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十六.完全復活を阻止せよ!
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翌朝、一番の電車でデガラシが小田原の病院に来てくれた。
アルデンヌは薬が効いてまだ眠っていたが、吉崎にデガラシを俺の女房だからと紹介して一時介添えを替わってもらった。吉崎もどこかでシャワー浴びて仮眠してくるといってその場を離れた。俺は昨日の事情をこと細かくデガラシに話したが、デガラシは一言も発せずそれに耳を傾けていた。そして、アルデンヌのほほに手をやりながらいつくしむ様にさすった。
「こしつき……辛かったよね」デガラシのほほを涙が伝っていた。
するとアルデンヌが眼を覚ました様だ。
「ん……あっ、あれ? 私……あれ……かえで?」
まだ意識がぼんやりしている様だ。
「そうだよ。マジノ・ダンケルク見参!」デガラシが小声でそう言った。
「あっ、あっ……かえで。私……私……」
いかんまた発作が……慌てて看護師さんを呼ぼうとした俺を制して、デガラシは思い切りアルデンヌをハグした。
「大丈夫! 心配しないで! ダンケ様が来たんだぞ! 全ての闇は、私が切り裂く!!」
ああそれ、マジノ・ダンケルクの変身の時の決めセリフじゃん。
「あー。かえで……かえでーーーーーー!」アルデンヌが大きな声で泣き出し、看護師さんが慌ててふっ飛んできたが、錯乱ではなく正常な人間の情動によるものだと分かり、そっと部屋を出て行ってくれた。
「お友達が来てくれて、気持ちが落ち着いた様ですね。これなら今日一日様子見て問題なければ明日退院でいいでしょう」回診の医師がそう言ってくれた。
「何よ。あんたの奥さん。月代奥様のお友達だったんだ。まったく、そう言う事は先に言いなさいよね……でもそっか、そうだよね。そうでもなきゃ、あんたが坂出一輝とお近づきになれる訳ないもんね」吉崎が勝ち誇った様にそう言った。
「それじゃ、今日はここ任せていい? 社長に状況報告もするけど、今日の夜、プロジェクトのマスコミ発表もあるし、私はインペリアルに戻っていいでしょ?」
「ああ。そうしてくれ。ありがとな吉崎」
「何よ。気持ち悪いわね。奥さんの前だからって、何透かしてんのよ」と憎まれ口をたたきながら吉崎は病院を後にした。
「はは。吉崎さんって、なんかおもしろい人だね」デガラシが言う。
「ああ。ティラノザウルスなんだが、結構心優しいティラノザウルスだ。ただしツンデレ」
「何よそれ」
◇◇◇
午後になって、アルデンヌもほぼ正常な状態に戻ったので、三人で今後の事を協議した。
「吉崎さんが言ってたけど、マスコミ発表って?」アルデンヌが俺に問う。
「ああそれ。今回のロックス氏の来日はお忍びなんですが、今日の晩、前から予定していた共同プロジェクト発表のマスコミ会見があって、インペリアル本社でやるんです。それにロックス氏がサプライズで登場するって演出で……」俺の説明に、デガラシもアルデンヌも険しい顔をした。
「なんかキナ臭いね」デガラシの言葉にアルデンヌも同意した。
「そうね。わざわざ正体を明かしてから向かった所を考えると、なにか派手にヤラかす可能性は高いわね」
「えっ? それって魔王が、マスコミ発表会で暴れるとか?」俺が驚いて尋ねた。
「ううん。直接暴れはしないと思うけど、魔法少女がTVで応援してくれた人から力を貰える様に、魔王もTV経由で人の悪しき思念を集められるの。ロックス氏とインペリアルの共同会見なんて、全世界の人が観るから、下手すれば一気に魔王の力が強まる……」アルデンヌが答えた。
「そんな……会見を止めなきゃ。俺すぐに社長に電話する……」
「ダメよ田中君。多分もう電話では私たちの声は坂出には届かないわ。直接行かなきゃ!」
アルデンヌの言葉にデガラシも同意した。
「田中、行こう!! アルデもいっしょに。あなたの声なら絶対カズくんに届くはず」
「それじゃ、俺。月代さんの退院手続きを……」
