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序章 迷宮脱出編
探索二日目: ボス?
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「そんなことより…結已!」
突如始まった奇怪な光景を前に呆然とした多賀谷だったが、スケルトンが散った事によって埋もれていたテントが見えていた。慌ててそこへ駆け寄って中を確認する。
「……そんな…嘘でしょ…」
「え、椎名は…?」
中は空で、誰も居なかった。
多賀谷の後ろから顔を出した臼井も、それを見て状況をうまく呑み込めない。
多賀谷は放心したまま涙が込み上げてきて、震える唇を引き結んだ。
「椎名はテントになっちゃったの…?」
臼井は混乱した頭でペタペタと外側を触るが、何の変哲もないただの布張りテントだ。違和感があるとすれば、埋もれた割にはテントが潰れず状態が良いままだったことだろうか。
多賀谷はキッと目つきを鋭くし、テントを背にして剣を構えた。
「とにかくこのテントは守って—」
振り返った視線の先には、ポカンと口を半開きにして座り込む椎名がいた。その隣には沙奈がいて、ばつが悪そうにこちらを見ている。
「あ、あれ…?」
多賀谷は途端に気が抜けて、視線をテントと椎名の間で彷徨わせる。
椎名はこちらに向かって小さく手を振っていた。
「うまくいって良かった」
「え?」
「あ、なんでもない」
ボソッと呟くのが聞こえて、椎名はキョトンと沙奈を見上げた。
「この椎名テント、どうやって連れて行けば…」
臼井は悲しそうな顔でテントを持ち上げようとしていたが、多賀谷がその手を叩いて椎名に駆け寄った。
「無事で良かった…。もう!心配したんだから」
「ご、ごめんね?訳わかんなくなっちゃって…」
多賀谷は心底ホッとしていたが、勘違いだったことを誤魔化すようにぷんぷんと怒って見せた。手を差し出して、椎名を立ち上がらせる。
「美濃さん、ありがとう。助けてくれたんだよね?」
「ううん。咄嗟だったからちょっと強引だったかも。怪我とかない?」
「それは大丈夫!」
椎名は腕を広げてニカッと笑顔を見せた。
「あ、椎名じゃん!なんだ俺てっきりあれが—」
臼井が明るい顔になって近寄ってきた時、スケルトンがいた辺りから強烈な光が放たれた。一瞬、暗闇だった広間の全貌が見渡せるほどだった。
その場にいた全員がそちらに気を取られて凝視すれば、鏑木が持つ剣が輝きを増していて、目の前にいたスケルトンの群れがごっそりと消失していた。
鏑木は別の群れに向かって、宙を横薙ぎに一閃する。すると振った跡に沿って、剣から光線が飛び出した。スケルトンは高速で向かってくる光の集束になす術もなく、それに当たった先から次々と光の粒子となっては一気に消滅していった。
その光景に一同は目を丸くしていると、遠くから引き摺るような音が聞こえた。
—-ゴゴゴ…バタンッ
音がした方に顔を向ければ、開放していたはずの扉が完全に閉じきっていた。
「…え?なんで?」
「あー…ちょっと外の様子見てくるね」
臼井は間の抜けた声を上げたが、沙奈は何かに気づいて転移で姿を消した。
一方、一部しか視界の利かないフォルガーは全体の状況がよく掴めず、辺りを警戒することだけで精一杯だった。遅れて大量のスケルトンの存在に気づき、逃げるための声を上げる矢先の出来事だった。
奥の方では鏑木が何度も剣を光らせて、ほとんどのスケルトンを始末していた。その全体を照らすような光の一瞬で、フォルガーは上の方に巨大な何かが見えた気がした。
「上に、何かいないか…?」
怒涛の展開に唖然としていた三人だったが、それを聞いて周辺を見回した。
「…ヒッ」
「おいおい…何なんだあれは…」
