『元』魔法少女デガラシ

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十八.ファイナルラウンド

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 吉崎碧の突然の乱入により発表会がストップし、報道のカメラが吉崎と坂出を捉えているその眼前で、坂出が吉崎を平手打ちし、パシーンと高い音が会場に響き渡った。

「お前は、気でも狂ったのか!? 何訳の分からん事を言っている。いつ私がお前をはらませたというんだ!! 言いがかりも大概にしろ。だいたい私の子かも怪しいだろ。それ田中の子じゃないのか!」
 坂出一輝もあまりの事に冷静さを欠き、トンデモない事を言い出していた。
「何よ。その口の利き方は……こん畜生っ!」そう叫んで、吉崎碧は坂出一輝に殴りかかるが、腕を坂出にねじ上げられ、続けて顔面をグーで殴られ、吉崎碧は舞台の袖に転がり落ちた。

 その吉崎に、アルデンヌと井坂秘書さんが駆け寄る。
「あいたたたた……ごめんね奥様。大した時間稼ぎにはならなかったわ……」
 吉崎が顔を腫らしながらほほ笑んだ。

 舞台の上では、坂出社長が警備の不備を詫び、続いてロックス氏が改めて舞台の真ん中に立った。そしてその姿を会場の全てのカメラが写し取る。

(ふふふ……ははは……わかるぞ。手に取る様にわかる。このカメラの先で、私の姿を見ている者たちの心の中の闇が…‥それでは……全世界の人間諸君。終わりの始まりと行こうじゃないか)そしてロックス氏の眼が怪しく輝いたかと思うと、それを見ていた全世界の人が催眠状態に陥った。しかしそれでもカメラは動き続けている。

「はははははははは。いいぞ……ものすごい勢いで全世界から心の闇が集まってくる。これなら往年の力を取り戻すのに、そう時間もかかるまい」

「おいロックス。これは一体どういう事だ! お前は何をしたんだ」
 叫んだのは舞台の袖にいた坂出一輝だった。
「おや坂出さん。君は大丈夫なんだ。はは、そうだよな。君は魔法少女の加護を持っていたんだっけ。まあ、そこでゆっくり大魔王ブリッツクリークの復活を見物していたまえ」
「あなた……だから発表会を中止してと……」アルデンヌにも魔王の催眠は効かない。
「そんな……まさか、本当にロックス氏の中に魔王が……」坂出一輝も動揺を隠せなかった。しかし、いまから機構に連絡しても魔法少女は間に合うまい。どうする……。

「あのー。今、一体何がどうなっているのでしょうか?」
 突然、吉崎碧がアルデンヌに話掛けた。
「あれ吉崎君。君は動けるのか?」坂出一輝がびっくりして問いただした。
「ああそうですね。社長に殴られた所は、まだ滅茶苦茶痛いですけど……動けます」
 そう言って起き上がろうとする吉崎を、アルデンヌが制した。
「だめよ吉崎さん。私から離れたら、貴方もいずれ取り込まれちゃうわ」
「……あの社長。奥様。よくは分からないんですけど、これってもしかしたらとってもまずい状況なのですか? ブリッツクリークって、マジノ・リベルテの魔王ですよね? それがどうしてこんなところに……私、社長に殴られて気絶して夢見てるんでしょうか」
「ああ、吉崎さん。もうしゃべらなくていいから」
「大丈夫ですよ奥様。あれが魔王なら、必ずマジノ・リベルテが来てくれます……」

「ははははは。その女、本当に面白い奴だな。リンダも気に入っている様だし、完全復活したら私の組織の幹部にしてやろう。だが……坂出一輝。お前はここで死んでもらう。マジノ・アルデンヌはもうただのおばさんだが、お前は違う。まだ魔法少女達を指揮する事が出来る……まあ、もうあいつらに負ける事はなかろうが、念のため……にな。これで最後だ坂出一輝。ダークフレアスパーク!!」
 魔王の詠唱と共に、直径二m位の真っ黒な光の玉が空中に現れ、いきなり坂出一輝に襲い掛かった。
 しかしその時、マジノ・アルデンテが前に飛び出したかと思うと、精いっぱい身体を広げ、坂出の身代わりになって全身でその黒い光の玉を受け止めた。

「あなたーー!!」
 ドゴゴゴゴゴーーーン。
 ものすごい爆風が起こり、袖にいた坂出一輝も吉崎碧も壁際まで吹き飛ばされるが、大したダメージはなく、替わりに全身やけどを負ったかの様にボロボロになったマジノ・アルデンヌが傷付き床に倒れていた。