「そんなの後でどうにでもなるわ。小田原駅から新幹線でいけばまだ間に合うはず。
急ぎましょ!」
「えー、新幹線乗れるの?」デガラシがうれしそうに言った。
「あんた何でここまで来たのよ?」アルデンヌが訝しがる。
「何って……小田急」
「まったく……それにしちゃずいぶん早く来たわね。ダンケ、ありがとね」
◇◇◇
俺たちが乗ったこだま号が品川に着いた時、すでに五時を過ぎていた。そこからタクシーで六本木のインペリアル本社に向かう。
「発表会は、六時から四十八階の大会議室です」そう言いながらビルに駆け込むと臨時に設けられた受付に、見知った女の子達がいた。
「あれサンスケさん。それに奥様も。よかった体調戻られたんですね。発表会まだ間に合いますよ!」ああ俺、これからもこの子たちにそう呼ばれるんだろうな。いや、今はそんな事どうでもいい。
「あのさ。坂出社長は今どこに?」
「多分、まだ社長室かと……それで、あーっ! 世界戦略構想部の部屋は、ロックスご夫妻の控え室になってますんで、今は入れませんよー!」
「それだけ分かれば十分!」
急いでエレベータで五十三階にあがると、井坂秘書さんがいた。
「あら田中さん。それに奥様も……よかった。復調されたんですね。ですがそんな無理をなさらなくても大丈夫ですよ。社長はだいぶ反省されたみたいで、まじめな顔で発表会場に降りられましたから。それで、こちらの女性は?」
くそ、入れ違いか。
俺は井坂秘書さんにデガラシを紹介した。
「ああこれは私の女房で、実は月代奥様の古い友人なんです。それでロックス氏は?」
「ロックスご夫妻は、まだ田中さんの仕事場で控えていらしゃいますよ。サプライズは六時半過ぎの予定ですから」一瞬、三人で顔を見合わせる。
「どうします?」
「どうもこうも、まず坂出に会って発表会へのロックス氏の出席を止めるのが第一です。いきなり私たちがロックス氏と対峙しても勝ち目はありません」アルデンヌがそういうのももっともだ。それじゃ先に四十八階だ!! そう考えてエレベータに戻ろうとした時、バンッと世界戦略構想部の部屋の扉が開いた。
「困るなー。仕事の邪魔をされては……」
「くっ、魔王……」アルデンヌが往年の戦闘ポーズで構えた。
「ずいぶんと早いお帰りで。まあ大人になってメンタルも強くなったんでしょうかね。まったくずうずうしい。おや、そこにいらっしゃるのはマジノ・ダンケルクさん? いやいやずいぶんお年を召しましたねー。当時はかわいらしいお嬢さんだったのに。まあ見た目はかわいくても、やる事はえげつなかったですけどね」
「ブリッツクリーク。あんたいまさら、どの面下げて出て来てんのよ。あんたの時代はもう終わってんのよ」そう言いながら、デガラシが一番前に出て、後ろ手にアルデンヌにサインを送っている。
井坂秘書さんは何が起こっているのかわからず、オロオロしていた。
「ははは。その言葉。そっくりそのままお返ししますよ。あなたこそ魔法少女どころか、もうとうの立ったおばさんじゃないですか。ああ、確かデガラシでしたっけ! 坂出の中にいた時、それ聞いて思わず吹き出しちゃいましたよ」
「こんのやろー。そんじゃー……田中ゴメン!!」
そう言ってデガラシはいきなり俺をひっつかんで、思い切りロックス氏に投げつけ、突然の暴挙にロックス氏もなすすべもなく巻き込まれ、俺と一緒に床に倒れこんだ。
「アルデ! 今よ!!」そしてその瞬間。アルデンヌが井坂秘書さんの手を取って、後方に向かって走り出した。そうか! 階段か!! エレベータの前にはロックス氏、いや魔王が立ちはだかっていたので、アルデが下に行ける様、デガラシは隙を作ったんだな。俺も役に立ったと言う事だ。だが、いてて……。
「ふふ。やっぱり、あんたも往年の力がすべて戻ってる訳じゃなさそうね。
人の事言えないじゃない!!」
「それはまあそうなんですが……全世界生中継に出演すればそんなもの一発解消です。それにいまさら坂出の所に行ったって手遅れです。奴の心はもう外を向いていませんよ」
「ふざけるな。人の心をなめるな!」ダンケルクが吼える。
