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19章 受け継がれるもの
第4話 親娘3代の絆
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それは翌日のこと。また冨樫さんがひょっこりと顔を出す。にこにこと晴れやかだ。
「こんばんは」
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ~」
冨樫さんが中に入って来ると、その後をお祖母さま、そしてお母さまが続いた。
「あら、店長さんに大店長さんじゃ無いですか。お珍しいですね」
冨樫さんたちは大店長さんを囲む様に並んでカウンタに掛ける。佳鳴と千隼がおしぼりを渡すと揃って「ふぅ」と手を拭いた。
「あっはっは、里奈に頼んで強引に付いて来ちまったよ。どうしても佳鳴ちゃんにお礼が言いたくてさ。あんたたち月に1度しかうちに来ないだろ?」
「あら? お礼って何かありましたか?」
佳鳴が目を丸くして言うと、店長さんはまた「はっはっは」と豪快に笑った。
「昨日里奈にいろいろ言ってくれたって言うじゃ無いか。本当に助かったよ。ありがとうね」
店長さんが言うと、大店長さんも横で「本当にありがとうねぇ」と頭を下げた。
「いいえぇ、私は何も」
佳鳴が慌てると、店長さんは「そんな謙遜すること無いよ」とまた豪快に笑う。そうなると佳鳴はもう恐縮しっぱなしである。
「私が先走ってうっかり跡を継ぐだのなんだの言っちまったからさ、里奈ったら呆然としちゃって「煮物屋さん行って来る」って言って何も持たずに店を出てっちゃってさ。慌てて追い掛けて財布だけ持たせたんだけどね。引き止めようかとも思ったんだけどさ、昨日の里奈の状態だったら私が何を言っても重いだけだろうって思ってさ。結果佳鳴ちゃんに丸投げしちゃう様なことになっちまって」
「いいえ。むしろ余計なことになっていないと良いんですが」
佳鳴なりにかなり言葉を選んだつもりだ。少しでも冨樫さんの心が軽くなる様に。
佳鳴もまだまだ経営者としては未熟な自覚があって、偉そうなことなど何も言えないのだが、それでも人を相手にするという共通している部分で、言葉を紡いだのだ。
「とんでも無いよぅ。私だとどうしても親目線になっちまうからねぇ。母さんだとやっぱり孫が可愛いもんだしね。第三者の言葉ってもんが要ったのさ。まだ結論は出ていないんだけどねぇ」
「それは冨樫さんが跡を継ぐ継がないのお話ですね」
「そうなんです」
冨樫さんが苦笑する。
「店長さんのお話は本当にありがたくて嬉しかったんですけど、やっぱりまだ思い切りが出なくて。お祖母ちゃんとお母さんは無理に継いで欲しいって思ってるわけじゃ無くて、私が望めばって思ってくれてるんで、私も焦らずに考えて行こうかなって」
「それが良いですね。大事なことですもんね」
「はい」
「そうなるとうちだけじゃ世間が狭いからね、他の店に修行に出すつもりさ」
「私はそこまでしなくても良いと思うんだけどねぇ」
「母さん、そういう部分が祖母ちゃん目線なんだよ。跡を継ぐとなったら甘くしちゃいけないよ」
「そうは言うけどねぇ」
大店長さんはやはり渋る。可愛い孫に大変な思いをして欲しく無いのだろう。それは祖母として当然の感情なのだと思う。だが。
「母さん、里奈はまだぬるま湯の中にいるんだよ。うちに限らず経営するとなればそうも言ってられないよ。そんなことは母さんだって判ってるだろう?」
「そりゃあねぇ、私も冨樫を始める前はよそのお店で働いていたけどねぇ」
やはり大店長さんは浮かない顔。すると冨樫さんが困った様に声を上げた。
「お母さん、お祖母ちゃん、だから私まだ継ぐって決めたわけじゃ無いよ?」
「あ、そうだったそうだった。あっはっは」
「あらあら、ほほほ」
店長さんがまた豪快に、そして大店長さんは照れた様に笑った。
「それよりも注文しないと。ここの注文方法は言ったよね。ご飯とお酒どっちにする?」
