身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ

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3章 商業都市メルセバ

14 心配

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「おら!大人しく倉庫に入りな。
このガキの頭を吹き飛ばされたくなかったらな」

首に手を回されて、頭に魔法銃を突きつけられる。ぬいぐるみを持つ手が小さく震える。

「アシェ……」

「そ、その子は、関係ないので、離してあげて下さ……」

「早く入れ!」

男の人に怒鳴られて、ユージンさんとシリルは急いで倉庫に入る。中にいる男の人たちは、楽しそうにこちらを見ていた。

「人質の前では何もできないよなあ。
滑稽だな。第二騎士団よ。
さて、どうやって遊んでやろうかな。
こんなぬいぐるみなんて持って。
……ガキがよぉ!」

ぬいぐるみの頭を掴まれる。
これは、ヴァルドさんがくれた物だ。

「や、やめて!」

ぬいぐるみを取られたくない。
けどぬいぐるみを引きちぎられそうになって、思わず手を離してしまう。

「大人しく――っな!?」

ぬいぐるみの後ろに隠していた魔道具が見つかってしまった。

「アシェくん!」

ユージンさんの合図で作動させる。

もし、相手が悪い人だった場合。
みんなに一つずつ魔道具を渡しておいて、使おうと相談していたのだ。

ぼくに渡されたこの魔道具は、対象者に一定時間視界を奪うものだ。スイッチを押す。

「み、見えねえ!!」

宝石を袋に詰めていた男の人たちは、両手で顔を押さえている。

「シリルくん!」

ユージンさんの合図で、シリルは持っていた魔道具を発動させて、近くにいた宝石を詰めていた男の人たちの動きを止めた。

「く、クソ……っ!!」

魔法銃を突きつけていた男の人は、あまりの眩しさに手を覆った。
手が緩んだので、急いで逃げ出す。

しかし。
何も視界が見えない中、男の人はぼくに向けて魔法銃を突きつけていた。

「や、やめろ!」

ユージンさんが剣を抜く。
銃口が目の前に向けられて、怖くて動けない。
う、撃たれ――

「アシェ!!」

ザッと風を切る音がして、次の瞬間、ぼくに向けられていた魔法銃が空高く飛ばされていた。
男の人はそのまま蹴り飛ばされて、勢いよく倉庫の壁へとぶつかった。

そして、視線の先に立っていたのは――真っ黒い服に剣を携え、まるで本の中の英雄のような、ぼくの憧れの人。

ぼくはふわりと肩を抱かれて、そのまま胸元に身体を押し付けられる。

「わ」

無言でぎゅうっと抱かれて顔を上げる。 
陽だまりに似た、この安心する匂い――

「ヴァルドさん……!」

「アシェ!心配したぞ!
なんでこんなところに……」

ヴァルドさんの腕に力強く抱きしめられる。温かさと安心感が一気に流れ込む。

泣いちゃダメだ。ヴァルドさんを困らせてしまう。優しい人だから、きっと困ってしまう。
ぼくなんか、心配、させちゃ――

「ヴァルドさん。……ご、ごめんなさ……わあああん!!」

怖かった気持ちが一気に溢れてきて、ぼくは涙を抑えられずに、わあっと泣いてしまった。



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