「ふっ……」そう言って立ち上がったかと思うと、魔王はいきなり俺の襟を鷲つかみにして、世界戦略構想部の部屋の中に思い切り投げ入れた。
そして俺はものすごい勢いで全面ガラスの壁に激突する。
ぐわっ!! くそ、これでガラス割れてたら、五十三階から下に落ちてぺしゃんこじゃんか……部屋の中にはリンダ夫人がいて、いきなり俺がぶっ飛んで来て大層びっくりしていたが、すぐに駆け寄ってきて抱き起してくれた。
「サンスケ。どうした?」ああ、日本語覚えてくれたんですね……。
そしてリンダ夫人に抱きかかえられながら、俺は廊下に出た。
「田中!!」ダンケルクが心配そうに大声で俺を呼ぶ。
「ほーら。人間はそうやってすぐ動揺する。私が付け入る心の隙など、いくらでも作れるんですよ。それに……そうですよダンケルクさん。だいたいあなた。なんで何の咎も受けず今ここにいるんですか? あれだけの人を殺しておいて、まさか無罪放免だったんですか? この国の人たちはずいぶん心が広いんですね」
「何を……言ってる!?」何の事か分からない様で、デガラシが当惑していた。
「あなた。これは一体?」リンダ夫人も状況を理解出来ず混乱している様だ。
「ああ何でもない。お前は部屋で待っていなさい。その若者はおもちゃにしてていいから」
そんな感じの事を言われて、リンダ夫人は俺の手を引いて部屋に戻ろうとした。
しかし俺は、リンダ夫人の手を振りほどき魔王に話かけた。
「はっきり撤回してもらおう。お前の手先を多少はやっちまったかもしれないが、デガラシが人を殺める訳がないだろ。こいつは俺の一推し。愛と正義のマジノ・ダンケルクなんだぜ」
「くぁーはははっ。所詮お前もアニメでしか魔法少女を知らんクチだな。甘い。甘いぞ若造。このダンケルクはな。私の逃げ場をなくす為に、市民祭りの会場にいた三千人を蒸発させたんだぞ!」
「何!? あ……それってあの『マジノ・リベルテ M市市民大量殺害事件調査報告』……まさか。それって本当の事なのか? デガラシ……」
しかし、俺の声が聞こえているはずのデガラシは、ピクリとも動かなくなった。
アルデンヌは薬が効いてまだ眠っていたが、吉崎にデガラシを俺の女房だからと紹介して一時介添えを替わってもらった。吉崎もどこかでシャワー浴びて仮眠してくるといってその場を離れた。俺は昨日の事情をこと細かくデガラシに話したが、デガラシは一言も発せずそれに耳を傾けていた。そして、アルデンヌのほほに手をやりながらいつくしむ様にさすった。
「こしつき……辛かったよね」デガラシのほほを涙が伝っていた。
するとアルデンヌが眼を覚ました様だ。
「ん……あっ、あれ? 私……あれ……かえで?」
まだ意識がぼんやりしている様だ。
「そうだよ。マジノ・ダンケルク見参!」デガラシが小声でそう言った。
「あっ、あっ……かえで。私……私……」
いかんまた発作が……慌てて看護師さんを呼ぼうとした俺を制して、デガラシは思い切りアルデンヌをハグした。
「大丈夫! 心配しないで! ダンケ様が来たんだぞ! 全ての闇は、私が切り裂く!!」
ああそれ、マジノ・ダンケルクの変身の時の決めセリフじゃん。
「あー。かえで……かえでーーーーーー!」アルデンヌが大きな声で泣き出し、看護師さんが慌ててふっ飛んできたが、錯乱ではなく正常な人間の情動によるものだと分かり、そっと部屋を出て行ってくれた。
「お友達が来てくれて、気持ちが落ち着いた様ですね。これなら今日一日様子見て問題なければ明日退院でいいでしょう」回診の医師がそう言ってくれた。
「何よ。あんたの奥さん。月代奥様のお友達だったんだ。まったく、そう言う事は先に言いなさいよね……でもそっか、そうだよね。そうでもなきゃ、あんたが坂出一輝とお近づきになれる訳ないもんね」吉崎が勝ち誇った様にそう言った。
「それじゃ、今日はここ任せていい? 社長に状況報告もするけど、今日の夜、プロジェクトのマスコミ発表もあるし、私はインペリアルに戻っていいでしょ?」
「ああ。そうしてくれ。ありがとな吉崎」
「何よ。気持ち悪いわね。奥さんの前だからって、何透かしてんのよ」と憎まれ口をたたきながら吉崎は病院を後にした。