「私はお酒をもらおうかね。そうだねぇ、何にしようか。母さんはどうする?」
店長さんはドリンクメニューを手にして、横の大店長さんにも見える様に傾けた。大店長さんは「日本酒あるかえ?」と目を細める。
「母さん老眼なんだから眼鏡しないと」
「あれはねぇ、お仕事以外ではできたらしたくないんだよねぇ。眼鏡はあんまり好きじゃ無いんだよねぇ」
「仕方が無いねぇ。日本酒あるみたいだよ。冷酒と冷や、どっちが良い?」
「冷やが良いねぇ」
「私はビールをもらおうかな」
「私は酎ハイのレモンください」
「はい。かしこまりました」
佳鳴はタンブラーを用意して酎ハイレモンを作る。千隼は日本酒の冷やを準備。一升瓶から細身のグラスに注ぎ入れ、ビールは瓶ビールを出して栓を抜きグラスを添えた。
「はい。お待たせしました」
作った飲み物を提供すると、店長が両手でビールのグラスと日本酒を取り、冨樫さんが酎ハイレモンと瓶ビールを受け取った。それぞれの前に置いて、冨樫さんが「はい、お母さん」と店長さんにビールを注いだら。
「かんぱーい」
軽く器を重ね合わせ、冨樫さんと店長さんはぐいとグラスを傾け、大店長さんはちびりと口を付けた。
「あっはっは、旦那放って飲むビールは美味しいねぇ!」
店長さんはそう笑ってまたビールを煽った。
「本当にもうこの子ったら。あんたのために婿養子に来てくれた人になんてことを」
大店長さんが呆れた様に言うが、店長さんは「あはは」とどこ吹く風だ。
店長さんは大店長さんの跡を継いだのだが、結婚の時に旦那さんが婿養子に入ってくれたそうなのだ。
店長さんが嫁入りしても跡を継ぐことはできたのだろうが、旦那さんが「僕三男だし問題無い無い」とあっけらかんと言ってくれたのだそうだ。その旦那さんは普通の会社員だ。
そう思うと、冨樫さんはなんとも大らかな家族に育まれたものだと思う。
「じゃあお父さまはお家でおひとりで?」
「いいえ。私たちが今日ここに来るってことになったら、同僚を誘ってみるって言ってました。駄目でもひとりで行ける小料理屋があるからって。たまには羽根を伸ばして来るって笑ってました」
「あら、素敵なお父さまですねぇ」
「そうなんです。うち、お父さん5時に仕事が終わって帰って来るので、私たちより早いんですよ。だから晩ご飯作るのはお父さんなんです」
「じゃあ今日は久しぶりの上げ膳据え膳ですか?」
「そうなるね。朝ご飯は私が作ってるし弁当も持たせてるけどね。でも朝はパン焼くぐらいだし、弁当は米さえ炊いてればおかずは冷凍食品でどうにかなるからさ。前の日の晩ご飯のおかず少し分けたりね。私は炊事では楽させてもらってるからね。だからたまには息抜きしてくれたらね」
「たまにはそういう時間も大切ですよね。はい、お料理お待たせしました」
今日のメインは豚ばら肉と白ねぎと焼き豆腐の煮物だ。薄切りの柔らかな豚ばら肉から出る脂の旨みが、白ねぎと焼き豆腐に絡んでいる。白ねぎのねばりが煮汁にほのかなとろみを与えていて、喉ごしも滑らかだ。
青みは白ねぎの青い部分を細く切って、最後にさっと煮込んでいるので彩りも鮮やかである。
小鉢のひとつは人参とえのきのきんぴら。細切りにした人参と割いたえのきをごま油で炒め、調味をしてすりごまをたっぷりと振った。
もうひとつは薄揚げとちんげん菜のおかか炒めだ。醤油は使わず削り節をふんだんに入れて、あっさりとした仕上げにしている。
「おや、おいしそうだね!」
「そうだねぇ」
店長さんと大店長さんが嬉しそうに顔を綻ばせる。
「そう言えば煮物なんて久しぶりだ。旦那のご飯は炒め物が多くて、あとは買って来た惣菜をちょこっと添えてくれてね。その炒め物が妙に美味しかったりするんだけど、煮物はあまり出ないからね」
「そうだねぇ。本当に助かってるけど、私には少し重いかも知れないねぇ。ほんの少しだけどねぇ。でも美味しいんだよ」
「お祖母ちゃんお母さん、私その美味しさの正体知ってるよ」