椎名は小さく悲鳴を出し、臼井は呆然とそれを見上げた。
「鏑木!後ろ!上を見て!」
多賀谷が大きな声で叫んで、辺りを警戒しながら一つのことに集中し始めた。
見上げた先には、天井を覆い尽くさんばかりの巨大なゴーストが一匹、こちらを見下ろしている。
「わわわ…」
椎名はまだ手にしていた四角い魔道具を動かそうとして、横から腕を掴まれた。
「お前懲りないな!?なんかあれに効きそうな魔法とかスキル使えるんじゃなかったか?」
「あ、あ!そうだった!えーっとぉ…?」
臼井が狼狽える椎名を落ち着かせる。椎名は自分の能力のことを思い出したが、咄嗟には動けず、それで何をどうしたらいいのかを考え始めた。
その間に多賀谷が耐性ダウンの効果があるデバフスキルを発動した。するとゴーストが踠くように動きが鈍くなり、薄ら青白く発光していたモヤが明滅した後、その巨体が一回りほど小さくなった。
だがゴーストはそれ以上の変化は見られず、動きを再開した。
鏑木が走って近づいていくが、やはり避けられて距離が縮まらない。ゴーストが頭上高く浮いていることから剣身は当たりそうにないため、先ほど放っていた光線を飛ばしていくが、上手く距離を開けられて届かない。
ゴーストから深紫色の別のモヤが出てきて、一塊に凝縮していく。何らかの攻撃準備が始まっていた。それを見た鏑木は攻撃を中断し、仲間の元へ向かった。
「弾き飛ばせるか…?」
鏑木は焦りを滲ませていた。まだ聖剣の力をよく理解できていないため、剣を振って攻撃はできても、防御としての効果まであるのかは未知数だった。
「あ!」
突如、椎名が何かに閃いたような声を上げた。それと同時にゴーストに向かって数本の光の矢が放たれた。ゴーストはそれを躱そうとして素早く動き回るが、矢は軌道を自在に変えて追尾していく。徐々に距離が縮まって、やがてゴーストに矢が全て直撃した。
ゴーストを構成していた巨大なモヤは周囲に拡散していき、拳大まで小さくなった。しばらくふよふよ浮いていたが、力尽きたのかそれはポトンと地面に落ちた。
「……」
鏑木は無言で落ちたそれに近づいていき、剣を突き刺せばピカッと光って消滅した。
—-ゴゴゴ…
ちょうどその時、扉が再び開いた。そこに佇むのは東と沙奈。
直近の危機は去ったが、皆一斉に扉の方へ駆けて行く。
「はぁ…ほんと焦った。これって何かの罠だったのかなぁ」
多賀谷は顔を引き攣らせながらも、外が見えたことでホッと息を吐いた。
「本当にごめんなさい…」
東は今にも泣き出しそうな弱々しい声で、皆に向かって頭を下げた。顔面は蒼白していて、体は小刻みに震えている。
「え?びっくりはしたけど…仕方ないことだったじゃん?咲希こそ大丈夫だったの?」
東の過剰な反応に椎名は首を傾げて、外でも何かあったのかと不安げになる。
「中で何があったの?」
東がそれ以上話せない様子を横目に見て、沙奈が尋ねた。
沙奈は自分がいなくなった後の出来事を聞いて、少し視線を彷徨わせてから深く息を吐いた。
「…そうだったの。とにかくみんな無事で良かった。こっちは扉が閉まった以外は何もなかったから大丈夫よ」
東だけ明らかに大丈夫ではない様子だったが、見た限り怪我などはしていなさそうだ。本人は顔を俯けたまま口を閉ざしてしまったので、今は落ち着くまでそっとしておいた方が良いと周囲の面々は判断した。
「そうだな…。中はまだ残党がいるかもしれないが、あれ以上のものはもういないだろう。ここを一通り確認したら、今日はこれで戻ろう」
フォルガーは少し考えを巡らせてから、そう提案した。随分と周りに負担をかけさせた事に対する配慮の面が大きいが、書庫の広さを考えると頃合いでもあるだろう。
皆はそれに頷くと、引き返してまた中へと入っていく。
「…私はここで東さんをしばらく見ておくね。あとはよろしく」
