『元』魔法少女デガラシ

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十九.インペリオン

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 まだマジノ・リベルテが現役で魔王ブリッツクリークと戦っていた時のお話。

 私達はついに奴を江戸川の河川敷に追い詰めた。奴は悪の組織カルカチュアの首領、ギーゴロの身体に憑依した思念体だったけど、その首領の身体ごと結界に封じ込め三人の魔力で焼き払い、もう少しで完全消滅というところまで追い込んだ。しかし魔王は最後の力を振り絞り、私達のわずかな隙をついて結界から脱出し、カズ君に取り憑いた。
 そして私達に焼かれて失った闇の力を補充すべく、魔王は近くで行われていた市民祭りの会場を狙った。

 このままでは、カズ君が魔王になっちゃう。
 焦った私は、その時深く考えずに魔法を行使してしまった。
 そして……市民祭りの会場にいた人達は、この世から消えた。

 闇の力の補充に失敗した魔王は、その後すぐにノルマンディに追撃され、カズ君から離脱したものの、その日は結局、まんまと逃げられてしまった。
 そして市民祭りの事件のあと。カズ君の私への態度がよそよそしくなった。

 それまでは、あんなに可愛がってくれていたのに……私を恐れていた様にも思う。 
でもそれも私がみんな悪い。そして消してしまった人達の事を考えると心が苦しくて苦しくて……結局、私の中の事件の記憶は心の奥に封印され、マジノ・リベルテが魔王ブリッツクリークを消滅させたのは、それから半年ほど後だった。いや、その時は消滅したと思ったのだったが……。

 あの事件を思い出してしまったら、とっても辛くて心も身体も動かなくなった。

 でも……それでも……魔王ブリッツクリーク。その事を思い出させてくれて感謝するわ。これで私は、自分が失った物……探していた大切な何かが判ったよ。そして心置きなく、お前と決着をつけられる! 見ててね田中!!

「サファイア・レボリューション!!」
 マジノ・ダンケルクの声は、現役の時より力強く周囲に鳴り響いた。

 ◇◇◇

「それじゃ……月代夫人がマジノ・アルデンヌで、足利社長がマジノ・ノルマンディなの? うそっ! マジ!? 私、ノルマンディのネコやってたの?」吉崎が慌てている。
「そういうこっちゃ。だからこれからもよろしくな。吉崎はん」足利社長が、吉崎をいい子いい子しながらそう言った。
「ほら吉崎。その話は後でいいから! 今はダンケルクの応援に専念しろ!
 ガンバレー、ダンケルクー!!」俺は、一時も休まず、デガラシを応援し続けていた。

「あの……月代の具合は……」坂出が心配そうにノルマンディに尋ねている。
「うーん。まあ、一般人より頑丈だとは思うけど……早く治療してやらないといけんのは間違いないよね。でもこんな結界張られちゃ、今の私では脱出出来ん。ダンケは戦闘中やし。それにあいつも、互角というよりちょっと歩が悪いかな。長期戦は避けたいんやが」
 ノルマンディも心配そうにダンケルクを見ていた。
 
 そして魔王の放った一撃が、ダンケルクの背中をかすめ、それ以降、ダンケルクの動きが目に見えて悪くなってきた。
「まずいな。なんとかせな……とは言っても、この数では……」
「……数って?」
「あや、アルデ。気が付いたんかい? ああ、でももう少し休んどき」
「でも……ダンケ、苦しそうよ。ああ、私達も変身出来たらよかったのに……」
「うーん。それはちょっと無理かな。でも、あんたなら何とか出来るかも知れん」
「何でも言って。出来る事は何でもするから」

「おい、月代。無茶するな。死んじまうぞ」坂出一輝が話に割り込んだ。
「あらうれしい。あなたが私を心配してくれるなんて……」
「皮肉を言うな。おれがお前に惚れて結婚したのは間違いないんだ!」
「そうね……私も同じ。最初は貴方が好きで好きで仕方なかったのよ。
 だから……ダンケルクには悪かったわ……」
「もうその事はいい。この戦いが終わって無事に帰れたら、また話し合おう」
「そうね。私が死ななかったら是非……それでノルマ。数ってどういう事?」
 覚悟を決めたアルデンヌに答えるかの様に、ノルマンディは持ってきていたバッグの中身をアルデンヌに見せた。

「ああ……そう言う事ね」
「うん。私も一応、三十過ぎの魔法使い候補やさかい、ダンケ程ではないにしても、それなりには魔力持ってるからそれをあんたにあげる。あんたならこの結界何とか出来るやろ?」

