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第二話 デリドラさん(その1)
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「それじゃ、様子見て来ますから車で待ってて下さいね」
そう言ってデリドラのお兄さんがあたしを後部座席に残して車を降りていった。
デリドラって言うのは、デリヘル嬢を送迎する車のドライバーさんで、彼は、あたしがこれからお仕事に伺う予定の、お客さんの自宅の下見に行ったのだ。
デリヘルって無店舗型の風俗で、まあデリバリーって名前の通り、ピザ屋よろしく、折り合いが付けばどこにでも呼ばれていくんだけど、普通はラブホでのご利用が多い。でも、中には自宅に女の子を呼びたいって人もいて、あたしは可能な限り応じてあげてる。
まあ、自宅で恋人気分でいちゃいちゃしたいのもあるとは思うけど、ホテル代もお客持ちで結構馬鹿にならない点も重要だ。後は引き籠り体質とか出不精とか……。
もちろん、自分の奥さんがいるところにデリヘル嬢を呼ぶ様な、イカれたお客はそうそうおらず、大抵独身者か、個人経営などで部屋が自由に使える人だ。でも真偽の程は定かではないけど、奥さんが留守の時に嬢を呼んでて、いきなり奥さんが帰って来て……みたいな話も聞いた事はあるな。
そしてうちの店では、初めてお伺いする御宅は、必ず最初に、送迎したデリドラさんが下見をさせて貰っている。
知らない男の家に、女一人で乗り込んで、しかも裸になってイチャイチャする訳で、いらぬリスクは負いたくはないと言うのはもちろんあるのだが、それは別にラブホでもいっしょといえばいっしょで、どっちかというと安全面よりも衛生面が重点的にチェックされる。
少なくともシャワーが使えないのはアウトだ。それとペットね。あたしはそうでもないけど、犬猫アレルギーの子って結構いる様で、電話予約時に確認は入れてるんだけど、みんな結構いい加減な回答してて、いないなずなのに行ってみたら猫三匹なんて事もままあるらしい。あとハウスダストに弱い子もいて、そういうのも要チェックだ。タバコも……まあ嬢でも吸う娘は結構いるんだけど、ダメな娘はダメだね。
そんな感じでお店としては、女の子達の健康にすごく気を遣うのだ。それはもちろん、女の子自身を守るって事でもあるけど、大事な商品を守るって言う意味でもある。まあ、それらがクリアされていれば、多少、部屋の中が雑然としている位では何も言われない。
あっ、戻って来た。
「デイジーさん。クリアです」デリドラさんがあたしに、簡潔にそう伝えた。
「了解! デイジー、発進しますっ!!」
ちょっと小ぎれいなアパートの二階で、部屋のチャイムを押すと、中から、三十代半ば位の細面のお兄さんが顔を出した。
「こんにちわー。宜しくお願いしまーす。デイジーでーす」
「あっ、どうも……」
ふふふ。なんかシャイな人なのかな? 導かれて部屋に上がるが、まあ普通の1DKで、ちゃんと風呂場と便所が別になっている。いやこれ、ユニットバスだとたまに気まずい事があるんだよね……そして奥は八畳一間位で、普通にベッドと机がある。それにしても綺麗にしてるな。
「お兄さん、サラリーマン? 今日、お休みなんだ?」
「ええ。僕、デパート勤務で、水曜が休みなんです」
「そっか。それにしても部屋綺麗にしてるねー」
「ああ。せっかく来てもらうんで昨日の晩、必死に掃除して……シーツも新品卸しました」
「おおっ! なんという気配りを……ありがと。それじゃあたし。はりきっちゃうから! まずはいっしょにシャワー浴びよ!」
◇◇◇
はは。優しいお兄さんでよかったな。ちょっとルンルン気分で車に戻る。
車はあたしのお仕事中ずっと路駐していて、駐禁貼られない様、デリドラさんがずっとエンジンかけて車内待機していた。
「ごめんねー。待った?」
「いえ、時間通りです。問題ありません。それでデイジーさん。次の予定が一時間後なんですが、一度控えに戻りますか? それとも、もうホテル待機にしちゃいます?」
「うーん。戻るにしてはちょっと時間が半端よね。ホテル待機でいいわよ」
控えというのは、出待ちの女の子達を待たせておく休憩所見たいなもので、駅近のマンションの一室みたいのが用意されてたりする。ホテル待機というのは、ラブホの駐車場やその近辺に先に行ってしまい次の予約時間を待つという感じだ。
そのまま車で次の予約場所に行ったのだが、まだ三十分くらいあるなー。車はラブホの駐車場にはいり、そのままアイドリングしている。
あたしもスマホをいじったりしながら時間を潰すが、デリドラさんは一言も発せず、シートを倒して目を閉じている。仮眠してるのかな。