沙奈は東と一緒になって扉前から動かず、軽く手を振って皆を見送った。
突如始まった奇怪な光景を前に呆然とした多賀谷だったが、スケルトンが散った事によって埋もれていたテントが見えていた。慌ててそこへ駆け寄って中を確認する。
「……そんな…嘘でしょ…」
「え、椎名は…?」
中は空で、誰も居なかった。
多賀谷の後ろから顔を出した臼井も、それを見て状況をうまく呑み込めない。
多賀谷は放心したまま涙が込み上げてきて、震える唇を引き結んだ。
「椎名はテントになっちゃったの…?」
臼井は混乱した頭でペタペタと外側を触るが、何の変哲もないただの布張りテントだ。違和感があるとすれば、埋もれた割にはテントが潰れず状態が良いままだったことだろうか。
多賀谷はキッと目つきを鋭くし、テントを背にして剣を構えた。
「とにかくこのテントは守って—」
振り返った視線の先には、ポカンと口を半開きにして座り込む椎名がいた。その隣には沙奈がいて、ばつが悪そうにこちらを見ている。
「あ、あれ…?」
多賀谷は途端に気が抜けて、視線をテントと椎名の間で彷徨わせる。
椎名はこちらに向かって小さく手を振っていた。
「うまくいって良かった」
「え?」
「あ、なんでもない」
ボソッと呟くのが聞こえて、椎名はキョトンと沙奈を見上げた。
「この椎名テント、どうやって連れて行けば…」
臼井は悲しそうな顔でテントを持ち上げようとしていたが、多賀谷がその手を叩いて椎名に駆け寄った。
「無事で良かった…。もう!心配したんだから」
「ご、ごめんね?訳わかんなくなっちゃって…」
多賀谷は心底ホッとしていたが、勘違いだったことを誤魔化すようにぷんぷんと怒って見せた。手を差し出して、椎名を立ち上がらせる。
「美濃さん、ありがとう。助けてくれたんだよね?」
「ううん。咄嗟だったからちょっと強引だったかも。怪我とかない?」
「それは大丈夫!」
椎名は腕を広げてニカッと笑顔を見せた。
「あ、椎名じゃん!なんだ俺てっきりあれが—」
臼井が明るい顔になって近寄ってきた時、スケルトンがいた辺りから強烈な光が放たれた。一瞬、暗闇だった広間の全貌が見渡せるほどだった。
その場にいた全員がそちらに気を取られて凝視すれば、鏑木が持つ剣が輝きを増していて、目の前にいたスケルトンの群れがごっそりと消失していた。
鏑木は別の群れに向かって、宙を横薙ぎに一閃する。すると振った跡に沿って、剣から光線が飛び出した。スケルトンは高速で向かってくる光の集束になす術もなく、それに当たった先から次々と光の粒子となっては一気に消滅していった。
その光景に一同は目を丸くしていると、遠くから引き摺るような音が聞こえた。
—-ゴゴゴ…バタンッ
音がした方に顔を向ければ、開放していたはずの扉が完全に閉じきっていた。
「…え?なんで?」
「あー…ちょっと外の様子見てくるね」
臼井は間の抜けた声を上げたが、沙奈は何かに気づいて転移で姿を消した。
一方、一部しか視界の利かないフォルガーは全体の状況がよく掴めず、辺りを警戒することだけで精一杯だった。遅れて大量のスケルトンの存在に気づき、逃げるための声を上げる矢先の出来事だった。
奥の方では鏑木が何度も剣を光らせて、ほとんどのスケルトンを始末していた。その全体を照らすような光の一瞬で、フォルガーは上の方に巨大な何かが見えた気がした。
「上に、何かいないか…?」
怒涛の展開に唖然としていた三人だったが、それを聞いて周辺を見回した。
「…ヒッ」
「おいおい…何なんだあれは…」
椎名は小さく悲鳴を出し、臼井は呆然とそれを見上げた。
「鏑木!後ろ!上を見て!」
多賀谷が大きな声で叫んで、辺りを警戒しながら一つのことに集中し始めた。
見上げた先には、天井を覆い尽くさんばかりの巨大なゴーストが一匹、こちらを見下ろしている。
