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アイドルのいる喫茶店「SX」
アイドルのいる喫茶店「SX」-1
しおりを挟む「……え~と、そういうわけでアイドルのいる喫茶店『SX』に行ってみることにしました」
――店へと行く道すがら、進一郎はさくら編集長へと、スマホでそのことを告げた。
「ふぅぅ~~ん、へぇぇ~~、あなたもお目が高いわねぇぇ~~」
何だか含みありげに、さくらは笑みを噛み殺す――ちな、大体こういう時の彼女は進一郎を陥れようとしているのだが、そういう雰囲気を察することができないのが、「バカポン」の「バカポン」たるゆえんだ。
「はい、今お店に向かってるところですから」
馬鹿正直にそんなことを言う進一郎に、さくらは満足げに返した。
「結構結構。んじゃ、プレスリリース送っとくから、読んどくのよ」
――ぴろろん♪
さくらとの通信を終え、数秒後にはメールの着信メロディが響く。
見れば、プレスリリースが添付されていた。
ちなみにプレスリリースというのは企業などが宣伝のため、メディアなどに発表する情報のこと。
それによると、
――あの伝説のオトコの娘アイドルユニット、She-Xxxy'sが在籍する喫茶『SX』! お客様へとメンバーたちが心尽くしの「お茶」でおもてなしをします! タイミングによっては誰も知らない、四人目のメンバーにも会えるかも……?
「えっと……」
ぽりぽりと、進一郎は額を指で掻いた。
職業柄、オトコの娘の在籍している店というのは今までもいくつも見てきた。
しかし、「伝説」といわれてもShe-Xxxy'sなんてアイドル知らないし、それよりこれ、そもそも何て読むんだろう――?
ぼんやりとした不安を覚えつつ、進一郎は店のドアを開いて、中へと入った。
――がちゃ。
と、進一郎の眼前に現れたのは白い肌を白い布で覆った、三人の少女の姿。
ショートカットにヘアバンドの娘と、背のちっちゃなアホ毛の娘と、そして金髪の娘の三人だ。
「「「いらっしゃいませ~~~!!!」」」
「あ……」
ふと気づく。
みんな少女のような顔立ちをしているが、女ではなくオトコの娘のはず。
しかし問題はその格好だ。
みな、女子用の白い水着を着ている。
よくよく見ればみな、股間を覆う布地はそれらしい膨らみを保っていた。
――ここは……スク水喫茶?
目のやり場に困りつつ、進一郎は自己紹介した。
「えと……ぼく、富士進一郎です」
と、中でも生真面目そうな娘が進み出てくる。
「お待ちしていました。『WWW』の記者さんですね」
凜とした華のある、けれどもちょっとお堅いムードの娘だ。
フリルつきの愛らしいビキニの水着を着ているが、ヘアバンドでまとめたショートカットもきりりとした双眸も、「きっちりした」印象を見る者に与えていた。
「五十嵐柚一、小学五年生の11歳。しぃし~ずのリーダーです」
名刺を差し出しつつ、そう名乗る。
「え? しぃ……何だって……?」
思わず進一郎が問い返すのに、その娘は繰り返す。
「しぃし~ずです」
「えと……しーしーず?」
なおも進一郎が悩んでいるのに、金髪の娘が進み出てきた。
「その子、ボクたちのこと、知らないんじゃないカナ? ほら、名刺にある通りダヨ」
言われて、受け取った名刺をよく見てみると、
She-XXXY'sリーダー
とあった。
「そうか、これしぃし~ずって読むのか…」
感心する進一郎に、柚一は言葉を足した。
「はい。超小学級のTGとも呼ばれています」
「へ?」
また疑問形になる進一郎へと、柚一はぐい、と歩み寄った。
「それはですね――」
と、立て板に水で話し始める。
「トランスジェンダー【Trans Gender】の略で、トランスというのはラテン語で調節したという意味で生まれた時に割り当てられた性を越えた存在でありその中には自らの性とは異なる衣服を着る者も自らの性とは異なる性的なアイデンティティを持つ者も自らの性とは異なるセクシュアリティを持つ者も含まれていて、厳密な定義は存在しないけれども、言ってみれば第三の性とでも呼ぶべきもので――」
一気にまくし立てるその様子は、ゲームやアニメなら、「早回し」の演出が使われているところかも知れない。
「は……はぁ……」
進一郎は、何とか相槌を打つのがやっとだ。
「ちょっとちょっと」
唇をとがらせ、金髪の娘が柚一の肩を叩く。
「――あ、ゴメン……」
そこでようやく我に返り、さすがにやり過ぎと気づいて、柚一も頬をほんのりと染めた。
一方、金髪の娘もこちらへ歩み寄ってくる。
マイクロビキニを身にまとい、胸の部分はともかく、下半身は膨らみが目立って見ていて恥ずかしい。
「Hejsan! Jag heter May Den Haag!」
その娘も名刺を差し出し、名乗る。
「え……?」
また疑問形になる進一郎。
「あはぁ、ちゃんと日本語で言わないと分かりませんよ、萌衣ちゃん」
今度はチビの娘が金髪の娘をたしなめた。
「じゃあ日本語で言い直すヨ。私の名前は萌衣・デンハーハです」
なるほど、名刺にも、
萌衣=Den Hagg
とある。
「小学六年生の12歳で、超小学級の日本通と呼ばれているヨ!」
「へ……へえ……じゃあ、やっぱり外国から来たの?」
「Ja、ボクはスウェーデンから来たんだヨ、今年の四月にネ」
なるほど、名前からしても日本人とのハーフなのだろう。
「だけど日本通だから日本のアニメにも詳しいヨ。『セーラームーン』、『ドラゴンボール』、『ダーティーペア』、『ハーロック』……」
「って、二十年前だよ、それじゃっ!!」
ついつい突っ込む進一郎。
そう、90年代によく漫画なんかに出てきた「海外のオタク」そのままだ。
と、そこへ、アホ毛の娘が進み出てくる。
「花菱愛兎って言います、小学四年生の10歳ですぅ☆」
名刺を差し出しながら、邪気なげにニコニコと笑う。
「超小学級のヴィーガンですぅ」
「びーがん?」
また疑問形になる進一郎。
「はぁい、ヴィーガンというのは絶対菜食主義者のことで、いわゆるベジタリアンが卵や乳製品を食べるのに対し、ヴィーガンはそれらも一切口にしないんですよぉ」
やはりニコニコとしたまま、愛兎は説明した。
「へ……へえ……」
取り敢えず、それくらいしか返しようがない。
オトコの娘とはいえ、いちいちトランスジェンダーを名乗る娘、インチキ外人っぽい自称日本通、それにヴィーガンと、どうもこのお店は三人が三人とも、キャラづけが厄介すぎる。
進一郎はこっそり、手の中のスマホを操作して、資料の中にあるリンクを探し出す。
URLを踏むと、この店のサイトの「オトコの娘紹介!」という記事へと飛べた。
(※イラスト:あぬらふ)
――え~と、アホ毛の娘が愛兎、金髪の娘が萌衣、真面目そうな娘が柚一……。
頭の中で反芻する進一郎。
しかし、いつまでも店員たちの顔を眺めていても始まらない。
「えと……それで……」
ポケットからメモと鉛筆を取り出すというクラシカルな記者しぐさを取ろうとした進一郎へと、萌衣が進み出てきた。
「Ja、プレイルームに案内するヨ?」
「え……? え……?」
面食らう進一郎の右手を萌衣が取り、背中から愛兎が背を押し、そして柚一が率先して「プレイルーム」とやらへと足を向けた。
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