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3章 商業都市メルセバ
15 危険なこと
胸元で泣きじゃくるアシェを強く抱きしめる。
良かった。本当に。無事で良かった。
何度も、アシェがここにいることを確認する。オレの方が、アシェが危険な目にあっていないか、不安で仕方がなかった。
これほどまでにオレは、いつのまにかアシェのことを――
「ヴァルドさんは、魔物倒して、怪我ない?」
「オレは平気だ。アシェは……」
涙をぼろぼろと流しているアシェの様子を確認する。しかしアシェの両腕は擦り傷と共に血が滲んでいた。
「?もう、痛くないよ」
「……治癒魔法をかけよう。1人にしてすまなかった」
「ううん。大丈夫だよ。
ヴァルドさん、怪我なくて良かった!」
アシェはにこりと笑った。
怖かっただろうに。
それでも心配かけないよう健気に振る舞う姿は、なぜだか愛おしく思えた。
しかし――
「アシェ。教会に向かったはずのお前が、どうしてここにいるんだ?」
アシェは涙を拭き、辿々しく説明する。
一緒に行動していた住人と離れたこと。
子供の声が聞こえたので、そちらに1人で無謀に助けに行ったこと。怪しい3人組を見つけたこと。
「…………」
「ヴァルドさん?」
きょとんと首を傾げるアシェ。
言いたいことは山ほどある。全員に。
しかし何もわかっていないんだろうな。
どれだけ危険を冒したのか。
「……アシェは、オレとずっといたいんじゃなかったのか」
「ずっと一緒にいたい……」
俯きながら小さく答える。
そう思っているなら尚のこと――
「だったら、危険なことはしないでくれ!
……心配したんだ」
「ご、ごめんなさい……」
アシェはずっと抱きしめていたんだろう、くたびれたぬいぐるみを小さく抱きしめる。
あの窃盗犯の男に引っ張られ、ぬいぐるみの首の部分が一部裂けて綿が飛び出ていた。
「……ヴァルド・ノイシュタット!
でもアシェは、俺のことを助けにきてくれたんだ。誰も気付いてくれなかったのに……」
初対面の子供にフルネームで呼ばれるとは。
まあいい。
倉庫内で座り込む少年に目を向ける。
上等な服を着ているな。彼の上着に刺繍された紋章。あれは――
「シリル。でも、一緒に行動してた住人の誰かに声をかければ良かった。ごめんなさい……」
助けを求める声を聞いて、放っておけなかったのだろう。
今回は無事で良かったが、自身も大切にすべきたと教えてやりたい。
アシェは義母に大切にされていなかった。
その影響か自身を大切に扱わない。
あの日、義母達に言われた通りに行動し、オレに『殺して欲しい』と懇願した時のように。
そんなことはもう、して欲しくはない。
「……。アシェは、オレにとって――第三騎士団にとっても、大切な存在なんだ。
アシェに何かあったら、皆……悲しむ。
それを、覚えておいてくれ」
「はい……」
静かにこくりと頷くアシェ。
反省しているようだ。
「ぼ、僕がちゃんと見ていなかったから、ご、ごめんなさい……!!魔物を討伐しないと、って思ってしまい……!」
突然謝罪し始めたのは、第二騎士団の男。
ユージンといったか。
目の前で土下座され、思わず眉をひそめる。
「全くだ。新米のようだが、焦りすぎだ!
第二騎士団にきちんと再教育してもらうんだな。
……全員、大きな怪我はないんだろ?」
アシェ、シリル、そしてユージンまでも頷く。
「じゃあいい。
……オレだって、間違えることもある。
今後気を付けろ。
そして、二度と同じ間違いはするな。
ともかく、まだここは危険だ。
教会に移動するぞ」
「はい」
アシェの小さな手を握る。
1人で不安の中、どうすればいいのか考え、行動したのだろうな。
アシェの方をもう一度見る。
ぬいぐるみをしっかり抱えて前を向く姿を見て、人目がなかったらもう一度、抱きしめてしまいそうだった。
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