「ねえ、ドライバーさん。姫との余計な会話は禁止されているのは知ってるけど、お名前位教えてよ」休憩中に悪いかなとは思ったが、そう言って声をかけてみた。
「いえそれは……はは。自分は松岡と言います」
松岡さんか。もう半年前位からちょくちょくご一緒はしていたが、今更名前を知ったわ。うちのお店のデリドラさんって、単なる運転手ではなくその日送迎につく女の子のマネージャーみたいな事もする。さっきの下見もそうだしスケジュール管理もそう。そして商品である女の子には決して手を出してはいけない……そう言う意味では職種こそ違え、芸能アイドルとマネージャーの関係みたいなものかとも思う。
中には移動中、チャラい感じで声かけてくる人もいて、まあ適当に相手するんだけど、そう言う奴は大抵数か月でいなくなる。どこかで女の子の不興を買うか、女の子と火遊びしちゃって、解雇されちゃうんだ。でも松岡さんはそんな感じじゃないなー。寡黙で態度もビジネスライクで……そして車の運転も結構うまい。へたくそだと本当に車酔いしそうになる事があるんだよ。
「ねえ松岡さん。松岡さんはすっごく寡黙でストイックな感じなんだけど、前職何されてました? あ、いや。良かったらでいいんですけど……」
「……別に隠す事では。私は、前職が自衛官だったんです。ですがちょっと体力的についていけなくなったと言いますか……身体壊してやめました」
「おお。それでそんな感じなんだ……」なんかいろいろ納得した様な気がする。
「でもデリドラさんも大変じゃありません?」
「いやー。車で移動してるか、こうして停車してじっと待ってるだけですからね。身体がキツイと言う事はないですよ。でも……ほぼ丸一日勤務になるのはちょっとしんどいですね」
そっか。うちの店のデリドラさんって、朝、女の子を迎えに行って、お店がハケる翌朝までぶっ通しだったっけ。あたしは日中だけ勤務だから気にしてなかったけど、松岡さんはあたしを送った後、夜に入る女の子にもつくのか。まあ、こうして待ってる間は仮眠取れるだろうけど、結構しんどそうだなー。でも夜だとロング多そうだし……なんとかなるのか。
今更ではあるけど、なんかいろいろ興味沸いて来ちゃった。
もっといろいろ聞いてみようかしら。そう思った矢先に、お店から電話が来た。
「お客様、入室されましたー」
おお、そんな時間か。もっと松岡さんに色々聞いてみたかったのだが、お仕事なので仕方ない。あたしは気合を入れて、ホテルのエレベータに向かった。
そう言ってデリドラのお兄さんがあたしを後部座席に残して車を降りていった。
デリドラって言うのは、デリヘル嬢を送迎する車のドライバーさんで、彼は、あたしがこれからお仕事に伺う予定の、お客さんの自宅の下見に行ったのだ。
デリヘルって無店舗型の風俗で、まあデリバリーって名前の通り、ピザ屋よろしく、折り合いが付けばどこにでも呼ばれていくんだけど、普通はラブホでのご利用が多い。でも、中には自宅に女の子を呼びたいって人もいて、あたしは可能な限り応じてあげてる。
まあ、自宅で恋人気分でいちゃいちゃしたいのもあるとは思うけど、ホテル代もお客持ちで結構馬鹿にならない点も重要だ。後は引き籠り体質とか出不精とか……。
もちろん、自分の奥さんがいるところにデリヘル嬢を呼ぶ様な、イカれたお客はそうそうおらず、大抵独身者か、個人経営などで部屋が自由に使える人だ。でも真偽の程は定かではないけど、奥さんが留守の時に嬢を呼んでて、いきなり奥さんが帰って来て……みたいな話も聞いた事はあるな。
そしてうちの店では、初めてお伺いする御宅は、必ず最初に、送迎したデリドラさんが下見をさせて貰っている。
知らない男の家に、女一人で乗り込んで、しかも裸になってイチャイチャする訳で、いらぬリスクは負いたくはないと言うのはもちろんあるのだが、それは別にラブホでもいっしょといえばいっしょで、どっちかというと安全面よりも衛生面が重点的にチェックされる。
少なくともシャワーが使えないのはアウトだ。それとペットね。あたしはそうでもないけど、犬猫アレルギーの子って結構いる様で、電話予約時に確認は入れてるんだけど、みんな結構いい加減な回答してて、いないなずなのに行ってみたら猫三匹なんて事もままあるらしい。あとハウスダストに弱い子もいて、そういうのも要チェックだ。タバコも……まあ嬢でも吸う娘は結構いるんだけど、ダメな娘はダメだね。
そんな感じでお店としては、女の子達の健康にすごく気を遣うのだ。それはもちろん、女の子自身を守るって事でもあるけど、大事な商品を守るって言う意味でもある。まあ、それらがクリアされていれば、多少、部屋の中が雑然としている位では何も言われない。
あっ、戻って来た。
「デイジーさん。クリアです」デリドラさんがあたしに、簡潔にそう伝えた。