冨樫さんがにっと口角を上げる。
「うまみ調味料だよ」
すると店長さんと大店長さんは「ああ!」と声を上げた。
「なぁるほどね! そりゃあ確かにうま味だわ」
「そうだねぇ」
店長さんと大店長さんはそう言って笑う。
「さて、じゃあいただこうかな」
「そうだねぇ」
店長さんと大店長さんは「いただきます」と箸を取って、まずは揃って煮物に手を伸ばした。店長さんはとろとろの豚ばら肉とくたっとなった白ねぎ、大店長さんは焼き豆腐を綺麗に割って口に運んだ。そして「んん」と目を見開いた。
「美味しいね! とても優しい味だ。素材からしっかりと旨みが出てる。お出汁がしっかりしていてお醤油なんかは控えめなのかね?」
「そうだねぇ。とても身体に優しそうな味だねぇ」
すると冨樫さんは「でしょ、でしょ!?」と嬉しそうに言う。冨樫さんは箸を付けずに店長さんと大店長さんが食べる瞬間を待っていたのだ。
「ここのご飯美味しいでしょう?」
「ああ、美味しいねぇ。お酒に合うのはもっと濃い味だろうと思ってたけど、これは良いね。お酒の罪悪感が無いって不思議なもんだよ」
「本当だねぇ」
店長さんと大店長さんは嬉しそうにあれもこれもと箸を付け、満足そうに口を動かす。冨樫さんも食べ始めると「美味しい~」と頬を緩ませた。
「本当に美味しいねぇ。また来るとしようかね」
「私もまた来たいねぇ」
「私が来る日と被らない様にお願いね」
「分かってるよ。あんたの憩いの時間を邪魔しないよ。そうだねぇ、今度旦那も連れて来ようか」
「ふたりで来たら良いねぇ。夫婦水入らずだねぇ」
「たまにはね。そうだね、火曜日が里奈、水曜日が母さんと私、金曜日か土曜日が旦那と私。どうだい?」
「なんで! 私来たいと思った日に来たいよぅ。しかもお母さん2回もあるじゃん!」
冨樫さんが悲痛そうな声を上げると、大店長さんは「うんうん」と頷く。
「私はそれで良いよ。水曜日を励みに頑張ろうかねぇ」
「ちょっと、お祖母ちゃんがそんなこと言っちゃったら決まっちゃうじゃ無い!」
「あっはっは」
家族3世代のそんな賑やかな言い合いを聞きながら、佳鳴はほっと口元を綻ばせた。
「こんばんは」
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ~」
冨樫さんが中に入って来ると、その後をお祖母さま、そしてお母さまが続いた。
「あら、店長さんに大店長さんじゃ無いですか。お珍しいですね」
冨樫さんたちは大店長さんを囲む様に並んでカウンタに掛ける。佳鳴と千隼がおしぼりを渡すと揃って「ふぅ」と手を拭いた。
「あっはっは、里奈に頼んで強引に付いて来ちまったよ。どうしても佳鳴ちゃんにお礼が言いたくてさ。あんたたち月に1度しかうちに来ないだろ?」
「あら? お礼って何かありましたか?」
佳鳴が目を丸くして言うと、店長さんはまた「はっはっは」と豪快に笑った。
「昨日里奈にいろいろ言ってくれたって言うじゃ無いか。本当に助かったよ。ありがとうね」
店長さんが言うと、大店長さんも横で「本当にありがとうねぇ」と頭を下げた。
「いいえぇ、私は何も」
佳鳴が慌てると、店長さんは「そんな謙遜すること無いよ」とまた豪快に笑う。そうなると佳鳴はもう恐縮しっぱなしである。
「私が先走ってうっかり跡を継ぐだのなんだの言っちまったからさ、里奈ったら呆然としちゃって「煮物屋さん行って来る」って言って何も持たずに店を出てっちゃってさ。慌てて追い掛けて財布だけ持たせたんだけどね。引き止めようかとも思ったんだけどさ、昨日の里奈の状態だったら私が何を言っても重いだけだろうって思ってさ。結果佳鳴ちゃんに丸投げしちゃう様なことになっちまって」
「いいえ。むしろ余計なことになっていないと良いんですが」
佳鳴なりにかなり言葉を選んだつもりだ。少しでも冨樫さんの心が軽くなる様に。
佳鳴もまだまだ経営者としては未熟な自覚があって、偉そうなことなど何も言えないのだが、それでも人を相手にするという共通している部分で、言葉を紡いだのだ。