「あの。それって結界破って逃げるって事ですか?」
 話を聞いていた吉崎がノルマンディに問う。
「あー、吉崎はん。もちろんそれも選択肢なんやけど、それじゃ魔王はほったらかしになってまう。ダンケが頑張れるうちにケリつけたいねん」
「というと?」
「つまり、こういう事よ!」そう言いながらアルデンヌが起き上がり、ノルマンディといきなりディープキスを始めた。
「うきゃ!?」その光景を目の当たりにして、吉崎が素っ頓狂な声をあげた。

 ◇◇◇

「ふう。確かにあなたの魔力戴いたわノルマ。でも現役の頃の十分の一もないかな。
 でも、直接攻撃じゃないからこれで十分……トロワープ!!」
 マジノ・アルデンヌがそう唱えると、さっき魔王が作った結界にはじき出されて消えていたインぺリアルの社員達が、結界内に入って来た。外に置かれていたため、皆正気を取り戻していた様だが、急に結界内に呼びこまれて、眼を白黒させている。

「ほら社長はん。あんたの出番やで」
 そう言いながらノルマンディが手に持っていたバッグを坂出一輝に手渡す。
「ああ……」そしてそれを見た坂出一輝の眼が輝きだした。

「おい諸君!! 細かい説明は後だ。今すぐ君たちの助力が必要なんだ。頼むから力を貸してくれ!! 貸してくれたらボーナス十倍!」
「社長。ボーナスはともかく、私達は何をすれば?」そう言ったのは井坂秘書さんだ。
「ああ、井坂君。これを……これを振って、あそこで戦っている彼女を応援してやってくれ。今あそこで魔王ブリッツクリークと戦っている、マジノ・ダンケルクを!」

 突然社長から無茶ぶりされ、一瞬固まった井坂秘書さんだったが、すぐに微笑みながら声を上げた。
「了解しました! さあ、秘書課の皆さん、行きますよ! バッグから一つずつ取り出しなさい!」井坂秘書さんの号令一過。まず秘書課の女の子たちがバッグから取り出したのは……

 ああ! コスモイルミライト!! 
 もともと劇場版で配布された応援用のペンライトだ。
 俺も劇場で貰ったかも。でも、こんなのでいいのか?

 不安そうな顔をしている俺に向かって、ノルマンデイが言った。
「田中君。そんな不安そうな顔しなさんな。コレが一番効くんや。劇場版かかってる時、一日に何回イッたことか……」いやノルマンディさんも十分下品だ。

 だが、そういう事なら。俺もコスモイルミライトを一つ手に取り、豆球に点灯する。ああ、すっごい懐かしい。

「マジノ・リベルテー! ダンケルクー!! GoGo Fight!!」
 俺に合わせて、インペリアルのみんなが声をそろえた。

 ◇◇◇

「あれ? 何だこれ。身体が急に軽くなった……って、あー応援増えてる! しかもあれ、ペンライト……コスモイルミライトじゃん!! あー、すごいよこれ。くるくる……きちゃうーーーー!!」
 マジノ・ダンケルクが悶えながら、どんどん光輝いて行く。

「おらー、皆の衆。ガンガン行けーーーーー!!」坂出社長の音頭で、インペリアルの社員達が大声で応援しながらペンライトを振る。吉崎も、井坂秘書さんも、秘書課の子達も……俺は感動して、いつの間にか大泣きしていた。

 すると、俺の後ろの方で、一瞬ストロボが光った様な気がして後ろを振り返ると……うわ!? なんじゃこれ……白いオオサンショウウオ?
 
「なんやいきなり。びっくりするやん。ハンザキか!!」ノルマンディが叫んだ。
「うん。マジノ・ダンケルクの魔力規定値が標準値に達したんで実体化出来たんだよ。みんなひさしぶり!!」
 うわ。見た目はグロいけど、声はアニメの妖精グリムポンのままだ……。

「そんでハンザキ。どやこの戦況は。ダンケは勝てるか?」
「マジノ・ノルマンディ。ハンザキってのはやめてよ。ボクは、ハンサム・ザ・キュート。人の名前を勝手にはしょらないでほしいな。それで君の質問に答える前に……田中君はどれ?」
「あ、俺です」ハンザキに指名され、半歩前に歩み出た。

「田中君。君がダンケルクが処女のまま優しく接してくれたおかげで、彼女の処女魔力値が規定値に達した。彼女はもう立派な魔法使いだ。だから一回だけなら誰にも負けないよ」
「えっ? あの、魔法使いって、三十歳越えないとなれないのでは?」
「まあそれは単なる目安。でも三十歳前に規定値を達成するのは極めてレアかな。よほど君がダンケルクに質のいい愛情を注いでくれたんだと思うよ。感謝する」
 ハンザキがそう言ったら、周りの者たちが「ヒューヒュー」と茶化した。