「はは。吉崎さんって、なんかおもしろい人だね」デガラシが言う。
「ああ。ティラノザウルスなんだが、結構心優しいティラノザウルスだ。ただしツンデレ」
「何よそれ」
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午後になって、アルデンヌもほぼ正常な状態に戻ったので、三人で今後の事を協議した。
「吉崎さんが言ってたけど、マスコミ発表って?」アルデンヌが俺に問う。
「ああそれ。今回のロックス氏の来日はお忍びなんですが、今日の晩、前から予定していた共同プロジェクト発表のマスコミ会見があって、インペリアル本社でやるんです。それにロックス氏がサプライズで登場するって演出で……」俺の説明に、デガラシもアルデンヌも険しい顔をした。
「なんかキナ臭いね」デガラシの言葉にアルデンヌも同意した。
「そうね。わざわざ正体を明かしてから向かった所を考えると、なにか派手にヤラかす可能性は高いわね」
「えっ? それって魔王が、マスコミ発表会で暴れるとか?」俺が驚いて尋ねた。
「ううん。直接暴れはしないと思うけど、魔法少女がTVで応援してくれた人から力を貰える様に、魔王もTV経由で人の悪しき思念を集められるの。ロックス氏とインペリアルの共同会見なんて、全世界の人が観るから、下手すれば一気に魔王の力が強まる……」アルデンヌが答えた。
「そんな……会見を止めなきゃ。俺すぐに社長に電話する……」
「ダメよ田中君。多分もう電話では私たちの声は坂出には届かないわ。直接行かなきゃ!」
アルデンヌの言葉にデガラシも同意した。
「田中、行こう!! アルデもいっしょに。あなたの声なら絶対カズくんに届くはず」
「それじゃ、俺。月代さんの退院手続きを……」
「そんなの後でどうにでもなるわ。小田原駅から新幹線でいけばまだ間に合うはず。
急ぎましょ!」
「えー、新幹線乗れるの?」デガラシがうれしそうに言った。
「あんた何でここまで来たのよ?」アルデンヌが訝しがる。
「何って……小田急」
「まったく……それにしちゃずいぶん早く来たわね。ダンケ、ありがとね」
◇◇◇
俺たちが乗ったこだま号が品川に着いた時、すでに五時を過ぎていた。そこからタクシーで六本木のインペリアル本社に向かう。
「発表会は、六時から四十八階の大会議室です」そう言いながらビルに駆け込むと臨時に設けられた受付に、見知った女の子達がいた。
「あれサンスケさん。それに奥様も。よかった体調戻られたんですね。発表会まだ間に合いますよ!」ああ俺、これからもこの子たちにそう呼ばれるんだろうな。いや、今はそんな事どうでもいい。
「あのさ。坂出社長は今どこに?」
「多分、まだ社長室かと……それで、あーっ! 世界戦略構想部の部屋は、ロックスご夫妻の控え室になってますんで、今は入れませんよー!」
「それだけ分かれば十分!」
急いでエレベータで五十三階にあがると、井坂秘書さんがいた。
「あら田中さん。それに奥様も……よかった。復調されたんですね。ですがそんな無理をなさらなくても大丈夫ですよ。社長はだいぶ反省されたみたいで、まじめな顔で発表会場に降りられましたから。それで、こちらの女性は?」
くそ、入れ違いか。
俺は井坂秘書さんにデガラシを紹介した。
「ああこれは私の女房で、実は月代奥様の古い友人なんです。それでロックス氏は?」
「ロックスご夫妻は、まだ田中さんの仕事場で控えていらしゃいますよ。サプライズは六時半過ぎの予定ですから」一瞬、三人で顔を見合わせる。
「どうします?」
「どうもこうも、まず坂出に会って発表会へのロックス氏の出席を止めるのが第一です。いきなり私たちがロックス氏と対峙しても勝ち目はありません」アルデンヌがそういうのももっともだ。それじゃ先に四十八階だ!! そう考えてエレベータに戻ろうとした時、バンッと世界戦略構想部の部屋の扉が開いた。
「困るなー。仕事の邪魔をされては……」
「くっ、魔王……」アルデンヌが往年の戦闘ポーズで構えた。
