月2日のことだった。深雪ちゃんと由祐はお昼過ぎ、落ち合って串かつを食べにいった。これまでもふたりで何度も行った「だるま」さんである。
実は、深雪ちゃんとは久々の串かつだった。月曜日に会うときには、深雪ちゃんのお家がある本町周辺のお店に行っていたからだ。由祐も翌日には「ゆうやけ」の営業があるが、起きる時間は深雪ちゃんより遅い。なので、深雪ちゃんが早く帰られる様にしていたのだ。
由祐は恵美須町に住んでいるのだから、休日にはいつでも新世界で串かつを食べることができる。由祐はひとりでも平気で飲食店に入ることができるタイプだ。
だが節約するくせがまだ続いていて、基本自炊は変わらず、「どうしても食べたい!」というもので無ければ外食をすることは無かった。
なんばシティの旭屋書店さんに行ったときに、以前勤めていたチェーンのカフェのなんば店で、懐かしい味を食べることがあるぐらいだ。特に独立のきっかけとなったナポリタンを好んだ。
深雪ちゃんと由祐は「横綱」さん新世界本館の、黄金色の巨大ビリケンさんの前で待ち合わせをした。お目当は「だるま」さんの動物園前店。ふたりでは予約ができないので、少しできていた列に並んだ。
並んでいる間も、中に入って生ビールとどて焼き、串かつを堪能している間も、ふたりの会話は止まらなかった。深雪ちゃんはお仕事であった楽しかったことやちょっとした愚痴、挙式準備の大変さなど。由祐はプライバシーに注意しながら「ゆうやけ」であった良かったこと、など。
昔話だって盛り上がる。あんなことがあった、こんなことだって、と、笑いの絶えない楽しい飲み会になったのだ。
その深雪ちゃん、年明け営業の4日、婚約者の松本さんと「ゆうやけ」に来てくれることになった。
ふたりは2月に挙式と入籍をする予定にしていて、由祐もその日ばかりは「ゆうやけ」をお休みにして、参列するつもりだ。土曜日なのでかきいれどきなのだが、深雪ちゃんのお祝い、晴れ姿とは比べられない。
そんな深雪ちゃんが、やっと「ゆうやけ」に来てくれる。だから由祐ははりきってしまう。お惣菜はいつもの5品に加え、日替わりを5品。おでんは仕込まず、メインを5品。
ごま和えは今日はごま炒めに変えて、食材は難波ねぎである。難波ねぎはなにわ伝統野菜のひとつで、日本に入ってきたときにはなんばで育てられていたのでこの名前である。今は松原市で栽培されている。
難波ねぎが京都に渡って九条ねぎとなり、関東に渡って千住ねぎとなった。難波ねぎは日本のおねぎのルーツとも言えるのだ。
日替わりお惣菜はベーコンとタアサイのオイスターソース炒め、ブロッコリとカリフラワのコンソメ煮浸し、長芋短冊、お大根とたこの煮付け、蓮根のきんぴらである。
メインはビーフさいころステーキ、チキンステーキか鶏の照り焼き、ぶりの塩焼きか照り焼きだ。
仕込みを終えた由祐は客席に出て、予約席のプレートを置いた。再奥の茨木さん、横には龍さん、その横にはいつも雲田さんなのだが、今日来るどうかは分からないので、龍さんからひとつ空けた2席にした。
深雪ちゃんたちは休日なこともあって、開店時間の16時に来てくれることになっているのだが、念のためだ。
うきうきする。やっと深雪ちゃんにこの「ゆうやけ」を見てもらえる。また由祐のお料理を食べてもらえる。
「楽しそうやんか」
茨木さんに言われ、由祐は「そりゃあ」と破顔する。
「深雪ちゃんに来てもらうんですもん。楽しみですよ~」
「お前の親友やったな」
「そうですよ。大丈夫やと思いますけど、おかしなこと言わんといてくださいよ」
「何を言うねん。心配せんでもおとなしゅうしとるわ。お前こそ浮かれすぎて下手打つなよ」
「そんなことしませんよ。変なフラグ立てんといてください」
由祐が思わず膨れっ面をすると、茨木さんは「くく」とおかしそうに笑う。
「ま、ほどほどにな」
「はい。深雪ちゃんにも松本さんにも満足して欲しいですからね」
「けどその親友、結婚するんやろ、寂しくならんか?」
「赤ちゃんができるまでは、これまで通りに会おうねって言うてます。お子さんができたら、ちょっとは寂しくなりますけど、今生の別れになるわけでも無いですし。頻度は落ちるでしょうけど、繋がりそのものがあればええんです」
「そっか」
「はい」
「じゃ、酒くれ」
「はいはい」
由祐は軽やかに厨房に戻った。
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