「とんでも無いよぅ。私だとどうしても親目線になっちまうからねぇ。母さんだとやっぱり孫が可愛いもんだしね。第三者の言葉ってもんが要ったのさ。まだ結論は出ていないんだけどねぇ」
「それは冨樫さんが跡を継ぐ継がないのお話ですね」
「そうなんです」
冨樫さんが苦笑する。
「店長さんのお話は本当にありがたくて嬉しかったんですけど、やっぱりまだ思い切りが出なくて。お祖母ちゃんとお母さんは無理に継いで欲しいって思ってるわけじゃ無くて、私が望めばって思ってくれてるんで、私も焦らずに考えて行こうかなって」
「それが良いですね。大事なことですもんね」
「はい」
「そうなるとうちだけじゃ世間が狭いからね、他の店に修行に出すつもりさ」
「私はそこまでしなくても良いと思うんだけどねぇ」
「母さん、そういう部分が祖母ちゃん目線なんだよ。跡を継ぐとなったら甘くしちゃいけないよ」
「そうは言うけどねぇ」
大店長さんはやはり渋る。可愛い孫に大変な思いをして欲しく無いのだろう。それは祖母として当然の感情なのだと思う。だが。
「母さん、里奈はまだぬるま湯の中にいるんだよ。うちに限らず経営するとなればそうも言ってられないよ。そんなことは母さんだって判ってるだろう?」
「そりゃあねぇ、私も冨樫を始める前はよそのお店で働いていたけどねぇ」
やはり大店長さんは浮かない顔。すると冨樫さんが困った様に声を上げた。
「お母さん、お祖母ちゃん、だから私まだ継ぐって決めたわけじゃ無いよ?」
「あ、そうだったそうだった。あっはっは」
「あらあら、ほほほ」
店長さんがまた豪快に、そして大店長さんは照れた様に笑った。
「それよりも注文しないと。ここの注文方法は言ったよね。ご飯とお酒どっちにする?」
「私はお酒をもらおうかね。そうだねぇ、何にしようか。母さんはどうする?」
店長さんはドリンクメニューを手にして、横の大店長さんにも見える様に傾けた。大店長さんは「日本酒あるかえ?」と目を細める。
「母さん老眼なんだから眼鏡しないと」
「あれはねぇ、お仕事以外ではできたらしたくないんだよねぇ。眼鏡はあんまり好きじゃ無いんだよねぇ」
「仕方が無いねぇ。日本酒あるみたいだよ。冷酒と冷や、どっちが良い?」
「冷やが良いねぇ」
「私はビールをもらおうかな」
「私は酎ハイのレモンください」
「はい。かしこまりました」
佳鳴はタンブラーを用意して酎ハイレモンを作る。千隼は日本酒の冷やを準備。一升瓶から細身のグラスに注ぎ入れ、ビールは瓶ビールを出して栓を抜きグラスを添えた。
「はい。お待たせしました」
作った飲み物を提供すると、店長が両手でビールのグラスと日本酒を取り、冨樫さんが酎ハイレモンと瓶ビールを受け取った。それぞれの前に置いて、冨樫さんが「はい、お母さん」と店長さんにビールを注いだら。
「かんぱーい」
軽く器を重ね合わせ、冨樫さんと店長さんはぐいとグラスを傾け、大店長さんはちびりと口を付けた。
「あっはっは、旦那放って飲むビールは美味しいねぇ!」
店長さんはそう笑ってまたビールを煽った。
「本当にもうこの子ったら。あんたのために婿養子に来てくれた人になんてことを」
大店長さんが呆れた様に言うが、店長さんは「あはは」とどこ吹く風だ。
店長さんは大店長さんの跡を継いだのだが、結婚の時に旦那さんが婿養子に入ってくれたそうなのだ。
店長さんが嫁入りしても跡を継ぐことはできたのだろうが、旦那さんが「僕三男だし問題無い無い」とあっけらかんと言ってくれたのだそうだ。その旦那さんは普通の会社員だ。
そう思うと、冨樫さんはなんとも大らかな家族に育まれたものだと思う。
「じゃあお父さまはお家でおひとりで?」
「いいえ。私たちが今日ここに来るってことになったら、同僚を誘ってみるって言ってました。駄目でもひとりで行ける小料理屋があるからって。たまには羽根を伸ばして来るって笑ってました」
「あら、素敵なお父さまですねぇ」