「わわわ…」
椎名はまだ手にしていた四角い魔道具を動かそうとして、横から腕を掴まれた。
「お前懲りないな!?なんかあれに効きそうな魔法とかスキル使えるんじゃなかったか?」
「あ、あ!そうだった!えーっとぉ…?」
臼井が狼狽える椎名を落ち着かせる。椎名は自分の能力のことを思い出したが、咄嗟には動けず、それで何をどうしたらいいのかを考え始めた。
その間に多賀谷が耐性ダウンの効果があるデバフスキルを発動した。するとゴーストが踠くように動きが鈍くなり、薄ら青白く発光していたモヤが明滅した後、その巨体が一回りほど小さくなった。
だがゴーストはそれ以上の変化は見られず、動きを再開した。
鏑木が走って近づいていくが、やはり避けられて距離が縮まらない。ゴーストが頭上高く浮いていることから剣身は当たりそうにないため、先ほど放っていた光線を飛ばしていくが、上手く距離を開けられて届かない。
ゴーストから深紫色の別のモヤが出てきて、一塊に凝縮していく。何らかの攻撃準備が始まっていた。それを見た鏑木は攻撃を中断し、仲間の元へ向かった。
「弾き飛ばせるか…?」
鏑木は焦りを滲ませていた。まだ聖剣の力をよく理解できていないため、剣を振って攻撃はできても、防御としての効果まであるのかは未知数だった。
「あ!」
突如、椎名が何かに閃いたような声を上げた。それと同時にゴーストに向かって数本の光の矢が放たれた。ゴーストはそれを躱そうとして素早く動き回るが、矢は軌道を自在に変えて追尾していく。徐々に距離が縮まって、やがてゴーストに矢が全て直撃した。
ゴーストを構成していた巨大なモヤは周囲に拡散していき、拳大まで小さくなった。しばらくふよふよ浮いていたが、力尽きたのかそれはポトンと地面に落ちた。
「……」
鏑木は無言で落ちたそれに近づいていき、剣を突き刺せばピカッと光って消滅した。
—-ゴゴゴ…
ちょうどその時、扉が再び開いた。そこに佇むのは東と沙奈。
直近の危機は去ったが、皆一斉に扉の方へ駆けて行く。
「はぁ…ほんと焦った。これって何かの罠だったのかなぁ」
多賀谷は顔を引き攣らせながらも、外が見えたことでホッと息を吐いた。
「本当にごめんなさい…」
東は今にも泣き出しそうな弱々しい声で、皆に向かって頭を下げた。顔面は蒼白していて、体は小刻みに震えている。
「え?びっくりはしたけど…仕方ないことだったじゃん?咲希こそ大丈夫だったの?」
東の過剰な反応に椎名は首を傾げて、外でも何かあったのかと不安げになる。
「中で何があったの?」
東がそれ以上話せない様子を横目に見て、沙奈が尋ねた。
沙奈は自分がいなくなった後の出来事を聞いて、少し視線を彷徨わせてから深く息を吐いた。
「…そうだったの。とにかくみんな無事で良かった。こっちは扉が閉まった以外は何もなかったから大丈夫よ」
東だけ明らかに大丈夫ではない様子だったが、見た限り怪我などはしていなさそうだ。本人は顔を俯けたまま口を閉ざしてしまったので、今は落ち着くまでそっとしておいた方が良いと周囲の面々は判断した。
「そうだな…。中はまだ残党がいるかもしれないが、あれ以上のものはもういないだろう。ここを一通り確認したら、今日はこれで戻ろう」
フォルガーは少し考えを巡らせてから、そう提案した。随分と周りに負担をかけさせた事に対する配慮の面が大きいが、書庫の広さを考えると頃合いでもあるだろう。
皆はそれに頷くと、引き返してまた中へと入っていく。
「…私はここで東さんをしばらく見ておくね。あとはよろしく」
沙奈は東と一緒になって扉前から動かず、軽く手を振って皆を見送った。
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