「ずいぶんと早いお帰りで。まあ大人になってメンタルも強くなったんでしょうかね。まったくずうずうしい。おや、そこにいらっしゃるのはマジノ・ダンケルクさん? いやいやずいぶんお年を召しましたねー。当時はかわいらしいお嬢さんだったのに。まあ見た目はかわいくても、やる事はえげつなかったですけどね」
「ブリッツクリーク。あんたいまさら、どの面下げて出て来てんのよ。あんたの時代はもう終わってんのよ」そう言いながら、デガラシが一番前に出て、後ろ手にアルデンヌにサインを送っている。
井坂秘書さんは何が起こっているのかわからず、オロオロしていた。
「ははは。その言葉。そっくりそのままお返ししますよ。あなたこそ魔法少女どころか、もうとうの立ったおばさんじゃないですか。ああ、確かデガラシでしたっけ! 坂出の中にいた時、それ聞いて思わず吹き出しちゃいましたよ」
「こんのやろー。そんじゃー……田中ゴメン!!」
そう言ってデガラシはいきなり俺をひっつかんで、思い切りロックス氏に投げつけ、突然の暴挙にロックス氏もなすすべもなく巻き込まれ、俺と一緒に床に倒れこんだ。
「アルデ! 今よ!!」そしてその瞬間。アルデンヌが井坂秘書さんの手を取って、後方に向かって走り出した。そうか! 階段か!! エレベータの前にはロックス氏、いや魔王が立ちはだかっていたので、アルデが下に行ける様、デガラシは隙を作ったんだな。俺も役に立ったと言う事だ。だが、いてて……。
「ふふ。やっぱり、あんたも往年の力がすべて戻ってる訳じゃなさそうね。
人の事言えないじゃない!!」
「それはまあそうなんですが……全世界生中継に出演すればそんなもの一発解消です。それにいまさら坂出の所に行ったって手遅れです。奴の心はもう外を向いていませんよ」
「ふざけるな。人の心をなめるな!」ダンケルクが吼える。
「ふっ……」そう言って立ち上がったかと思うと、魔王はいきなり俺の襟を鷲つかみにして、世界戦略構想部の部屋の中に思い切り投げ入れた。
そして俺はものすごい勢いで全面ガラスの壁に激突する。
ぐわっ!! くそ、これでガラス割れてたら、五十三階から下に落ちてぺしゃんこじゃんか……部屋の中にはリンダ夫人がいて、いきなり俺がぶっ飛んで来て大層びっくりしていたが、すぐに駆け寄ってきて抱き起してくれた。
「サンスケ。どうした?」ああ、日本語覚えてくれたんですね……。
そしてリンダ夫人に抱きかかえられながら、俺は廊下に出た。
「田中!!」ダンケルクが心配そうに大声で俺を呼ぶ。
「ほーら。人間はそうやってすぐ動揺する。私が付け入る心の隙など、いくらでも作れるんですよ。それに……そうですよダンケルクさん。だいたいあなた。なんで何の咎も受けず今ここにいるんですか? あれだけの人を殺しておいて、まさか無罪放免だったんですか? この国の人たちはずいぶん心が広いんですね」
「何を……言ってる!?」何の事か分からない様で、デガラシが当惑していた。
「あなた。これは一体?」リンダ夫人も状況を理解出来ず混乱している様だ。
「ああ何でもない。お前は部屋で待っていなさい。その若者はおもちゃにしてていいから」
そんな感じの事を言われて、リンダ夫人は俺の手を引いて部屋に戻ろうとした。
しかし俺は、リンダ夫人の手を振りほどき魔王に話かけた。
「はっきり撤回してもらおう。お前の手先を多少はやっちまったかもしれないが、デガラシが人を殺める訳がないだろ。こいつは俺の一推し。愛と正義のマジノ・ダンケルクなんだぜ」
「くぁーはははっ。所詮お前もアニメでしか魔法少女を知らんクチだな。甘い。甘いぞ若造。このダンケルクはな。私の逃げ場をなくす為に、市民祭りの会場にいた三千人を蒸発させたんだぞ!」
「何!? あ……それってあの『マジノ・リベルテ M市市民大量殺害事件調査報告』……まさか。それって本当の事なのか? デガラシ……」
しかし、俺の声が聞こえているはずのデガラシは、ピクリとも動かなくなった。
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