「そうなんです。うち、お父さん5時に仕事が終わって帰って来るので、私たちより早いんですよ。だから晩ご飯作るのはお父さんなんです」
「じゃあ今日は久しぶりの上げ膳据え膳ですか?」
「そうなるね。朝ご飯は私が作ってるし弁当も持たせてるけどね。でも朝はパン焼くぐらいだし、弁当は米さえ炊いてればおかずは冷凍食品でどうにかなるからさ。前の日の晩ご飯のおかず少し分けたりね。私は炊事では楽させてもらってるからね。だからたまには息抜きしてくれたらね」
「たまにはそういう時間も大切ですよね。はい、お料理お待たせしました」
今日のメインは豚ばら肉と白ねぎと焼き豆腐の煮物だ。薄切りの柔らかな豚ばら肉から出る脂の旨みが、白ねぎと焼き豆腐に絡んでいる。白ねぎのねばりが煮汁にほのかなとろみを与えていて、喉ごしも滑らかだ。
青みは白ねぎの青い部分を細く切って、最後にさっと煮込んでいるので彩りも鮮やかである。
小鉢のひとつは人参とえのきのきんぴら。細切りにした人参と割いたえのきをごま油で炒め、調味をしてすりごまをたっぷりと振った。
もうひとつは薄揚げとちんげん菜のおかか炒めだ。醤油は使わず削り節をふんだんに入れて、あっさりとした仕上げにしている。
「おや、おいしそうだね!」
「そうだねぇ」
店長さんと大店長さんが嬉しそうに顔を綻ばせる。
「そう言えば煮物なんて久しぶりだ。旦那のご飯は炒め物が多くて、あとは買って来た惣菜をちょこっと添えてくれてね。その炒め物が妙に美味しかったりするんだけど、煮物はあまり出ないからね」
「そうだねぇ。本当に助かってるけど、私には少し重いかも知れないねぇ。ほんの少しだけどねぇ。でも美味しいんだよ」
「お祖母ちゃんお母さん、私その美味しさの正体知ってるよ」
冨樫さんがにっと口角を上げる。
「うまみ調味料だよ」
すると店長さんと大店長さんは「ああ!」と声を上げた。
「なぁるほどね! そりゃあ確かにうま味だわ」
「そうだねぇ」
店長さんと大店長さんはそう言って笑う。
「さて、じゃあいただこうかな」
「そうだねぇ」
店長さんと大店長さんは「いただきます」と箸を取って、まずは揃って煮物に手を伸ばした。店長さんはとろとろの豚ばら肉とくたっとなった白ねぎ、大店長さんは焼き豆腐を綺麗に割って口に運んだ。そして「んん」と目を見開いた。
「美味しいね! とても優しい味だ。素材からしっかりと旨みが出てる。お出汁がしっかりしていてお醤油なんかは控えめなのかね?」
「そうだねぇ。とても身体に優しそうな味だねぇ」
すると冨樫さんは「でしょ、でしょ!?」と嬉しそうに言う。冨樫さんは箸を付けずに店長さんと大店長さんが食べる瞬間を待っていたのだ。
「ここのご飯美味しいでしょう?」
「ああ、美味しいねぇ。お酒に合うのはもっと濃い味だろうと思ってたけど、これは良いね。お酒の罪悪感が無いって不思議なもんだよ」
「本当だねぇ」
店長さんと大店長さんは嬉しそうにあれもこれもと箸を付け、満足そうに口を動かす。冨樫さんも食べ始めると「美味しい~」と頬を緩ませた。
「本当に美味しいねぇ。また来るとしようかね」
「私もまた来たいねぇ」
「私が来る日と被らない様にお願いね」
「分かってるよ。あんたの憩いの時間を邪魔しないよ。そうだねぇ、今度旦那も連れて来ようか」
「ふたりで来たら良いねぇ。夫婦水入らずだねぇ」
「たまにはね。そうだね、火曜日が里奈、水曜日が母さんと私、金曜日か土曜日が旦那と私。どうだい?」
「なんで! 私来たいと思った日に来たいよぅ。しかもお母さん2回もあるじゃん!」
冨樫さんが悲痛そうな声を上げると、大店長さんは「うんうん」と頷く。
「私はそれで良いよ。水曜日を励みに頑張ろうかねぇ」
「ちょっと、お祖母ちゃんがそんなこと言っちゃったら決まっちゃうじゃ無い!」
「あっはっは」
家族3世代のそんな賑やかな言い合いを聞きながら、佳鳴はほっと口元を綻ばせた。
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