身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ

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3章 商業都市メルセバ

13 倉庫

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教会の十字架を目指して2人で歩いていく。
魔石がなくてちょっと怖いけど、2人なら頑張れる。そんな気がした。

ふと視界の隅で何かが動く。
魔物かと思って、身を構える。
けどよく見たらぼくらと同じ人間だった。

ほっと息を吐く。男の人3人。
笑いながら、倉庫の中を指さして入って行った。ここは避難区域って言ってたのに、どうして逃げないで倉庫の中に?
それに、なんだか嬉しそうに。

「シリル。あの……」

シリルに3人の男の人が避難せずに、倉庫に入って行ったことを説明した。

「……怪しいな」

「え?」

「怪しいだろ。こんな状態で避難もせず。
魔物が怖くないんだろう。
きっと今回の件に何か関わっている!」

シリルが走り出して、男の人たちが入って行った倉庫に向かっていた。でも――

「ま、待って!」

もし本当に怪しい人だったら、怖い目に遭うかもしれない。

シリルの腕を掴んで止める。
シリルは今魔力が回復してない。
ぼくなんか――魔力なし。何もできない。

「危ないから、教会に行って、第二騎士団の人に伝えた方が……」

「でもそんなの待ってたら、逃げられる!」

ぼくたちが言い争っている時だった。
ばたばたと慌ただしくこちらに向かって走ってくる音。びっくりしてそちらに眼を向ける。

「えっ。き、君は避難したんじゃなかったんですか!?どうしよう。それに知らない子供も増えてる……!僕が魔物討伐している間に、住人が避難出来ていなかったなんて……どうしたら……!」

頭を抱えるのは、あの時、魔石を渡して勇敢に魔物討伐をしに行った、ユージンさんだった。

「ユージンさん!さっき、あの倉庫の中に、避難出来てない人が、3人いました!」

「ええっ!」

あの時頑張って魔物討伐してくれた、ユージンさんの判断なら、頼りになるかもしれない。

あの3人が怪しい人なのかはわからない。
魔物が来たことを知らない人だったら、教えてあげないと。

ぼくたちはユージンさんの手を引っ張り、倉庫の方へと向かった。


____



「な、なるほど。3人嬉しそうに……。
魔物が来てることを知らない可能性がありますね。ま、任せてください。
さ、先ほど魔石を他の第二騎士団の方から受け取りました。何で持ってないんだと叱られましたが……。
ともかく、一緒に避難してもらいましょう」

倉庫の近くでこっそり3人で話し合い。
ユージンさんはポケットから魔石を取り出す。

「き、君たちも結界の範囲にいて下さいね。
ぼ、僕に任せて下さい」

「はい」

「なんだか頼りねえなあ」

急いでシリルの口を塞ぐ。
でも、大丈夫かな。ちょっとだけ心配だ。

「し、失礼ですね。
先ほどの魔物だって、剣だけではなく、この魔道具を使いこなして、討伐しました。
き、君たちにも僕の魔道具、見せてあげましょう」

ユージンさんが魔道具を見せてくれる。
カッコいいな。本に載っていて、読んだ時から、ぼくも使ってみたいと思っていた。

これは魔道具自身に魔力が入っているから、ぼくでも使えるのだ。

「かっこいい……」

「俺の家にもあったかも」

ユージンさんは自慢げに使い方を教えてくれた。ぼくもセリカを貯めて、買ってみたいなって思ったんだ。


____




ぼくたち2人は結界の範囲に入り、ユージンさんの後ろに並ぶ。

「後ろにいて下さいね」

「はい」

シリルもこくりと頷く。
ユージンさんは倉庫の扉を丁寧にノックしてから、ドアを開けた。

「失礼します。こ、こちら避難区域に指定されています。魔石がありますので、安心してついて来て下さ……ええっ!?」

ユージンさんの叫び声に、ぼくたちは扉の隙間から様子を見てみる。

無理やりこじ開けられた木箱が、床にいくつも転がっている。
その前で、男たちはしゃがみ込み、宝石をひとつひとつ袋へと詰め込んでいる最中だった。
赤や青に光る石がランプの灯りを反射して、きらきらと怪しく輝く。

「あ、あなたたち、今、指名手配中の窃盗団――」

「動くな」

低い声が背後から聞こえて、身体が硬直する。
ぼくは肩を掴まれ、頭にコツンと何か当てられている。

「あ、アシェ……」

シリルが顔を真っ青にして、こちらを見ている。今当てられているものって、もしかして――

「念の為見張っておいて正解だったな。
魔物騒動を引き起こして、もぬけの殻になったところに忍び込めばバレねえと思ってたけど、まさか見られるとはなあ」

ぼくの背後にいる男の人は、魔法銃を突きつけていた。


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