「了解! デイジー、発進しますっ!!」
ちょっと小ぎれいなアパートの二階で、部屋のチャイムを押すと、中から、三十代半ば位の細面のお兄さんが顔を出した。
「こんにちわー。宜しくお願いしまーす。デイジーでーす」
「あっ、どうも……」
ふふふ。なんかシャイな人なのかな? 導かれて部屋に上がるが、まあ普通の1DKで、ちゃんと風呂場と便所が別になっている。いやこれ、ユニットバスだとたまに気まずい事があるんだよね……そして奥は八畳一間位で、普通にベッドと机がある。それにしても綺麗にしてるな。
「お兄さん、サラリーマン? 今日、お休みなんだ?」
「ええ。僕、デパート勤務で、水曜が休みなんです」
「そっか。それにしても部屋綺麗にしてるねー」
「ああ。せっかく来てもらうんで昨日の晩、必死に掃除して……シーツも新品卸しました」
「おおっ! なんという気配りを……ありがと。それじゃあたし。はりきっちゃうから! まずはいっしょにシャワー浴びよ!」
◇◇◇
はは。優しいお兄さんでよかったな。ちょっとルンルン気分で車に戻る。
車はあたしのお仕事中ずっと路駐していて、駐禁貼られない様、デリドラさんがずっとエンジンかけて車内待機していた。
「ごめんねー。待った?」
「いえ、時間通りです。問題ありません。それでデイジーさん。次の予定が一時間後なんですが、一度控えに戻りますか? それとも、もうホテル待機にしちゃいます?」
「うーん。戻るにしてはちょっと時間が半端よね。ホテル待機でいいわよ」
控えというのは、出待ちの女の子達を待たせておく休憩所見たいなもので、駅近のマンションの一室みたいのが用意されてたりする。ホテル待機というのは、ラブホの駐車場やその近辺に先に行ってしまい次の予約時間を待つという感じだ。
そのまま車で次の予約場所に行ったのだが、まだ三十分くらいあるなー。車はラブホの駐車場にはいり、そのままアイドリングしている。
あたしもスマホをいじったりしながら時間を潰すが、デリドラさんは一言も発せず、シートを倒して目を閉じている。仮眠してるのかな。
「ねえ、ドライバーさん。姫との余計な会話は禁止されているのは知ってるけど、お名前位教えてよ」休憩中に悪いかなとは思ったが、そう言って声をかけてみた。
「いえそれは……はは。自分は松岡と言います」
松岡さんか。もう半年前位からちょくちょくご一緒はしていたが、今更名前を知ったわ。うちのお店のデリドラさんって、単なる運転手ではなくその日送迎につく女の子のマネージャーみたいな事もする。さっきの下見もそうだしスケジュール管理もそう。そして商品である女の子には決して手を出してはいけない……そう言う意味では職種こそ違え、芸能アイドルとマネージャーの関係みたいなものかとも思う。
中には移動中、チャラい感じで声かけてくる人もいて、まあ適当に相手するんだけど、そう言う奴は大抵数か月でいなくなる。どこかで女の子の不興を買うか、女の子と火遊びしちゃって、解雇されちゃうんだ。でも松岡さんはそんな感じじゃないなー。寡黙で態度もビジネスライクで……そして車の運転も結構うまい。へたくそだと本当に車酔いしそうになる事があるんだよ。
「ねえ松岡さん。松岡さんはすっごく寡黙でストイックな感じなんだけど、前職何されてました? あ、いや。良かったらでいいんですけど……」
「……別に隠す事では。私は、前職が自衛官だったんです。ですがちょっと体力的についていけなくなったと言いますか……身体壊してやめました」
「おお。それでそんな感じなんだ……」なんかいろいろ納得した様な気がする。
「でもデリドラさんも大変じゃありません?」
「いやー。車で移動してるか、こうして停車してじっと待ってるだけですからね。身体がキツイと言う事はないですよ。でも……ほぼ丸一日勤務になるのはちょっとしんどいですね」
そっか。うちの店のデリドラさんって、朝、女の子を迎えに行って、お店がハケる翌朝までぶっ通しだったっけ。あたしは日中だけ勤務だから気にしてなかったけど、松岡さんはあたしを送った後、夜に入る女の子にもつくのか。まあ、こうして待ってる間は仮眠取れるだろうけど、結構しんどそうだなー。でも夜だとロング多そうだし……なんとかなるのか。
今更ではあるけど、なんかいろいろ興味沸いて来ちゃった。
もっといろいろ聞いてみようかしら。そう思った矢先に、お店から電話が来た。
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おお、そんな時間か。もっと松岡さんに色々聞いてみたかったのだが、お仕事なので仕方ない。あたしは気合を入れて、ホテルのエレベータに向かった。
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