 いや俺。そんなにあいつに愛情そそいでたか? 
 でもあいつ……今が幸せみたいに言ってくれてたな。
 
「ほら田中君。見ててご覧。蝶の羽化だ」
 ハンザキの言葉に、俺だけでなく周りのみんなもダンケルクに目をやった。
 彼女を包んでいた光はますます強さと大きさを増し、そして最後に真っ白な繭の様になったと思ったら、上から縦に亀裂が走った。

 パーン。
 その亀裂から繭全体が飛び散り、中からはさっきまでと異なる、真っ白でお姫様の様なロングドレスを着たダンケルクが現れた。

「ほら。あれがマジノ・ダンケルク・インぺリオンさ……って、あれ? ああ。衣装のサイズが十年前のままだね」それまで訳知り顔に解説していたハンザキの語尾がちょっとうわずった。
 遠くの方で「これ、ウエストきっつい」とデガラシの声がした。

 ああ、インペリオンって、アニメでも最後の方で出てたよな。
 もしかして坂出一輝は、ここからインペリアルの社名を取ったのだろうか。

「でも……綺麗。ウエディングドレスみたい……」
 吉崎がそう言い、周りの女子達もうんうんとうなずいていた。
「ほら田中君。君のお嫁さんだぞ。もっと大きな声でほめてあげなよ」
 井坂秘書さんがそう言った。

 おれは、はいとうなずきながら前に出て叫んだ。
「デガラシー。最高に綺麗だぞー。俺はお前を嫁にするから、そんな魔王蹴散らしてサッサと帰ろうぜ。そんでもって……ちゃんとエッチしような!!」
 はは。俺としては最高にかっこよく言ったつもりだったが、吉崎にダッサと言われた。

「ははは。田中ありがと。私もすっごくうれしい。それじゃ、こいつさっさと片付けるね」
「何をふざけた事を……そんな衣装替えした程度の強化でこの私を負かすつもりとは、片腹いたいわ」
「あー。最後まで悪役らしく悪態ついてくれてサンキュ。でも私も早く帰って田中とエッチしたいから……ごめんね。ファイナル・ギャラクシー・アロー!!」
 掛け声とともに、無数の光の矢が魔王ブリッツクリーク、いやロックス氏の身体に突き刺さる。

「あわわわわ……」坂出一輝が変な声をあげたが、これは社長の立場から出たものだろう。すると、ロックス氏の口から、何か灰色の塊の様なものが飛び出した。
 それを見たノルマンディが叫ぶ。

「出たで! ダンケ!!」
「了解!! 滅蒸悪鬼めつじょうあっき!!」おお、和風の技名もあるんだ。
 その詠唱で、ロックス氏の口から飛び出した塊がシャボン玉の様なものに包まれた。

「やった! リーチ!!」坂出一輝とノルマンディの声がハモった。
 
「ふう。ようやく捕まえた。これで長年の鬼ごっこはおしまいね。さようなら、魔王ブリッツクリーク」

 そう言いながら、マジノ・ダンケルクがパチンと指をはじくと、魔王の思念体と思われる塊を包んでいたシャボン玉もパチンとはじけ、後には何も残らなかった。

「うん、予定通りだ。マジノ・ダンケルクの魔力も空になった様だし。僕ももう実体化出来ないや。それじゃみんな。またね」そう言うハンザキの姿がふっと消えたと思ったら、うしろで「きゃっ」と声がした。

 あわてて振り返ると……うわ。デガラシすっぽんぽんじゃん!

「あちゃー。さすがに二段変身分の衣装ストックはないかー」ノルマンディがあきらめた様にそう言ったとたん、今度は魔王が作った結界そのものが消え、すっぽんぽんのデガラシが、そのまま発表会場のステージの上に戻ってしまった。

「うわ! 俺の嫁さんのオールヌードが、全世界配信されちまう!!」
 慌てる俺に、吉崎が冷やかす様に言った。

「大丈夫よ。会場のカメラはさっき、マジノ・ダンケルクが全部吹っ飛ばしたから。
でもまあ、ここにいる人達には丸見えよね」
 そう言われて、俺はあわててデガラシに駆け寄り、俺のシャツを脱いで上からかけてやったら「はは。田中の匂い……最高!!」と、デガラシがほほ笑んだ。


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