「月代!」坂出が慌てて駆け寄るが、かなりのダメージを負っている。
「お前、無茶しすぎだ。もう現役じゃないんだぞ」
「いいえ。それは関係ありません。私は貴方の妻ですから……あなたをかばう事に何のためらいもございません。ああ、あなたが無事でよかった……」
「ああ……」坂出一輝は、うめきながら妻を強く抱きしめた。

「おやおや。夫婦仲は冷え切っておられた様にお見受けしておりましたが……まあいいでしょう。それではお二人そろって、天国への夫婦旅行と参りましょうか」
 魔王が再度詠唱を始めた時、その顔に缶コーヒーが投げつけられ、見事に鼻っ柱に命中した。

「なっ!? 何だお前は。アルデンヌから離れて、なぜ正気でいられる?」
「何でかしらね。でも私、今すっごく怒ってんのよ。あんた何様? 魔王だかなんだか知らないけど、うちの社長夫婦の愛の邪魔はさせないわよ!」

「吉崎!! よせ。お前がかなう相手じゃない!」坂出が叫ぶ。
「あー、社長。ご心配なく。どーせ夢ですから……」
「くくくくくくっ! 魔王を舐めおって、もう勘弁ならん。程よく闇も溜まってきたところだし、三人まとめて蒸発させてやるわ!!」

「そうはさせないわよ!!」

 よく通る大きな声が発表会場に響き渡り、吉崎碧がその声の方を見ると……えっ? 何。コスプレ? あんなおばさんがマジノ・リベルテのコスプレして……尻肉はみだしてるじゃん。
 あー! あの人、田中の内縁の奥さんじゃん! それに、げっ。足利社長!? 
 うわー、なんなのよこの夢。

「吉崎さん。あなたよく平気ね?」あっ、ノルマンディが標準語に戻った。
「あっ、いえ。足利社長。これは一体どういう展開で? 自分の夢なのに、もうついて行けないんですけど……」
「吉崎。お前が時間稼ぎしてくれたみたいだな。助かった。感謝するぜ」
「あれ? 田中……じゃあ言葉じゃなくてお金で返してね。またあのイタ飯屋でいいから!」
「ああ。ただし、ワインはハウスワインな」

「どういう事だ。マジノ・ダンケルク。なぜお前が変身している?」
「何でかは私にもわかんないわ。でもこれだけは分かる。私はあんたを倒す為に変身した!」
「ふざけた事を。そんなちんちくりんの衣装。それ以上動いたら破れるんじゃないか? いい加減歳を考えた方がいいぞ。恥ずかしくないのか」
「ふん。もうあんたの精神攻撃は通用しないよ。だいたい、女性に年齢の話するとか、時代遅れのセクハラもいいところだわ。マジカル・ビューティ・レインボーシャワー!!」

 マジノ・ダンケルクが、ウサミミパクトが変形したラビスティックを振ると、七色の光線が発射され魔王に向かうが、魔王はそれを難なく避けた。

「ふ。どこを狙っている。さすがにもう身体が思う様に動かぬか」
「ふふーん。私もオトナになって、ちょっとは賢くなったんだ。後ろよく見てみな」

 おお。今の一発は魔王でなく、会場のカメラを狙ったモノだったんだな!
 場内にあったすべてのカメラが吹っ飛んだ。

「ははは。だがもう遅い。今のお前を倒すのに十分な闇の力はもう集まった。
 お前らにとどめを刺した後、ロックスとして改めて記者会見を開くまでさ。
では、行くぞ。マジノ・ダンケルク!」
 そう言って魔王は結界を張ったのだろうか? 意識を保っている俺達以外の人が全員視界から消えた。もう外部からのエネルギー供給は不要という事だろう。

「ねえ田中……今のレインボーシャワー。本物だよね? あんたの奥さんって本当にマジノ・ダンケルクだったの?」吉崎碧が不思議そうな顔をしている。
「だから最初から言ってたじゃん。マジノ・ダンケルク……みたいなって」
「やだ私。それ、てっきりフィギュアの事で、田中はフィギュアで興奮するんだって……」
「ああ、もういいよ。そういう時期もあったし。だが吉崎。多分戦いはここからが正念場だ。それで俺達にも出来る事があるんだ!」
「それって何?」

「応援!!」

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